何処までも風は静まりかえっている。

 街の灯火は全て消え失せたかに見えるが、夜になると騒ぎ出す一部以外は暗闇に包まれ安眠の夜を送っている事だろう。

 一体何人が、それを目に出来るだろうか。

 数少ない目撃者ではなく、自分が加担者だと言う事は分かってはいる。

 だが納得出来ない部分と、それでこそ自分の人生なのかもしれないと言う、一抹の諦めは拭いきれず、気に入らない匂いをその身に纏った人物と、民家の屋根の上で対峙しているだけ。

「流石は一閃の雷光・・・。まともに立ち会うのが限界だ」

 距離にして家が三つ分ほど離れた所に居るそれは呟き、黒く、まるで闇を纏う様にして隠している布の奥で笑った様だった。

 持っている武器は、二刀のナイフ。

 月夜でも、星空輝く快晴でもない今は、淀む色をその刀身に宿している事から、毒でも塗ってあるのだろうか。

「名ぐらい聞いてやろう。それなら差し支えなど無い筈だ」

 相手の隙は、驚く程無い。

 闘いにくい相手だとは想わないが全力を出して闘えば被害が出るのも必至。

 それを分かって手を出してきたらしく、守るべきモノが手の届く届かない関係なく、辺り一面にある場所と言うのがどれだけやりにくい場所だと再確認した所だ。

「残念だができたてなんでよ、名乗る名前も持ち合わせてねぇ」

「できたて・・・。人形の割に口が悪いな」

「けどあんたの知り合いにも一人居るんじゃねぇのか?
 血で出来た口の悪いお人形が」

「・・・・・」

 しゃれの効いた発言に、売り言葉に買い言葉と言った具合に侮蔑して見せたのは、良かったのか悪かったのか分からない。

 何せ心当たりがあったのだ。それも自分の過去であり認めたくない現実の一つ。

 第一、出来る訳がないと言うのが、見解だった筈だ。

 そこまでの、言い方は悪いが材料になる様な猛者はもう何処にも居ない筈。

 そして何もかもが推測に過ぎない事で、まるで現実を打ち砕く様に、事実だけは告げられる。

「とかく今日はお目見えだけで勘弁してやるよ。
 あんたにはもっと地獄を見て貰うって言うのがご主人様のお望みだ」

 去り際の科白と、踵を返した時に布が捲れ見えた素顔は見覚えのあるモノ。

 違うのは髪と瞳の色だろう。

 それ以外は、昔のままの顔がそこにあったのだ。

「ちっ・・・・。いつまでも縛られなければならないのか、私は」

 闇を更に彩るだけだった、灰色の雲が僅かに出てきた風に薙がされ見えた空は、嫌と言う程晴れ渡り散りばめられた星をよりいっそう輝かす。

 時代は何処までも、自分の敵で居るらしい。

 古の過去、ある人物が言った言葉。

「ラグナロクは負けはしない、か。タチの悪い冗談だ」

 この大陸に四つ存在すると言う人外魔境。

 古の瞬きと言う、戦争の名残であるそれはたった一本の武器が造り出した場所なのだ。

 いや、人物と言うべきだろう。

 昔居た、自分を含む六人の仲間の内の一人。

 それが、ラグナロクと言う、剣器であり、女性なのだ。

 六帝の内、自分たちの側に唯一着いた魔帝が創りだし、残り五人のジハードを殺すに十分役立った、うつわ。

 ただその材料が何であるか知っている為、いや、悟ったと言うべきだろう。

 嫌いだった女でもあるのだ。

 自分が殺し、貪り喰らった女性の、血で出来ているのだから。






































アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:DARKNESS VOICE





































 どうしようかと、正直迷った。

 あまりにも事が早く進みすぎている為、躊躇いが思考を支配すれば間違いなく失敗するだろう。

 顔も、姿形も分からない相手なれど、助けるとフリーテスと約束したのだ。例え口約束であっても、違える気は無い。

 ただ、自分が此処を離れる時、誰かがこの街を守らなければならない。

 同時に、自分と同じレベルで戦えるモノなど、限られているのだ。

 そして頼める人物など、今は一人しか居ない。

 それ故に今、リーゼの家の前に居るのだが、ノックしてから手土産も無しに来たのは悪いと今更ながらに後悔していた。

「れ、レイド様?」

「遅くにすまん、ルシエドは居るか」

「ルシエド様なら、もう寝てしまわれたんですが・・・。
 あ、立ち話もなんです。汚い所ですがどうぞ」

「すまん」

 質素な、それこそ他の民家よりも見劣ってさえ居る家だったが、中に案内されそれが間違いだと気付く。

 彼女らしい、と言えるだろう。

 調度品は暖かみを讃え、生活感を醸し出しているのだが、全く嫌味が無いのだ。

 城で宛われた一室とは大違い。

 何より、部屋を見るだけで幸せな家庭なのだと分かる部分が気に入った。

「リーゼ・・・お客さまかい?」

 そして多分、寝室であろう場所から小声で囁きながら出てきたのは、おおよそ声と似つかわしくない大男。

 身体の幅など、自分の倍はあろうかと言う肉体だが、決して太っている訳ではなく、鍛えられたモノだ。

 しかし戦いを生業にするには、少々物足りない気がするのは大男の職種によるモノだろう。何か、甘い、と言う程ではないが、香ばしい匂いが身体に染みついているのだけは分かった。

