「真悟、どうかした?」

「仕事だ。依頼主は鬼頭遙18歳学生。依頼目的は彼女のボディーガード及び、危害を加えるモノの抹殺。報酬はまぁ、見積もり次第だが五本は堅いな」

 どう言った心境なのか全く分からない様子で淡々と告げる真悟はどことなく怖ささえ覚えるが、今の大介に取っては自分の仕事を取られた事が少し悔しいらしく、不機嫌な顔で無言の訴えをしている、の、だが、何か気付いた様に機嫌を直す。

「じゃ、一応顔だけは出して・・・」

「お前は駄目だ」

「何故にぃ」

 即座に判断されたのは悔しいと言うより悲しいらしい。だが、大介の性格を知っているならば誰でも止めただろう。わざわざ依頼主をナンパしに行く等馬鹿げた行為でしか無い筈なのだから。

「はぁ・・・。けど相も変わらず先読みがお上手で」

 かなり皮肉を籠めたその言葉はある意味賞賛と言っても過言ではない。方や十年以上勤めているベテランと三年足らずしか勤めていない新人。だが、年齢はその真逆であり、姿形からは想像出来ない程の長い時を生きている様にさえ思える時があるのだ。

 だから大介は例え相手が年上でも、自分が見抜いた相手に敬語を使ったりはしない。少なくとも真悟以外の知り合いで敬語を使おうと思った人物は居ない程なのだ。それ故、本来ならば立場を代え自分は下で居たいと願いたい気持ちがあるのも本当の所。しかし、それを話した時、彼はこう言ったのだ。

 ただ一言「疲れる」と。

 だから今はこうして普通に話していられる故に、大介が敬語を使う事は無くなった。上司と部下と言う関係も良いが、それ以上に親友と言う立場が一番楽しいと思える事には違いがないのだから。

 最も、どの程度友人と認めてくれているのかは今一分からないで居るが。

「お前の得意技だろうが。付け焼き刃に負けない様に修練しとけバーカ」

「分かってるよ・・・。けど真悟と話してるとどーも家のクソジジイを思い出すな」

「・・・・・誉めてんのか貶してんのかどっちかにしとけ」

「じゃ、貶す方にしとくかな〜」

「はぁ・・・」

 減らない口に呆れかえり、もう相手にするのも疲れたのだろう。来た道を引き返すようにドアを開け一歩前に出たが、そこで立ち止まり真悟はもう一度だけ言った。

「くれぐれも言うが、『今は』顔を出すなよ。どういう使い方をすればそうなるのか知らんが、貯金残高二桁を一桁にしたくないんだったらな」

 そして答えを待たず真悟はそのまま部屋を出た。だが、大介はしてやったりと言う顔で一言。

「ふふふ・・・流石に一桁だとは思うまいて」

 と、一人呟き、我ながら無駄遣いが多いと後悔しながら仕事へと出向く支度を始めた。

 どんな落ち込んでいようとも自分のやるべき仕事は分かっているのだ。やるべき事は鬼頭遙と言う人物の身辺調査とどういう事件に関わったかを調べると言う事。多分真悟に聞けば一秒と掛からず答えてくれるのは分かっているのだが、此処は会社。自分のやるべき事をやる場所故に他人に頼る場所ではない。

「さて、と」

 そして首を傾げ鳴らし、ドアの向こうの人物に向かって言う。

「行くぞ半蔵。で、依頼主様は何処の制服着てたんだ?」

「私立霧島学園だ」

「げ、むっちゃお嬢様じゃん・・・」

「大介」

「あ?」

「ナンパは・・・」

「分かってるよ。出来うる限り控えます」

 そして色の違う溜息を入り交じらせ、二人は会社を出る。

 その一方、ビルの下では。

「さ、乗って」

「・・・・・」

 頷くだけで答える辺り、まだ立ち直っていないのだろう。だが、そんな一瞬で吹っ切れるような経験をしている方がおかしいと分かっている故に、千尋は少しもどかしくもあるが安心も出来た。しかし先ほどよりは幾分か楽になって居るのには違いなかった。

