鬱蒼と生い茂る木々が辺り一面を支配し、獣達の声が聞こえないのは多分、自分の所為だと云う事は理解している。それどころか、魔物すら姿を見せない辺りは、彼に取って苦笑してしまうしかない昔話しかなく、今は旅路を、それも街道からは大きく外れた森の中を抜けなければならない。
まさに道無き道、と言ったそこは、おおよそ旅人が通るような場所ではなく、まして獣道と言う訳でもない事から、彼がそれなりに経験を積んだ冒険者、とでも言うのだろうか。東方の、ここ中央ガ・ルーン皇国にとっては異国になる場所の服に身を纏い、腰にもやはり東方の形をした刀と言う片刃の武器を携えている。だが、もし彼の歩く光景を見れば誰でも只の、それこそ優男、と言う表現がぴったりな外見に疑問を抱くだろう。
どこから見ても、体格だけで言えば顔と同じくやたらと女のような長い髪を後ろで束ねただけの頭髪と、妙に似合っている銀縁の丸眼鏡は服装が違えば学生、とでも言える雰囲気を持ち、女性として見られたならば間違いなく才女として先入観を持たれあまり関わり合いになろうとは思わないだろう。現に他の街に彼が出向いた時とて、その容姿から同姓に声を掛けられなかったのは彼としては幸いだ。無論、女性に声を掛けられれば嬉しい事は嬉しいのだが、今回は少し事情が違い、あまり遊んでいる訳にも行かず低調にお誘いをお断りしている。
と、そんなエピソードばかり連ねているのだからこんな人気のない、それこそ近郊の街や丁度彼が来た方向にあるダルト連合国に取ってはハーネル山脈、と言う名前だけで難攻不落の城、と言う訳ではないが戦術的にかなり重要な地点であり、今なお攻略仕切れていない場所の一つである。その理由として、幾ら此処を介して皇都に進入しようとしても、原因不明の襲撃に合い、彼が噂で聞いただけで二十回だっただろうか。
失敗を繰り返し、また同じ事をしようとしているダルト連合国には表彰したい様な場所なのだ。その上、モンスターも気候が良く人気の無い山脈だからだろう。大小さまざまの種族が住み、彼が確認しただけでも黒竜(ブラックドラゴン)等と言うモンスターの中ではかなりの凶暴性と力を持った生物まで存在するのだ。
それ故、山越え等と言う無謀なある種かけに出る冒険者や、まして逃亡途中の犯罪者でさえ立ち寄らない様な場所を彼は歩いている訳である。
その上、だ。彼の足並みはコケや岩で獣すら歩けるかどうかも分からない地形をまるで街の往来を歩く様にして進み、一度も止まる事無く、そしてバランスを崩す事無く目的地へと、表情から察するに楽しい旅になるのだろう。もし、近くで彼を目撃した人物でも居れば間違いなく気でも触れたか、それとも何か呪いでも掛けられまともな判断力を失っている様にしか見えないだろう。
だが無論、彼の精神状態はすこぶる快調で身体も昨日は宿屋に泊まって久しぶりにベッドで寝た所為か。野宿兼徹夜続きだった体力はめざましい回復を見せ今に至る。そして些細な争い事に関わる事無く、人も、そしてモンスターにも会わない旅をしていた。
そして彼が歩みを早め、木々の狭間を抜けた時、そこは山肌を剥き出しにした断崖絶壁。下を見れば、山の中程から水が溢れだし瀧に為っている、まさに絶景と言えよう。眼下に広がる皇都側の最初の街にしてガイア大陸一の歓楽街と名を馳せているレクトも見えた。
「いや、久々に来たけど絶景だねぇ」
身体の調子も良い所為か。伸びやかな、ある種間抜けな声を出して彼は腰に手を当て首を鳴らす。
その姿はまるで朝日を浴びて体操する老人にも見えない事もないが、残念ながら彼の容姿は二十代半ば。年齢の方は現在の所伏せておこう。
「さて、もうちょっとだな。皇都まで・・・・ん?」
そして多分、また目撃者でも居れば驚く程自然に、前へ、つまり滝壺へと飛び降りようとした彼だったが、ある事に気付き眉を顰める。
瀧、と言うのは水が出ているからして、下の滝壺は水色か、もしくは白い霧で覆われている筈だ。だが、彼の目に飛び込んできたのはそのどちらでもなく、赤い霧だろう。それを怪訝に思い耳を澄まして見れば、様々なくぐもった声が聞こえ誰かが争っている事は分かる。ただし、かなりの大軍勢らしい。
