咆哮にも似たそれらは生への欲望と執着。声を出す事によって恐怖を打ち払い生きるか死ぬか、二者択一の選択肢を迫られる場所。

 それが戦場だと、静流は思っている。

 ただ、一度として咆哮じみた声をあげた事はない。そんな声をあげなくとも、恐怖など感じていないのだから意味が無いのだ。

 だからこうしてまた、幾人も迫り来る敵を斬り殺すだけ。

 断末魔が辺り一斉に響き渡るのは彼の剣撃が無駄のない動きかつ、極限まで高められた速さだから。

 相手の剣撃やその他の武器の攻撃を自分の剣で薙ぎ払うのではなく、利用する事により予備動作が少なく済むのだ。

 人はそれを、神業と称するのだろう。

 彼を知る者は、魔業と称したが。

 自分の足下の屍が幾分か増え、彼は辺り一面に視線をやる。

 まだ当分、戦争は終わりそうではなかった。




































アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:CYAN MASK





































「相変わらずお前は強いな。これはその礼だ」

 暗闇の中に僅かな光が灯るカウンターに座ったと同時に、静かな声でマスターが話しかけてくる。アルフェイザの街で唯一の知り合いであり、そして居られる場所。

 ここ以外には別段用事もなく、言い換えればここだけで街に居る時の用事は全て済むのだ。

 僅かな食事と、服装は戦場で傭兵とした稼いだ金で用意して貰っている。闘技場での彼の名と実力があれば、かなりの財源が確保出来ているのだが、その殆どはマスターに預け、何に使おうと彼に取ってはどうでも良い事。そして礼と称し出てきたのは一本のボトル。アルコール度数はかなり高かったと同時に値段もこの店一番だったと記憶している。

「・・・・・」

「で、故郷に帰ったんだろ。どうたったんだい」

 無言でボトルを受け取り、グラスへと注ぐ。それを一口飲むと、喉の奥に熱くなる少しの痛みと、下に残る、彼にとっては少々の不快感。だがそれを過ぎれば程良い酔いが回り、口を開く。

「どうもしない。ただ、行って、帰ってきただけだ」

「だがお前の剣技に耐えうる剣を持って帰ってきたんだ。収穫はあった様だな」

 それに対し、酒が入っている所為もあるのだろう。「母親の命と共にな」と、皮肉めいた口調で付け加えそうになるが、それを押しとどめグラスの残りを飲み干す。それと同時に、彼一人しか客の居ない店のドアが開いた。

「マスター、レイナード居るぅ〜?」

 足音と気配と、声でそれが誰か見なくとも静流には分かる。

 長年、と言う程ではないが、同じ傭兵仲間の一人。名前をマディン・ガロスと言う女性。

 傭兵らしからぬ、ひらひらとした安物のドレスは彼女が女を捨てていないと言う証。その中身は痩躯と言える程のモノだが、無駄のない筋肉だと言う事を彼は知っている。髪は長く、戦場では後ろで束ねているのだが、今日はそれを降ろし、彼女の女の部分を引き立てているのだが、いいかんせん手に持った鞘と剣はその格好には似合わないモノに映る事だろう。

「あ、居た居た。全く私を置いて先に行っちゃうとは良い度胸してんじゃないのよ。で、今日の賞金はいかほど?」

 カウンターへ、そして断りも無しに彼の隣りに座る人物は彼女以外居ない。それに対する答えは、無言でカウンターの上へと置く袋。鈍い金属音が複雑に絡み合い、中身が金貨だと言う事は誰でも分かる。