「レイド様、紹介します。私の夫のキーノです」

「始めまして、レイド様、で宜しいんですよね」

「ああ。夜分遅くにすまない」

「いえいえ、妻の友人であるなら、何時でも歓迎しますよ」

 その上、この態度だけは、正直驚いた。

 どんな場所であれ、自分の肩書きを知って驚くモノばかりであるにも関わらず、まるで接客と言うより、何処か馴染みの客を相手にしている様な普通の態度で喋ってくれるのだ。

 確かに、こういう男でなければリーゼの旦那にはなれないのかもしれないと想い、少し笑ってしまう。

「友人、か」

「あなた・・・、友人だなん、そんな、レイド様に失礼じゃない」

「いや、いいんだ。こんな私で良ければ、友人になって欲しい」

 そして、自分の口からすんなりと出てくる言葉は、自分自身も嬉しかった。

 リーゼの顔は、驚きすぎて言葉が出ないと、言う所なのだろうが、余程嬉しかったのだろう。

 ここまで好意をぶつけられた事など何千年ぶりで、それを素直に受け入れられる自分は、いったい何処くらい昔に遡れば言いのかさえ分からない。

「あ、え、っと・・・。ルシエド様はもう少しだけ寝かせてあげててください。
 今、お茶でもお持ちしますので」

「いや、僕がやるよ。レイド様、狭いかもしれないですがくつろいで下さい」

 これが、家庭。

 他に、言葉など必要もない場所。

 ただ、側に居られるだけで幸せ。

 少々、自分の仕事を取り上げられたと言うか、先を越されたと言うか。

 台所であろう奥へと姿を消したキーノの後ろ姿を恨めしそうに見ているリーゼの顔は、城で見せた物とは違う、女である事を誇りに思っている顔。

 多少、今はふくれっ面になっているが、年齢を感じさせない、まるで少女の様だとも想う。

「返事を、聞かせてくれるか?」

「え・・・・? あ、えっと・・・」

 そして、これはからかい。

 リーゼはまだ何処かで、自分を上だと見ているのだろう。

 キーノは、それを分かって、二人にしてくれたのだ。

 慣れているのではなく、気にしない。

 ただ、妻の知り合いであるから。

 それだけで信頼出来る関係は、羨ましいと言えた。

「もちろん、私で宜しければ」

 そして微笑むリーゼの顔は、キーノでなくとも惚れるのに十分だったろう。

「普通に喋ってくれれば良い。フリーテスの奴と喋っている時みたいにな」

「あれ、は・・・・あははは」

 リーゼと向かい逢う様にしてリビングの椅子に座らされ、キーノの持って来るのだろう、お茶を待っているリーゼ。

 しかし、あまり時間に余裕がある訳でもない。

 切り出すには、あまりにこの空間は満ちていただろう。

 それを崩すのが痛く感じられ、もしかしたら、顔が引きつっていたのかもしれない。

「レイド、様?」

「すまない。少し、な」

 言い換えるならば、緊張した面もちと言った所。

 それすらも察する所は、彼女の手腕だ。

 だが忘れた頃にやってくるのが、この家にはもう一人居た事を思い知らされる。

「レイド・・・」

「る、ルシエド様・・・起きてらっしゃったんですか」

「そりゃ、上でどんぱちやってりゃね・・・。寝てたかったけどさ」

 恨めしそうな顔で此方を睨め上げているが、冗談だと分かる低い場所から来る視線。

 寝間着姿は、事の他似合っているのだろうが、表情に諦めと憂いと、躊躇いだろうか。

 ここに居れば、離れたく無い理由も分からないではなかった。

「何かあったんだよね。説明してくんない?」

「そのつもりだ。要約すれば、お姫様がさらわれたらしい」

「!!」

 それを聞き声をあげたかったのだろうが、リーゼの口は何時の間に後ろに回り込んだのか分からない、ルシエドの両手によって防がれている。

「アイカが起きちゃうじゃんもー」

「す、すみません・・・」

「で、私に皇都防衛を強化して欲しいってんでしょ?」