「とうとうダルトもガ・ルーン攻略に成功、かな? 困るんだよなぁ、成功しちゃ」
誰も見ていないのだから、独り言、と言うのだろうが、今の彼に取ってその一言は独り言ではなかったらしい。それに応える様にして赤い霧、多分、血飛沫であろうそれは高く舞い上がり、辺りの木々を深緑から斑の紅色へと変色させて行く。
そして彼は、唐突に、その下を見たかと思えば身体の重心を前へと倒し滝壺へ落ちて行く。
筈だった。
だが、彼は恐ろしい程の脚力があるのか。水飛沫を纏いながら山肌を蹴り、更に加速し下へと降り立ちその衝撃で少々脚が痺れてしまい顔が歪みながら早口でその場を飛び跳ねる。
「痛たたたた・・・・」
場所は滝壺の丁度淵。そして目の前の光景を確認するとそこは予想通り、惨劇の真っ最中。
「あーあ。派手にやっちゃって・・・・。まぁ、水が汚れてないだけマシかなぁ」
歪む顔は苦笑へと変わる物の、冷静に戦場と化したその場所を見る彼の様子は穏やかであるが優しげではない。水が汚れていない、と確認したのは、下の街を気にしての事。少なくとも、ここの瀧からの水も歓楽街レクトに取っては貴重な水源なのだから。
周りに居るのは服装からしてダルトの兵士達であり、人数は死体も入れて数えれば二百と言った所か。その内生きている数は彼が死体を数えている間にもどんどん減り、とうとう残りの一人となってしまう。それ故に、彼の視界を遮る邪魔な人の壁が無くなり惨劇を造り出している張本人が見えた。
だが、その張本人の表情は姿見は人の形をしているが、遠目で、と言ってもさほど離れていない距離だったが、妖艶かつ楽しむように微笑む表情はとても人には見えない。その上で、服装が何処か娼婦じみた、黒い薄布であしらわれたドレスの様な、と言うより、もはや下着に分類されるのではいだろうかと言う物を着ているのは一人の女性。そして身体は思ったよりも返り血で汚れていないのか。まるで化粧でもするかの如く、その白い肌を赤色で鮮やかに彩っているだけ。そして特徴的なのがその左右色違いの、赤と金色の瞳と、光を吸い込み銀色に輝く、女性にしては少し短めの髪。
「で、あんた一人残ったけど。どっちが良い?」
その女性は多分、彼には気付いていないのだろう。それよりも目前に居る残った一人の兵士の方が気になっているらしく、最後に取って置いたのにはそれなりの理由があると言うのが彼の睨んだ所。
確かにその通りで、現にこの兵士はこの部隊の中では最も強い実力を兼ね備えていた。腕もダルト国一、とまでは行かぬ物の、善戦しているだろう。その上で生きて居ると言う事は、それだけの運も持っていると言う事。平均的に考え、若さの割に実力派な事は違いなかった。
ただ、多少の問題があるとすればその性格だろうか。自分の腕に自信があるが故に、ダルト国内では好きかってして暴れ回っていたのだ。それこそ、小さい事では無銭飲食から大きい事は強姦や殺人。国と言う後ろ盾が無ければ国からの部隊として此処に立つ事なく、逆にもしかしたら犯罪者として少しは人生を楽しむ時間が延びたのかもしれない。
最も、悪運尽きた様子で、その顔は焦りと恐怖が支配し、目の前の女性に怯えていた。
どう鍛えれば、そんな筋力や途轍もない、素手で大岩や鎧類を砕ける等と言う芸当が出来るのか皆目検討も付かない。
だが、これだけは確かに言えるだろう。
女性が言った「どっちが良い?」と云う言葉の中には、自分が生き残る道は無いと言う事を。
蛇の道は蛇、とはよく言った物だと、その様子を見ながら彼は思う。そして遠巻きに見ていた一対一の決闘も、男が唸り声とも叫び声とも分からぬ、ただ分かる恐怖をかき消す為に声を出し、瞬間、その頭がザクロの様に弾け飛んだ事だけで呆気なく終わってしまう。
唯一の観戦者としては不満が少し残るが、たかが兵士風情一人が彼女とやり合って勝てる筈もなく、当たり前の結果と言えば当たり前。あまりその事に触れぬ様にして、手を挙げながら声を掛けた。
