第3章 電源回路

 PICマイコンの周辺回路において電源回路は唯一必須の回路です。 リセット回路やクロック発振回路は省略したり内蔵回路を使用する事ができますが、電源だけは絶対に必要です。そして電源回路はPICを確実に安定した動作をさせる為に、もっとも重要な回路です。
 電源はPICマイコンのVSSとVDDの間に供給します。電源に最低限要求される要件は
電源電圧がデータシートのDC特性表に記された範囲であること。
回路が必要とする電流容量をもっていること。
です。しかしこれだけを満足していれば良いと言うことではありません。実際の回路例を見ながら電源回路がPICや他の回路に与える影響について説明します。
 さて下の回路は以下の様な機能を想定したものです。
@ アナログ信号をAD入力(RA0/AN0)端子で受ける。ADの基準電圧は電源(VDD)に設定されている。
A アナログ信号の電圧値を判定し、RC1の出力でLEDを点灯させる。
B 更にRC0から1.5kHzのパルスを出力させ電子ブザーを鳴動させる。

 この回路の電源は1.5Vの乾電池を3本使用し4.5VにしてPICに印加しています。データシートを見ると4MHzの水晶発振子(XTコンフィグレーションの設定)において動作可能な電源電圧範囲は4.0〜5.5Vなので、この規格は満たしています。しかし、この回路の各動作状態においては以下の様な現象が予想されます。
@ 乾電池は放電時間に推移して電圧が降下していくので、動作電源電圧の下限値まで降下した時に異常動作(プログラム停止や暴走)を起こす可能性がある。
A ADの基準電圧を電源電圧と共用している為、電圧降下に応じて判定電圧値が変化する。
B 乾電池には内部抵抗がある為にLEDの点灯やブザーの鳴動により消費電流が変化すると電池の端子電圧が変化し、@と同様に異常動作を起こす可能性がある。
これらの不都合を起こさずにどのような回路にも適応できる理想の電源について考察して見ました。
理想の電源
出力電圧精度 規格値に対し ±0%
周囲温度に対する安定度 0ppm/℃
入力変動に対する安定度 0mV/V
出力抵抗(負荷に対する安定度) 0Ω(0mV/全負荷範囲)
ノイズ 0mVp-p
輻射ノイズ なし
電流容量 制限なし
発熱 なし
効率 100%
使用環境  制限なし
重量 0g
コスト 0円
 残念ながらこんな電源はありません。
ところで前述した電源回路には良い点もあります。
@ 回路が簡単でローコスト。
A 商用電源(AC100V)を必要とせず、携帯機器に適している。
といったところです。精度や安定度・信頼性などを必要としない、例えばおもちゃ等にとっては最適な電源回路かもしれません。このように電源回路の設計においては機器に要求される仕様を考え合わせて最適な方式を選定する必要があります。
 この項では実際のPICマイコン回路での使用が予想される以下の電源回路について、その特徴や設計法について説明します。
AC100V電源駆動 スイッチング式電源
ドロッパ式電源
外部DC電源駆動 ACアダプタ電源
他の機器からの5V電源(USBなど)
電圧値が適合しない他の機器からのDC電源(12V電源など)
アースを共通にできない他の機器からのDC電源
電池駆動 電池による直接駆動
高い電圧の電池による駆動(9V電池など)
低い電圧の電池による駆動(1.5V電池×2個など)
その他の電源 信号線の電源利用

3−1 AC100V電源駆動

■ スイッチング式電源
<概要>
 この方式の電源は電源メーカ(コーセル・デンセイラムダ・TDK・イータ電機 など) によりユニット化されたものが商品化されているため、もっとも扱いやすい電源といえます。 設計者は電流容量や形状から最適な品種を選定するだけです。
<特徴>
長所
@ 周囲温度・入力変動・負荷変動に対する安定度が高い。
A 効率が良い。(よいものでは80%等)
B 出力電圧精度が比較的に良い。(調整可能なものもある)
C 一般に短絡時などの保護回路が内蔵されている。
D 小型・軽量。
短所
@ 比較的にノイズが大きい。(100mVp−p程度)
A 品種によってはコストが高い。(オンボードタイプは高価)
 メーカで商品化されているものでは形状により以下の様なタイプに分類されます。
ユニットタイプ 金属製のシャーシやケースに実装されており、機器への組込みが容易。
ボード単体タイプ ユニットタイプからシャーシやケースを取り除いたもの。このタイプがもっとも安価。
オンボードタイプ 回路がモールドケースに封入されており、プリント基板に実装可能。このタイプがも っとも高価。
 この他にボード単体タイプでありながらプリント基板に実装可能なタイプもあります。