「はー・・・ホント良いよなー。私もこの位稼いで見たいよ」

「今日は何にする・・・?」

「いつものヤツと、今日はこっちも頼むよ」

 そう言い、マディンは自分の鞘から剣を抜き、マスターに手渡す。だが酷使し過ぎたのが目で分かる程その剣は刃こぼれし、相手が強敵だった事が伺える。

 彼女もまた、戦争が無い時は闘技場で戦うモノの一人なのだ。

 そして生きている、と言うのが強さの証。

「そう言えばさ。今日は折れなかったね、レイナードの剣。何処で買ったの?」

 ここ三年ほど、彼の剣撃に耐えうる剣は一本たりとも無かった筈。それは周知の事実であり、彼女も知っている事。

「拾った」

「拾ったぁ? 何処で」

「南」

「南ねぇ・・・。ま、レイナードなら死の渓谷でも生きてるって事? 魔族の作品な訳?」

「・・・さぁ、な」

「良いなー。私もそんな剣が欲しいよ。でも、レイナードの剣撃で折れないって事は、もしかしてそれがラグナロクだったりしてね」

 くすくすと笑い、剣を貸せと手でせがむマディン。あまり物事を聞かず、よく笑う女だと、静流は思った。

「なによこれ。よくこんなのナマクラで斬れたわねぇ。でも意外とこれが本物だったりしてね」

 ラグナロク。いつの世に創られたモノかも定かではないが、傭兵やハンターの剣術士には伝説として語り継がれる一本の剣。

 そして唯一分かっている事は、刃の無い、斬る為ではなく破壊する為に創られた武器と言う事。

 諸説は様々飛び交っているが、何かの魔力が籠められた魔力剣と言うのが今の所、最もらしい話しだ。

 だが所詮それらを確かめられる術は無い。

 二千年以上語り継がれているにも関わらず、それを見たと言う者は誰一人として居ないのだから。

「振ってみても良い?」

「好きにしろ」

 答える静流をまた笑うが、彼には何故彼女が笑っているのか皆目検討もつかない。そしてカウンターテーブルの上にあったその剣を持ち上げようとした時、彼女は眉を顰めた。

「・・・なにこの重さ」

「どうかしたか?」

「うわっ・・・それって皮肉?」

 歯をむき出し顔を顰めながら彼女は再度挑戦する。だが、一向に剣は持ち上がる事無く、カウンターテーブルにあった。

「ふぅむ・・・」

 話の種にでもなる、と考えたのだろうか。マスターは面白そうな顔をして漸く、彼女にいつもの量が少な目のランチと酒を出す。

「カウンターが軋まない所を見ると、魔力剣だなこれは。静流は持った時に重さを感じるか?」

「気にした事がない・・・」

「レイナードは鍛えすぎなのよっ。なまっちょろい身体してる割に馬鹿力なんだからさー・・・・ああっ! もう鬱陶しい!!」

 持ち上がらない事に嫌気が刺し、マディンは機嫌を損ねる様にして静流にそれを持てとまた命じる。だが静流が造作もなく持ち上げた事に更に機嫌が悪くなり、それを解消するようにランチに向かった。

「静流。ちょっと持ったまま見せてくれないか?」

 冷静に成り行きを見守っていたマスターだからこそ、どう対応すれば良いのかも分かるのだろう。言われるままに横へと傾け、マディンの髪にあたったが彼女は何の気無しにそれを払いのけ、その時重さを感じなかったのだろう。頭の上に疑問符が浮かんでいる様だった。

「別に魔力文字が刻まれている訳でも無さそうだな・・・。仕掛けは・・・お前が気にする訳もないか」

 苦笑し、それきり気にしないようにしているのだろう。調べればまだ色々と分かりそうな事があるならそうも言わないが、マスターとて武器を扱う事から自分の力量範囲で扱えるモノを知っているのだ。要するに、自分ではどうにもならないと言う事。それでも負けん気が本来強い為か。それは何処か説明口調だ。

「多分、魔力文字で強度を保ってるんじゃなくその剣その物が魔力石で、見た目から察するに純度は100%に限りなく近いと言っても良いだろうな。鑑定書付けて闇オークションででも売り払えば一生遊んで暮らせる額は固いだろうさ」

