第1章 電子回路の基礎知識

1−1 オームの法則

“いくら初心者とはいえ、このくらいは知ってます。”と言われるかもしれませんが、とりあえず示しておきます。

もちろんこの法則だけで電子回路の設計を行うには無理がありますが、これから説明していくかなりの部分でこの法則が引用されるでしょう。

1−2 入力抵抗・出力抵抗

 下に入力と出力の等価回路の例を示します。
図のRINが入力抵抗、ROUTが出力抵抗です。
 PICのほとんどの入出力端子のDC的特性はこの等価回路で説明できます。
(RA4だけはオープンドレインなのでこの等価回路ではありません。オープンドレインについては別項で説明します。)
 下図は乾電池をPICマイコンの入力端子につないだときの等価回路です。
乾電池は一般に比較的大きな内部抵抗(出力抵抗)を持っています。下図のRoがこの内部抵抗を示します。PICマイコン側のRiがPICの入力抵抗です。

ここで仮に乾電池の開放電圧 v を5.0V、内部抵抗Roを1Ω、入力抵抗Riを1kΩとするとPICの入力端子での電圧Vは以下の様になります。

これから分かる様にPICの入力端子での電圧は電池電圧よりも0.005V低くなってしまいます。
 この様にデバイスの入力抵抗と出力抵抗はデバイス間を伝達させる信号の電圧レベルに影響を与えます。従って回路設計を行う際にデバイスの入出力抵抗を意識する事は重要な事なのです。ところで上の式から分かるように、伝達する電圧レベルに影響を与えない理想的な入出力抵抗は

        入力抵抗 = ∞(Ω)
        出力抵抗 = 0(Ω)

という事になります。
 大抵の半導体デバイスはこの理想値に近い、十分高い入力抵抗(数十MΩ以上)と十分低い出力抵抗(数Ω以下)を持っているので、意識せず設計しても問題無く動作する回路になるでしょう。
さて、PICの入出力抵抗はどれほどなのでしょうか?データシートに明確な記載はありませんが、前述の様に十分高い入力抵抗と十分低い出力抵抗を持っていると考えて差し支えないでしょう。但しAD入力にして精密な電圧測定を行う時などは問題になるかもしれません。又、出力抵抗はその先に接続される静電容量(コンデンサ)と相まって信号変化の時間遅れ(時定数)を起こす要因になることを忘れてはいけません。(時定数)については別項で説明します。

1−3 シンク電流・ソース電流

 PICの出力で直接リレーを駆動したり、LEDランプを点灯させる時などは出力端子の駆動能力(ドライブ能力)と適合させる必要があります。この駆動能力を表すのがシンク電流・ソース電流です。例えば下図の回路でLEDを点灯させるにはPICの出力端子にLレベル(0V)を出力させて電流IsinkをPIC内に引き込まなければなりません。この電流Isinkがシンク電流です。

 又、下図の回路でLEDを点灯させるにはPICの出力端子にHレベル(5V)を出力させてPIC内の電源(5V)から出力端子を通してLEDへ電流Isourceを流し込まなければなりません。この電流Isourceがソース電流です。

 下図にPICの出力回路をわかりやすく示してみました。

 図のI/Oポートが出力に設定されている時、スイッチ(SW1・SW2)は両方同時にONする事は無く、必ず一方のみがONします。PICがLレベル(論理0)を出力する時にはSW2をONにして電流Isinkを引き込みます。PICがHレベル(論理1)を出力する時にはSW1をONにして電流Isourceを外部へ流し込みます。これらのスイッチに流す事のできる最大電流がシンク・ソース電流の最大値です。尚、図中のスイッチは実際にはMOS FET と言うトランジスタが使用されています。
 さてPICのシンク・ソース電流(SUNK・SOURCED CURRENT)の最大値はデータシート上で各I/Oピンに付き 25mAと記載されています。しかしこれは全てのI/Oピンに連続して25mAを流し続ける事ができると言う事では無いので注意が必要です。この事については別項のデータシートの見方で詳しく説明します。

1−4 しきい値

 ハイスピードCMOS(74HCシリーズ)の74HC04(インバータ)を例に説明します。下図が74HC04のシンボルです。

 インバータは入力レベルを反転したレベルが出力されます。デジタル回路はHレベルとLレベルの2値しか存在しないので、74HC04は入力の電圧レベルがHレベルかLレベルかを判断しの反転レベルを出力する訳です。下図は入出力波形の例です。

