帰路へと就くのは遅いが、帰路の時間は一瞬だった。そこまでの力をたった一日足らずで手に入れた自分に迷い、戸惑い、揺らぎ、そう言った様々な物を覚え、 その上で間違う事の出来ない道に入ったと言う自覚は鳴海の心の中には確かにあった。

 初めてだろう。他人を殺したと言う罪悪感に苛まれているのは。あの白い岩と化す寸前だった鬼を殺した時とて、罪悪感は全くなかったのだから。 それでも尚、それを教え死んだあの龍人族には感謝し、そして裏切らぬ為に彼は自分の居るべき場所へと帰ってくる。

 待っていてくれる人が居るから。




































FILE008 [ O V E R the M A X i M U M ]



































 帰ってきて直ぐに出迎えてくれたリリア。本当に心配してくれたのだと鳴海は思い、案内されるままにベッドで眠りに就こうとした。 何よりも一週間ほどの時間をたった一日で過ごしたと言う実感はなく、疲れはたまりすぎ身体も気が付けば悲鳴を上げている程。 今はただこうしてリリアに抱えられ運ばれている自分が気恥ずかしくも感じられていたが、そうしていたい自分も本当の所。 そしてふと、鳴海は疲れから口にする。

「リリア・・・」

「何でしょう?」

 やんわりと微笑みかけてくれるこの女性はいつ見ても鳴海には綺麗だと思える。だが色々な事を経て成長した鳴海にはその笑顔の裏にあるのが自分自身であり、 変えてしまった自分の責任を感じているのも確か。そしてリリアの過去さえ、何となくではあったが分かってしまう。 そして鳴海は悲鳴を上げる身体に鞭打ちリリアを抱きしめる。

「・・・鳴海様?」

 そしてリリアはどうして鳴海が自分を抱きしめているのか、喜び半分分からないで居た。

 だが昔の自分の様、すすり泣く鳴海を見た時、リリアは声を掛けてやれた。

「何があったのかは存じません。でも、私も知りたいと思うから・・・落ち着いたら話してくれますか?」

 無言で頷く鳴海。それに納得するリリア。だがそこであえて、鳴海は決意を確かにする為、それを言葉にする。

「リリア、聞いてくれるかい」

「何でも聞いてあげます。貴方の為なら」

「ありがとう・・・・・」

 そして鳴海は想いをそのまま伝える為に、何度も何度も言葉を言い返し自分の中にある全てをリリアに話す。

 鳴海にとって、それは一区切りであり、自分の限界を超える為に必要な事。それはリリアに取って言葉として受け取る事は無く、想いをそのまま 理解すると言う事が出来たのだ。そしてリリアは自分の事を抱きしめ、独りで背負い込む事と言う過ちを、 自分と同じ過ちを犯さなかった鳴海を愛おしく想い、抱きしめ返し言った。

「もう泣かないって、約束してくれます?」

「・・・・」

 それは鳴海の想像していなかった言葉だったのだろう。 沈黙が辺りを支配し、どこからか聞こえてくる古時計の音だけが耳に痛い。

 自分の記憶の中で垣間見たその言葉は自分の言った物と同じもの。 哀しみに暮れ泣くだけなら誰でも出来るのだ。しかし今の鳴海は哀しんでいるのではなく、悔しいと思い涙を流している。 そしてその自分に気付き、涙を流すべきではないと思い、初めて、いや、リリアとの二度目の約束を交わす。

「ああ。俺も、もう泣かない。約束する」

 その時のリリアの表情は見えなかった筈なのだが、鳴海には確かに分かった。

 リリアの微笑みが、背中に染みて行くのを。

 そして鳴海はそれを背負う事を選び、貫く事を決意する。

 だが、彼らはまだ知らなかった。世界の変革に自分たちが関与していると言う事を。

 そして何より、自分たちが誰を相手にしたかと言う事を。

 だが「それでも」、彼らならば何のことはないのかもしれない。本当の答えを持ち、それを貫く事を選んだのだから。

 そして何より、限界など彼らにありはしないのだから。

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