「え? そうなの? ねね、レイナード。それ売っちゃわない?」

「はははっ。マディン、コイツが売る訳無いだろ? 第一売らなくても、ここに居る三人の人生遊んで暮らせる金を、彼はもう持ってるさ」

「げ・・・そんな貯まってたの? じゃあさぁ、もう傭兵なんて止めて中央にでも住めば良いじゃないのよ。あっちは平和だし、のどかよ?」

「・・・・・興味がない」

「あんたならそう言うと思ったけどね・・・。聞いた私が馬鹿でした」

「はははははっ」

 マスターが笑い、マディンは何処か仕方なさそうに微笑むだけ。

 その中で唯一、色のない表情を浮かべる静流は居心地の悪さでも感じたのか。唐突に立ち上がり、剣を腰に戻す。

「ジェイス」

「なんだ?」

「この辺りで、次に戦争があるのは何処だ」

「・・・・多分、西南方向で、東方か中央の何処かとやり合うだろうな。戦況は」

「いや、良い」

「?」

「世話になった」

 それは僅かな心境の変化だったのだろう。

 マスター、ジェイスと言う男にだけ分かる、微妙なモノ。静流が出ていったドアを暫く見ながら、マディンが漏らした。

「はぁー・・・。これは、私フラれちゃったのかな?」

「まさか。アイツは気付いちゃ居ないよ。例えいつもよりも君が綺麗にしててもね」

 しばし視線が重なり、どちらとも無く笑いが零れる。

 だが、その双方の意味は違う。そしてジェイスから、年長者としてのアドバイス。

「アイツをモノにしたいんだったら自分の望みを直接言う事だ」

「でもさぁ・・・これでも恥ずかしかったのよ? 戦場よりもまだ胸がドキドキしてるわよ。全く鈍いんだから・・・」

「まぁ、仕方ないさ。だが、チャンスは後一度かもしれんな」

「何で?」

 彼女には、分からなかったのだろう。ジェイスが分かったのは付き合いの時間ではなく、幾人モノ傭兵を、戦士を、戦いに赴く者達を見てきたから。

 幾ら静流よりも年齢が上のマディンとて、そして男社会の中に単身で居るから分からないのかもしれない。

「アイツ、もうこの街には帰らんつもりだ。大方、光と闇の刀匠でも探しに行くんだろうさ」

「誰よそれ?」

「剣闘師<ハイ・ラウンドマスタ>が一人、三つ色の剣舞の黒刀身の刀を創ったとされる二人の刀匠さ。昨日アイツが漏らしてたんで調べてみたんだよ」

「へー、師匠の剣を・・・・」

「・・・師匠?」

「な、何でもないよ」

「そうかい?」

「じゃ、私も連れて行って貰いますか」

「無理矢理でも付いて行かないと置いてかれるぞ」

「ジェイス」

「?」

「世話になった」

「・・・・それは、静流のものまねかい?」

「そうよ。似てたかしら?」

「ゼンゼン」

「あっそ」

 自嘲気味の笑みを浮かべるマディンと対照的に、ジェイスは数年ぶりに心の中が複雑だった。

 彼女もまた、旅立ってしまう事は決まった事。なじみの居ない店が、また寂しくなるのだ。

 そして彼らだからこそ、言った事のない台詞を吐きながら新品の、自分の持っている最も強靱な武器を出した。

「これは貸してやるから、用事が済んだら帰って来いよ。お前達二人の取り分をまだ渡してないんだからな」

「任務了解致しましたっ。では、マディン・ガロス、出撃します」

 新たな剣を取り、敬礼ではなく投げキスで出ていったのは彼女の明るい性格故か。

 それが年齢のわりに色気を含んでいない事を姿が見えなくなってから苦笑し、ジェイスは誰も居ない店を片付け始める。

 そして彼はそんな事があった時間を知らない。









 戦場で、他の事を考える程余裕が無いと誰かは言った。

