「くそっ! 邪魔だ!!!」

 炎を形とし、相手へと何度も何度も喰らわせる。ただ、それの繰り返しだけで目の前の亡者は灰へと帰して行く。 しかし、鳴海の悪態通り邪魔になっている事は明白。何せどこから湧いてくるのかと言う程の数が犇めいているのだ。 達也が建物に入った時よりも更にその数は増し、そして勘違いなのか。少し強くなっている気もする。 最もそれは耐久力が上がったと言う事であり、一体を倒す時間が掛かると言うだけ。だがその時間が掛かると言う事実が鳴海の心を掻き乱しているのだ。

「退け!!!!」

 思いっきり炎を身体に纏わせそれを敵の中心へと放ち一時はそれだけで凌ぐ。それで亡者の大半は燃やし尽くしたが 鳴海は自分が倒している亡者の他に幾つもの殺気を込めた視線を背中に感じ、身構える。その方向、反対側の建物の屋上に居るのは何体もの翌龍(ワイバーン)達。 そしてその真ん中に居る人物を見た時、鳴海は覚悟を決めた。




































FILE007 [ D R A G O O N : P R O G R A M ]



































 龍人族、と言うにはそれはあまりにも人間に近い姿をしていた。

 漆黒のコートに身を包み、まるで映画俳優にも見えない事もない容姿をし、そしてやはり龍人族なのだと分かるのは背中から生えた翼があるせいだろうか。 悪魔の様なコートと同じ闇色の翼がそこにはあった。その上見上げたその方向は夜を変える異質の何かがある様な雰囲気を感じてならない。

「貴様か? 我らの血を汚す者は」

 声質は何処か掠れているせいか。よく聞き取れない筈。だが、ハッキリと耳ではなく心に刻まれたそれはそれだけで恐怖の対象となる力を持っている。 だが、それでも鳴海は声を放ちその恐怖に打ち勝つ物を心へと宿す。

「さぁね。自分の事まだよく知らないからさ」

 だが言ってから鳴海は後悔する。口の中はからからに渇き、心に宿した筈の勇気はそれを上回る恐怖に圧倒され一瞬にして消し飛んでしまったのだ。 脚はがたがたと震え、立っているのもやっとと言う所。それを見抜かれぬ様、視線だけはしっかりと相手の双眸を捕らえていたのだが、やはり実力の違いと言う所か。 相手は嘲笑うかのように言い放つ。

「子供、と言う訳か。ならここから立ち去れ。そうすれば命くらいは助けてやる」

 それにつられ周りのワイバーンも不気味な声で笑い出す。そしてその中の一匹が我慢しきれなくなったのだろう。 鳴海の方へと動いたと思った瞬間、鳴海は胸に焼けるような痛みを感じ前へとしゃがみ込む。

『何時の間に・・・!?』

 手で押さえた胸には翌龍の爪が作った傷だろう。血が止めどなく流れ出し痛みも頭へと断続的に送り込む。そして鳴海はその発狂してしまいそうな痛みに耐えながら 言い返し炎を放つ。

「巫山戯るな!!」

ゴウゥッ!!!

 炎が空を一瞬赤らめ、そしてその直線上に居た翌龍一匹は消し飛び灰へと帰す。だが次の瞬間、鳴海は激痛を肩に覚え瞬きした時、 周りの風景は一瞬にして変わっていた。

 痛みと共に現れた風景はまるで下に広がる街が星をちりばめた様になっている光景。そして上空何メートルかと頭に思い描き恐怖する瞬間声が聞こえる。

「人間ゴトキガ我ラノ主ニ楯突コウトハ片腹痛イワ!!」

 自分を掴み空へとやった翌龍の言葉と共に、鳴海は眼下に迫る大地が近づき鳴海は息を飲む。 だが地面に衝突する瞬間、自分の身体を何かが支えてくれた事に気付き、そのクッションは「ぐえっ」と蛙の潰れた声で鳴海を出迎える。

「少しはHAZARD HUNTERの自覚持って」

 そして声の主の姿を見た時、鳴海は半分安堵の溜息をもらしたが、その反面でそれが良い事なのか決めかねていた。 しかしそんな心境など構っていられないのだろう。背中に居る鳴海を振り落とし、鳴海を助けたクッション、信長は早口に捲し立てた。

「ここであんな奴と戦えばこの街が灰になっちまうぜ。向こうの方でやってくれるか?」

 信長がそう言って顎で差した方向は東の空。だが、どうやってそこまで行けば良いのかなど、そしてそれに相手が上手く乗ってくるかなど鳴海に分かる筈もない。 その上胸と肩の傷が痛みを伝え、それが新たな恐怖を鳴海の中に生み出し、彼の力を弱めるのだろう。既に彼の周りを覆っていた朱い炎は風と共に消し飛び、 彼はその思いを言葉にしてしまう。

