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外に出て肌を切る様な寒さは相変わらずの場所。まだ警察も、そして行き交う人々も全くこのビル内部で何が起こっていたかなど知る由もない。
最も、裏口から出てきたのだから人通りが少なくて当たり前だろう。そこにバイクと車が一台ずつ置いてあった。
車の方は車種名は分からないモノの、丸みを帯びたデザインは何処かスポーツカーにさえ見える。 バイクの方はどう見てもルドルフが好みそうな大きな物だ。日本の道路で一度、えらくヤカマシイ音を響かせながら通って居た事があるのを鳴海は見た事があり、 ルドルフがエンジンを掛けた途端、裏通りにけたたましく、低く鈍い音が鳴り響く。しかし、それが今の鳴海に取っては少しうざったかったのだ。 韋駄天に攻撃された腹をに響く痛みは何処か虚しくも感じている。 そんな中でルドルフが何か喋っているのだが、鳴海の耳にはバイクの音がうるさすぎて聞こえない。そして腕を引っ張られたかと思えば完全に起きたアイリーンに 助手席へと座らされ、膝の上に信長が乗ってくる。 「重いってっ!」 「あ? これで文句なかろう?」 しかし、そう言った事を鳴海は何処か男の部分で喜びながらも後悔していた。 それもその筈。いきなり信長があの人型の姿になったのだ。ちなみに衣服など何にも着ていない素っ裸である。 そんな状況を鳴海は目を白黒させて嬉しいのか迷惑なのか決めかねる。 「それじゃ、行かれますかぃ」 そして信長の声と共にアイリーンが運転席に乗り込み、まるでかけ声の様な音を響かせ後ろにリリアを乗せたルドルフのバイクの 後を三人の乗り込んだ車は追い始めた。 FILE006 [ 2 n d : N A M E ] 渋滞にも殆ど引っかからず、街の道路を疾走した二つの車体は以外と早く目的地に着いた。 しかしその間、目を見張るほどの女性の姿をした裸身の信長を膝の上に乗せた鳴海は流石に疲れ切ってしまった表情をし、漸く解放されたからか、 両腕を伸ばし身体をほぐす。何せ鳴海も男、やはり女性の、それも裸身で膝の上に乗られあえぎ声とは言わないがそれに似た様な声を出されては堪らないのだ。 そしてそうしていた張本人は呑気に銀狼の姿に戻り、顔は何処か笑っている様にも見える。 「なんやごっつ羨ましいカッコで乗っとったやないか」 その様子をミラーででも確認したのだろう。しかし、一度も止まらずずっと前を走っていたのだから凄い視力だと言えよう。 最も、そのずっと前で走っていた姿も鳴海から言わせれば凄い物であったが。 「ルドルフさんこそメイド姿のリリア後ろに乗せて凄かったですよ」 「そうか?」 鳴海の言っている事が分かっているのか。ルドルフは何処か嬉しそうな顔だった。 何せメイド姿の女性をヘルメット無しで疾走しているのだ。注目を浴びない筈もなく、対向車線側の運転手達も何人かは目を見開き見ていたのを鳴海は確認している。 だが、そんな事を確認している鳴海は自分の動体視力が上がっている事に気付いていないのだろう。 そして鳴海とルドルフは苦笑し合いながら目的地の建物を見上げた。 何処か寂れ切った姿が似合うのはデザインのせいもあるのだろう。しかし、やはりお世辞にも綺麗な場所とは言えない建物。 壁にはスプレーの落書きが乱雑に画かれている物の、高架下や他の場所のそれとは何処か違う物を鳴海は感じ取る。 それは一言で表すならば脈動感に溢れていると言うのだろう。カラフルに彩られた現代版の壁画と言ってもおかしくない物である。 「ここ、は?」 「ランディの経営しとるっちゅうか、住んどる孤児院兼教会や」 「教会・・・ですか」 だが、鳴海の思った事ももっともな事だろう。鳴海の頭の中に画いていた教会と言うイメージは清潔感に溢れる反面、何処か寂しげな雰囲気がある場所。 静けさが辺りに漂い、そして中からはパイプオルガンが聞こえてくる様な物を想像していたのだ。 しかし、ここはどちらかと言えばやはり孤児院の色が強いのか。