ある筈のない風を身体一杯に受け、自分の髪と、目の前に居る誰かのそれはたなびき、光を後ろにしているからだろう。

 その顔と全ては闇より、いや、空と言うべきか。

 蒼く染め上げられたローブに隠されていた。

 だが分かったのは、布の切れ間から見える目が何処か、落胆している様な印象。

「どうしてこう、ワシの弟子の知り合いは死にたがりが多いかね」

 そしてそんな言葉を吐き、自分に理由の分からない殺気をぶつけ、続けた言葉は明らかに不機嫌なモノだった。

「それに、ワシの安眠を邪魔する。揃いも揃ってワシに恨みでもあるのか?」

「い、・・・いえ・・そう言う、訳、では」

 だが怯え、身体が竦み、そして声が出なかった訳ではなかった。

 どこか懐かしい感覚に囚われ、狼狽えてしまったからだ。

 同時に信じられ無いとも、思った。

 誰かに似ているどころではなく、その身に纏う色は正反対であるが雰囲気はあの虚空その物なのだ。

 昔に見た、常に先を見て止まなかった自分と居た女性と。

 それでも違いがあるのは、別人だから。

「そんなに出たいのなら最初から入って来るでない・・・」

 そして、何らかの力なのだろう。

 時の中で動けなかった身体を、まるで大きな手で掴まれ放り出される様に光の中へと投げ込まれ、風、だろうか。

 時代すら動かしかねないそれに奪われる様、ローブの中から現れた人物の顔に見覚えは無い。

 だが、時の狭間からうつしよへと戻る瞬間に聞いたばかでかい声だけはハッキリと聞き取る事が出来る。

「ナイトメア・オブ・ワンサウンド!! 瞬きの時闇(またたきのときやみ)が貴様を倒す事を忘れるなっ!!!」

 そしてそれを聞いたからこそ、彼女は視線を光の中へと、そして夕焼けが広がり、荒廃仕切った大地を眼下を見下ろすだけ。

 最も、何の事だと問い返そうと思ったが全ては元に戻り、自分は元居た世界へと帰って来てしまったのだ。

 もう一度あそこに行きたいとも思わず、笑っている自分の顔は何故だろうか。

 だが、大地にその脚が着いた時、理由など分かっていた筈だと自答するだけ。

「よぉ、久しぶり」

 名も分からぬ人物の言葉を聞いていたのだろう、バツの悪そうな少年の顔が、そこにあったのだから。






































アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:DARKNESS VOICE





































 最も、この状況を簡潔に述べられるのならば誰か教えてくれと、胸中で呟いたのは仕方ないのかもしれない。

 広がる空が赤かったのは、間違いなくこの少年の仕業だとは分かる。

 地平線まで見える、場所は分からないが拓けすぎた大地の向こう側が、朱と蒼の対色を入り交じらせずにあるのだ。

 二色の絵の具を無造作にぶちまければ、丁度こんな感じになると、説明して貰った事はあったが、幾度と無く見ている筈のそれは未だに見慣れぬ風景だ。

 次に、周りにあった、既に原型を留めていない肉片も、世界の大地である部分を染め上げて居る一つの理由だろう。

 僅かに分かったのは、ある種族が好んで身につけていた形の装飾品が転がっていたから。

 神族と呼ばれる彼らは、既に滅んだ種族だと聞いていたがまだ生き残っていたらしい。

 ただ、その姿を見たモノが居ないにしろ、周り一面の死骸は説明が出来ない。

 何しろ、数万人分の死体なのだ。

 大きな集落どころか、小規模的な都市でもなければ住めない数。

 それが一同に会し、結果、彼に破れたと言った所か。

 だがそれを否定する材料は一つあった。

「何を、しているんだ?」

「いや、椅子に座って本読んでんだけど?」

「・・・・・」

 一歩も動かずに、敵を倒す方法が少年に可能な事は知っている。

 だが、これだけの数を相手に椅子に座ってやる程、少年は物好きではなし、むしろ戦いであるならば率先して、間違いなく立って戦う筈だ。

 終わったのか、と言う疑問もあったがそれを解決してくれたのがその否定材料の悲鳴。

 絶望する瞬間の断末魔と言うべきか。後ろを見た途端、肉体の形から肉片へと姿を変え、赤い血をぶちまけるモノと、その向こう側に見えたのは一人の、まるで使い物にならぬ様な巨大な剣を背負った女の姿だけ。