 だが彼の場合は、戦場で考える事は二つしかない。

 如何にして速く相手を殺すか。

 戦争は今、終わっているのか、それとも否か。

『此方側が・・・有利、か。もう少しかく乱するか』

 戦争での傭兵部隊の役目は、先行部隊として斬り込む事のみ。

 如何にして速く陣形を整え、相手よりも有利な場所を確保するのが第一なのだ。

 多少、兵士の数が少なくとも、陣形が取れれば対外の戦争は勝てる。

 もしこれが、西方や南方、そして中央の関わる戦争ならば間違いなく負けているだろうが、その強みは相手には無く、此方には僅かながらにそれがあった。

 俗世間では魔導や魔法、魔術と呼ばれる学問と術。それは力その物を目に見える物体に投影する事なく、直接伝える方法だと静流は学んだ。

 剣や斧、槍と言った武器ではなく、魔導は自然界に存在する力に酷似している。

 それ故、北方で育ったモノは魔導を殆ど目にする事はないだろう。

 地形か、大地の資質か、それとも別の理由があるのかは分からない。

 だが、北方で生まれたモノは先行的に魔導が扱えない事が多いのだ。

 そしてその変わりに、大陸一を誇れる肉体を生まれながらにして持っている。

 極寒の地で耐えうる肉体を持っていなければ、生まれて直ぐに死んでしまうのだ。

 そして静流もその内の一人であり、服に隠れてあまり目立たぬモノの、その中は極力無駄な筋肉を削ぎ落とした鋼だった。

 多少、他人と違うとすれば彼は力ではなく速さを重視する傭兵と言った所か。どんな攻撃であれ、広範囲に渡り威力を及ぼす魔導や重火器以外であれば避けられるのだ。

 闘技場で戦う新人は、基本的な動作である避ける事を忘れよく命を落とす。

 だからだろう。

 自分を育てた女魔族もまた、彼に避ける事から覚えさせた。

 その上で、たった10数年で彼はその避けると言う動作と攻撃と言う動作を合わせ使える様になったのだ。

 戦場ではまだ、彼と同じ技を使うモノは居ない。

 少なくともそれを感じられないのだ。

「あれ・・か」

 戦場に広がる屍の上を走り抜け、見渡す所に敵方の軍勢が見える。

 最も、敵であろうが味方であろうが、勝利をもたらせばどちらを殺そうと彼に躊躇いはない。

 それ故か。

 彼が居る方は、アルフェイザのある北方ではなく東方の国なのだ。

「なっ、異色の仮面!? 何故だ!!」

 一度立ち止まるのは相手がどの程度居るかを確認する為。

 そしていつもの如く、全く同じ陣形で傭兵部隊の第二班を送り込むのは北方の常套手段なのだ。だからそれを見越し、彼は第一派の傭兵部隊を迅速に倒す必要があった。

 それが成功したからこそ、彼はここに立っている。

 東方側の使い捨てとして。

 例え使い捨てとは言え、ほぼ一人で北方の屈強な傭兵部隊を殲滅したのだから。

「き、貴様は故郷を裏切るつもりかっ!!」

 一斉に襲いかかるそれは、見知った顔が多かった。

 怒りに我を忘れ、たった一人を攻撃して来る。

 様々な武器。

 様々な顔。

 だが、彼にとってそれは問題ではない。

「俺に故郷は無いし、傭兵の義も守っている」

 言い切った時には、既に第一陣の傭兵部隊は大地を赤く染める染料になっている。

 そしてそれと同じく、彼の身体も赤く染め上げていた。

「ひっ、怯むなっ!! 奴とて人間、これだけの数に体力が持つはずは無いっ!!」

 闘技場で何度と無く剣を交えた男が叫ぶ。

 ただの一度として負けた事は無かったが。

 第一陣とは違い、第二陣の傭兵部隊はそれよりも強い者達。

 我を忘れる事なく、連携と言う攻撃方法を知っている。

『槍・・・』