建物の中から聞こえてくるのは奏でられた旋律ではなく異国の言葉で喋る子供の遊ぶ声。 そして建物を取り巻いているのは儚い寂しさではなく、生活していると言う、何処か学校の様なイメージがあった。 そして漸くと言った所か、バイクと車の音を聞きつけたのだろう。大きなドアを開き数人の子供達が出てきた。 下は五歳児から13歳ほどの女の子までだろうか。目の色も肌の色もそれぞれ同一の物がない子供達。そして鳴海の予想とは裏腹に群がられた相手はルドルフだった。 だが、そこから先、鳴海は子供達とルドルフが何を言っているのか皆目検討が着かなかった。 何せ一人一人、全く言葉が違うのである。しかし英語、仏語、中国語、独語など、言葉が行き交っているにも関わらず、ルドルフはそれに同じ言葉で対応しているのだ。 それに鳴海が感嘆するのは当たり前の事なのだろう。 そんな子供達に質問責めに合いながらルドルフが誰かの名前なのか。何故か少し怯えながら子供達に何かを訪ねる。 そして子供達の視線が一点に集まった先は半開きになったドア。その向こう側に立っていたのは何故か怒っている風に見える女の子だった。 歳の頃なら鳴海とさほど変わらないのだろうか。肌の色が褐色にも関わらず顔の形は黒人系ではなく白人系か黄色人種で目は灰色。 ワンピースにエプロン姿、手が濡れ光り泡が着いている所から察するに洗濯でもしていたのだろう。 そしてどこから取り出したのか。いきなり手に持った「おたま」をルドルフに投げつけ言い放つ。 「帰るんなら連絡くらいしなさいって何度言ったら分かるのっ!」 ぱこーん、と言う小気味よい音はルドルフの額にお玉が命中した為。それに対して文句でも言おうとルドルフは少し怒った顔になったが、あわてて手を合わせ 媚びる様に言い返す。 「す、すまんて。せやさかいに鍋は勘弁したってーなっ!!」 「人数分作る身にもなってよね。今度約束破ったらご飯あげないから。いい?」 「わ、分かってまんがな・・・・って、その包丁なんやねんっ!」 「料理してる途中だったのよ。これもどうせなら額に欲しい?」 「無茶言うなっ! んなもん喰ろうたら死んでしまうわっ!!」 「そう? お兄ちゃんならけろっとしてそうだけどね」 「お前はなんや? わいの事そこらのゾンビか何かと思ってんのか?」 「え? 違ったっけ?」 その言葉はにやりとした笑みと共に出てきている辺り、からかい合って遊んでいるのだろう。 ルドルフも何処か楽しげに話している風に鳴海には見えていた。最も、本人の本心などは全く分からないが。 それでも何より、周りの子供達がそれを聞いて笑っているだけで十分なのかもしれなかった。 「とにかくお兄ちゃんはみんなの面倒は頼むよ。あ、リリアさん達は中に入ってちょっと待ってて下さい。ちょっと料理の途中なんで」 「げ、勘弁したってーな。わい怪我人なんやで?」 「文句ある訳・・・?」 「・・・・・・・・・・・包丁翳して言うなんて絶対卑怯や」 「分かれば宜しい」 「ほなナルミ。わいちょっと子供らの相手してっからなー。あーもう・・・少しは休ませぃっちゅうねん」 しかしそう言っても本心は嫌がって居ないのだろう。 ルドルフはそのまま子供達を連れて街へと繰り出して行き、少女はそのまま中へと忙しそうに駆け戻って行く。 そんな二人を見て、鳴海は平和だなと思いながら建物の中へと入った。 「相変わらず散らかってんね、ここはさ」 そして部屋に入って早々、アイリーンが漏らした不満は最もだろう。部屋の中は子供部屋と言うに相応しい散らかりようだった。 所構わず散乱している積み木や玩具。壁には無数もの新旧入り交じらせてあるのだろう落書きは子供の描いた物だと分かる解読不可能な物から 感嘆の声を上げる物まである。しかしその中に一つの絵に鳴海は一瞬見とれてしまった。 大きな鷹を画いた物なのであろう。とにかく壁一面に描かれたそこだけは、その絵以外全く描かれず一枚の肖像画の様にさえ見えたのだ。 しかし、よく見てみればそれは赤いスプレーだけ画かれている物であるのだ。