 そして彼女がやったのだと分かったのは上から下までが血でずぶ濡れだったから。

 最も、若すぎる、と言っても顔だけで言えば自分とさして変わらないのだが。

 二十歳前後に見えるその女性は仕方ないと言うか、不機嫌と言うか、そう言う顔をしてやがて此方にやってくる。

「紅〜、着替えない着替え」

「だから言っただろうが、返り血浴びない様にしろってよ」

「この数で? 冗談でしょ、そんなの紅にだって・・・・」

 言いたい事は直ぐに分かった。

 簡易のパイプ椅子、久しぶりに見たが。

 それに座っている少年の周りだけはきっちり血で汚れても居ないのだ。

 まるで空間その物が途切れた如く、流れて来る血でさえ消えてしまっている様子。

 何より、本来は死んで倒れただろう死体のどれもが、一部分をまるで鋭利な刃物、どころではない。

 切断したと言うより、分けたと言うべきか。

 まるでそこだけ時が止まった様に、血すらも流れずに切り取られた死体が幾つもあるのだ。

「俺は別にそこまで制限しとらんぞ。
 お空のあいつが逃げられないよーに、四方にどでかい結界を張ってるだけじゃん」

「・・・・じゃ、せめて着替えだけでも」

「・・・・目隠しでもしてろと?」

「別に紅なら良いわよ。上のおっさんだかじじいだけには見られたくないけど」

「・・・・・贅沢だお前」

 そんな事を不機嫌顔で言っても、その程度の事なら叶えてくれるのがこの少年。

 扱い方を心得ている、と思ったが、見覚えの無い女性故に、聞いてしまう。

「紅、」

「なに」

「12人目以降の、娘、か?」

 しかしそれに答えたのは少年ではなく、いつの間にか、いや、ゆっくりと水編みした後に髪を乾かして着替えた女だ。

 一瞬の間しか無かっただろうと誰もが思うのだろうが、今のこの空間で、少年に出来ない事は文字通り何も無い。

 もしその気になれば、周りの死体全てを生き返らせる事すら出来るのだ。

 だが帰ってきた答えに、睨め付けずには居られないのは事情を知っているからだろう。

「あ、違う違う。私はこのヒトのアイジン。二号さんです。ジュリア・イネスよ、宜しくね〜」

 そう言って、握手を求められ、きれいな、それこそ先ほどまで血塗れになっていたとは思えない程、華奢な手で、自分の無骨な手を握られる。

 しかし、視線はと言えば、少年に向かったままで、これ以上なく弁解を聞いて見たい。

 そんな事しか頭に浮かばなかった。

 その想いが届いたのかどうかは分からないが、渋い顔をした少年が漸く口を開く。

「何言っても言い訳だろうがな。貞操を奪われたんだよ」

「・・・・童貞が言う科白だそれは」

「言葉のアヤだ・・・。ゼロ相手に俺にどうしろと?」

 表情は、どうにかしてくれと懇願している様にも見えるが、反省だけはしている様子。

 最も、言葉の内容を信じられる筈も無いだろう。

 こんな場所と言うより、もはや別の異なる世界だ。

 絶対領域と言われるこんな不可解な場所を何の予備動作も無く思っただけで作れ、その上完璧に極めている輩がどうやれば襲われると言うのだろうか。

 しかし、便宜する様にジュリアが口を挟む。

「あ、私が襲ったのは本当だからね。けど、本当に襲えるとは思わなかったのよ、この力でね」

 同時に、一気に悪寒が走る程の力を感じ、一歩下がってしまうのは当たり前だろう。

 朝飯前と言う言葉があるが、寝起きするよりも自然に、世界全てを壊せる程の力を目の前で見せられたのだ。

 驚くのが当たり前であろうが、まだそれだけであれば耐えられた。

 見た事も感じた事もあったのだ。それくらいの力であれば。

 少年と日々と共にしていれば、割と日常的に見られたであろう。一時期など、一日一度はそんな力を放って居た頃すらある位だ。

 だからなのだろうが、別に力。世界をただ壊せるだけではないと言う事も十二分に分かる。

 言葉通り、そして自分には理解の出来ない、零(ぜろ)と呼ばれる種類の力。

 少年は、複雑な出生の事を省いたとしても生まれた時から持っていたらしく、本人が言うには先天的に持っているモノと、後天的に持っているモノが居ると言う。

 その上、少年の凄いと言うより、もはやどんな相手にでさえバケモノなどと言われる理由は、後天的に、つまりは鍛錬した上で身につけられる方法でさえ、零を手に入れたと言うのだ。