 ここで入力がゆっくり立ち上がったらどうでしょうか?入力が上昇し始めても、出力は即座には変化しません。しかしあるレベルに達すると出力は反転します。入力がゆっくり立ち下がる時もこのあるレベルで出力が反転します。その様子を下図に示します。

 このあるレベルをしきい値(VTH)と言います。
 東芝製TC74HC04APのデータシートにはこのしきい値についての記載はありません。しかし 周囲温度 Ta=25℃、電源電圧Vcc=4.5Vという条件で
入力電圧   VIH = 3.15V MIN.
         VIL = 1.35V MAX.
と規定されています。 この意味は
入力電圧が最低でも3.15Vより高ければTC74HC04APはHレベルと判断しますよ!
   又、
入力電圧が最高でも1.35Vより低ければTC74HC04APはLレベルと判断しますよ!
と言うことであり、しきい値はこの2つの電圧の間にあるという訳です。
次にデータシートの出力電圧の項を見てみましょう。
ここには、周囲温度 Ta=25℃、電源電圧Vcc=4.5V、シンク・ソース電流 = 20μAという条件で
出力電圧   VOH = 4.4V MIN.
         VOL = 0.1V MAX.
と規定されています。 この意味は
TC74HC04APはHレベルを最低でも4.4Vより高い電圧で出力します!
  又、
TC74HC04APはLレベルを最高でも0.1Vより低い電圧で出力します!
と言うことです。
つまり 下図の様にTC74HC04APの出力をTC74HC04AP で受ける時、入出力の規定値の差 VOH − VIH ・ VIL − VOL は 伝達する信号レベルの余裕度(マージン)になります。この余裕度はノイズや電源電圧変動やアース電流などによる突発的な信号のレベル変化に対する安全度を意味します。

 さてPICのデータシートでTTLと記載されているポートは74HC04等と相当と考えられます。
PIC16F87XのデータシートではTTLポート入出力電圧は
4.5V≦VDD ≦5.5V  において
Hレベル入力電圧  VIH = 2.0V MIN.
Lレベル入力電圧   VIL = 0.8V MAX.
シンク電流IOL=8.5mA ,VDD =4.5V において
Lレベル出力電圧 VOL = 0.6V MAX.
ソース電流IOH=−3.0mA ,VDD =4.5V において
Hレベル出力電圧  VOH = VDD−0.7V MIN.
の様に規定されています。よって TC74HC04APとの信号伝達は問題なさそうです。

1−5 ヒステリシス

 今度は74HC14(シュミットトリガ・インバータ)を例に説明します。
下図が74HC14のシンボルです。

 入出力の関係は74HC04同様、反転出力となります。しかし74HC14は入力が立ち上がる時と立ち下がる時で異なるしきい値を持っています。下図は入出力波形の例です。

この2つのしきい値の差をヒステリシスと言います。
東芝製TC74HC14APのデータシートにはこの2つのしきい値は
周囲温度 Ta=25℃、電源電圧Vcc=4.5Vという条件で
しきい値 Hレベル VP=2.7V TYP.
             Lレベル VN=1.6V  TYP.
と規定されています。このヒステリシスにより入力信号のノイズによる誤動作を防いでくれます。下図は入力信号にノイズが乗っている時の74HC04と74HC14の入出力波形の例です。

このように74HC14ではノイズの影響が取り除かれているのが分かります。又、この特性はスイッチやリレーのチャタリング除去回路にも使用されます。(コラム参照)
 さてPICのデータシートでSTと記載されているポートが入力にヒステリシス特性を持つシュミットトリガ入力のポートです。PIC16F87XのデータシートではSTポートの入力電圧は
全ての電源電圧(VDD)範囲において
Hレベル入力電圧  VIH = 0.8VDD(V) MIN.
Lレベル入力電圧   VIL = 0.2VDD(V) MAX.