「な、なんで俺が・・・」

 だがその瞬間、彼は腹に鈍痛を伴う衝撃を受けその場に蹲った。

 無論、何が起こったかなど分かる筈もないだろう。

 いや、何が起こったのか、彼は知っている筈だった。そしてそれを認めたくないだけだった。

「信長・・・なんで」

 そこに居たのは一匹の銀狼。そして自分の敵となった、一番の親友だった。

 何を思っているのか。その殺気を込めた表情からは読みとれない。だが、その殺気だけで何となく何を考えているかは分かる。

「お前こそ巫山戯るなよ」

「貴様ガダ!!」

 迫り来る翌龍さえ、今の信長に取ってただの敵でしか、そして雑魚でしか無いのだろう。闇の一閃を越えた彼女の姿は銀の輝きとなりその場に留まっているだけ。 だが、それだけで何をしたのか分からぬ程速く動いたのだろう。ワイバーンの翼や身体から無数の血飛沫が飛び、悲鳴を上げる事も出来ず翌龍は絶命する。 それが合図となり、次々と翌龍達の群が信長へと襲いかかるが、信長の姿はそこにあるまま鳴海へと言い放った。

「その言葉を言って良い奴はこの世界の何処にも居ないんだぜ」

 奇声の様なうなり声を上げ、ワイバーン達は信長へと迫っている筈だった。だが信長に近づきある一定の距離に来た時、彼女の周りにまるで何か、そう、罠が ある様にワイバーン達はそれに掛かってゆく。そして返り血を浴びている筈なのに、その血は信長に付着する瞬間、煌めきとなり彼女の周りを彩る星屑となっていた。

「自分に出来る事ならやらなきゃ死ぬんだよ」

 そして信長の姿が初めて掻き消えた。

「何処ニ行キヤガッタ!?」

 相手にもその姿は捉えられないのだろう。ただ、辺りにあるのは信長の足音であろう、ガラスを割るような音とそして粉雪の様な返り血。 それが一瞬にして雪景色を作り上げ、辺りの空気を冷たくする。そして次々とワイバーン達は屍と化し、そこから姿を現した、狼ではなく 人の姿へとその身を変えた信長は続けた。

「そんな弱音を吐くんなら死んでしまえ。目障りだ」

 そして突き放された瞬間、彼は漸く自分が何を言ったのかを悟る。

 誰かに守られてきただけの人生。

 流れのままに身を任しそして言われるままに生きてきただけなのだろう。

 いつも誰かに頼り、そしてただ生きる屍と化しているだけ。

 それを変えなければならないと分かっている筈なのに、実行出来ない自分。

 それが本当の弱さであり、だからこそ強くなろうと思ったのだ。

 殺されても自分に礼を言い、賞賛してくれた鬼を倒した時もそう。あの時とて、彼はそれに納得出来ずにそれをやった相手を倒す為に強くなろうと思ったのだ。 誇りを持って生きていた者を汚す奴らを許せないから。

 そしてそれは自分が昔、出逢っていたリリアを守る為にそうなろうと覚悟を決めた筈なのだ。龍人族を見た瞬間、そう思い覚悟を決めた筈なのだ。

『情けない・・・って、こう言う事なんだろうな』

 我ながら楽天的とも呑気とも思える台詞を胸中で囁き、鳴海は口元で笑った。

 出来るか出来ないか等、そしてそれが出来る保証など何処にも無いのだ。一般社会の中で生きてきた彼の中にその常識があったから悩んだとも言えるだろう。 だが、今の彼にはこう言える。

「あんたを倒して守ってみせるさ。俺の守りたい物、そして守りたい人全て」

 そしてそれに応える様、彼の身体は炎へと包まれる。

 それは彼の勇気でも想いでもなく、本当の強さと言う何者にも変わらない物を具現化したと言う現れ。 そして炎の中から姿を現した鳴海は朱い衣を纏った勇士だった。

「信長」

「ああん?」

 多少苛ついている部分が残っていたのだろう。信長の表情も言葉にも刺があった。しかしそれは鳴海に対してではなく、迫ってきたワイバーンを鬱陶しく感じ出た 言葉。そして鳴海の姿を見た時、信長は溜息を吐くようにして言って見せた。