 彼女の大方の事情はあの後聞いたとは言え、知らなかったあの時には正直、あの台詞で立ち直ってくれるかどうかは賭けだったのだ。自分と似ていない人物が聞けば本当に死ねと宣告している様な物。さして眼力に自信を持っている訳でもなく、まさに女の直感だけの勝負である。勝てる見込みなど皆無と言って良いほどだっただろう。だがそれ以上に助けたいと言う気持ちが強かったのが通じたのか。声で返事をしてくれる訳ではないが、言う事には素直に従ってくれるのが千尋には嬉しかった。

 だが、その反面でそれは山積みになっている問題をやる為の蓋を開けただけの状態であり、まだこれから解決していかなければならない事は嫌になる程あるのだ。仕事として割り切る事の出来る立場に居る千尋はマシだが、鬼頭遙と言う18歳の女の子に取ってそれがどんな辛い事かは分からない。

「今から行く所は仕事が終わるまで住んで貰う家よ。私の家だけどね。振り落とされないようにしっかり捕まっててよ」

 あまり耳に入っていない事は分かっているからこそ、少し手を添える様にして補ってやらなければバイクが動き出した途端遙は落ちてしまうのだ。今、無駄に喋る事にそれ程の意味が無い様に思えるのだが、そんな無駄な中から自分で何かを見つけて貰うのが本当の意味での助けると言う事を知っている千尋は、ある意味達観した自分の考えが嫌になると考えながらもバイクを発進させた。

 その道中、会話が無い事など分かっていたが、わざわざ信号が赤になるタイミングを見計らって少し話せる時間を作りはしたが、やはり無駄だったのか。彼女は何も言葉を発せようとしない。それが無用の気遣いであり、そんなに早く立ち直れないのが人の心だと分かっていても、やはり焦る気持ちがある故の若さなのだろう。

 その点に置いて、雅美や龍哉、真悟の三人が自分にどれだけ気付かせない様に助けられていたかを確認できる今となっては、彼らの大きさが身に染み、少し悔しい気もしながらバイクは走り続けていた。



















 相変わらず画像的イメージだけは剥き出しのコンクリートと言う作りにも関わらず、無機質だけではなく何処か暖かみのある雰囲気があるのは彼女が居るからだろうか。何処か自分よりも一回りも小さい彼女が大きく感じる瞬間、自分もまだまだだと思いながら龍哉は口を開いた。

「いやはや、三上君には驚かされたよ。やはり同姓の事は同姓が一番と言う事かな」

「何言ってんのよ。社長も一度は結婚したんだから女の子の気持ちくらい分かってあげなきゃ」

「分かっては居るけどね。流石に娘ほどの歳が離れた相手は苦手で」

「まぁ、大介見たいに口八丁でも困るけどねぇ」

 微笑みながら返すだけの雅美だが、もっとしっかりしろと遠回しに言っているのだと今の龍哉には断言できる。それだけの時と言う積み重ねではなく、経験値と言う積み重ねが違うのだろう。最も、全ての部分で劣っているならば社長と言う地位すらも雅美は認めてくれないのだから、その点を認めてくれている事は感謝しているのも事実だった。

「で、あの娘も居ないし本題に入って良い?」

「ああ。でなけりゃ俺は只の穀潰しになってしまうからね」

「ふふっ。どう思う? 今回の鬼頭家が惨殺された理由を」

「そう、だねぇ・・・」

 そこからが本領発揮と言う様に、龍哉は腕組みをししばしの間沈黙する。しかし、それは一瞬、二、三秒の事でありそれ程長い時ではない。

 それが彼の特技にして誰にも真似できない技能なのだ。

「遙ちゃんのお父さんの鬼頭忠司(きとうただし)と言えば、警視庁の特別捜査本部第八別室の部長さんで有名な家でもあるから、何処かの悪組織を裁けるだけの情報を手に入れた結果、と言った所だろうねぇ。けど日本の中にある組織でウチ以外に国を相手に出来る所なんて無いし、国外の組織で日本を敵にして損をする国と言えば東アジアの近隣諸国か、アメリカ位のモノ。チャイニーズ系の人たちが家族一人を残して両親だけ惨殺するなんて失態はするとは思えない所から見て、まだできたての組織がやったと思うのが妥当な線、かな?」