「やぁ。久しぶりだね」
「・・・・・・?」
恍惚として、しばらく気付かなかったが視界の隅で動く者を発見したからだろうか。今の状態ならば例え小さな獣とて彼女に取っては獲物となってしまうに違いない状態。そして彼が「彼」でなければ間違いなく殺されていただろう。漸く帰ってきた声は何処か鬱陶しそうだった。
「あんたがこんな所に用なんて珍しいわね」
その後、短く何かを唱えたのは魔物を召喚する呪文。それにつられ彼女の前方に一瞬にして魔法陣が組み上がり、その中から出てきたのは表情、とは言ったものの普通の人間に取ってはある事さえ分からない存在である一匹のブラックドラゴンであり、彼に取って読みとる事の容易い顔色は間違いなく真っ青。
「この辺り掃除しといてね。いつもみたいに他の使って構わないけど、血の跡一滴残したら承知しないよ」
「ワ、分カリマシタ」
本来ならば、例え人語を理解しても喋ろうとはせず、まして敬語など使う筈もないブラックドラゴンだったが、彼女の事はその身体か、話を聞いて知っているのだろう。それ故逆らいもせずに瀧の音にもかき消されぬ程の咆哮を響かせ、森がざわめいたかと思えば出てきたのは様々な種族のモンスター。あえて何かで共通点を挙げようとすれば、ブラックドラゴンと同じく人を食べる、と言う事だろう。そしてもう一つは人語を理解出来る者ばかりが揃っていると言った所か。
「ここじゃ何だし、上で話そうか?」
彼が提案した所、彼女はぶっきらぼうな顔になり瀧の上へと舞い上がる。彼としては、彼女を気遣ったのではなくあくまで辺りのモンスター達に迷惑を掛けない為だ。彼女が不機嫌になり、とばっちりを喰らうのは彼らも嫌な事は表情を見れば良く分かる。
その上で珍しく、礼儀を重んじないと言う共通点もあるモンスター達が一斉に彼へと一礼し、死体を、ある者は口で加え、ある者はまるで荷物を持つ様にして持ち上げながら去って行く。
そして彼も彼女と同じく、元来た道、と言っても中空だが。それを造作もなく飛び上がり降り立つ。
そこには、明らかに邪魔をされ不機嫌な顔をした彼女ではなく、むしろ全く逆で、すまなそうな顔で片目を閉じ手を合わせ、びしょびしょに濡れた彼女が居た。
そうして開口一番。
「ごめんっ! 興奮してたから昔の口調で言っちゃったのよ。許してくれる?」
それは何処か、先ほどの惨劇を造り出した人物とはおおよそ思えない物。濡れた身体はわざと瀧の飛沫を浴びて血を洗い流した所為だろう。そしてその妖艶かつ、何処か子供じみた少女の様な姿を見れば、この女性を襲う馬鹿な輩が居るかもしれない。街中でこんな格好をしていればそれも頷け、多分、例外なく彼女は街頭であろうとこんな格好で佇むに違いない。
「ああ、それなら別に良いよ。僕もたまにあるからね」
「あんたが? 昔の事なんて忘れて隠居したと思ってたけど、まだまだご健在って事ね」
「はははっ。その減らず口は直す気が無いんだね。色んな意味で安心したよ」
「これは私の個性よ。笑わなくても良いじゃないのよぉ」
昔なじみの、数少ない友人の内の一人だからこそ、彼女は彼に対しては何処か下手に居る。いや、子供で居られる、と言った所か。そして子供であるが、よき戦友と言う事も変わっては居ない。
「けどさ、何のようもなくこの森抜けるって訳じゃないでしょ? 皇都に何か用?」
すっと目を細め、少女から女性を匂わせる顔になる。それだけで全身の雰囲気まで変わるのは彼女だから出来る事。
否、彼女でなくとも鍛錬を積んだ女性ならば出来るのだが、彼女の場合は特別なのだ。
「ああ。マラバ直々に呼ばれたんだ。それで、少し急ごうと思って此処を通った訳さ」
「なら歩きで来なくてもそこらでドラゴンでも捕まえて乗ってくれば良いじゃない」
「君は皇都へ行くのにドラゴンを使えと言うのかい?」
「良いんじゃないの? たまには刺激になって良いでしょ。人間の脚なら一週間、そうねぇ・・・あんたの脚なら後一日って所だけど。どうせなら一匹貸そうか?」