「こっちゃ任せろ」

 それに頷き応えた鳴海は敵を、ただ一点を見据え一筋の線となり空へと消える。そしてその場に居た筈の龍人族の男も姿をかき消し、 図形を画くようにしてその線は空間に投影されている様に見えた。そんな中、信長は戦いを終えたのでだろう、ルドルフの姿を見、言ってみせる。

「もうかってまっか? 二つ色の魔王さん」

「ぼちぼちでんな。ま、そいつ終わらしたら仕舞いやさかいに気張るでー」

「呑気過ぎだお前は」

「そう言う信長かて顔にやけとるやん」

「余計なお世話だ」

 そう言った会話が出来る仲間が、いや、戦友が出来て信長は心底嬉しいと思い笑顔を浮かべ、その方向を見る。 ルドルフも想いは同じなのであろう。だが、少しだけ悪態を付いて見せた。

「結界張って住民出さへんよーにしたしゴシップネタで今回の事終わるやろけどなぁ・・・あれ、残業手当付くんやろか」

 そして見上げた空には一面を覆い尽くす程の翌龍の群が居た。龍人族が呼び寄せていたと言う事は明白であり、正直無傷で勝てるとは想いもしない。

 だが、それ以外自分に出来る事はなく、今、やらなければならない驚異なのだ。そして目の前の現実を見、信長は苦笑しながら言った。

「一騎当千、か」

「なんやそれ?」

「一人で千人分の力があるって事だ」

 そしてルドルフは、いや、魔王と化したルシファーと名乗る男は言って見せた。

「千人分だろうが一万人分だろうが俺らなら出来るやろ?」

 その瞬間、信長はその身に銀色のオーラではなく闇を纏い、その姿を漆黒に染め上げる。

 それが彼女の血の流れがそうさせるのではなく、彼女が手に入れた強さがそうさせるのだ。そしてそれは一度は捨てた力であり、鳴海と出会う前の話し。

「カッコええやんそれ」

 多分、そのことを分かった上でそう言えるのだろう。ルドルフも同じく何かの過去を背負い魔王を名乗るのだから。

 しかし、それが分かった所で信長は言わずにはいられないのだろう。

「デリカシーって言葉知ってるか、お前」

「なんやその不機嫌そうな顔は」

 そして二人は戦場に不似合いな笑みを顔で画きながら空へと舞い上がった。







 一瞬にして場所を移し、眼下に広がるのは暗闇を纏った海。街の光は遙か彼方に見えるだけで、ここが空の上だと言う事は嫌でも知らされる事。 だが、そんな事よりも鳴海にとって目の前に存在し、自分が対峙している相手の方が何よりも強く感じられていた。

 完璧に龍人族としての血を目覚めさせられたのは心に画いた仲間達の顔があったからだと、鳴海は思う。 そしてそれを守る為ならば、同じ場所で生きる為ならば命など惜しくないと感じられるのも正直な所。 だが、明白な実力がそれで埋まるはずもなく、勝てる自信など毛頭なかった。

 心の強さを持てば良いと言う訳ではないと言う事だろう。強さとは何か、と言う疑問が頭に浮かび、鳴海の中では答えが既に出ている。 だが、それは何よりも簡単で難しい事だった。

『同時に二つを存在させる事・・・か』

 心の強さがあっても、実力が伴わなければ意味は成さない。例えその逆であっても同じ事。力だけでは何の意味も無いただの暴君になってしまうだけ。 それを思った時、彼の頭の中には様々な人物の顔が浮かびそして消えて行く。その中に仲間の顔など一つもなかった。

 歴史上に登場する様々な人物達の顔を思い浮かべた時、そのどれもが片側だけではなかったのかと思ったのだ。

 唐突にその疑問が頭に浮かんだ理由は目の前に居る龍人族がその原因だった。

 パッと見は怖いや恐ろしい、と言う感想を出さずにはいられない雰囲気があるのだが、その裏で本当の目の前に居る人物の心が分かった時、 彼は自分のしている事が正しい事か悪い事なのか分からなくなってしまったのだ。

 目の前の龍人族の中にあるのは怒りだろうか。何かに自分を塗りつぶす様に彩っている風に見えない事もない。そしてそれは鳴海自身が自分の中に眠る 龍人族の血を呼び覚ましたからこそ分かる事なのだろう。そして達也の説明した、彼ら龍人族を表す名称、DRCと言う名前がそぐわない様な気がしてならないのだ。 そして一つの答えがあったからこそ、彼は言葉を紡ぎ敵に問いかける。

