
日もまだ暗い5時前。ずいぶんと涼しくて目が覚めた。温度計を見ると16℃しかない。大阪の熱帯夜が嘘のようだ。体を起こすと、ふしぶしが痛い。さすがにコンクリートの上での睡眠では、疲れがいまいち取れない。勝手に寝ているので迷惑をかけてはいけない、朝食を取るためにJR佐久海ノ口駅まで移動する。
今日の目標は自転車で越せる峠としては日本最高所であるという、川上牧丘林道の大弛峠(おおだるみ)。上り始めの川上村から峠までの1200m近い標高差もさることながら、やっかいなのは林道の長野側に9kmも残るダート区間。空荷なら北海道知床のカムイワッカで11kmのダートを往復したことはあるが、峠をフル装備で越すのはこれが初めてだ。

JR佐久海ノ口駅は標高1039mで、日本で7番目に高い駅だと看板に書いてある。入り口には「宇宙に一番近い鉄道 ― 小海線」とある。なんだかおしゃれだね。早朝からこの無人駅に数人出入りしていたが、皆さんやさしく声を掛けてくださった。入念にストレッチしてサイクルウェアに着替え。昨日すすいだだけなので、残った水分がとても冷たく、体がしゃきっとした。
国道141号線は7時でもトラックなどが多い。途中コンビニ(に似た商店)で今日の食料を買い込む。予定のコースでは川上村を除くと宿泊予定地の山梨市まで、食料はおろか自販機すら期待できない。店番のじいちゃんは親切な人で、弁当買ったら、併設している牛丼屋を指差し、「朝食ならそこで食ってき」といってくれた。これは昼食やから、でも良かったら水をいただけないですかと尋ねると、裏のホースで汲んでいいよといってくださった。お礼を言って裏に向かう。
裏のスペースにはチャリダーが自転車を止めていた。今回のツアーで初めてチャリダーと話すなぁ。彼は東京から北上してきたようで、このまま直江津へ行くと言う。「じゃあそこから北海道ですか」と聞くとそうだと言っていた。いいなぁ北海道。ひいひい言いながら先輩達について行った頃がふと懐かしくなった。
![]() 県道68号線 南牧村広瀬 |
![]() 千曲川を渡る 川上への近道 |
朝でも大型車の多い国道141号線に嫌な気持ちでいると、川上村への近道である県道68号線が分岐。そちらへ下ると素晴らしく車が減った。小鳥のさえずりを聞きながら走る静かな1.5車線、先ほどまでの道とのギャップは大きい。時折はるか上方を走る国道からトラックの排気音が聞こえてくるが、なんだか余裕を持って聞くことができた。

広瀬の集落に出る(地図 MapionBB)。四方を山に囲まれた暮らしは、自転車乗りが訪れる夏はいいが、冬はとても厳しいだろうな。
JR小海線の小さな高架をくぐり、大蔵峠へのちょっとしたアップヒル。標高差はほんの100mほどだ。静かな峠道は程なく終わる。峠を下っていくと右手に展望が開けた。向こうに見えるのは国道141号線だろうか。

大蔵峠を越えると川上村に入る。長野県の東端に位置し、山梨県 ・ 埼玉県 ・ 群馬県 の三県と接する場所にある。とても美しく大きく見える八ヶ岳を背にしながら走る。豊かな自然を感じる。
9時前に役場が開いていたので、川上牧丘林道のダートについて話を聞いた。すると皆さん一様にちょっと可哀想な人を見るように私を見る。「そんな荷物でねぇ、あの道はねぇ、悪いこといわないから・・・」と口を揃える。ううむ、いろんな峠や山を越えたけど、こんなにお勧めされないのは初めてだ。うん、余計楽しみになってきた。

千曲川の源流に向かってゆっくりと登る。気温も上がり、さっきコンビニでじいちゃんに貰った水を飲んだ。うわっ!ホース臭ぇ!峠の間これを飲むのはかなりのハンデだ・・・。くたびれて日陰で休んでいると昆虫の多さに気付いた。アブが弱ってヒクヒクしている。水をかけたら少し元気になったような気がした。
路面はきれいで、この先にガレたダートがあることを全く想像させない。快走していると前方に金峰山、そして山と山のくぼんだところに続く道が見えてきた。あれが目指す大弛峠だろう。もうゴールは見えているんだ、いけるぞ。