それでも今にも動き出しそうな絵の迫力は消されないのか。 鳴海はそれを見ながら本心で凄いと思っていた。 「それ、ルドルフの描いた物よ」 「ルドルフさんて・・・凄いんですね。どういう絵が良いのか俺には分かりませんけど、初めて凄いと思いましたよ。絵を」 「絵の世界じゃ結構有名見たいよ。ま、本人にやる気が無いんじゃどうしようも無いけどね」 何処か悲観的に物を語るアイリーンだったが、声の質と視線は絵を見ながら何かを感じているのだろう。 そして表情は何度もこの絵を見てきたのだろうが、何度見ても飽きない、と言う表情をしていた。 しかし、絵に見とれすぎて周りを見ていなかったのだろう。だから鳴海はその存在に気付かなかったのだ。 そしてその人物はゆっくりと鳴海の背後から歩み寄り、何処か子供じみた笑みを浮かべながら鳴海の背中から声を叩いた。 「わっ!!」 「きゃっ!?」 だがその人物は予想もしなかった鳴海の行動で逆に驚いてしまう結果になる。そしてその人物は不満声を上げながら鳴海に言う。 「吃驚するだろうが。いきなりそんな声出してからに」 「ね、姉ちゃん・・・こんな子供じみた事して楽しいの?」 「ガキのあんたに言われる筋合いはないね」 やってから後悔したと言う証拠だろう。その不機嫌かつ何処か調子の悪い顔は。しかし振り向きざまに鳴海が見た姉の顔は 十字に包帯が巻かれてあり、鳴海の顔色はみるみる青くなっていく。 「どうしたのさそれ!?」 そうして姉の肩を掴んで叫びながら言ったが、怪我をしているのであろう本人はさほど気にした風もなく簡単に言い返してみせる。 「相変わらず鈍い所まで同じとは、あんたそれでも試験受かった訳?」 「そうじゃなくて!!」 「バッテン傷付けられただけよ。そんな驚く事ないでしょ?」 「そ、うだけど・・・」 しかし、意外な麗の態度に鳴海は拍子抜けしたのか、それとも心配して損をしたと言う顔なのか。複雑な表情をしながら黙っていたが、 わなわなと震える姉を見、また心配して声を掛けようとした。だが、案外その心配も要らぬお世話だったらしい。 「絶対あのデュラハンはブッ殺してやるよ。この麗様を侮辱しやがった男は誰だろうと許さないから・・・」 「ね、姉ちゃん?」 「アーマーキラーであんな鎧、バターの様にブッた斬って土手っ腹に銃弾ぶち込んで目にもの見せてくれるわ・・・フフフフ」 「・・・・・」 何処で道を間違えたのだろうか。いや、もとよりこんな性格だったのかもしれない。 等とかなり親不孝ならず姉不幸な考えを頭でまとめ上げ、鳴海は麗の事は取りあえず無視する事にする。 しかしその裏で考えていた事はどういう経緯でその傷を付けられたのかは分からないが、 こうして不気味な笑みを浮かべている姉よりもその様子を見て苦笑しながら現れた達也に話を聞いた方が良いだろう、と判断した上での事だ。 「姉ちゃんの事はまぁ、大体分かりました。で、今の状況はどうなんです?」 そして鳴海の堂々とした口調に達也も少しは驚いたのだろう。その反面で喜びを表すと同時に言ってみせる。 「正直芳しくないと言えるね。相手が一人じゃなく二人だったって事もあるし、どうします、ボス?」 「?」 しかし、呼ばれた事に気付かない鳴海はきょろきょろと辺りを見回し「ボス」と言う名前の人物でも探しているのだろう。 そんな様子を見ながら達也は苦笑を更に強めた。 「君の事だよ」 「俺が、ですか?」 「そう。生きて此処に居るって事は試験受かったんだろ? ま、実感が無いのは仕方ない、か」 そして相変わらずの苦笑を浮かべながら部屋の奥へと案内して行く。ちなみに麗は自分の状況に気付いて居ないのか。 仕方なさそうに溜息を吐いた信長に引っ張られながら着いてきていた。 「じゃ、紹介するよ」 そうして部屋の中で待っていたのは「熊」と言う一言がいきなり頭の中に浮かぶ様なイメージの人物。 黒をベースとした衣服を纏い、その顔も真っ黒な髭と髪の毛に覆われているのだからそれも致し方のない事。 そして顔にあった表情は何処か優しさの滲み出ている物だった。 「彼がランディ。