「貴方は・・・強さとは何だと思いますか?」

「・・・・これは珍しい。我に質問した人間などお前が初めてだな」

 そして敵は苦笑しながら鳴海に答え、言い放って見せた。

「両側を持つ。それこそ強いと言う事だ。お前の出した答えは間違っては居ない」

「・・・・・」

 心を詠まれたと言う事実に、鳴海は多少驚いた物の、その反面で納得すらしていた。

 答えを持つと言う事はそう言う事だと、心の何処かで分かっていたのかもしれない。そして自分は今、答えを出した新参者であり、敵の方は昔からそれを持っていた 者であると言う事実に少し気圧されもする。だが、敵はその殺伐とした気配を解き、鳴海を諭すように話を始めた。

「我らが戦う理由など無いと考えているな?」

 それは鳴海の本心。同じ答えを出したのならば、分かり合える筈と思ったから。

「そして止めたいとも考えている。無駄な争いと言う答えを貴殿は出したから」

 お前と言う言い方から貴殿と言う言い方に変わったのは龍人族の心境が変わったからだろう。実力が叶わなくとも、そこまで答えを持っている人物と出会った事が 無いのかもしれない。哀しみの色さえ伺えるその瞳には何が宿っているのか。そして龍人族は続ける。

「だがな、貴殿ら側にいる人間がそう言った決断さえ出せれば我らは動かなくて済むのだ。我ら龍人族と言うのは抗体と言う表現が的確かもしれん」

「俺達人間がって・・・どういう」

 その瞬間、龍人族の目には怒りが舞い戻り辺りの空に稲光を轟かせ言葉を吐き捨てる。

「貴殿ほどの人物だ。この空から下を見れば分かるであろう? この星が病んでいると言う事が」

「・・・・・・」

 言われるままに下を見た時、既に鳴海は相手の事を信用仕切っていた。それは何故か分からないが、今は分かり合えると思っていたからかもしれない。 そして話し合えば争いは避けられると考えられたからなのだ。しかし、言われ見た眼下は何処か妙な部分がある気がした。

 宇宙から取られたこの星の写真は、何度かTVのニュースや特別番組で見た事はあった。青く輝き澄んだ星と言うのは確かだと鳴海は思っていた。 だが、自分の目で見た訳ではなくそれは所詮写真であり、映像なのだ。そして現実に自分の双眸で見たそこは何かがうねり渦巻く空だった。

 何時の間に大気圏まで来ていたのかは分からない。呼吸も出来その上視界も地上に居る時と変わりはしないのだろう。 だが、そこは宇宙と星とを繋ぐ境界線であり、生身の人ならば決して辿り着けぬ場所。そして鳴海の見た青いはずの星は病んでいると言う表現が間違っていない 事を明白にする。

「これは貴殿ら人間がこの二千年、いや、三百年足らずかもしれない・・・・。たったそれだけの時でこの星を犯してしまった結果なんだぞ? これでも まだ「どうして」と聞くか?」

「・・・・・」

 何も言えない自分がそこに居た。

 多分、人間全てに目の前に居る龍人族は言いたい本音をぶつけられている事も分かっていた。そしてそれが個人に対して言った所で何の意味もない事も分かっていた。 だが、それでも言いたいと言う気持ちはひしひしと鳴海の心に伝わり、拳を握りしめるしかないのだ。

 それがどうやってそうなったのかは鳴海にも分からなかった。

 眼下に広がる空にそれが存在している事など、常識では考えられない事だろう。しかし、あくまで人間の常識であり、龍人族達に取っては当たり前の事なのだ。 その時、鳴海の頭には信長の言葉「人間の悪い癖だ」と言う物が浮かび、頭の中でそれを考え出す。

 意味は直ぐに分かり、そして鳴海は自分が人間である事に誇りが持てなくなりそうだった。

 鳴海が頭の中で出した答えの一つは人間と言う種族が片側で物事を判断するしかない馬鹿げた存在に成り下がっていると言う事実だったのだ。 ひとくくりにしか出来ないと言う事。何事も自分の納得できる言葉でしか理解しようとしない狭い考え。

