戦いは始っていた。
状況は、ユーリの後を追っていた男が一人現れた事で好転するかに見えたが、統率の取れすぎた連中相手ではいくら一千万単位の賞金首に匹敵するハンターとは言え、20人相手にするには条件が悪すぎたらしい。
まず、ここが森だと言う事だ。
地形効果に惑わされるのは一千万の実力の持ち主に共通する部分らしく、現れた男も、七色の牙の名を持つユーリも攻撃が二、三撃当たっただけで後は擦りもしない。
それだけ、連中がこの地での戦闘に慣れていると言う事だ。自分たちの実力が、個々で適わない事を知っているからこそ、無茶な作戦も無謀な策もそこにはなく、ただ歯車で動く人形の様、そして動く早さは疾風の如く、彼ら二人を切り刻んでゆく。
そう、彼らだけなのだ。攻撃されているのは。
正確に言えば、自分たちを守ってくれているから、と、言っても良いだろう。その為、足手まといになっている自分たちに文句も言わず、二人は傷ついてゆくだけなのである。
完全な持久戦になる。自分も、クレアもそれは分かっているだろう。送り届けて貰うのが一番安全かと思ったが、彼女は自分の当てが今さらながら五分五分だった事に叱咤する様子だった。
そして、選ばなければならないのだろう。
二人の耐久力が上回る事が、あまりにも希望的観測だった故に。
「迅徹はさぁ・・・どっちが良い?」
「どうとも言えん。例え勝ったとしても、次はその二人を相手にしなきゃならないかもしれないからな」
「きゃー! ・・・・、でも、あんた一人加勢すれば形勢逆転するわよ」
「?」
たまに悲鳴を上げるなどしていれば、二人が怪しむことも無い、とでも考えているのだろうか。
迅徹自身としては、会話の突飛も無い所で叫ばれるのは正直好ましくないと思えたが、彼女の言った意味が分からず沈黙を行使し、得意げになって笑う彼女は言って見せた。
「あの二人さぁ・・・やっぱハンターだよ」
「何を当たり前の事を言っている。七色の牙と・・・もう一人は魔術師だろうな。名前まで思い当たらんが・・・」
「そんなの今はどうでも良いの。ねぇ、私たちとあの二人の戦い方の違いくらい、分かるっしょ?」
「・・・・」
こういう状況だからこそ、楽しもうとするのは彼女の悪い癖であり、同時に自分に対する教育でもあった。
様々な状況から生還する為、そして、迅徹自身を強くする為と銘打って、たまにこういう高みの見物を決め込める時は問いかけをするのだ。
もっとも、的を得た答えを出した事は今まで一度もない。が、今日だけは頭の回転も自分の望み通りになったらしい。
「正規の、殺しを請け負う様な輩ではない、と言う事か?」
「当たらずとも遠からず、だね。付け加えるなら?」
「一人残そうとして、変に実力が傾き掛けている。全力でやれば全員殺せない事もない」
「後は、私たちと言う守るべき対象が共に戦うべき対象になれば、だね」
「選択権が・・・・俺にあると思ったのだが」
冗談じみて言った所で、状況が変わる訳はない。
彼女が望むのならば、そうすれば良いだけ。
今迄何もしなかった自分が動けば少なくとも半数以上を自分一人で殺せるだろう。後の半数だけになれば、逃げられる前にハンターの二人で似るなり焼くなり好きに出来る。
だがやはり自分たちの状況が好転するかどうかまでは分からない。だから、だろう。
「しかし、やっても良いのか?」
「やりたいんならやっちゃって良いよ。なんか今日さ、調子でないんだ」
「そうか」
身体の調子が完全かどうかを確かめる為、拳を握り、足で地を踏みしめ空気を身体中で感じ取る。彼女は、様々な要因があって今ひとつ物事の先を見通す、と言うたいそうなものでもないのだが。それに近い予測が確実なモノにならないらしい。
先読みは迅徹自身にも出来るが、それは戦いの中だけの事であり、その他の事に対してはどうしても当てはめる事が出来ないのだ。彼女ならそれが出来る、が、今日はダメと言う事。それならば、なのだ。
動いた後の事態を、自分の望む方向に変えれば良いと、考え方を切り替えただけの話。
そちらの方が無論、頭で考え、実行する事の難度は高い筈なのだが、彼女にとってその方がやりやすい事らしい。ただし、それ故に常は使わない様にしているのだ。何がどう、卑怯なのかは分からないが、彼女自身の考えにまで口を出せる程、自分はエラクはない。
「どんな風に終わらせれば良い」
だから、彼女の望む方向へと事態を動かす為に、自分が駒になるだけ。
「全力で潰して。多分、真打ちはまだ出てないだろうから」
「分かった」
機械的な動きなど、自分に出来る筈もないが、全力を出すのなら出来る。
自分より強い者と戦う経験を持ち、多対一と言う不利な状況で生き抜いてきたのだから。
そしてオッドアイの輝きが木々の間に幻影を放った。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:BLUE COMPENSATION