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『序章』
彼女の願いは唯一つであった。 平和を取り戻すこと---------。 もしも願いが叶うなら、たとえこの身がどうなろうとも構わなかった。 だが、どんなに逆らってみても彼女一人の力では、流れを変えることなど到底不可能なことは 分かりきっていた。 このままでは自分を信頼し、望みを託している人々の気持ちさえ踏みにじる結果になる。 そして、その代償として尊い命さえも・・・。 もはや最後の望みは彼だけだった。 彼に救いを求めて、叶えられなかった者はいないという。 そんな万能の力を持つ救世主が本当に実在するのか、何も信じる術はないのだ。 しかし、どこにいるのかさえ分からない彼の元へ、いつか必ず届くと信じて、 ただ思念(こえ)を送り続けるしかなかった。 『第一章-聖なる少女-』 真夜中。 人一人いなくなった通りに、ぼうっと白く輝くものが見えた。黒いフードですっぽりと全身を隠し、 人目を避けるように歩いていく。近づいてみると、それは少女だと分かった。 フードの隙間から覗く肌は透き通るように青白く、幼さの残ったその顔は、息を飲むほど美しい。 彼女は町外れの教会へと向かっていた。 やがて目指す教会へ辿り着くと辺りを注意深く見回し、 誰も着いて来ていないのを確認すると、するりとその身体を中に滑り込ませる。 中へはいると、待ち兼ねたかのように人々が彼女を取り囲んだ。 彼女がそれまで被っていたフードをはらうと、滝のような黄金に輝く長い髪の毛が流れ出た。 彼女は、湖のように深く澄んだブルーの瞳で人々に優しく微笑みながら、前へと進んで行く。 そして、祭壇の前まで来るとひざまずいた。しばらくすると、彼女は立ち上がり人々の方へ振り向き、 静かに話し始めた。 「皆さん、今日も私達の仲間が尊い命を落としました、毎日仲間が殺されていくのを、 私達は黙って見ているしかないのでしょうか。 私はもうこれ以上、誰一人として失いたくはありません。 それゆえ、最後の希望に私達の運命を託そうと思います。 どうか皆さん、私に力を貸して下さい。彼の元へ私達の想いが届くように・・・!」 彼女が話し終わると、それまで黙って聞いていた人々は、口々に彼女の名を呟いた。 「リアナ様!」 見る見るうちに、一人一人の身体からオーラが立ち昇り、それはリアナと呼ばれる少女の元へ集まって行った。 リアナは両手を広げてそのオーラを包み込むようにすると、何か呟き、それを空に向かって放った。 一か八かの賭であった。 空が急にパァーっと明るくなり、大きな振動と共にオーラは天井を突き抜け、 光の柱となって宇宙の彼方へと延びていく。 これでもう敵に、自分達の居場所を教えたようなものだった。 今すぐにでも敵は捕らえに来るかもしれなかった。 リアナがこの場から去れの合図を出した。 するとわずか数秒の間に、目の前にいた人々の姿はきれいさっぱりと消え去り、 それを確認するとリアナは、緊張の糸が切れたかのように意識を失い、その場に崩れ落ちたのである。 目覚めると、そこは自分の見慣れたベッドの上だった。 ”ああ、そうだった” 薄れ行く意識の中で、武装した兵士が礼拝堂の中へ入ってくるのが見えた。 そして、その後に続いて警備兵に囲まれた、燃えるような赤い髪が見えた。 ”ソルシア!” リアナは急いでベッドから飛び起きると、部屋を見渡した。入口と窓には鉄格子がはめられ、 ESPシールドがされている。 彼女はもはや完全な籠の鳥であった。 ”もう一歩たりとも、お前を外へ出しはしない” 突然、リアナの頭の中に思念(こえ)が入り込んできた。 ”よくも私を欺いてきたもの。妹と思えばこそ、今まで自由にさせてきたのに・・・。 覚えておれ。私が完全なる時が来たら、この報い、必ずやさせてなるぞ!” 地の底から響いてくるような、低い笑い声を漏らしながら、惑星ソロンの女王ソルシアは、 その血を分けた妹リアナの運命を告げたのであった。 |