 並はずれた鍛錬でない事くらいは想像が出来る。

 最も、忘れていた等と寝ぼけた理由で先天的に持っていた力を仕えなかったと言う事自体が驚きだ。

「どっちにしろ、居場所ばれちまってんならアイツにどう謝ってもダメな事くらい分かってる。
 お前の問題でないだろうが」

「知らないぞ私は」

「男の身勝手かもしれんが、アイツに言ってた事に賭けるしかねーよ」

「にしてもさ、紅も21の私に負けたらダメだよ〜」

「にじゅういっさいっ!?」

 そして何より驚く事は、少年の周り、自分を含められるかどうかは一緒に居た当時でさえ分からなかったのだが。

 その強さに惹かれ、更なる強者が集まってくるのだ。

 神々の居た世界も居た。今となってはそれも伝承のみの存在で、完璧に抹消された、御伽話なのであろう。

 世界を文字通り操っていた者達も居た。これも同じく、いや、伝承にさえ残っていないだろう、今となっては絵空事。

 少年一人で出来なかった事が、そんな敵を目の前に徒党を組まれ、と言葉は悪いが。

 まるで子供の喧嘩友達の様な感覚で潰されて行く、真剣に悪事を働いていた者達は哀れにすら映るであろう。

 どちらにしろ、二十一で零の力を持っている事自体、それはそれで驚くべき事。

「く、紅・・・」

「ああ。新記録更新だぁなコイツは。フォルだって25で漸く覚醒したしよ。
 嫌になるぜ全く」

「それは此方の台詞だ・・・。どうしてこう、貴方は・・・」

 本人達にすれば自分たちは喧嘩友達なのだろうが、被害を被る周りに取っては堪ったモノではない。

 何せ指を動かすよりも簡単に世界を壊せるのだ。同時に造り替える何て芸当を持っていた奴も居るには居たが。

 そして自分と少年とで二人居た時の事ではなく、第三者の介入があって少年の性格に拍車がかかる事も覚えている。

 我が侭し放題、と言う訳でもないが、幾ら世界の如何なる混乱にも関わらないと言うルールを守っているとは言え、他者から見れば怖いモノは怖いのだ。

 命を常に握られ生活して行く等、慣れろと言う方が甚だ無理は話。

 そう言う意味で、少年は弱者を嫌っても居たが、特別な存在である事に変わりは無く、同時に当時思っていた事を思い出した。

 そんな場所で自分は、笑って居るしかなかった事を。

 何もかもが馬鹿馬鹿しくなってしまうのだ。

 無駄な努力とは言い過ぎかもしれないが、自分たちが一体どれだけ生きればそんな力を手に入れられるのか分かったモノではない。

 無論、少年とて、そして21と言う年齢のジュリアとて、その過去にあった事は通常のイキモノであるならば耐え難い時間だったろう。

 少年など一番特異的な例だが、生まれた瞬間に殺されているのだ。

 生きる事すら禁じられ、そして同時に、自ら死と言う制約にさえ見放され生き返り、その上で仲間を造り、全員に裏切られたのだ。

 そんな過去を自分は知っているから良いが、第三者からしてみれば知った事ではないのだろう。

 嘆かわしい事ではある。無論、そんなモノは理解し合える仲であるならば問題は無い事なのだが。

 世界はそんなに成長して居ないのだ。

「どっちにしろ、俺は別に関わっちゃ居ないし、これやったのもジュリアだ」

「なんかそれ、責任押しつけられた感じがする・・・」

「お前はまだこの世界の住人だと言いたかったんだよ。俺は初めっから戦争なんぞに巻き込まれても居ない」

「・・・ルドの事はどう申し開きするつもりだ」

「ルド・・? ああ、統一郎の事ね。あれも俺じゃねぇぞ。そう見える様にやっただけ」

「誰が」

「お前の兄。いや、姉ー、かな」

「そんな事は聞いて居ない。第一、妹が居る等と」

「そりゃ、お前がこっちに居る間に別の場所で造ったんだから当たり前だろうが」

「兄だか姉だか知らないが、そんなのが居るとも聞いて居ない」

「そりゃ、ねぼすけだからなアイツは。ま、あの味オンチもその内お前と出会うだろ」

「この世界の住人はその内何人だ」

「さぁ。あ、環とデッドブレイカー・ワンは関わってんぞ。多分、撫子も来るだろ」