ユニットタイプ


ボード単体タイプ


オンボードタイプ


下図はスイッチング式電源による電源回路例です。

■ ドロッパ式電源
<概要>
下図はドロッパ式の電源回路例です。

 この回路はトランスおよびブリッジダイオードで全波整流した後、C1で平滑し直流(V1)にします。 この直流電圧(V1)を3端子レギュレータ(7805)で5Vに安定化します。
<設計のポイント>
@ 7805の最小入出力電圧差は2.0V(typ)なので、V1は最低でも7.0V以下にならないようにする。
A 7805の入出力電圧差(ΔV)と入力電流(i)の積(ΔV×i)が7805の中で消費される電力(PD)です。この消費電力(PD)が7805の許容損失(1W at TA=25℃・10W at TC=25℃)を超えないようにする。(TAは周囲温度・TCは7805のケースの温度)
B PD が大きくなると7805の発熱が大きくなるのでヒートシンクなどで放熱する。
C 発振防止用のコンデンサ(C2,C3,C4)を入れる。回路の条件により定数を調整する。
<特徴>
長所
@ 比較的安定度が良い。
A 比較的ローコスト。
短所
@ ディスクリート部品による回路組み立てが必要。
A 負荷の条件や配線の引き回しなどにより発振を起こしやすい。
B 大きい。重い。
最近の3端子レギュレータは最小入出力電圧差が小さい(0.7V)、低飽和電圧タイプが主流になりつつあるようです。

3−2 外部DC電源駆動

■ ACアダプタ電源
<概要>
 最近では安定化回路を内蔵したスイッチング方式のACアダプタが市販されていますが、一般には下図の様なトランスによる全波整流回路です。出力定格は定格電流を流した時の電圧値が示されています。無負荷状態では定格値よりも高い電圧が出ているので注意が必要です。

<設計のポイント>
@ 出力は安定化されていないので、PICマイコン回路内で3端子レギュレータなどにより安定化する。
A 定格容量よりも十分小さい負荷で使用する場合、定格値よりも高い電圧が出る事を考慮して安定化回路の設計を行う。
<特徴>
長所
@ 手軽にDC電源が得られる。
A PICマイコン回路側は電源不要となる為、小型・軽量化できる。
短所
@ コストは高い。
■ 他の機器からの5V電源
<概要>
 パソコンのUSBコネクタなどから安定化された5Vの供給が受けられれば、特に電源回路は必要ありません。但し他の機器からの配線を長くのばす場合などは、PICマイコン回路側にノイズ除去用のコンデンサを入れた方が良いでしょう。また、供給される5Vの電流容量やその他の特性を把握しておく必要があります。

<設計のポイント>
@ 入力部のノイズ除去回路を検討する。
A PICマイコン側で5Vがショートした時などの保護回路の必要性とその回路を検討する。
<特徴>
長所
@ 簡単。
A ローコスト。
短所
@ 5V供給機器への悪影響(短絡事故やアースラインノイズの発生)。
■ 電圧値が適合しない他の機器からのDC電源(12V電源など)
<概要>
 他の機器から5Vの供給を受ける場合との違いは、PICマイコン回路側に3端子レギュレータなどの安定化回路が必要になる事です。

<設計のポイント>
@ 入力部のノイズ除去回路を検討する。
A PICマイコン側で5Vがショートした時などの保護回路の必要性とその回路を検討する。
B 安定化回路はドロッパ式電源の場合と同様。
<特徴>
長所
@ 簡単。
A ローコスト。
短所
@ 5V供給機器への悪影響(短絡事故やアースラインノイズの発生)。
■ アースを共通にできない他の機器からのDC電源
<概要>
 この場合、市販の絶縁型DC/DCコンバータを使用する方法が簡単です。これらは前述したスイッチングレギュレータと同じメーカから発売されています。形状・容量・入力電圧等により様々な品種がラインアップされているので適合する品種を選択します。


