-転生編:第一部-




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パチパチと囲炉裏の火が燃えている。
外は今にも雪が舞い降りて来そうな、そんな凍てつく寒さだった。

囲炉裏の火に照らされたその顔は、いつになく穏やかな表情である。
彼の膝の上には暖かな色合いの小鳥。
そう、ルトだった。

膝の温もりと火の暖かさの中で、
気持ち良さそうにルトはウトウトとまどろんでいた。
彼は書物を手にし、読みながら、時折ルトの様子を見守っている。

その時、障子戸の向こうから声を掛けられた。
「あきのすけ様、まだ起きてらっしゃいますの?」

雫だった。

「ああ?」
「暖かいお茶をお持ちしましょうか?」
「では頼む。済まない」

しばらくすると、茶を入れた雫が戻って来た。
「失礼します」
静かに戸を引き、彼の側まで来て膝を付き、盆を彼に差し出す。
「ありがとう」
と彼は言い、盆に乗った茶を受け取った。

暖かい茶を一口啜ると、彼は雫に言った。
「雫・・・」
「はい?」
「聞きたいことがあるのだが・・・」
「何でしょう?」
「そなたの目が・・・治る可能性はあるのだろうか?」

「えっ?」
唐突に目のことを聞かれ、雫は戸惑った。

「なぜそのようなことを・・・?」
「いや、気に障ったならば済まぬ」
「いいえ・・・」
「医者には診せたと聞いたことはあるが」
「ええ。
 あきのすけ様と出会う前、
 何度かお医者様に診て貰いましたが・・・」
「医者は何と?」
「今ひとつ色よい返事はいただけませんでした」
「そうか・・・」
「どうかなさったんですの?」

「・・・」
彼は何と言おうか迷ってる様子だった。

その様子に気づき、雫はにっこりと笑った。
「あきのすけ様は心配なさってるでしょうけど、
 前にも申し上げた通り、私にはあなたの姿や顔、
 あなたを取り囲む暖かな色が全て見えておりますわ」

「それは分かっている」

「町にいた頃、姉に手を引いてもらわなければ、
 遠くまで出歩くこともままならず、
 でも、それが取り立て不便だと思いもしませんでした。
 けれど、あなたに出会って・・・私は感じたのです」
「雫・・・」
「私は生まれて初めてあきのすけ様、
 あなたのお役に立ちたいと強く思いました。
 そして、見えるはずのないあなたの顔が見え、
 ルトの言葉が分かることは、きっと何か意味があることに違いないと。
 だからこそ、あなたにお願いしたのです。
 共にここへ来ることを」

「雫、私は・・・」

雫は、そう言いかけた彼の言葉を遮るように続けた。
「あきのすけ様、私はここで、同情や哀れみを気にせず、
 ルト達や小鳥達に色々なことを教えてもらい、
 助けてもらいながら、何不自由なく暮らしているのです」

しかし、そう言った雫は少し間を置き、ふと躊躇うように尋ねた。
「ひょっとして・・・
 私を足手まといとお感じなのですか?」

「いや、そんなことはない!断じて。
 そんな風に思わせてしまったのなら、済まない」

彼は俯くように顔を背け、呟くように言った。
「雫・・・そなたが思っているよりも、ずっと・・・」

「え?」
雫はその言葉を聞き取れなかったようだった。
「いや・・・なんでもない」

「・・・もう遅いですわね。
 あきのすけ様もそろそろお休み下さいませ」
そう言うと、雫は立ち上がる。

銀色の髪が、ふわりと彼の前に揺らいだ。
瞬間、ドキリとする侍。

雫が部屋から立ち去ると、彼は茶碗に入った茶をしばらく見つめ、
何かを振り払うように、一気にゴクゴクと飲み干した。

ルトが薄目を開けて、クスクスと笑った。

ぎょっとする彼。
「な、なんだ?起きていたのか?ルト」
「ふふふでしぃ・・・」
意味深な声で笑うルト。

「侍ってば・・・」
ルトは、ちょっと呆れたような声で言った。
「ちゃんと言わなきゃ伝わらないでしよ?」

「分かっている・・・・・・。」
そう言うと黙り込む侍。
その顔を下から覗き込むように見つめるルト。

そうだ、雫。
私はお前の身が心配なのだ。
私がいない時は、ルト達がお前を守ってくれるだろう。

けれど、それさえも許さない状況になったら・・・?

私は近頃そればかりを考えてしまうのだ。
不安がいつも私の中にあるのだ。
せめてお前の目が見えたなら・・・
そんな風に考えてしまう。
目さえ見えていれば、
多少なりとも自分で危険からその身を守ることもできよう。

私はお前を・・・

お前を失いたくない。
危険な目に遭わせたくないのだ。

侍がそんな思いを巡らせていると、
ルトは手の中に無理矢理入り込んで来た。
まるで、そんなことを心配するな、というように。
「ルト・・・?」
「大丈夫でしよ。
 雫お姉ちゃんは、ボクらがしっかりと守るでしから」
「そうか、そうだな・・・」

侍は自分の考えていることが、何もかもルトに分かってしまってると思い、
微かに笑った。
そして、それに応えるかのように、
ルトの小さな頭を優しく撫でたのであった。





       
-つづく-



※考案・執筆:文鳥侍 -2007.09-



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