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パチパチと囲炉裏の火が燃えている。 外は今にも雪が舞い降りて来そうな、そんな凍てつく寒さだった。 囲炉裏の火に照らされたその顔は、いつになく穏やかな表情である。 彼の膝の上には暖かな色合いの小鳥。 そう、ルトだった。 膝の温もりと火の暖かさの中で、 気持ち良さそうにルトはウトウトとまどろんでいた。 彼は書物を手にし、読みながら、時折ルトの様子を見守っている。 その時、障子戸の向こうから声を掛けられた。 「あきのすけ様、まだ起きてらっしゃいますの?」 雫だった。 「ああ?」 「暖かいお茶をお持ちしましょうか?」 「では頼む。済まない」 しばらくすると、茶を入れた雫が戻って来た。 「失礼します」 静かに戸を引き、彼の側まで来て膝を付き、盆を彼に差し出す。 「ありがとう」 と彼は言い、盆に乗った茶を受け取った。 暖かい茶を一口啜ると、彼は雫に言った。 「雫・・・」 「はい?」 「聞きたいことがあるのだが・・・」 「何でしょう?」 「そなたの目が・・・治る可能性はあるのだろうか?」 「えっ?」 唐突に目のことを聞かれ、雫は戸惑った。 「なぜそのようなことを・・・?」 「いや、気に障ったならば済まぬ」 「いいえ・・・」 「医者には診せたと聞いたことはあるが」 「ええ。 あきのすけ様と出会う前、 何度かお医者様に診て貰いましたが・・・」 「医者は何と?」 「今ひとつ色よい返事はいただけませんでした」 「そうか・・・」 「どうかなさったんですの?」 「・・・」 彼は何と言おうか迷ってる様子だった。 その様子に気づき、雫はにっこりと笑った。 「あきのすけ様は心配なさってるでしょうけど、 前にも申し上げた通り、私にはあなたの姿や顔、 あなたを取り囲む暖かな色が全て見えておりますわ」 「それは分かっている」 「町にいた頃、姉に手を引いてもらわなければ、 遠くまで出歩くこともままならず、 でも、それが取り立て不便だと思いもしませんでした。 けれど、あなたに出会って・・・私は感じたのです」 「雫・・・」 「私は生まれて初めてあきのすけ様、 あなたのお役に立ちたいと強く思いました。 そして、見えるはずのないあなたの顔が見え、 ルトの言葉が分かることは、きっと何か意味があることに違いないと。 だからこそ、あなたにお願いしたのです。 共にここへ来ることを」 「雫、私は・・・」 雫は、そう言いかけた彼の言葉を遮るように続けた。 「あきのすけ様、私はここで、同情や哀れみを気にせず、 ルト達や小鳥達に色々なことを教えてもらい、 助けてもらいながら、何不自由なく暮らしているのです」 しかし、そう言った雫は少し間を置き、ふと躊躇うように尋ねた。 「ひょっとして・・・ 私を足手まといとお感じなのですか?」 「いや、そんなことはない!断じて。 そんな風に思わせてしまったのなら、済まない」 彼は俯くように顔を背け、呟くように言った。 「雫・・・そなたが思っているよりも、ずっと・・・」 「え?」 雫はその言葉を聞き取れなかったようだった。 「いや・・・なんでもない」 「・・・もう遅いですわね。 あきのすけ様もそろそろお休み下さいませ」 そう言うと、雫は立ち上がる。 銀色の髪が、ふわりと彼の前に揺らいだ。 瞬間、ドキリとする侍。 雫が部屋から立ち去ると、彼は茶碗に入った茶をしばらく見つめ、 何かを振り払うように、一気にゴクゴクと飲み干した。 ルトが薄目を開けて、クスクスと笑った。 ぎょっとする彼。 「な、なんだ?起きていたのか?ルト」 「ふふふでしぃ・・・」 意味深な声で笑うルト。 「侍ってば・・・」 ルトは、ちょっと呆れたような声で言った。 「ちゃんと言わなきゃ伝わらないでしよ?」 「分かっている・・・・・・。」 そう言うと黙り込む侍。 その顔を下から覗き込むように見つめるルト。 そうだ、雫。 私はお前の身が心配なのだ。 私がいない時は、ルト達がお前を守ってくれるだろう。 けれど、それさえも許さない状況になったら・・・? 私は近頃そればかりを考えてしまうのだ。 不安がいつも私の中にあるのだ。 せめてお前の目が見えたなら・・・ そんな風に考えてしまう。 目さえ見えていれば、 多少なりとも自分で危険からその身を守ることもできよう。 私はお前を・・・ お前を失いたくない。 危険な目に遭わせたくないのだ。 侍がそんな思いを巡らせていると、 ルトは手の中に無理矢理入り込んで来た。 まるで、そんなことを心配するな、というように。 「ルト・・・?」 「大丈夫でしよ。 雫お姉ちゃんは、ボクらがしっかりと守るでしから」 「そうか、そうだな・・・」 侍は自分の考えていることが、何もかもルトに分かってしまってると思い、 微かに笑った。 そして、それに応えるかのように、 ルトの小さな頭を優しく撫でたのであった。 |