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「ほら、二人していつまでそうやってる気だ? こっちまで当てられて真っ赤になっちまうよ」
「もうちょっとだけなら良いじゃないですか。やっと逢えたんですよ? 私たち」 「後でランディや麗に小言言われるのはあたしなんだからその辺考えといてくれよ?」 「はい」 多分、そのリリアの笑みに押されたからこそ、信長は許せると思う。純真無垢な心、等と言うモノは無いと思っているが、それ以外に適当な言葉さえ 見付からないのだ。それだけの心のこもった笑みなのだろう。だが案の定と言うか、情けないと言うか、自分の主の姿を見ればそれも薄れる事だろう。 そして信長は言った。 「なんか文句あるか? あたしが喋っちゃ」 「・・・・・」 無論、帰ってくる答えが無言で表情が驚いている事も予測していたモノの、その情けない顔に信長は溜息を吐いた。 銀狼と言う、常識とかけ離れた姿で。 FILE005 [ B L A Z E : W I N G ] 事も一段落し、ルドルフとアイリーンは隠れ家の中のベッドの上に寝かせ、三人は取りあえず中でお茶を飲んでいる所だった。 最も、ルドルフは傷が深くかなり憔悴仕切っていたのだろうが、今は意識も回復し寝ていると言うよりは俯せにして背中に触れない様、 寝ころんでいると言った方が良いだろう。アイリーンは部屋の中にベッドが一つしかないが故に椅子にゆったりと座らせられすやすやと寝息を立てている。 そしてリリアは鳴海の横でお茶を入れ、鳴海は床に置かれたティーカップから器用に紅茶を飲む信長をしげしげと見ていた。 何処の世界にティーカップからお茶を飲むハスキー犬が居ると言うのか。それも熱いだの冷ませだの文句を言いながら飲む辺り、かなり 我が侭な犬と言うのが子供時代、一緒に暮らしていた時とは印象が違う。それから察するに、きっと子供時代の自分には文句も言いたいのであろう、 そして今の鳴海にさえそれがあるのだと言わんとしている事は鈍感な鳴海でも直ぐ理解出来るのだ。 何せそれだけ、複雑かつ一目で分かる表情をしているのだから。 「で、まぁ、ナルミ。おまさんの試験結果は合格や。今やったらしっかり力も扱えるやろ?」 「ホントすみません。操られてたとは言えそんな怪我負わせちゃって・・・・」 「ええってこっちゃ。これだけのダメージわいに負わせるっちゅう事はやな、ナルミが強いって証拠やねん。敵に回らへんだけこっちが感謝したい位なんやからな」 「でも、やったのは俺なんだし・・・」 「ホンマ律儀な性格しとんなぁナルミは。ええねん。その気持ちだけで十分や。これからも仲良うしたってや、 HAZARD HUNTERとしてな」 「はい・・・」 正直、自信も確信も実感も鳴海は感じて無いのだろう。その為か、少し元気が無さそうに見えるのは決して体力の消耗だけが原因ではない。 それも本来一番体力消耗している筈のルドルフが元気なのは持ち前の性格のせいだろう。だが、信長にはそんなルドルフの性格が好きなのかもしれない。 「その話は一端置いとこう。その代わりに仕事の話し、して良いかい?」 「進展あったんか?」 「いいや、これっぽっちも」 「なら・・・」 「HAZARD HUNTERがやっと決まったんだ。ボスに仕事の内容話すのは当然だろ?」 「そう言やそやな。頼むわ」 「お前も自覚が足らん。全くこれだから若い奴は・・・」 嘆息する信長に対し、ルドルフはやはりあの笑みで返すだけ。そんな遣り取りを見、鳴海は少しずつ自分がHAZARD HUNTERであると言う事を自覚しようとしていた。 そしてご丁寧に、リリアへとティーカップを口で渡した信長はわざとらしく咳払いをしてから話し出す。 「まず、今回あたしらが請け負った仕事は異例だからそこん所記憶して置いてくれよ? あちらさんから攻めて来るなんて事は滅多にない。 HUNTERって仕事はあくまで本部からの斡旋で仕事が回って来るんだ。分かったかい?」 「う、うん」 「それでだ。あたしとランディの見た所、今回の敵の正体だけは掴んだ。間違いなくデュラハンだ」 「首無し騎士かいな。