 素早く静流の周りを囲み、動きを止めてから他の傭兵達が静流の来た方向へと走り抜ける。

 たった一人の為に、全ての傭兵を足止めさせる訳には行かないのだ。

 だが、周り全てを槍に囲まれたと言え、彼は覚えている。

「ヤァァァッ!!」

『槍は突くだけで、斬るモノではない』

 己の技を鍛え上げ、生き抜く為に必要不可欠なモノ。

 それ故に、攻め方には癖があり、それを克服しなければ彼には勝てない。

「・・・・・ふんっ」

 一薙ぎ。

 たった一薙ぎで幾多もの槍を退けられる人間が居るのだろうか。

 否。

 それは彼らが忘れていただけの事。

 事実上、彼は、静流・レイナードと言う男は北方最強の傭兵。

 極限まで高めた速さを武器とし、相手の攻撃をそのまま自分の攻撃へと移し替える神業を持つ男。

 それ故に恐怖へと後退した時、彼らに生きる術などありはしない。

 そして瞬間。

 重なった断末魔が寒空の荒野に轟き、その中で立っていたモノは彼以外存在しない。

 武器を使う攻撃ならば、彼は倒せないのだ。

 そしてそのまま一呼吸してから、自分を追い抜いて行った敵を追う。

 その走る音こそ、戦場で培われた、異色の仮面であるもう一つの由来。

「くっ、くそっ!!」

 足音に振り返る名も知らぬ傭兵は、それを知らなかった輩らしい。

 そして頭の中には疑問符が浮かんで居ただろう。

 何故、赤く血に濡れた筈の体躯が、青く輝くのかと。

 その瞬間、男の首は跳ね飛び、断末魔さえあげる暇なく絶命する。

 それを続け、味方の陣営へと走る敵は全て殲滅し、来た場所は名も無き森の中腹。そしてまた敵陣の方向へと向き直る。

 だがそこに立っていたのは、見知らぬ男だった。

「あんた誰?」

 開口一番、男はそう言い、周りの屍と血に濡れる静流の身体に気付いたのか。顔を顰め言葉を続けた。

「まぁ、いいさ。あんたはどっち側だ?」

「・・・・・東だ」

 年齢は二十歳前後。だが、格好はこの森と何処か合った灰色のコートを纏い、それが静流には異質に映る。

 そして森には決して異質な匂いを感じ取った時、静流は自ら問うた。

「誰を殺して来た」

「・・・・・」

 迷い、か。それとも焦りか。

 どちらとも付かぬ表情をコートの男はし、僅かに指が動かしていた。

「技銃師<ガンマスター>・・・か。四人目、だな。これで」

「あんだと?」

 そして彼の言葉の後の動作が見えたからだろう。コートの中から取りだした、技銃師の特殊な武器。銃は咆哮をあげた。

『厄介だな・・・魔封弾か』

 初めて見る魔封弾と言う、一般には知られていない技術だったが、技銃師と言うハンターと戦うのは初めてではない。今まで三人の技銃師と戦い、無傷で勝利を収めていた。

 技銃師とは、中央ガ・ルーン皇国が新たに取り決めた職業であり銃と言う火薬を使った武器を使うモノの事。魔導系の資質が無くとも中距離の攻撃が出来る事から、剣技に限界を感じる剣術士<フェンサー>や技闘士<バトラー>がなる事が多い。それ故か。弱点もあり、魔導系の様な複雑な動きではなく直線的な攻撃しか無いのだ。

 静流の解釈した所、連続して早突きの出来る槍とさして代わりはしない。

 三度目まではそうだった。

 剣術士としても技闘士としても道を極められず、ありもしない逃げ道として技銃師と言う職種を選んだ者達だったから。

 だが、目前で銃を使った男はそうではないらしい。

 魔封弾と言う、攻撃系魔術を封じ込めた弾丸を放つのだ。そして何より厄介なのが、魔術士<ソーサラー>や魔法士<マジシャン>、魔導士<ウィザード>の様に呪文を使わなくともそれを放てると言う事。