 そこまでの情報を直ぐに出せるのはこの日本中探しても彼以外居ないだろう。それだけ国の政府要人とも繋がりがあると言う事の現れでもある。

「・・・・・でしょうね。で、幾つ敵の組織名が出てきます?」

「ゴマンと新しい組織名はあるけど、情報を気取られて危ない組織と言えば総合商社JADE EAGLE(ヒスイの鷹)と日本人がらみの貿易会社FIERY WIND(炎の風)と、あとそれからNIGHT SHADOW(夜影)の三つだな。どの組織会社も日本を橋渡しとしたアジア近辺への麻薬武器密輸をしてるし、まだ日が浅い所為かやり口もかなり荒っぽい点が共通してるからね。こっから絞るしかない、で、しょう」

 そしてそれ以外にも、犯罪組織からテロ組織まで、どこからその情報が入ってくるのかは謎のまま。と言っても昔取った杵柄か。雅美にも独自のルートがあるにはあった。が、それでもやはり龍哉には適わない故に、年の功には勝てないなとも思っているのが本音の所である。

「サッスガ社長。で、私は何をすれば?」

「三上君にはあのまま遙ちゃんのガードを固めて貰って置くから、一週間分程の食料調達と南雲の変わりに真悟さんと一緒に情報収集をお願い出来るかい?」

「じゃ、ハンゾーは一体何するんです?」

「一応、依頼主の意志を尊重したいからねぇ。学校に行くとか言った時にボディーガードが居ないと困るでしょ。流石に三上君やキミに高校生をやれって言うのは不自然過ぎるし」

「あら、保健室の先生って手もあるわよ?」

「キミは無理矢理今の保健の先生を休ませろ、と?」

「そりゃそうね。不自然って言うのは聞き逃してあげる」

「はははっ。それで、やっぱり大介は真悟さんが言った通り遙ちゃんに近づけない方が教育上良いだろうし。だから連絡係って言うのが良いだろうな」

「確かに。けど、一段落着いたら良いオトモダチにはなれると思うわ。私たちみんな含め、ね」

「そうだね。じゃ、俺は行って来るよ」

「その前に一つだけ質問良いかしら?」

「なんだい?」

「その特別捜査本部第八別室って言うのは主に何をしてる所なのかしら。防衛庁の情報統合本部第八別室がニンジャの集団って言うのは聞いた事があるんだけど」

「乱破って点は同じだけど、民間人を守るのが主なのか情報収集が主かの違いなだけだよ。まぁ、運輸省とか通産省とかにも昔は第八別室があったんだけどね。時代の流れで無くなっていったって所かな」

「けどだからちょくちょく民間の、それもたった六人の有限会社に暗殺依頼が入る訳ね。この国もあんまり長くないわねぇ」

「国の政府が無くなる事はあっても、企業が無くなる事はないさ。何せ日本は企業国家だからね。それじゃ後ヨロシク」

 そう言い龍哉は部屋を後にする。残された雅美は少し考えに耽っていたのだが、何かに気付き顔を上げた。

「真悟〜」

 その呼び声には何の物音もしなかったが、まるで確信があるように雅美はドアを開ける。そしてそこには予想通り、真悟が立っていた。

「聞いてたんでしょ?」

「あ、ああ」

「じゃ、分かってるわよねぇ」

「な、何が?」

 そこにある真悟の顔は、千尋達の知らない顔なのだ。滅多に見せない狼狽した表情で焦り、挙げ句の果てに顔は真っ青になっているのである。

 何がそうさせるか等、付き合いの長い雅美にしか分からない事。

「やっぱ・・・・俺も乗るのか?」

「当たり前じゃないの。か弱い私に一週間分の食料調達をしろと?」

「何処の誰がか弱いんだ?」

「私。デリケートだから」

「バリケードの間違いじゃないのか?」

 そして笑い声が廊下に響き、一瞬、二人の動きは人間の視覚で捉えられぬ程速く動き、次の瞬間に現れた時、転かされ座り込んでいる真悟と、その後ろで注射器を真悟の首の後ろに刺している雅美の姿がある。無論、薬を押し込む親指は押しきっている形だ。