またやっかいな相手やで」 「いや、首はある・・・らしい。どうもダンピールと混ざってる見たいでね」 「???」 「そこで、基礎知識として鳴海にゃ覚えといて貰うよ」 そして信長はそそくさと歩き出し、少し周りを見渡したかと思うと何かに目を留めそちらの方向へと歩いて行く。 その先にあったのは一枚のテーブルクロス。それの端を噛んだかと思えばずりずりと引きずってこちらへと持ってくる。 それを器用に被った所で鳴海は目を見張った。 一瞬、まさに刹那の時だ。信長がテーブルクロスの中に入ると同時にそれが大きくなり、そこから出てきたのは銀髪の女性だったのだ。 目つきも鋭く、身体などアイリーンと匹敵する「ナイスバディ」と言える程のモノ。鳴海もそれが信長である、と言う事は何となく理解出来たが 実際目の前でそれをやられて冷静で居られなかった様で、目をこれでもかと言う位に見開きその女性の事を凝視していた。 だが、信長はそんな鳴海の視線も構わずにそれを破り端を結び、簡易の服の様にして話を続ける。 「まず、あたしら人狼って言うのはこうやって人間の形にもなれるんだ。基本的に人って名前が付く種族はそうだって事覚えといてくれよ? って、聞いてんのかい?」 「あ、ごめん・・・。びっくりしたから」 「全く、とにかくそう言う事なの。頭に叩き込んだかい?」 「あ、ああ・・・」 「ノブナガ」 「ルドルフ、話の骨折らないでくれるかい?」 「それ高かったんやから代わり買うてな」 「・・・・・・ケチだねあんたも」 「商売上手言うてや」 「はいはい・・・。で、話は戻るけど、まず、あたしらが狩るHAZARD HUMANって言うのの種類の一つは人を象った者達なんだ。 吸血鬼とか言うのもそのたぐいだって事も覚えて置く様に。それで今回の相手だけど、これは別の種類、まぁ、魂って奴が宿ったって言う表現が適切かもしれないね。 日本にもあるだろ? 九十九神(つくもがみ)って奴がさ」 「・・・知らないんだけど」 「不勉強だね鳴海も・・・・」 そしてまた溜息をする信長。多分、それは癖なのだろうと、鳴海は何処か面白い姿にそれが見えた。 だが、信長にとってはかなり深刻な事らしい。再度溜息を吐いてから話を続ける。 「とにかく、人の身体そのまんま使ったHAZARD HUMANと、魂が何らかの物質に乗り移ったHAZARD HUMANの二種類が居るんだ」 「じゃ、信長はHAZARD HUMANじゃないんじゃ・・・?」 「その辺は勘が良くて助かるよ。鳴海の言う通り、あたしはHAZARD HUMANじゃない」 漸く、と言う顔をして微笑む信長。その顔は何処か誇らしげでもある。 「まず、あたしらの敵って言うのは元人間に限定されるって事は覚えておいで。その上で、あたしらを区別する時の呼称がARCなんだよ」 「え? リリアさんがARCなんじゃないの?」 「リリアも、だ。ルドルフ、ちゃんと説明したんじゃなかったのかい?」 だが、そうした時の表情の脳裏ではやはり自分の主だ、と言う言葉でも浮かんだのだろう。 ルドルフを睨め付ける様にしながら言った。 「ANCIENT REMAIN CREATUREって言うのは、古代人って言うのが分かり易い説明なのは分かってるな? だから、あたしら人狼も古代から生きてる者達ってことさ。 この辺は人間の悪い癖としか言いようがないさね。何でもかんでも通称で呼ぼうとして種族を決めたがる。あたしらから言わせれば人間ですら 「人間」って一言で片付けられない程種類があると思うんだからな」 「???」 「とにかく、あたしも古代人の一人なんだ。そーゆー事で納得してくれ」 「う、うん・・・その方が分かり易くて助かるよ」 苦笑する鳴海。その傍らでリリアが微笑み、話していた当人の信長はまた溜息を吐く。 そんな様子を見ながらルドルフは背中の傷を忘れられる様な気がしたが、やはり少し痛むのか、苦笑する。 だが、それがだんだんと険しいモノに変わり、鳴海と戦ったあの時のモノへと変わった事を他の三人は気付かない。 そしてルドルフが警告する前にそれは起こった。 ・・・・ゴォォッン 「何だ・・・」 最初にそれに気付いたのは信長。今まで気抜けていたその顔は一瞬にして変わり戦士のそれへとなる。 