 つまり、通常の武器や魔導系の様に予備動作が無いと言う事は自分と同じ技と考えて良いだろう。

「ハァッ!!」

 此方に向かう、炎系を纏う魔封弾を斬り落とし消失させる。

「嘘だろヲイ!!」

 相手方もそれには驚いた様子で、その隙を逃さず静流は直ぐさま追いつめる。

 が、それも見えていたのか。

 少々驚きもしたが、放たれた無数の魔封弾が彼を狙い向かい来る。

 その合計三発はそれぞれ氷系、雷系、水系と相乗効果を引き出せる組み合わせであり合成魔術とでも言うのだろうか。

 全く同じ速さで迫るそれは、向かいながら徐々に互いを合わせ四つ目の属性を生み出そうとしている。

 そして静流は一瞬迷った。

 逃げるべきだと言う事をではなく、自分の剣が耐えられるかどうかを。

『一度目は軋みもしなかったが、二度目は折れるかもしれない』

 それが三度目となれば、自分の負けだろう。

 それを僅か数瞬の間に判断し、手近にあった木の方へと目標を変え、乱撃を繰り出す。

 だがそれは計算し尽くされた乱撃であり、一撃とて無駄ではない。

 木々が倒れる動作さえ速くしながら後ろへと一度退いて行く。

『次は撃たれる前に攻撃しなければ・・・・此方の負けか』

 魔導系の呪文とは違い、呪文と言う動作が無い分魔封弾は速く連射も出来る。

 だが弾丸故に、限りがあるのだ。

 その限りを知り、相手の弾を撃ち尽くさせれば此方の勝ち。それを見間違えば此方の負け。

『シンプルで良いさ・・・行くぞ』

 殺気だけを飛ばし、相手が気配を追った瞬間に横へと飛び上がる。

 それは木々の幹を踏み台にし、相手の注意を払っていない右中空からの攻撃と言う手段。

 そして相手の身体が目前に迫った時、相手も気付いたのだろう。

 あえて殺気を放った場所への発砲ではなく、多分、それは勘によるモノ。

 静流の居る右へと銃口を向け、言った。

「俺が引き金を引くのが速いか、あんたの剣が速いかぐらいは分かるだろ? 引き分けって事で止めにしねぇか?」

 静流の刃が届く方が遅いのだろうが、相手も銃を撃った途端、胴体を真っ二つにされる事が分かっているのだ。

 だからあえて、死ではなく生の道を歩もうと言う、交渉。

「・・・そうだな」

 そして耳に届いた、彼方からの声で男の言っている意味がもう一つある事に気付く。

「退いた途端に後ろからばっさりなんて勘弁してくれよ?」

「どうせここでお前を殺した所で無駄な事は分かった」

「あん?」

「東側が今、負けた様だ。お前が頭を殺したんだろ?」

 剣を鞘に仕舞い、それを確認したが故に相手も銃を退かせる。

 そして、静流の言った意味が漸く分かった、と言うよりもこの場合は気付いた、であろうか。

 口を尖らせながら不満を漏らす。

「あんたも俺並みに耳が良いんだな。自前か?」

「魔導系など一切使えん。北の者の特性を知らないのか」

「東の人間じゃねぇのか? じゃ、故郷の奴らを殺してたのかよ。むごい事するぜ・・・」

「多勢に無勢で俺が勝ったんだ。文句はなかろう」

「まぁ、そうだろうけどな・・・」

 歯切れの悪い理由は静流には理解出来ない。他に言いたい真意があるのか、それとも只単に故郷を捨てると言う感覚が理解出来ないのか。

 ただ、今の静流に取っては故郷を捨てると言う事に口出しされない事が自分側の殺した者達と違い、逆に不思議に思えてしまうのかもしれない。

 だが、既に戦争は一端終わり、また別の場所で起こるまではこの辺りも平和になるのだろう。

 旅をするには良い幕切れだと頭の中で呟き、その場を離れようとする。

 だが、まだ何かあったらしい。

「そう言えば、あんた。名前は?」

 そう言った時、静流が立ち止まったのを確認したからではなく、どうやら自分の頭の中で少々の矛盾でもあったのか。勝手に話を進める。

「俺は帆村武士ってんだ」

「ホムラ・・・?」

 言葉の響きからして、東方の名だと言う事は分かる。

 名を告げない理由もなく、ただ答えるだけ。

「静流・レイナード」

 そしてそのまま闇へと帰し、彼は旅路を急いだ。

 戦争を利用し、遠出をしようと思えば彼にとっては自分側が負けようと勝とうとあまり関係は無いのだ。

 そして男が、帆村武士と名乗る男が誰と通じていようと関係の無い事。

 全てを捨て去ったのではなく、彼のモノはそこには無い。

 ただ、身に纏う服と、一本の剣以外は。
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