「本当に三人だけだろうな」

「それだきゃ保証してやる。あ、関わるのは、だからな」

「・・・・・・・」

 少年は馬鹿にしているつもりなど無い。

 それだけは確かで、聞かれた事に、余程の事でなければ簡単に答えてくれる様な人物なのだ。

 その一方である事に関してだけは決して教えようとはしないが。

 何にせよ、想いの他、少年、ではなく、その周りの幾人かが動いている事は確か。

 望む事ならば、この世界の事柄にあまり関わって欲しくは無い。

 贅沢なのかもしれないが、子供の我が侭なのかもしれないが、この世界の住人だけで、成長させてやりたいのだ。

 例え滅ぶ結果が待っていてもではなく、そうならない可能性が動いてくれるから。

 信じているから、だろう。

 陳腐な言葉かもしれないが、それすらも忘れてしまったら、自分が生きた時間の一部を世界ごと失い兼ねないのだ。

「あのさー」

 だから、自分が帰ってきたのなら、そしてこの世界に住んでいるモノとしてそれに関わり、手助けをするだけ。

 結果を見て見れば絶対に、と言えるだろう。六帝を倒すよりも、民を成長させる事の方が遥かに難しいのだから。

「おーい」

 しかし、どれだけの時間が流れたのかが全く分からず、異世界にこの場所が「なっている」事で、ここが何処なのかも検討がつかない。

「ココは何処だ」

「遅いぞー。西の、何処だっけ?」

「さぁ。ガイア大陸である事に違いは無いけど・・・、って、私の話も聞いてよ」

「私が消えてどの位経つ」

「さぁね。けど、一ヶ月も経ってないんでない? 寝て起きたら位の感覚と思っとけ」

「私はもうそんなに睡眠を必要としないっ!」

「だからさー!!」

 どちらにしろ、大体の場所は分かり、自体が急速に進んでいても全て取り返しの着かない程ではないだろう。

 この少年の隣りに居ると、昔は安心感を感じたのだが、今、不安を感じるのは住んでいる世界が違うから。

 関わらないと言ったからには、彼は徹底的にするのだ。それこそ、会話くらいで戦う事など皆無だろう。

 間接的に関わる事であるならば、ルールを破らないと言う名目上、幾らでも引っかき回す性格はしているが。

 希望を捨てるにはまだ早いだろう。それに何より、あの妙な時の狂った空間で見た光景が気になるのだ。

 無事で居てくれるのならそれで良いが、あの状況からどう生き抜いたかが分からないのであれば結果がどうあれ同じ様なモノ。

「紅ー、この子私の話聞いてくんないよ」

「子、って言うのは変じゃねぇんか? コイツお前よかずっと年上だぞ」

「そう言えば、さっきも何か空のヒトに言われてたよね。あのきれいなヒト、だ〜れ?」

「そ、そんな怒るな。別にお前とみたいな関係じゃないってよ。昔の喧嘩友達の一人だ」

「けどさ、どっかで瞬きの時闇って聞いた事あるのよねー。何処だったかな・・・・、じゃっ、なくてっ!!」

 何より、皇都があの状態であるなら、早々に帰還した方が良いだろう。

 あまりにも心配過ぎ、情報が少なすぎるのだ。

「なら、私は行く」

「何処へ」

「皇都に決まっているだろう。生き残っているモノが居るなら・・・」

 だが、こういう状況で、巫山戯ている様に見えて、少年の頭の中は必ず考えているのだ。

 だからキライとも言えるだろう。何もかも、少年の手の内で躍っている様に思えるから。

「皇都なら無くなったぞ」

「なん・・・だと?」

「神帝だっけ? ラファエロ・ダ・デルクに吹っ飛ばされた」

「くそっ!!!」

 そして言葉も待たずにこの世界の果てへと駆け出そうとした時、怒号が聞こえ空気が震えた。

 しかし、少年でも、ジュリアの声でもないそれは、空の上から聞こえるモノ。

「だから言ったじゃない。天帝を止めとくの、もう面倒だって」

「言ってねぇよお前。無理矢理口挟む位の勢い付けてやらんとコイツは周りが見えないんだよ」

 そんな声を聞きながら、見あげた空に居たのはこれ以上なく憤怒の色に彩られた表情をしている天帝。