この世には存在しない、まるで御伽話に出てくる竜騎士、と呼ばれるドラゴン使いの様な事を言い彼女は笑うが、彼には残念ながらその気は無かった。
「流石に遠慮しとくよ。ドラゴンたちも迷惑だろうしね。さっきの子も怯えてたじゃないか」
「別に良いでしょ? ご飯も食べさせてあげてるんだし、本当なら人間食べただけで皇都からの討伐隊であの世行き決定よ?」
「まぁ、あんまり迷惑かけちゃ駄目だよ」
苦笑しつつ、最終的にはそう言うしかない事など分かり切っている。
昔から、彼女はこうなのだ。他人の、例えそれがモンスターの事情であれ知った事ではない。
彼らモンスターに対する待遇でも、その気になればいつでも殺せるのだから私の為に働け、と言った所だろう。
つくづく、人間と一緒に暮らせる事が彼にはどうも理解出来ないのだが、ここから見えるガイア大陸一の歓楽街ならばそう言った彼女も住まえる場所があるのだろう。数年前まで、東方の人里離れた森で弟子と共に暮らして居た彼に取ってはやはり理解しにくい事柄ではあったが。
「で、どんな用事? とうとうあのクソジジイもくたばるの?」
「公皇をくそじじいなんて言うのも君くらいのもんだねぇ・・・」
「可もなく不可もなくな公皇なんてクソジジイで十分よ」
「ははは・・・。確かにそんな人物だったね、今回は。でも次の公皇候補よりかはマシだろうから」
「やっぱくたばるんじゃないの。で、あんたは臨時(アルバイト)で魔環師<ハイ・マジックマスター>の上司でもやりに行くって所?」
「それもあるけどね・・・・・。いやいや、アルバイトじゃないよ。ちゃんとした召喚状で呼び出されたんだから」
そう言い、懐から取り出すのは一通の皇都の印が入った手紙。個人で出す様な代物でないのは紙や封の作りから見ても明らか。
「どっちでも良いじゃないのさ、そんなのは。けど、召喚状って事は、他の二人も呼び出し食らってる訳なの?」
「その筈だけどね。あの二人がそんな簡単に連絡の取れる所に居ると思うかい?」
「私から言わせれば、あんたを含めた三人とも。連絡取ろうと思う方がおかしいんだけど?」
「やっぱり街に顔出したのがまずかったかなぁ。あのまま居座って置けば良かったと後悔してるよ」
苦笑し、頭を掻く癖は彼の変わらぬ部分。ただし、過去とその理由が違う所は彼女も知っている。
「居座る? 何処に」
「ラ・ザードん所だよ。いや、相変わらず彼の造る酒は美味くてね。一ヶ月ほど入り浸っててさ」
「あははははっ。で、あんたの事だから何か情報がないかギルドに行った所で捕まったんでしょ? あんたはルシエドやシーグル見たいに顔知られてないから悪いんじゃない」
「剣闘師<ハイ・ラウンドマスター>として頼まれれば仕方がないだろう? 戦争起こす訳にも行かないしさ」
「私から言わせれば漸くってカンジよ? ここん所しょっちゅう西側の奴らが此処通るし。ストレス発散にもなりゃしないけどさー」
大きく伸びをして、欠伸をしながら言う言葉はこれ以上なく不満の籠もっているモノ。先ほどのあの光景を見ていれば、あれで満足出来ない事をどうかしているとしか言えないのだが、彼女が誰か知っているのならばそれも納得出来るだろう。理解出来るが、分からないと言う部分もあったが。
「ま、君は好きにやってくれて良いよ」
「元々そのつもりだから心配いらないって。そろそろこの辺にも飽きたしね」
「まさか新しい主でも探しに行くのかい?」
冗談交じりに吐いたその台詞。彼に取っては話のネタでしかなかった事。
彼女は過去、ある人物に造られた存在であり、武器なのだ。
既に今の時代、その造った人物が誰であるか等、歴史を調べようとも出てこない程の時の事。
それはかつて「古き瞬き」と呼ばれた戦争であり、この大陸に住まう四種族が起こした最悪の惨劇。
そして彼女は、その惨劇を終わらせた内の一人。
その時の名前を魔剣ラグナロクと言い、今の名を、ラナ・イアスと言う。
「よく分かったわね」
「え? ホントウ・・・だったのかい?」
「言ったでしょ? 漸くってカンジだって」