僕らは神父とか呼んでる人物だよ」 「これから宜しく頼むよ」 「あ、こちらこそヨロシクお願いします」 低い声も背格好と似合いぴったりだと思った所で、鳴海はルドルフの言っていた「毛むくじゃらのおっさん」と言う言葉が頭に浮かび、咳払いしてそれをうち消した。 流石に初対面で笑い出す程鳴海も礼節を知らない訳ではないのだ。だが、何故かそれを見抜かれていたらしい。握手を求めながら一言。 「毛むくじゃらのおっさんでも熊でも好きな様に呼んでくれたまえ」 「す、すみません」 屈託のない、年齢を感じさせる笑みを浮かべながらそう言われれば何も言う事はないのだろう。差し出された大きな手を握り返しながら鳴海は呑気に 「サンタクロースでも良いかな?」と考えるのだった。 部屋の中には机が一つと、多分HUNTERの人数分の椅子なのだろう。机もそれに見合う程の大きさがある。 その上に広げられているのは真っ白いテーブルクロスと中身の入った幾つかのコーヒーカップとフランスパンが少々。 その様子を見れば朝食でも取っていたのかと疑問に思う所だが残念ながら時間は既に夕刻に差し掛かりそんな時間ではない。 だがその鳴海の疑問に答える様、椅子に座る様ランディは良いながら説明してくれた。 「朝、君が暴走したって聞いたもんだから出っぱなしでね。朝食を食べ損ねたんだよ」 「本当にすみませんでした・・・。俺が未熟なばっかりに」 「いやいや、気にしなくて良いよ。これから私たちのボスになって貰うんだ。そっちの方でしっかりしてくれれば文句は無いよ」 「はい、頑張ります」 「じゃ、タツヤ。私の事は気にしないで状況説明を頼むよ」 そして格好の割にパンを千切って食べる、と言うランディの少々滑稽な、そして板に付いたその姿を見ながら話は始まった。 「まず、ルドルフと別れた僕らは敵と遭遇。そこで相手が二人だったって事を知ったんだ。 そしてデュラハンに吸血鬼が混ざっていると思っていた予想が外れて、本当はデュラハンとダンピール(吸血鬼)の死霊使い(ネクロマンサー) って事が分かってね。僕と麗とランディの三人で何とか逃げ切ったんだけど、まぁ、麗には悪い事をしたと思ってる」 「別に良いわよ。元々自業自得な訳だし、自分の始末くらい自分で付けるわ」 「そう言ってくれると助かるよ。で、そっちはどうだったんだい?」 「えっと・・・。俺らは、って言うか、俺はそのネクロマンサーの操る鬼と戦ってました。結果的に勝てましたけど、正直納得出来ませんよ、あんな勝ち方」 「それは君の胸にしまう事だよ。で、何種類居たんだい?」 「ゾンビ見たいなのと、三つ頭の黒い犬、ですか? 後はマネキン人形でした」 「ふぅ、む・・・。ケルベロスまで居たのか・・・」 そして達也は考え込む様に腕を組む。それがしばらく続きそうだと判断したのか。既に食事を終えたランディが部屋の中にある本棚から一冊の本を取りだし、 鳴海に見せてやった。 「これは?」 「ルドルフが今まで戦った相手の姿を書き留めた物だよ。世界中の色んなH2の形が描かれているんだ」 そして丁度、達也が悩み考える結果となった三頭の黒犬、通称地獄の番犬とも呼ばれるケルベロスの描かれたページを開いて見せる。 そこに描かれていた絵も先ほど見た大きな鷹の絵と同じく、克明に記された絵と言うより、もはや写真と言える様な物だった。 それを見ながらまた驚いていた物の、その際にその前のページの絵が気になったのか。鳴海は頁を戻して指さしながら呟いた。 「これ、が、デュラハン、ですか?」 「そうだけど。どうかしたのかい?」 「いや・・・最初に俺が暴走しちゃった時に見た相手、こんな姿してなかったから少し気になって」 そして鳴海まで考え込む様に腕を組む。しかし、その言葉が達也の頭の中の疑問でもうち払ったのだろう。 様子を伺うようにして静かに訪ねる。 「じゃ、その相手がどんな姿してたか覚えてるかい?」 「まぁ、一応、ですけど・・・」 「じゃあこの本の中にそれと似た奴は居るかい?」 