 そんな考えを持ち、そして生きている人間。それを見た時、鳴海は自分が何をするべきなのか見失っていた。 そして龍人族はまだ言葉を続ける。

「人間として・・・・人間としてその考えを出してくれた貴殿には感謝する。戦う理由も無いのかも知れない」

 その言葉は明らかに哀しみ、怒りと言った負の感情を含んだ物。だが、鳴海にはその理由が分かり否定する気にもならない。 しかし龍人族の男は言った。

「だが、我は妥協する気は無い。貴殿ら人間を滅ぼさなければ我らが主であるこの星が死んでしまうからな」

「・・・でも」

「貴殿は我らを理解してくれた数少ない人物。殺したくは無い・・・引いてくれぬか」

「・・・・・」

 分かり合えると、心の何処かで思っていたのは正直な所。分かり合えた者同士、戦い以外で理解できる、否定しなくともやって行けると思っていた。

 だが、目の前の男の瞳に宿る殺気は本物であり、自分は男のやり遂げる事の邪魔になっているのだろう。

 退けと言われ、退く選択肢もあった。

 だが、鳴海は闇があり、人の肌の色をした鱗持つ龍が存在し、街の灯火が星屑の様にちりばめられた大地を見た時、前を向き言った。

「それでも・・・俺には守る物がある。守りたい人が居る。やっぱり引けない・・・・どうしても」

「そうか・・・なら、やらなければならないのだな」

 そして二人の姿は掻き消え、まさに一瞬の時の中で鳴海は悟った。

 龍人族の男は自分の事を「抗体」と称した。この星に害なす者が現れれば彼らが現れ、そしてこの星は何度も焦土と化して来たのだろう。 死の大地と化したと言われる過去の事。だが、それは必要なプロセスであり、星の上で生きる自分たちは罪その物なのかもしれない。 そしてその罪を淘汰する存在が彼らは世界を淘汰する為の龍騎兵(ドラグーン)と言うプログラムなのだ。

 彼はそれが分かった上で、あえて話す事を選び、共に分かり合える話をし、そしてあえて戦う事を選んだのだ。

 言葉通り、妥協など全くせず、自分の信じる道をただひたすらに突き進むだけ。

 そして彼らの哀しみはその突き進む道が初めから決められているのだ。

 それ故、涙を流すのだろう。自分も知らない、ただ一筋の涙を。

 衝撃が生み出す轟音も意志同士がぶつかる音も聞こえない、ただ、闇の空の中。

 鳴海は確かにそれを見、その上で自分に問いかける。

『貫けるか? この想いを』

 それは仲間を守り、自分の出来る事をやると言う、ごく自然な事。 今の鳴海に取ってどうして自分が考えなければ、戦わなければならないのかなどと言う迷いはない。

 だが、目の前に居る敵と戦う理由などやはり見付からないのだ。

 彼らはただ、自分のやるべき事を見つけられず、本能のままに、プログラムされている事を実行し、そしてそれを嘆き抗う事をしない兵なのだ。

 そして彼は選んだ。

 それでも自分の想いを貫きたかったから。

 例えどんな事をしてでも、自分の力で正しいと思う事をする為に。

「・・・・・すみません」

 そして言葉を吐いた鳴海の腕は男の胸に深々と突き刺さっている。ただ、それだけならば龍人族は滅びる事は無いのだろうが、今回だけは事情が違ったらしい。 鳴海も分かってその力を選び、その瞳からは涙が流れ落ちていた。

「謝る事など無い・・・・貴殿は選んだのだ。「それでも」と言う答えを」

 その傍らで彼はそう呟き、顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。しかし、その笑みは鳴海には見えず、その思いを伝える為に彼は最後の言葉を吐き出した。

「貴殿なら最強になれる。だが、決して間違う事の出来ない道を選んだのだ。己を貫き通せ」

 そして彼は消えゆく意識だけで鳴海の魂に直接触れ、己の名前を鳴海の心に刻みつける。

 それは罪として、そして誇りとなる様にした、彼の唯一の贈り物だった。鳴海が違えてしまえばそれは罪になり、鳴海自身を苦しめる結果となるだろう。 そして道を間違わなければ殺した事すら誇りになるのだ。

 自分と同じ思いを持ち、互いに争ったのではなく「闘った」と言う事実があるが故に。

 それによって相手を殺してしまった事を罪とする心も持たない奴らには今まで何人も出会い、彼はそれを殺して来た。その上で鳴海にこの命をやっても、 そして魂をくれてやろうと思ったのだ。

 そしてその思いはハッキリと鳴海の記憶に、心に、そして魂に刻まれ龍人族の男は大気へと姿を変え、風に飛ばされ鳴海の身を撫でて行く。

「・・・・・・・・」

 長い沈黙は自分の為にする事。

 鳴海ははもうしばらくこうして居たかった。

 どうしても、それでも、だけど、と言う言葉を自分の中に刻みつけ、永遠に消えなくする為。

 龍人族の男の記憶の中で、プログラムと言う本能の中で垣間見た何かを決して忘れなくする為に。

 そして彼はしばしの間、空の上でただ独り、そこに存在していた。

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