「死にゃぁしないでしょ?」

 注射器にセットされていたのは麻酔薬なのだ。だがその言葉の意味は少々含む所が違う。

「す、少しは手加減しろよコラ・・・」

「普通だったら死ぬけど、相手は貴方よ。加減なんてしたら逃げられるでしょ? ものの数分で治るんだから良いじゃない」

「鬼・・・」

 そしてその後、高らかな笑い声がビルに響き渡り、二人も自分の仕事へと出向いて行く。

 真悟の「車は嫌だ」と言う呟きをかき消しながら。







「さ、入って」

 自宅に帰ってきた所で、出迎えてくれるのはポチだけ。だが、珍しい客に驚いているのか、首を傾げ不思議そうな顔をして千尋に擦り寄ってくる。そして遙の雰囲気を察してか。近づいて良いのかが分からないのだろう。少しうろちょろしながら遙の周りを回り出す。

「・・・・・」

「言ってなかったけど、その子が同居人のポチよ。ポチ、挨拶は?」

 その千尋の声に無論反応する訳は無いと思っていたのか。鳴き声をあげたポチに驚きながら、漸く遙は微笑みを現す。

「じゃ、コーヒーでも入れるからポチの相手お願いするわ。それとも紅茶が良いかしら」

「あの・・・」

「ん? 何?」

「野菜ジュースか何かありますか?」

「あるわよ。ちょっと濃いけど、それでも良い?」

「はい・・・」

 徐々に心がほぐれて来たのか。ポチに感謝しながら自分用のアイスコーヒーと特売で買った野菜ジュースを冷蔵庫から取り出す。コップは来客など無いと思っていた為か、安物のコップになってしまったがそんな事は気にする必要もないだろうと彼女の前に出す。一応、野菜ジュースはなみなみに注いで。

「んぐ・・んぐ・・・んぐ・・・」

 それを吹っ切れるようにして遙は一気に飲み、少し顰めっ面で唇を手の甲で拭う。その様子が、本来の自分を取り戻そうとしているのが千尋には痛い程分かる。

 かつての自分もそうだった様に、大人には頼らないように生きていたつもりだったのだ。だが、それを失って初めてその大きさに気付き、後悔して落ち込んでいただけの日々。その自分を重ねれば、今の遙は自分より遥かに強いと言え、自分の一言もまんざらではなかったのかと思えて来た。

「ごちそうさまでした」

 そしてその微笑みを見た時、やはりまだ無理をしているのが表情から分かり、遙の年齢を思わせた。

「ごめんね、苦かったでしょ?」

「けど、私も好きですよ。特売189円の野菜ジュース」

「たはは・・・」

 それでも、辛さを隠すのではなく乗り越えようとする努力は千尋には何処か眩しく思え、やはり嬉しいのか。微笑みが零れてしまう。

「でも変わった名前ですよね。この子。猫なのにポチなんて」

「ホントは犬が飼いたかったんだけどね。ここじゃちょっと無理があるから」

 その時、携帯の着信音が鳴り自然と会話は途切れてしまう。

「ちょっと待ってね」

「はい」

 頑張ろうとしている遙の顔を横目に、立ち上がり携帯のディスプレイを見ながら玄関の方へと向かう。ディスプレイの中に映っていたのは「アイカワマサミ」と言う七文字だった。