DC/DCコンバータ
<設計のポイント>
 メーカでは入出力にコンデンサやコイルを入れる事を推奨するなどの使用方法を規定しているので、各メーカのデータシートに従って設計します。
<特徴>
長所
@ 周囲温度・入力変動・負荷変動に対する安定度が高い。
A 効率が良い。(よいものでは80%等)
B 出力電圧精度が比較的に良い。
C 一般に短絡時などの保護回路が内蔵されている。
D 絶縁されているので他の機器への影響を与えにくい。
E 小型・軽量。
短所
@ 比較的にノイズが大きい。(100mVp−p程度)
A コストが高い。

3−3 電池駆動

■ 電池による直接駆動
<概要>
 この方法は安定化を行わないので、この章のまえがきで説明したように、放電に推移した電圧降下や負荷変動による電圧変動を考慮する必要があります。また、第5章で説明するリセット回路との併用で不具合動作を回避する様な考慮も必要となるでしょう。
<設計のポイント>
@ 使用する電池の放電特性・内部抵抗を考慮する。(回路の消費電流や負荷特性に合った電池の選定。)
A 電圧低下時に対応する為のリセット回路の考慮。
<特徴>
長所
@ 小型・軽量
A ローコスト
B 効率がよい
短所
@ 電圧は不安定
■ 高い電圧の電池による駆動(9V電池など)
<概要>
 この方法では3端子レギュレータ等による安定化が必要となります。7805で安定化する場合は電池電圧が7.0V以上ないと安定化できません。しかし電池電圧が高すぎると7805の損失電力(PD)が大きくなり電池の消耗を早めます。電池のパワーを最大限使いきるには0.7V以上の電圧差で安定化できる低飽和電圧タイプの3端子レギュレータを使用する方が良いでしょう。

<設計のポイント>
@ 使用する電池の放電特性・内部抵抗を考慮する。(回路の消費電流や負荷特性に合った電池の選定。)
A 安定化回路の損失を最小にする為の考慮。
<特徴>
長所
@ 小型・軽量
A ローコスト
短所
@ 安定化回路の損失電力による電池寿命の短縮
■ 低い電圧の電池による駆動(1.5V電池×2個など)
<概要>
 この場合は昇圧型のDC/DCコンバータを使用します。下図はMAX856(MAXIM製)を使用した場合の回路例です。このコンバータは入力が0.8Vまで下がっても5.0Vを出力するので、電池のパワーを無駄なく使い切る事ができます。

<設計のポイント>
 使用するDC/DCコンバータのデータシートに従って周辺回路の設計を行う。
<特徴>
長所
@ 小型・軽量
A 電流制限回路が内蔵されている。
B 安定度は良い。
C 効率は良い。(85% at 100mA)
短所
@ コストは高い。
A 周辺回路はやや複雑。

3−4 その他の電源

■ 信号線の電源利用
<概要>
 これは本来電源ではない信号線を電源として利用する方法です。例えばRS−232Cで常にHレベルが出力されている信号を電源として利用する方法です。RS−232CドライバのMAX232(MAXIM製)のデータシートをみると
 Output Voltage Swing   outputs loaded 3kΩ to GND   ±8V 
 となっているので、この出力のうちのどれか(RS信号など)が常にHレベルだと分かっていれば8V・2.7mAの電源として利用できそうです。   
下図はこのドライバの出力を利用した例です。

<設計のポイント>
 利用できる電力が限られているのでPICマイコン回路の消費電流や安定化回路の損失電力を極力小さくする。
<特徴>
長所
@ 電源不要
短所
@ 利用できる電力は小さい。

3−5 PICマイコン側の配慮

 前項までは電源側の回路について説明してきましたが、仮に理想の電源を用意したとしてもPICマイコンまでの配線やプリント基板のパターンのインピーダンス(抵抗)によりPICの電源ピンの両端電圧は影響を受けます。下図はその様子を説明する為の等価回路です。

 r1 ・r2 ・r3・r4は配線やパターンの抵抗です。電源電流をiとすると、PICマイコンの電源端子にかかる電圧Vは

V=5−i(r1+r3)

となります。ここでPICマイコンやその他の負荷が変動すると、電源電流iも変動するのでPICマイコンの電源端子電圧Vも変動します。LEDやリレーなど比較的大きな負荷のオン/オフは電源ノイズとしてPICマイコンの電源端子に印加されます。このノイズを除去する為にPICマイコンの電源端子の近辺にコンデンサを入れます。これはどの様な電源の場合でも必要な対策です。一般には0.1μF程度のセラミックコンデンサ十分ですが、状況によっては調整する必要があるでしょう。




ここまで 2002年 4月27日公開      続く