「探して見ます」 そしてランディから本を受け取った鳴海は流し見しながらどんどん頁を捲って行き、やがてそれが見付かったのだろう。 そのページを開き本を机の上に乗せるが、鳴海の開いたページを見た途端信長が声を荒げた。 「龍人族だと!? 冗談じゃない!!」 「信長、文句垂れたって仕方ないわよ。腹括るしかないわ」 「麗、簡単に言うのはお前が龍人族を知らないからだ!! 奴らが本気になればたった一人でこの国の全軍隊にも匹敵する力を持っているんだぞ!?」 「五月蠅いわね!!」 「・・・・」 「分かってるわよそんな事位。でも、文句言ったって相手が変わってくれる訳じゃないの。どうやって倒すかが問題でしょ?」 「それこそ無理な話だ」 鳴海の情報を聞いた故に自分の不安が的中したと落胆していた達也は漸く覚悟を決めたのだろう。 二人を制して事情の今一分からない鳴海に説明してやった。 「龍人族って言うのは、まぁ、ARCと似たりよったりでね。その絵の通り、少し身体に鱗があるからそう呼ばれているんだけど、 H2の、って言うより我々の敵の中で固有名詞、DESTRUCTION REMAIN CREATURE(ディストラクション・リマイン・クリエイチャー) 、通称DRC(ダーク)なんて呼ばれてる連中だんだよ」 「それだけ強いって事ですか?」 「いやいや、強いなんてもんじゃあないさ。過去に龍人族が我々HUNTERと関わった事はこの二千年の間に数える程しかないと言われている。 その中で最古の龍人族が現れた時代は紀元前だと言われていてね、人間以前の知的生命体なんだよ。アステカやマヤは現にあった文明だけど それの元を作ったのが彼ら龍人族でね、HUNTERの間で一番有名なのはあのアトランティス大陸なんて偶像の産物が実際にあったって言う記録があったんだ。 でないとバベルの塔なんて物はあのころの人間には創れなかった。 そしてその本を描いたルドルフが出逢った事さえ奇跡に近いんだ。異星人や異世界の住人なんて説もあるくらいだからね。 その上その強さときたらけた外れどころかディストラクションの名前の通り、二人か三人でハルマゲドン級の大破壊を起こす事が出来るんだ。 何せ恐竜を滅ぼしたのだって彼らなんて話しもある位だからね」 「ほへぇー・・・・・」 しかし、鳴海にとってまるで御伽話の様な現実の話は頭で理解出来なかった様子で、ただ驚きの声を上げるしかないのだろう。 呑気と言えば呑気。鈍いと言えば鈍いと言った所か。だが、達也はその反応を見て先代よりも上手く自分たちをまとめ上げられる人物なのかもしれないとも思っている。 「で、そんな奴が相手でどうやって戦うんです?」 「それを相談してるんだろうが!!」 だが、やっぱりとんでもない人物に命を預けているのかもしれないと、麗に突っ込まれながら苦笑している鳴海を見て達也は少しだけ頭痛を感じた。 そして信長が希望を絶つ様な言葉を吐き、達也の頭痛は更に酷くなる。 「奴らを倒すなんて無理さ。不老不死の奴らを殺す事の出来る奴なんて居やしない」 「それは事実だけどね・・・。けど」 「けどなんだ? 達也。奴らの不老不死は曖昧な表現じゃなく歴とした事実なんだぞ? 細胞だろうが分子の粒まで全部消し去ったって奴らは甦る事が出来る。 それはお前ら「人間」より俺達の方が良く知ってる事だぜ」 その言葉は信長の過去に何らかの関係があるのか。それとも人狼としての記憶がそう言わせるのかは分からない。 しかし、それが事実だと言う事は信長の殺気の籠もった様な表情からも分かる。 その時、タイミングを見計らった様にドアが開き、ルドルフが姿を見せる。だが一人ではなくティナに支えられての格好。 その姿はまるでぼろ雑巾の様になっている。そしてルドルフの言葉を代弁するよう、ティナが口を開いた。 「Sorry、一人連れ去られたヨ・・・」 「!!」 それにいち早く反応したのはランディではなくリリアだった。表情は見る見る青ざめ、今にも飛び出して行きそうな雰囲気である。 だが、その腕をしっかりと掴みそうさせないようにしていたランディがティナに訪ねる。 