媚びない、それで居て女性独特の色香の漂うその表情は、既に獲物を決めている時の目と酷似している。
だから彼はくぎをさすのだ。
「まぁ、何処かの国に荷担しないようにね。君とやり合うのは流石に勘弁して欲しいからさ」
「何しけた顔して言ってんのよ。私から願い下げだわよ、アンタと戦うのなんてさ」
そして彼も、彼女と似たような境遇の持ち主。
ただし、誰かに造られたと言う部分が似ているのでなく、その時代を生き抜いた一人であると言う事。
それが魔導神<ルド>の名を持つ、統一郎(とういちろう)と言う男なのだから。
「にしてもさ。もうちょっとでんと構えてられないもんなの?」
しかし今の飄々とした雰囲気に対し、彼女の口から不満が漏れるのは彼女の我が侭なのか、それともなのかは分からない。
「そう言われてもねぇ。僕は元々こうだし」
「昔の方がよかった気がするのよねー。レイナードだってあの殺伐としたあんたに惚れたんだからさ。そう言えば・・・・レイナードどうしたの?」
あたりを見回し、今更ながらに探してみるがそんな人物の姿はどこにもない。
「多分、死の渓谷辺りに居るんじゃないかな。前に分かれる時、なんか面白いモノ見付けたって言ってたし」
「・・・・あんたら夫婦のことはよく分かんないけど、それで良いの?」
「南の人間じゃないけど、一夫多妻じゃなく多夫多妻でも問題ないと思うけどな、僕は」
「私はやっぱり一人がいいなぁ。盟主は一人でないとこっちが困るしねー」
武器、と言うのが彼女の個性。それ故に、未だに彼女は自分の主を捜している筈だ。
「で、君の方はその盟主も見付かったって訳かい」
「そうよ。だからまぁ、今日の夜にでも旅立とうかなって思ってさ」
彼女も過去に一度、自分の盟主を探しに旅をした事があるのだ。だが、統一郎の、いや、「古き瞬き」に関わる者達に取っては縁の深い死の渓谷で盟主の気配を感じ、そこで何年か探してみたらしいのだが、結局の所、人の住まえる大地ではなかったそこでは見付からないで終わっている。
「まぁ、世界は広いんだから、もう一人位居るのも頷けるな」
無責任に笑い、統一郎は言う。
だが恨めしそうな顔をしてラナは言った。
「軽く言ってくれちゃって・・・。あんたが最初っから私を扱ってればこんな苦労せずに済むのにさー」
「でも、僕なんかが扱うよりも、君を上手く携える事の出来る人物は出来る筈さ。元来僕は魔導神なんて呼ばれてるだけあって、やっぱり剣は苦手だよ」
そう言い、腰の東方異国の刀を触る様は、ラナにとっては思い出深い仕草そのもの。
過去に一度だけ、彼女を携えた事のあるのは彼ともう一人だけなのだから。だが結局はそのどちらもが盟主としての立場を断り、彼女は未だ主無しの武器として彷徨っている。もっとも、彼女自身それを楽しんでいるだけ統一郎から見ればマシだと言うことだったが。
「苦手とか言いつつそれルシエドに作ってもらってるしー。私も欲しいなー、そーゆーの」
「き、君が携えられる武器なんてあるのかい? 武器が武器を使うなんて聞いた事ないよ」
「ルシエドのあれ見たいな構造でも良いじゃん。本来私の使い方ってそう言う風なんだしさ」
「そりゃぁ、そうだけどね? 君の新しい盟主も苦労するな」
「当たり前でしょ? 柔な奴だったら私が殺してあげるわよ」
こういった会話も、普通の女性と箇所箇所を置き換え話せば嫌われる様な会話なのだが、彼女の場合は半ば性別も越えている部分もあるので安心できる。
そんな彼女を見て、時間を忘れていたのかもしれない。
大分陽が傾き、後一時間もすればこの辺りも夕闇に染まる。
「じゃ、そろそろ行くよ。遅刻したのが戦争の引き金になるのも嫌だしね」
「私はそっちの方が面白いと思うんだけど」
「はははっ。じゃ、またいつか」
そして統一郎は再び瀧を飛び降り、目的地を目指し舞う様にして先を急いだ。
頭の何処かで、時既に遅し、と言うフレーズを自嘲気味に呟きながら。
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