 だが、攻めてこない理由は自分の両隣に居る二人であろう。

 一人は子供にしか見えない姿をしていたとしても、天帝は疎か、ジハード全てが知っている筈の人物なのだ。

 魔族のある世代を、一撃で消し飛ばす実力の持ち主。

 この世界では、夕闇の殺戮者(デュスク・ジェノサイダー)と言う二つ名で通っている事だろう。

 そしてもう一人の女、言葉通り、21歳だと信じるか否かの問題ではなく、此方もまたかなりの実力者だろう。

 数万人の神族相手に返り血は確かに浴びていた様子だったが、キズ一つ負っていないのだ。

 例え自分であったとしても、そんな芸当は無理だろう。もはや住んでいる世界が違うと言った方が良い。

 何もかもが、例外過ぎるのだから。

「で、あれも私がやるの?」

「さーね。しーぐる、だったか? 今の名前」

「ああ」

 そしてこの二人が口で言っている通り、手を出さないと言う確信が無いからこそ天帝は、一切攻め来ない。

 同時に、この場所から離れる事すら出来ない事を、試しでもしたのだろう。分かっているから、動けもしない。

 そんな事はお構いなしな様子で、少年は淡々と告げるだけなのだが、

「あれ、お前が倒さないんならコイツがやるって言ってるけど、どうする?」

「・・・・・」

 その言葉の本心を見抜けと言う、意味深な視線は懐かしいのと同時に、緊張せざるを得ないだろう。

 ただ訪ねているだけでどうしろとは言っていない。

 遠回しに、やれと言っている様にも聞こえるが、文句を言える立場でもなし、少年に取ってこの世界は渦中に巻き込まれる程、面白くも無いのだろう。

 だから、戦わずに、遊んでいるだけ。

 まるで子供の我が侭だと、昔思った事がある。

 今もそれは変わらぬ事実であろうし、少年自身が変えようともしないだろう。

 だが、言い換えればそんな大雑把な、時として不可能になる事柄であれ少年はやって退けられるだけの力があるのだ。

 何より、元から誰かに譲る気も無い事も、お見通しなのだろう。

「捜し物は・・・・見付かったのですか」

 何もかも見えているからこそ、少年は常に勝ち続けられる。

 負ける姿を見た事は一度もなく、どうやれば勝てるのか等、全く想像出来ない。

 昔、自分が最後まで見届けられなかった結果が知りたくて、半ば不可解な疑問をぶつけて見る。

 それだけが、少年の知り得なかった事なのだ。

 何処まで強くなったとしても、それだけは見通せなかったらしい。

「アレ、なぁ・・・。それがよぉ」

 そして渋い顔をした答えは、意図も簡単に予想を裏切ってくれる。

「見付かったんだよぢつは」

「え? 何? なんの話し?」

「ま、お前にも事が終わったら教えてやるって。ラセンっ」

「!!」

 その上、だ。

 わざわざ、昔の名で自分を呼び、何もない中空から投げやられたモノは一本の剣。

 それが何なのかは分からないし、疑問にもならなかった。

 久しぶりに、呼ばれたのだ。

 自分と、少年が共に居た時の名を。

「それよ、ここに落ちてたんでな。お前に似合いの剣だろ?」

 そして自分の、困惑する表情が楽しいのか。

 笑顔のままで自分の瞳を見つめるのだが、その次にする表情も予測出来たのに心構えが出来なかったのは、忘れていたから。

「少しはそれで上の奴倒して、知れ。一体何が始まりだったのかをな」

 何ら、雰囲気を変えぬまま、彼の瞳の色が確かに変わる。

 真剣な時だけ、揺らめく様に輝くその瞳を、綺麗だと言うモノはそこいら中に居るだろう。

 だが恐らく、その奥にある感情を見抜けるモノは少ない。

 表情は真剣で何処か怒っている様にも見えるのだが、要は心配なのだ。

 一番難しい道を選ばせ、それだけ嗾けながら身勝手な想いにもなってしまうそれは、少年の他者に対する唯一の我が侭なのかもしれない。

 強制する事で本人が気付かぬ内に変えてしまう様な方法、手段を持っていたとしても、決して使おうとしないのだ。

 自分を強くする事で見えた適わない事は、他者の成長。