 しかしからかう様な口調と、子供にしか見えない体躯と表情で言った時のルシエドは、多分リーゼには別人にでも思えたのだろう。

 自分にしてみればこれが彼女だと言えるのだろうが、よほど子供らしい子供で居たらしい。

「リーゼ、あんた私の事ただの子供に見てたでしょ」

「そ、れ、は・・・・そうですけど」

「失礼しちゃうよ、これでもルドよか年上なんだよ?」

「説得力の欠片も無い姿でリーゼを困らせるな」

「・・・・・・・・・・・へぇー」

 ただ、今、表情に浮かべているのは間違いなく昔のままの彼女だ。

 六帝との戦いでその本来の姿を封じられ、幼少時代へとなる前。

 彼女は自分と同じくらいの体格で、それこそ、五人の中では一番明るかったろう。

 その分、好戦的で毎回ルドを困らせていた気もするが、実力は十分あり、自分に次いで強かったのは確か。

 だが優しさ故か。ラグナロク以外にもう一人居た、男を守る為に今の姿へと変えられてしまったのだ。

 犠牲だとは想っていなかった様子で、それが全ての終わりを告げる、戦いだった。

「ホント、明るくなったんじゃんレイド。
 うん、昔は荒んでたよねぇ、お姉さんは嬉しいよ」

「お前より、私の方が年上だった筈だがな」

「あれ? そうだっけ? レイドが一番上だったっけ・・・・???」

 その時、彼女はあまりショックではなかったらしいが、一人打ちひしがれていた時の事は覚えている。

 時空遡法(じくうるほう)と呼ばれるその呪いは、記憶以外の全て、経験すらも巻き戻してしまうのだ。

 余程の、残していたい力があったのだろう。一言も喋らなかった彼女を慰めていたのはその男だけだった。

 昔の自分は、それを見ても何とも想わなかった。

 あえて言うなれば、無駄な事をした、無くなったら取り戻せば良い、と言うべきか。

 しかし、何も言ってはやれなかったのだ。

 凍てついた心のままで、何も感じなくなっていた、一番の時期かもしれないから。

「ラナちゃんが一番下でしょ、次がルドで、夢幻(むげん)でぇ・・・・
 あ、確かにレイドの方が年上だわ。百年ほど歳、余分に食ってんだもんね」

「る、ルシエド様・・・幾ら何でも言い過ぎなんじゃ」

「構わんさ。あてつけだろう? この間の」

「分かる? んじゃ、ちゃんと言おうね。ごめんなさいは?」

「この間はすまん。これで良いか?」

 だから今は、多少、巫山戯ているのかもしれないがそれでも言えるのだ。

 無論、それが謝る態度でないのは分かっているのだが、少々苛ついていたのも事実。

 アイカの様な子供に「おばさん」と言われてもそうなのだと納得出来るが、ルシエドに言われる程、歳が離れている訳でもない。

 人間の感覚で百年と言うのは大層長く感じられるそうだが、自分やルシエドに取っては人で言う10年くらいの感覚なのだ。

「ま、許してあげる。で、上でやりあってたの、何者?」

 気が済んだのか。

 いつまでリーゼの肩にぶら下がっているのか知った事ではなかったが、そこに居られると困るらしい。

 第一、真剣になった時の彼女の肌は、恐ろしい程冷たい。

 だから自分から降り、元居た椅子に座った時に彼女はそう言ったのだ。

「自分で、ラグナロクだと名乗った・・・いや、名乗っては居ない、か」

「サイアク・・・・」

「え?」

 そして自体の深刻さを、一番理解出来るのはそれを見てきたモノだけ。

 リーゼには悪いが、信じられないだろう。ラグナロクと言う存在がどれほど危険なモノかを。

「ラグナロクって、あのラグナロクなんですか」

「ちょっと訂正すれば、四魔境作ったラグナロクでないのは確かだよ。
 ラナちゃんは絶対レイドとやり合わないし。誰が造ったか分かる?」

「確証は無い、が・・・・多分、天帝だろう」

「共同戦線張ってそうな奴でなくて助かる、と言うべき?」