「ティナ、連れ去ったのは誰だい?」 「デュラハンだよ・・・。ルドルフは不意を付かれて、私じゃ何にも出来ないし・・・・」 そして崩れ落ちそうになるティナの表情は恐怖に彩られている筈なのに、何処か歪み切っている。 「アイリーン、ティナを頼む。ルドルフは僕とリリアで何とかするよ」 「分かった。さ、ティナ、少し休もう」 ティナからルドルフを渡されたランディはアイリーンとティナに一瞥もくれずルドルフをテーブルの上へと少々乱暴に寝かせる。 その痛みに耐えられずルドルフが苦痛の声を出した時、ランディは言った。 「リリア。まだ行っちゃ駄目だよ」 「何故ですか!?」 それに珍しく声を荒げリリアは抗議する。だが、ランディの何か分からないが凄味のある表情に押され言葉を聞くしかない。 「敵が動き出したんならルドルフは貴重な戦力だ。鳴海一人で三人相手にさせる気かい? そうなれば子供だって助からないし、ルドルフが負けた相手だ。 僕らだって殺されてしまう」 「・・・・・」 感情と頭での考えが一致せず、わなわなと身体を震わせじっとそれに耐えているのか。リリアは下を俯きながらそんな様子で、やがてランディの指示に従って ルドルフの前へと立つ。 「じゃ、そっちは頼むよ」 「・・・・・はい」 そしてランディは目を閉じ瞑想をする様にし、リリアはルドルフの頭に手を置きランディと同じく目を閉じた。 「鳴海君。いや、ボス、ちょっと良いかい?」 それの邪魔にならない様にと言った所か。達也はそれから引き離す様に鳴海を半ば強引に外へと連れだす。 外は既に闇と訪れ初め、赤く染まり夕日を描き出している空があった。その中で寒さを感じながら達也は話を切りだした。 「これから言う事は多分、僕と先代のHAZARD HUNTERである鉄也さんしか知らない事だ。そして今、世界中でこの秘密は僕しか知らない事になっているんだ。 だから誰にも言わないで欲しい」 「どういう・・・」 「黙って聞いてくれ」 その時の達也の表情はまるで切羽詰まり焦りが見え始めているらしくない顔だった。だが、どうしてもそうせざるを得ないのか。 意を決した様に切り出す。 「現段階で君はHAZARD HUNTERにはなれた。それは君も分かっているね」 「は、い・・・それが?」 「だが、僕らHUNTERも龍人族の様な奴らを相手にしなきゃならない時もある。それに対抗出来る者は事実上存在しない けど、やらなきゃならない事なんだ。どうしても」 「・・・・・」 「ふふ・・・僕の悪い癖だな。自分でも嫌になるよ、この回りくどさは」 そして苦笑した達也はいつもの調子を取り戻したのか。何気ない一言でそれを告げる。 「君のご先祖さまは龍人族なんだよ」 「・・・・・はい?」 「つまり君は龍人族の末裔って事さ」 何喰わぬ顔。まさに達也はそんな顔をしながら言葉を締めくくり、そして懐から煙草を取りだし吸い始める。 それは鳴海の質問に答えられる様に心を落ち着けているのだろう。 表面上の達也の表情からはそれが伺えなかったが、鳴海には確かな変化が伺えていた。 「覚醒遺伝って言うのはそう言う訳だったんですか?」 最初の疑問はそれだけ。その上、鳴海は自分でもあまり驚いて居ないのに感嘆する程だった。 「その通り。けどそれは人間の遺伝子情報によるものであって本来龍人族は子供が残せないからね。特殊な例が重なって君はここに存在している訳さ」 「じゃあ俺なら今回の敵を倒す・・・いや、殺す事が出来る、と」 次の疑問、いや、迷いはそれ。達也はそれに複雑な表情で少し迷う様な答え方をする。 「それはどちらとも言えないな。何せ相手は純粋な龍人族だ。言い方は悪いかもしれないが、君は半端者なんだ。龍人族としても人間としてもね」 そして煙草の煙を胸一杯に吸い込み、夕闇の中に吐き出しながら付け加える。 「でも、君しか居ないんだ。何せ君は朱雀、四聖獣の末裔だからね」 その瞬間、鳴海は言葉を、疑問を返そうとしたが辺りの空気が一変した事に気付き、直ぐにそれをやった主の気配を探り当てる。 