最初に向かう先は西を選んだのには理由があった。最も戦が盛んに行われている訳でもなく、かといって流通が滞っている訳では無い場所。それが西方と言う土地と聞いたのは何時だっただろうか。ただ、耳に残る一言があったのは確か。
「酒造りの上手い刀鍛冶が居てなぁ、あのお方の造るのは酒も武器も一級品ばかりさ」
それは魔物連中と暮らしていた時に聞いた言葉だった。その時静流は何にも興味を示さなかった故に、詳しい場所までは聞かなかったが、西と言う方向だけは聞いた覚えがある。そしてそれが西に向かう理由。どちらにしろ、彼に取って刀鍛冶の出来る知り合い等居る筈もなく、もしそれが目的の人物と違ったとしても、何か光と闇の刀匠の情報を仕入れられるのかもしれないのだ。そしてそう思ったが吉日。彼の足は何よりも速く西を目指し進み行く。
途中、四つの人外魔境が一つ、漆黒の山脈も通らなければならなくなるやもしれないが、それも彼に取ってはさして気にしないで良い事なのだろう。竜族、それもブラックドラゴンが群で生息していると言われる場所だろうが関係ないと言うのはまともなハンターや傭兵なら頭が何処かおかしいとしか言えない様な事。だが彼にとって竜族だろうが魔族だろうが、さして気にする程の事もないのだ。
彼が育ち生活する全てを学んだ場所である死の渓谷もまた、四つの人外魔境が一つなのだから。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:CYAN MASK