「何とも言えんさ。神帝も、人帝も、何処に居るのかすら分からんのではな」

「う〜ん・・・」

 彼女たちが知っている、ラグナロクと自分たちの知っているラグナロクの違いは一つ。

 何らかの被害を被って、あの四魔境が出来た訳ではないと言う事だ。

 そもそも、四魔境の存在意義は六帝と戦う為に造られたと言う由縁など知りもしないだろう。

 苦肉の策、だった筈。

 昔の自分はさっさとやれ、と言った上で、今もそう後悔していない。

 だがルシエドや、ルド、もう一人の夢幻と言う男、それと何よりラグナロク自身が躊躇ったのだ。

 だから現在、四魔境の一つと云われる漆黒の山脈と言われている場所を造り、鏡の斜面と言う場所を見せしめに造ってやった事で、ラグナロクは四魔境を造った。

 伝えられている死の渓谷、灼熱の砂塵、魔の海域、漆黒の山脈の四つは、本来の四つではない。

「ラグナロクって、そんな簡単に」

「作れないよ・・・・」

 リーゼの問いにそれ以上説明しないルシエドは、明らかに此方の顔色をうかがっている。

 もう、終わった事、とは言えないにしろ、事実は事実なのだ。

 そして彼女にも知る権利があるだろう。これから関わってゆく、当事者に成りかねないのだから。

「ある人物の血で、ラグナロクは出来たモノだ。
 二つ名を緋色の瞬光と言う、人物のな」

「す・・・みません」

 しかし、そこまで知っていると言う事は、間違いなくルシエドが教えたと言う事。

 少々睨んで、素知らぬ顔をする少女は憎たらしくも思えたが、リーゼの顔は真っ青になる程、落ち込むに足る言葉だったらしい。

「気にするな。私が乗り越えなえればならない壁だ。お前が気に病む事じゃない」

「そーダヨ? レイドはそーゆー所、本来丈夫なんだし。
 これからは助ける側に廻らないとねー」

「本当に、申し訳ありません・・・」

 多少なりと、笑えるだけは回復したらしいが、見計らった様に出てきた茶請けを持って出てきたキーノの顔を見て、また落ち込んでしまう。

 しかし、流石は旦那と言った所か。

「リーゼ、レイドさんもこう言ってる事だし、気にする方が悪いってもんだ」

「そーそー。おっちゃんやっぱ凄いね。分かってるよ」

「けどルシも、もう少し口を慎んだ方が良いんじゃないかな?
 誰だって弱い部分は持ってるんだろうし」

「・・・・・ウィス」

 ルシエドまで手なずけて居る様子で、お茶を配る手さばきもなめらかなモノだ。

 何より、一切緊張していない、そして間違いなく話を聞いていたにも関わらず、畑違い、と言う所だろう。

 自分に出来る事をやっているのだ。

 妻は妻の出来る事を。

 自分は自分の出来る事を。

 こういった夫婦関係など理想だとばかり想っていたが、こんな所に当たり前にあったらしい。

「キーノ、で、良いか?」

「じゃあレイド、で良いですか?」

「ああ」

「僕もそれで良いですよ」

 強さの面で。

 いや、違う。

 何と云えば良いのかは分からないが、それも強さの一面なのは確か。

 その部分で、ここまで勝てないと想ったのは二人目。

 それが嬉しくて、自分は笑っていた。

 受け渡された茶を口に含み、すんなりと喉を通るそれは、ほどよい暖かさを感じさせる。

 そしてもう一つ。

「これと一緒に飲んでください」

 受け渡されたのは、パン。

 一切れではなく、一口サイズと言う所がみそなのだろう。

 だから分かる。

「普通、それを前に出すべきではないのか?」

「アイカから好き嫌いの激しい人だと聞いていましたから」

 彼から漂ってきていた匂いは、パンの匂いだったのだ。

 手に幾つも火傷の後がある所を見れば、若い頃はよほど熱心に撃ち込んでいただろう。

 一介のパン屋にしか、見えない筈の男。

 だが違うのは、己自身と、世界を肌で感じ取れるまでになっていると言う事。