達也もそれに気付いたのだが、それは鳴海の視線が自分から離れたから気付いた事。既に自分よりも強くなった鳴海に苦笑しつつ、達也は言葉を言い放った。 「失礼じゃないかい? 人の話を立ち聞きするのは」 しかし、それに帰ってきたのは死霊と亡者のうめき声だけ。そしてゆっくりとそれは姿を現した。 「いきなりデュラハンとは豪勢なお出迎えだな」 文句とも愚痴とも分からない口調だったが、鳴海には達也が皮肉って居ると言う事だけは分かった。 馬の蹄の音と共に現れたそれは黒い首無し騎士だった。漆黒の甲冑に身を包み込み、馬もデュラハンの一部なのか。 鞍の辺りで一体化している様に見えない事もない。その上陽が完全に沈んでしまい、それがその黒い甲冑を街の光で不気味に照らし出し、 周りを取り巻く亡者達、絶えず不安定な形をしている死霊の群がまるで兵隊の様にも見える。 そして馬上の視点からこちらを見下ろしているのだろうが、首が無い故に何処を見ているのかは分からない。 「ボスはデュラハンを頼みますよ。僕にはちょっと相手が悪すぎる」 「分かりました」 どちらがボスなのかよく分からない会話を交わし、鳴海は心を尖らせ炎を纏う。しかし、一歩前に踏み出す瞬間、達也へと付け加えた。 「せめてボスって言うの止めてくれません? なんかむず痒くって」 そして言葉の変わりなのであろう、銃声と共に鳴海はコンクリートの道路に幾つもの足跡を一瞬にして穿ち相手へと到達する。 一撃目は拳で相手の甲冑に叩き込むつもりではなく、馬上から相手を引きずり降ろす為に不気味な目の輝きを放つ馬を攻撃するつもりだった。 だが、それを遮るのは幾つもの亡霊。妙な拳の感覚、まるで衝撃を無理矢理殺された様な感覚が腕全体に走ったかと思えば目の前に見えたのは一本の槍(スピア)。 突くためだけに作られたそれは正確に鳴海の心臓を狙い、鳴海はそれを寸前の所で避ける。だが、胸に走る衝撃はそのスピアによって出来た物ではなく、 まるで拳撃でも喰らったかの様に吹っ飛ばされる。 「!?」 無論、何が起こったかなど今の鳴海には分からない。ただ、状況判断で分かるのは馬の蹄の音と共にデュラハンがまた、自分の方にスピアを向け迫り来る事。 その上それは地に足を着ける前なのだ。吹っ飛ばされる途中で後ろに迫る建物を見た時、鳴海は一瞬の判断で壁に到達する前に中空で 方向転換し、激突した瞬間に脚を踏み込む。 ガキャッ!! そして踏み込んだ瞬間、鳴海の壁を踏み込む音とデュラハンのスピアの音が重なりデュラハンは鳴海ではなく壁を穿つ。 あればの話しだが鳴海の姿はその時デュラハンの視界から完全に消失した筈だ。そこを狙い、鳴海は壁と平行に飛んでいる自分をもう一度下に降ろす為に 再び壁を蹴り速さを増しながらデュラハンへと向かう炎となる。だが、また身体に重みが掛かり、鳴海の拳がデュラハンに届く寸前に衝撃に襲われ吹っ飛ばされた。 『なんだって言うんだ・・・!!』 いきなりの衝撃、それも壁側から来たが故に鳴海は驚き今度はきっちりと向かい側の建物に激突する。 当たる瞬間に身を翻していなければ頭をやられていたのであろう衝撃は背中に走り、鳴海の身体中の痛みを増させた。 最初の衝撃は相手が造り出した物だと思っていた。避けきれなかったが故に、スピアの切っ先から何かを生み出しそれをぶつけられたと思っていた。 だが、二回目は確実に避けた筈であり攻撃は相手側からではなく逆の方向から来たのだ。それはまるで自分の身体に爆弾でも仕掛けられた様な気分。 鳴海は地に降り立ったと同時に口の中に堪った血を吐き出しながら相手を見据えその秘密を探ろうとする。 しかし、身体にまとわりついた亡霊の群は枷となり鳴海の動きを封じているのだ。 『うざいなくそっ!』 珍しく心の中で悪態を付き、表面では舌打ちする。何がなんだかなど分かるはずもないのだから仕方がないのだろう。 だが再びデュラハンが迫るのを見た時、鳴海は避ければ良いのか飛べば良いのか迷ってしまう。そのタイムラグが鳴海の命を縮める事になるのは明白なのだが、 どちらにしろ攻撃を喰らってしまうのならばどちらでも同じなのだ。