それにつられリリア、鳴海も表情を変えたが、鳴海だけは今一どうして良いものかよく分からない様で、取りあえず成り行きに身を任す事にした様である。 そしてルドルフは他のみんなの顔を見、まるで信長の様に溜息を吐いてから言う。 「とにかく敵さん倒して突破や。アイリーンはわいが背負って行くさかいに鳴海はリリアをちゃんとエスコートしたりや」 「え! 俺がですか!?」 「何言うてんねん。おまはんもう力扱えるやろ? ゲームやったらこつこつレベルアップせなあかんけどあんさんがやったのはクラスチェンジや。 平民からロードクラスまで一気になったんや。実感出来へんのか?」 「はぁ・・・・これと言って」 「かぁー! 鬱陶しいやっちゃなホンマに! 手ぇ出してみ」 「?」 「ええから出せっちゅうねん」 何を怒っているのかは流石の鳴海でも分かる。だが、何をするのか分からぬまま立ち上がったルドルフに手を握られた。 そしてその瞬間、鳴海の頭の中はまるでスパークでもしたかの様に真っ白になった。だが、気が付いたのも早かったらしい。 身体が崩れ落ちる前に気が付いた鳴海はきょとんとした顔でルドルフに目をやった。 「これ・・・で?」 しかし、鳴海には自分の中に何か変化があったとは思えず、ただぼーっとして言うしかないらしい。 ルドルフはそんな鳴海を見ながら嘆息しそのまま部屋を出る。そして今一理解出来ないまま、鳴海もそれに続いた。 屋上のドアから階段へと続き、それを駆け下りた所で爆音が響き渡る。余程の何かが暴れ回っていると見えるが、逆に人の声がどこからも聞こえない所が不気味だと 鳴海は感じている。その反面、そこには確かに何かが居ると言う、確信めいた想いが渦巻いても居たが。 「ノブナガ、敵の数なんぼや?」 「二十も居ないな。値引きしてくれない見たいだぞ」 「突っ込みにくいボケやなそれは」 「そうかい?」 その傍らでルドルフと信長の会話は何処か的はずれな様に聞こえるのだが、本人達は通じているのだろう。 どこからその余裕が生まれてくるのかが分からなかったが、その瞳だけは真剣なモノに違いはない。 そして鳴海の心の準備が整わぬ内に敵は現れてしまう。 「あいっかわらずキモチワルイ奴らやな・・・」 ルドルフの言葉と共に姿を見せたのは階段の下から踊り場全てを 埋め尽くすほどの亡者達。うめき声も上げていれば愛嬌もある物だが、無言のまま手を前に伸ばして迫ってくる光景は 怖い物がある。しかし、所詮雑魚と言う事だろう。ルドルフの一喝でそれは灰へと変換されてしまう。 「ほなさっさと行くで・・・・っと」 しかし、廊下に降りた後方に位置するモノを見た時、ルドルフは嘆息して信長の方を見る。そこに居たのは三匹の犬だった。 が、異形のモノと呼ぶに相応しい姿をしている、三つの首を持った地獄の番犬だ。 「世話のかかる人間どもだ・・・」 「すまんの」 苦笑しつつ答えられては仕方ない、と言った様子。その「人間」と言う言葉に含まれる何かは鳴海には少しだけ通じたのだろう。 それは紛れもなく信頼の証であり、鳴海は昔から付き合ってきた信長の性格をやっと思い出せる事が出来る。 オォォォォオオオオン!!!! 咆哮を上げながら姿を人型から狼へと変貌させながら信長は敵との距離を駆け抜ける。その姿は紛れもなく銀の閃光。 銀狼(シルバーウルフ)と言う言葉も自然と出てくると言うモノだ。 そして信長はきっちり三匹の地獄の番犬の喉を噛み千切り絶命させてしまう。だが、何か辺りの様子が一変したのは気付かなかったのだろう。 しかし鳴海だけはハッキリとそれを感じ取り叫び声の様な声を上げる。 「信長!!」 だがその声が一瞬遅れた為か、否、信長の判断よりもそれが速く動いた為だろう。鈍い音と共に信長はもう一度、此方へ吹っ飛ばされる形で戻ってくる。 そして信長の唸る声をBGMに、それはハッキリとした姿を現す。 「人・・・形?」 第一印象はそうとしか言いようがなく、それはデパートや洋服屋にある様なマネキン人形に見えた。 窓から差し込む光に照らされその無機質な白い肌は輝きを放ち、命の炎が決して灯らなぬ瞳も虚ろなままだ。 だが、気配が先ほどのゾンビや地獄の番犬(ケルベロス)とは明らかに違い、その存在感は離れていても分かる程だった。 