(PORTCのRC3,RC4は除く)
の様に規定されています。2つのしきい値についての規定はありませんが、両方のしきい値がVIH とVILの間にあると言う事の様です。
<コラム1> チャタリング除去回路 
 ● チャタリングとは・・・
 リレーやスイッチなどのメカニカル接点で信号をON/OFFした時には大抵チャタリングという現象が発生します。これは例えば接点がOFFからONになる時、一気にONになるのではなく、ON→OFF→ONを何 度か繰り返してからONになるという現象です。これは例えばスイッチを操作して接点をバネにより押し当てた時に、何度かバウンドを繰り返す事によって発生する現象です。ゴムボールを床に落とした時に何度かバウンドしながら転がって行く様子を想像すると理解しやすいでしょう。下図はスイッチで信号レベルを切り替える回路とそのときの信号波形です。


チャタリングが発生する時間は個々の接点により異なりますが、10msec程度と考えておいた方が無難でしょう。
 ● 除去回路
 このチャタリングを除去するのにシュミットトリガが使用されます。
下図は74HC14によるチャタリング除去回路と各点の波形です。


B点ではCRにより、なまった立ち上がり・立ち下がり波形になります。これをシュミットトリガで受ける事によりチャタリングが除去されたきれいな波形になります。

1−6 時定数

 下図は一次のCRローパスフィルタの回路です。

 この回路はアナログ回路のみならず、マイコン周辺のデジタル回路にもノイズ除去や信号遅延などの用途で使用されます。下図はこのフィルタにデジタル信号が入力される様子をわかりやすく説明した物です。

 この図の様にSW2がONしている状態がLレベルの状態です。この状態ではコンデンサの+側は抵抗を通してGNDに接続されておりコンデンサに電荷は蓄積されず、出力は0Vになっています。次にSW2をOFFにし、SW1をONにすると5Vから抵抗を通してコンデンサの+に電流が流れ込み電荷が蓄積され、出力は徐々に上昇して5Vまで達します。
 更に、SW1をONにし、SW2をOFFにするとコンデンサに蓄積された電荷は抵抗を通して放電され、出力は徐々に下降し0Vになります。下図にこの時の出力波形を示します。

 入力電圧が0Vから5Vに切り替わってから出力が5VのA%まで達する時間Tは下の式で表されます。

これを時定数と言います。下図はCRフィルタを使用した信号遅延回路とその各部の波形です。

この回路で74HC04の入力のしきい値を2.5V(50%)とすると、遅延時間TDELAY
となります。
尚、この回路では説明をわかりやすくする為に74HC04を使用しましたが、安定な動作を得る為に74HC14を使用する方が良いでしょう。

 次にこのCRフィルタの周波数特性について説明します。CRフィルタにSIN波を入力し、振幅は一定のまま周波数を徐々に上げて行くと、周波数が低い時はフィルタは出力に影響を与えませんが、周波数が高くなるとCRの充放電時間が間に合わなくなり、振幅が減衰して行きます。この周波数と振幅の関係は下図の様になります。

振幅の減衰量が−3dBとなる周波数をカットオフ周波数(fc)と言います。一次のCRフィルタのfcは

となります。 又、 一次のCRフィルタは−6dB/octの減衰特性を持っています。 (周波数が倍になる毎に−6dB減衰する。)先に説明した様にCRフィルタはこの周波数特性を利用してノイズ除去回路に使用されます。

 さて信号遅延回路にしろノイズ除去回路にしろCRフィルタの定数選定には注意が必要です。なぜなら、選択を誤ると本来通過させたいパルス信号なども減衰させてしまうからです。

1−7 第1章のまとめ

 この章では電子回路の基本であり、且つ重要な事を説明してきたつもりです。
もしあなたが以下の様な条件でPICの周辺回路を設計するのであればこの章で説明した内容を理解していなくても、確実に動く回路を設計できるかもしれません。
・ リップルやノイズが無く、又電圧変動も無く十分な電流容量を持つ安定した電源を使用する。
・ 多層基板を使用し電源やGNDのインピーダンスを極力低く抑える。
・ 基板は十分な面積を確保し信号線は太く短いラインで結線する。
・ 周辺回路は全て74HCシリーズなどの標準ロジックを使用する。
・ マイコンの処理時間を気にしないで済む様なゆっくりした信号を取り扱うアプリケーションを設計する。
しかし趣味であれ仕事であれ、限られた条件でより優れた製品(作品)に仕上げるには
・ 低消費電力化
・ 電池駆動化
・ 小型化
・ ローコスト化
・ 多機能化
・ スイッチ・オペアンプ出力・アナログ・コンパレータ出力・センサ等の直接入力
・ LED・リレー・ブザーなどの直接ドライブ
といった様々な要求を満たす設計をしなければなりません。その為には、この章で説明した内容を理解しておく事が重要なのです。

ここまで 2002年 2月 8日公開      続く