そしてデュラハンが鳴海の10メートル手前まで来た時、いきなり馬上のデュラハンが上へと 飛び上がり同時に乗っていた馬は紫色をした何かに包まれ一瞬にして灰となり、その後そこにあったのは鈴のような音を放つ錫杖。そして怒号が聞こえた。 「ナルミ、そいつは俺様の獲物や!! 勝手に取るなボケェ!!!」 「る、ルドルフさん?」 そこに居たのは思惑通り、そして予想と少し違うルドルフだった。 錫杖が飛んできた時にルドルフだと言う事は分かっていた。だがまさか紫のオーラを放ち陽気な顔ではなく殺気立ち、デュラハンにそれを向けているのだろうが それだけで空気の質を変えてしまう程の殺気、いや、怒気を放っているとは予想もしなかったのだ。そしてルドルフはゆっくりと歩み寄りながら言葉を放った。 「よーもやりよったなこの腐れ外道が。家のガキどこにやりよった? ちゃーんと言うたら命だけは助けたるで早う吐いてまえや」 その一言一言に覇気とも言える物を込め、相手へと攻撃している様に鳴海には見えた。何せそれだけで先ほどまで無言で自分を襲っていた デュラハンが一歩も動かずまるで震えている様に見えるのだ。そしてその事によって鳴海の頭は冷静になり、亡者共の群が自分ではなく リリア達が居る建物へと向かうのを見て達也にそちらは任したと顔で合図する。しかしそんなやり取りを知らないルドルフは漸く自分の武器を再び手に納め、 デュラハンとの距離が手の届く所まで来た時、錫杖を喉の辺りに向け脅すようにもう一度言った。 「どないする? 言うて命助かるか言わんと消滅するか」 それは無理難題だろう、と鳴海は心の中で毒づいた。 何せ相手はデュラハン、首無し騎士と言われるだけあって口が無いのだ。そんな身体で喋れと言う方が俄然無理であろう。 多分それを分かっているからルドルフはそう言っているのだと分かった時、ルドルフの周りを取り巻き始めた亡霊の姿を見鳴海は叫ぼうとする。 だが、その亡霊達がルドルフの身体へと到達する瞬間、その全てが爆ぜて飛んでいるのを目の辺りにし、鳴海は正直驚いた。 そして同時にこの場にいる三人以外で驚きを表す気配を感じた時、鳴海はそちらの方を見て顔を顰める。 「・・・・ホント、腐ってやがる」 その方向に居たのは両手で印を組み、多分亡霊を操っているのだろう、死霊使い(ネクロマンサー)の姿があった。 だがその姿はまさに想像通りと言う、亡者の肌色を少し良くし司祭の様な格好をした者が立っていたのだ。しかし鳴海が顔を顰めたのはそれを見てではなく、 胸の辺りに同化させられているのか。子供の姿を見た時にそう感じたのだ。そしてルドルフはもう一度言葉を吐く。しかしそれは敵にではなく鳴海にだった。 「ナルミ」 「・・・・はい?」 「家の方頼むわ。こっちは俺一人で何とかするさかいに」 「でも」 「早う行け!!!」 「は、はい!!」 そしてまるで脅されたかの様に鳴海はこの場を離れ、亡者達が群がる建物へと走り抜ける。 だがその時、鳴海は自分の枷となっている亡霊が消滅した事に気付いていないのだろう。しかしそれに気付いたネクロマンサーは怯える声を隠そうともせずに言う。 「き、貴様は何者だ・・・」 それにルドルフは殺気めいた笑みを見せながら言う。 「俺様はオッドアイ・ザ・ルシファー(色違いの目をした魔王)や」 その瞬間、デュラハンとネクロマンサーの身体は凍り付いた様に固まり、そして目の前に居るそれが自分たちの触れてはならない領域だと言う事に気付く。 だが、時既に遅しと言った所か。ルドルフ、いや、魔王は何処か楽しげに言って見せた。 「ほんまもんの恐怖をお前らの魂に刻んだるわ。鳴海を操り家のガキを人質に取ってんねん。今回は特別2倍にしといたる」 その後、魔王のまさに魔力によってデュラハンとネクロマンサーとなった元人間は瞬時に知る事になる。 どんな身体の苦痛よりも、魂をじわじわと嬲り滅ぼされるのがどんな感覚なのかを。 最も、それを伝える方法を彼らは未来永劫得る事はなくなってしまうが。 |