手に入れた物品を渡した時、彼女の笑みはさらなる物にならなかった。
ガジェットと分かれた後、冷静になる為に一人で居たらしいが、流石と言った所か。いつもの顔に戻り、ぞんざいに扱いすぎだと言いたくなる程の乱暴な扱い方だ。最も、彼女から言わせれば、そんな簡単に壊れる様な代物であれば用は無いとの事。
道なき道を進む際、前を気がつくと歩いている事もあったが、後方を振り返ればくすんだ玉をしげしげと見詰めるのは、旅の土産でも貰った少女その物に見えるが、口を開けばそうとも言っていられない。
「何見てんのよ。前向いてないと転かすわよ」
「分かった・・・」
殺気まで飛ばして言う様な事かとも思うが、照れているのだと分かっている様子を表す訳にもいかず、無表情のまま前に向き直り歩くだけだ。
行き先を聞いて居なくとも、その内なにか言うのだろうと思ってただ歩くだけ。
幾年もやって、こうやって歩くのが最後になるのかもしれないと思うと少し寂しい気もするが、彼女ならば自分の目的が卒えた後であれ、自分につき合ってくれるだろう。
妙な所で義理堅く、けじめはキッチリしている方なのだ。
だからこそ、自分の本音を言う訳には行かないのだろう。
つき合ってくれなくとも良い。正直な所は居てくれた方が心強いが、自分よりも遥かに長く生きた彼女はあまりにも苦しみを受けすぎたのだ。
また、何かが始るまでの僅かな時間であれ、安寧の日々を過ごしてくれるのが自分は望ましいと考えている。
人間の中で暮らしたのなら迫害を受けるのかもしれない、そう言う心配をしなくてはならない程、彼女は歳を取らないが、魔族の何処かの集落に居ればそれも無いだろう。特に北東の魔族、四魔境の一つの「死の渓谷」に住む魔族であれば、そう言った心配もしなくて良いとも言える。
自分と同じ、いや、遥かに賞金額は上なのだが。天魔剣と言う二つ名を持つシュリ・レイナードと言う人物はどの魔族でさえ知っている様な大した人物らしく、信用を置くならば彼女だと言われているのだ。妙な噂、若い男を囲うのが好きだと言うのが本当であったとしても、彼女は曲がりなりにも女なのだから心配はない。
「・・・テツ、迅徹っ!!」
「あ? ・・・すまん、聞いていなかった」
「ったく、あんた最近ボーっとし過ぎじゃないの? ただでさえ今は素顔さらしてんだからしゃきっとしなさい」
「ああ。・・・・? 素顔だとどうしてしゃきっとしなきゃならないんだ?」
「頭もいいし顔も良い、人格はちょっとダメかもしんないけど男としてイイセン行ってんだから、もったい無いじゃないの」
「・・・・」
最も、彼女は彼女で自分の心配をしてくれている、の、だろう。どうもったいないのか。彼女の価値観に口出しする気もなく聞き流す結果になってしまうが。
そしてこれこそが、自分に取っての日常。
血の匂いも、人の視線も、狂気を満ち沸らせた空間も此処には存在しない。
だからこそ惜しいと感じる。
「これの後始末が終わったらさ、どっか違う大陸にでも行ってみない?」
「ガイア大陸以外にあるのならな」
「あ、その言い方、本気にしてないなぁ?」
「どうだかな」
決別を自分から言い出さなければならない時が近づいているからこそ。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:BLUE COMPENSATION