「今度、食べられる様になったらご馳走してくれ」

「もちろん。けどその時は、御代は頂きますよ」

 それを聞いた途端、大口を開けて笑い出してしまったのは、失敗だったろう。

 後ろから今度はリーゼが何処か緊張しているモノの、何故か赤い顔で口を塞いできている。

「さ、流石に大声は勘弁してくれないですか・・・」

 そしてそのひとときの時間は、間違いなく、自分も含まれた、幸せと感じられる時。

 一杯の茶と、一つだけのパン。それだけを腹に納め、リーゼ宅を出た後着いてきたルシエドは相変わらず笑ったままだった。

「にしてもさ、レイドがあんな笑えるなんて知らなかったよ」

「酷い云われようだな。冷血ではないぞ、私は」

「昔はそうだったでしょ〜?」

「違いない」

 一言一言でこんなにも笑顔がこぼれ落ちるのは、こんなにも気分が良いモノだったとは想わなかった故の、困惑はある。

 だがそれすらも楽しく感じられる時間。

 ただ、それはいつか終わりを告げるのが、世界。

「ルシエド」

「な〜に?」

 真剣な顔をして、彼女の双眸を見やるが、そこにあったのは相変わらずの笑った瞳。

 しかし色が変わるのにそう時間は掛からなかったろう。

 彼女もまた、自分と同じ時間を過ごした、強者。

「リーゼには言えなかっ・・・」

「街は守るよ」

「・・・・」

「だって、レイドと、シュレート、タハルが造って
 リーゼとホアンとリスキィや、歴代の魔環師が守って
 飛双(フェイシュアン)がもっと良い街にする為に発展させる場所だもん」

 何より、ここまで自分を見透かせるのは、彼女しか居ない。

 ルドでは頼りなく、もう一人の男ではあまりにも、豪儀過ぎるのだ。

 彼女ではなくては出来ない事。

 自分には真似できない、する必要も無い、守ると云う事。

「あ、ちなみにフェイって言うのは、フェルト、お姫様の名前だかんね」

「覚えて置こう」

 彼女が盾になってくれるのならば、自分は何処までも鋭く尖った、剣なのだ。

 背負い、伴ってゆくだけの罪の種類が違う。

 もしかしたら、同じ気持ちなのかもしれない。

 自分は守れない事を想い、守れる彼女を羨む。

 彼女は攻する側に廻りきれず、ただそれだけの為に居る自分の事を羨む。

 だが、それで良い。

「ね、レイド」

「なんだ?」

 血にまみれすぎた手が、今更汚れた所で、自分は構わない。

 傷つき、例え倒れたとしても、それでも立ち上がる強さを手に入れられたのだ。

 悪鬼と。

 羅刹と。

 冷たい血の流れる人形だと蔑まれようとも、構わない。

「ラナちゃんとも仲良くしてよね。気にしてんだからあれで」

「そうだな」

 そして想う、もう一人の、仲間。

 何処で何を、しているのだろうか。

 巫山戯た女と言うのが、第一印象で、何処までも変わらないだろう。

 悲しむ顔は、一度しか見た事がない。

 殺戮の為に造られし、人形。

「じゃあ、頼む」

「まかせとけっ」

 胸を叩いてふんぞり返る少女のそれは、昔とは違う、今の姿。

 何もかもが、あるがままに見える様になった自分。

 そして舞い上がった空の中で感じた一筋の匂いを辿り、彼女は駆ける。

 ただ、そこに目的の人物が居る気がするだけなのに。

 ただ、想うがままに動く、あの少年の気配があると言う、事実があるから。

 知っている。

 知らされていない。

 否、忘れているだけの、過去。

 間違いなく、記憶はある筈なのだ。ただ、甦らないだけ。

『私のルーツ、か』

 バラバラになった運命と言うピースは、決して元には戻らない。

 だが違う形には出来るのだ。

 造り替えられると言う特性が、運命その物と同義なのだから。

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