「ほんま、ここ休みで良かったわ・・・」 余程の敵と認めたのか。ルドルフの言葉の意味を理解するには、鳴海に少し考える時間を与える。 先ほどからこれ程の化け物が現れているにも関わらず、人の声一つしないのはルドルフの言葉で説明が付く。 その上で多少敵に暴れられても構わないと言う事と判断し、鳴海は一つ提案した。 「ここが壊されて、保険て出るんですか?」 「ホケン? ああ、わしらの仕事に関する被害は局地的な災害に一応なっとるからな。多少は大丈夫や」 「分かりました。じゃ、俺が行きます」 そして鳴海は自分の中にある力を解放する。 ルドルフを瀕死に追い込んだ力が自分の中にあるのは先ほどから徐々に実感が湧いてきたのだ。その上で、どうやればそれが使えるのかさえ自然と分かってくる。 それはルドルフの言ったレベルアップやクラスチェンジと言った、ゲーム感覚での事なのだから逆に言えば恐ろしい事だろう。 だが、鳴海はそれを制御する意志も心も持ち合わせているのだ。まるで自然に歩くかの如く。 「炎・・・」 ぼそりと呟いたのは走り出す為の合図にもなっている。だが同時に自分の身体を包み込む「言語(ワード)」としての力もあるのだ。 そして一瞬、無数の紋様の様な物を鳴海は纏いそれを全て炎へと変関する。その時には相手も動き自分も動いていたのだ。 敵との距離は一メールとにも満たない。 ガキンッ!! 交差する様にして立つ場所を変える鳴海と人形。しかし決定的な実力の違いは既に現れ、鳴海は無傷のまま朱い炎を纏った姿である一方、人形は その片腕が失われその上にある肩の辺りには炎が上がっている。そしてその炎が一瞬煌めいたかと思えば人形は全身炎に包まれ灰とかしてしまった。 しかし、安心するのはまだ早かったらしい。 「まだまだおるぞ! しっかりやれやー!!」 呑気な声の方を向けばその主であるルドルフは群れる亡者からの攻撃を避けならが体術でそれを撃退している所だった。 しかし、やはり背中に居るアイリーンがどうしても足手まといになってしまっているのか。どう考えても無理な体勢から繰り出される蹴りはそれ程の威力が出ないのだ。 そして信長もそれと同じく、リリアを守りながら戦うのはやりにくいと言うのがひしひしと伝わってくる。 だが、鳴海がそちらへと飛び出そうとした時、またもや気配が生まれ、その場に止まらざる終えなくなってしまう。 そしてそこに姿を現したのは何体もの人形を携えた鬼だった。 しかし、鳴海が知っている赤鬼、青鬼、と言う節分の時に被るコミカルなお面の様な顔はそこには無く、 取り巻きの人形と同じく無機質な、まるで機械的、先鋭的な能面の様な顔をした鬼だったのだ。 その姿はそれこそ漫画やアニメなどのヒーロー物で鬼が主人公になればそう言った姿になるのだろうと、鳴海は考えてしまう。 要するに鳴海のセンスに何処かマッチした格好良さだったのだ。 顔は女形の様に白く鋭角的な線で統一され、その身体も筋肉の鎧、と言うよりは無駄のない引き締まった身体と言えよう。 そしてその象徴である角は高々と天を向き輝きを纏っていた。 しかしそう思えどそれで相手が手加減してくれる筈もなく、カタカタとまるで歯車でも動かす音を立てて人形達が向かい来る。 それを炎で焼き尽くしながら鳴海は相手、鬼の事から目を離さないようにする。 だが、その注意する心がいけなかったのかもしれない。相手のただ迫りまるで捕まえる様な攻撃を避けながらの攻撃を一撃ずつ確実に当てて居たのだが、 目線がしっかりと迫る敵を捕らえていなかった為に外れてしまう。その一撃が命取りなのだろう。鳴海の身体に次々と人形達が群がりその動きを止める。 「くっ!!」 そして目線が泳いだその瞬間、鳴海が視線を戻せば鬼は自分の真っ正面。 僅か数センチと言う距離まで感覚を詰め、それを悟ったと同時に鳴海は腹部に衝撃を感じ吹っ飛んでしまう。 ガガガガガガァッ!!! そして床と平行に飛んだが故に鳴海はその身体を無理矢理前に倒し廊下を削りながら衝撃を殺した。だが、腹部からは鈍痛が伝わり、顰めっ面になってしまう。 「おかえり。お早いお着きで」 「すみません・・・。