「雅美さん、どうかしました?」

『千尋? 社長からの指示でそっちに食料持って行くし、そのつもりしといてね』

「良いですよ」

『後、ハンゾーもそっちに行く様に言ってあるから。もしかしたらハンゾーの方が先に着くかも知れないのよ』

「南雲君、が、ですか?」

『そうなの。遙ちゃんが明日から学校に行くとか言い出した時の為に社長がそうしろって言ってね』

「じゃ、情報収集は一体誰が・・・」

『私と真悟でやるからその辺の心配はしなくて良いわよー。千尋はしっかり遙ちゃんのボディーガードを宜しくね』

「あ、後・・・」

『何?』

 そして千尋は表情を曇らせ、少し小声になりながら話を続ける。

「彼女がもし、両親の死んだ理由の真相を聞きたいって言った時の為に、今雅美さんの知りうる限りの情報提供をお願いできますか?」

『ええ。けど、まだ推測の域なんだけどそれで良い?』

「はい」

『まず、遙ちゃんのお父さんだけど、警視庁特別捜査本部第八別室って所で部長やってた人らしくて、まぁ、日本のニンジャ見たいな仕事だったらしいのよ』

「忍者・・・ですか」

『不思議そうに思うけど、やっぱりまだあるのよ。そう言う古くさい所がね。それで、遙ちゃんのお父さん、鬼頭忠司氏は何らかの事件に巻き込まれて殺されたって事。社長の推測じゃ、「JADE EAGLE」と「FIERY WIND」と、「NIGHT SHADOW」って組織のどれかが遙ちゃんのお父さんを殺したらしい、って事が今分かってる情報よ』

「・・・そ、そうですか」

『どうかした?』

「いえ、じゃ」

 そして電源を切った瞬間、千尋は自分の心臓が高鳴っているのが嫌と言う程分かった。

 何度も忘れようとした名前を、またここで聞くとは思わなかったのだ。

 昔は目を瞑るだけで思い出せた情景も、今となっては掠れた想い出にしか過ぎない筈。夢見の悪い夜も、気分が優れず体調ばかり崩していたあの頃と比べれば、今の自分は確かに成長し、乗り越えたと言えたのだろう。

 ただし、それはほんの数分前までの事。

 結局の所何の解決もしていなかったのだと言う事が彼女の心を蝕み、そして昔へと戻して行く、筈だった。

 だが、玄関の暗がりの中で聞こえた、一回り近くも違う少女と猫の戯れる声を聞いた時、心にある想いがあった。

『・・・・・・』

 それは決して言葉にならぬ物なのだと、彼女は認識している感情。

 壁を乗り越える時、幾度と無く聞いて来た声でもあり、そしてある時期を境に全く聞こえなくなった意志でもある。

 目の前で起こった惨劇は、記憶が辿り流れ行く時間の中でかすんでも決して消えない傷になったその時。それは一度も彼女の心の中で聞こえない物となり、長年それと離れていた所為か。軽い目眩さえ覚える感覚となって甦る。

 ただ、少し違うのは、それが自分の為ではなく、今日逢ったばかりの少女と為だと言う事。

 例えまだ終わるには早すぎる命だろうと、少女の為なら何でも出来る気がするのだ。

 昔覚えたそれは全てを押しつぶす程の絶望と言う名の傷跡。

 決して癒えぬそれは、彼女の身体と心の傷となり現れているが、今からなら、前へと進み出せる一歩が踏み出せる気がするのだ。

「・・・歳取ったわね、私も」

 過去に受けた傷は彼女に二つの言葉と一つの疑問を投げかける。

 自分を守り死んでいったあの人は、犠牲だったのか、それとも無駄死にだったのか。

 それは未だに解けない謎でもあり、彼女が答えを最も渇望している物でもある。

 そして当分それだけに悩まされる日々は免れそうでも、その代わりに答えを知らない質問を投げかけられているのが楽でもあり、辛くもあった。

 しかし分かる事だけはあった。

「ホント・・・人の気も知らないでお腹空いた声出すのね。ポチ」

 たった一人の心の激動と、世界にある平穏は平行線のまま、当分の間時は流れて行きそうだった。



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