 見守っているしかないもどかしさはまだ、慣れていないのだろう。

 それはまだ、最前線に居ると言う証。

「あんたはまだ、・・・健在なんだな」

「当たり前だ。誰が負けるかよ」

「フォル様はどうなされたのです?」

「ああ、ココに来る途中で凍り付けにしてやった。もう少しでやり合えるんだろうがな」

 懐かしさだった。

 言いしれぬ、哀しみなのかもしれない。

 だが笑っていられる場所があるのなら、それを失う事など必要ない。

 抗えば良いのだ。脅かす存在に対し。

 それ故、自分の周りの世界が変えられる事実を教えてくれた、少年がそこに居るのなら、迷う事など、無いだろう。

「もう少し、私はこの世界に居ます」

 親心を知っているからこそ、言えた言葉だ。

 少年の、純粋に笑う顔があって、満足し得た、答えを出せた。

 だから振り向きざまに、手に持ったそれで空を切り裂く様、天帝ごと斬り捨ててしまう。

「あ〜、勿体ない。どうせなら楽しんでやりゃ良かったのに」

「紛い物の奴なら一振りで十分なんだよ」

 背中に聞こえる二種類の言葉を聞きながら、手の中にあり、そして消え行かんとする剣を見る。

 同時に記憶の断片に刻み込まれる事実は幾重にも折り重ねられた、過去から今に至るまでの様々な光景だったろう。

 虚空が何故、戦っていたのか。

 六帝の目的が一体何であるのか。

 何処から何が始まり、そして終わりはどうなるのか。

 限りない、一瞬の中に垣間見えた今に至るまでの永遠は、自分の知らない事ばかりだったろう。

 そして剣が消えると同時に見えた、最初の時は、今居る、この場所と同じ、そして違う戦場。

 一つの村が、焼け落ち、無くなった瞬間であろうそこで、若かりし日の三人の女が生き残る。

 一人は虚空。復讐に心狩られた、鬼神の様な顔で空に向かい吼えている、その姿はもはや少女ではないだろう。

 一人は、見覚えのある女性。生きているとは思えない、四肢を焼かれ、両目を血溜まりで染め上げてもまだ息がある彼女は泣いている様にも見える。

 そして最後の一人は、誰かも分からぬ女だった。

 手に持った、一振りの剣で村を焼き払った人物なのか。狂いし表情に落ちた陰りは間違いなく哀しみを含んでいる。

 そして、それが始まりの瞬間なのだと分かった時、手の中の剣の感触は消え、空へと帰って行く。

 同時に、まるで夢から醒める瞬間の如く、辺り一面にあった死屍の朱が剣に誘われ、光となり舞い上がる光景を目に焼き付けながら、後は言うだけ。

「では、私は行きます」

 振り返りもせずに、言葉を述べたのは甘えてしまいそうになったから。

 それを分かっているのだろう。歩き出した自分に懸けられた言葉は、いつもの調子の少年のモノ。

「泣く暇があったら終わらせて見ろよ! お前にその力がないとは言わせねぇぞ!!」

 最も、身勝手で、利己的で、我が侭で、そして何よりも厳しいそれは自分に取って刻み込めるだけの想いがつまった優しさなのだろう。

 立場も違え、生まれも、生きてきた道も離れてしまってもう元に戻れないのかも知れない未来。

 少年との出逢いから、別れの時まで、自分は一人、満足する事だけを追い求めていた。

 だから今度はそれを一人でやり遂げる為に、少年の元には返らない道を再び選んだ。

 それ故に、悔しいのだろう。自分が無力な子供の我が侭の様で。

 涙も流れぬ表情は凍り付き、彼女の頭の中に聞こえる声は闇に撒かれ何処までも澄んで行く。

 そして持っていた、この世界の戦友に作って貰った剣で空をもう一度斬り、動き出した時代を見届け、変えられるべき場所を変える為にただ走るだけ。

 滅んでしまったのならば、作り直せば良い。

 隣人が死んだのならば、哀しみの涙を流した後は、立ち直るしかない。

 皇都が無くなっても、生き残った者達が居るのならば、自分の出来る事をするしかないのだ。

 だから、想い出のあるその場所へと彼女は急いだ。

 自分の無力さと、拭いきれない不安を抱きながら。

[ACT SELECTION]