あいつ強いですよ」 言葉に真面目に答えた鳴海だったが、ルドルフはボケでも期待していたのであろう。見上げた大阪人根性である。 だが、無理矢理ツッコミを入れる為に鳴海の方に視線をやった瞬間、敵が見えたのか。歯ぎしりしながら言葉を吐き捨てた。 「死霊使い(ネクロマンサー)かいな・・・。ARCの死体操るたぁええ度胸しとるやないけ」 「どういう、事、ですか?」 「あの鬼は韋駄天や。滅多な事が無いと姿なんぞ表さへん人のええ奴らやねん。けどあれ見てみ」 「・・・・・」 「鬼は死ぬと白い石になるんや。石像みたいになって、やがて岩になる。それが動く訳あるかいな」 言葉の意味は自分なりに解釈し、鳴海はそれ以上ルドルフに訪ねようとはしなかった。それだけ、自分の悪いと思っている頭で納得出来る 答えを見つけだしてもそれがやってはならない事だと分かるのだ。 そして何より、鬼の姿を見た瞬間、自分の意志とは関係なく、いや、本心で思っているからこそリリアが顔を背けたのだろう。 その瞬間、鳴海は怒りから吼えゆっくりと迫る人形達を蹴散らしながら鬼、韋駄天へと迫る。 「阿呆! 相手は韋駄天や言うとるやろうが!!」 だが、ルドルフの声と共に、鳴海は再び床を抉りながら帰ってくる。今の彼は本気で突っ込んだにも関わらず、相手の攻撃が全く見えなかったのだ。 その上、近づき見たその顔は何処か泣いている様で、鳴海の心にはその悔しさがひしひしと伝わってくるのだ。これ以上なく辛い戦いは無いだろう。 「ええか。落ち着いて聞けや」 そして熱くなり過ぎた鳴海を落ち着ける様、ルドルフは声を発するが鳴海の耳には届いていないのか。 再び韋駄天へと距離を詰め、また吹っ飛ばされ帰ってくる。その瞬間鳴海は頬に痛みを感じ、纏っていた炎を解いてしまう。 「落ち着いてください・・・。熱くなったって、何にも解決しないんです・・・」 「ご、めん・・・」 そう言って鳴海の頬を叩いたのはリリア。その瞳には涙が溢れ、今にもこぼれ落ちそうだった。 そして信長にしばしの間、亡者の群の事は任せたのだろう。鳴海の両肩を掴みながらルドルフが早口で捲し立てる。 「ええか。相手は韋駄天、速さで勝とうと思うな。せやけど一撃さえ交わせばお前の炎で焼き付くせるんや。馬鹿正直に真っ正面から飛び込むんやのうて 一撃目は右か左に避けぇ」 「ですが・・・」 「おまはんの身体じゃあと一撃喰らえばノックアウトや。どっちでもええから自分の好きな方に動けばええんや」 その言葉にはルドルフが既に鳴海の事を信頼している事を表しているのだろう。そしてその背中で眠っていたアイリーンの瞳がゆっくりと開き、 鳴海に言ってみせる。 「失敗するなんて考えちゃ駄目よ。やろうと思えば何だって出来る。不可能なんてありはしないわ」 まだ憔悴仕切っているのは青白い顔を見れば一目瞭然だった。だが、それでも自分の事を信頼してくれているのだ、と鳴海が思った時、鳴海は再び 踵を返し敵の方を向き炎を纏い三度駆け抜ける。 相手の姿が目前まで迫り、その後掻き消えるのは分かっていた事。だが、鳴海は右か左か決められなかったのだろう。 そして頭に浮かんだ方向へと身を傾け、そして上へと姿を現した鬼に向かい拳を突き出す。 ゴウッ!!!!! そして韋駄天の身体は燃え上がり、鳴海にだけ聞こえる声が心に響いた。 『ありがとう。翼持つ炎の勇士よ・・・』 「・・・・・」 そして白い雪の様な灰を身に受けながら鳴海は上を見、考えていた。 自分に礼を言って死んだこの鬼はどういう気持ちだったのだろうかと。 そしてそれの答えを胸に抱きながら立ち上がり、鳴海は再び炎を更に猛らせ群がる敵へと突っ込んで行く。 「邪魔だ!!!」 その声は炎へと変換され、群がる亡者達は一瞬にして輝きから灰へと変わる。そして立ちすくむ鳴海の瞳は炎で染まっていた。 「ほな、行くかい」 そして炎を纏い終え、その中から姿を現した鳴海の肩を叩いたルドルフの声も何処か鳴海の心と通じていたのだろう。 その上で一言付け加えるのがこの男なのだ。 「礼言われたんやろ。ならお前は生きなあかん。死んだら報われんからな、あの韋駄天が」 「・・・・・はい」 そして静かな鳴海の答えと共に、一行はビルを駆け下りた。 |