「あ、居た居た。全く私を置いて先に行っちゃうとは良い度胸してんじゃないのよ。で、今日の賞金はいかほど?」

 心境とは裏腹に、言葉は簡単に出てくる物だ。ただし、それが本当に聞きたいものかはどうかはさて置いて。

 そして店内に居たマスターはめかし込んだ彼女に気付いたのだろう。相反してレイナードは素直に聞かれた事に答えるだけで、顔も向けず無言のまま賞金の入った袋をカウンターに置いた。

「はー・・・ホント良いよなー。私もこの位稼いで見たいよ」

「今日は何にする・・・?」

 いつものに決まっている、と思った所で、マスターの表情が変な事に気付き、視線の先に目をやれば、そこは彼女の腰。本来ならば何も無い筈なのだが、多分癖なのだろう。いつの間にかそこにはロングソードがあった。

「いつものヤツと、今日はこっちも頼むよ」

 悟られない様に、と言うのは無理だろう。マスターの顔は笑っていた。だがレイナードの視線は剣の方にあり、多分、ボロボロになった剣の事を考えているのだろう。彼自身に付きまとうエピソードは様々だったが、最近で言えば闘技場で戦う度に持っている剣を折ってしまうのだ。それもたった一降りで折れてしまうのだから、これ程刀匠泣かせの傭兵も珍しいだろう。

 男の割に異様とも言える程、白い肌と華奢に見える身体着きだったが、幾ら筋肉質とは言えそこまで簡単に剣で斬って折れると言うのは単に馬鹿力だと言うのが理由かも知れないが。

「そう言えばさ。今日は折れなかったね、レイナードの剣。何処で買ったの?」

 丁度自分のへまを隠すには良い話題になると思い、そう言いながら口を開いたが声が上擦っていたが、そう言った事を気にしない性格で良かったと、何故かその時は安心してしまった。




































アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK





































「拾った」

 そして返ってきた答えはそれだけ。

 これ以上なく、レイナードと言う男の性格を現しているだろう。何事も置いても、彼は速く済ませてしまうのだから。

「拾ったぁ? 何処で」

「南」

「南ねぇ・・・。ま、レイナードなら死の渓谷でも生きてるって事? 魔族の作品な訳?」

 そして次に返ってくる答えも分かり切っていたので、言葉をまた返すのには困らない。

 何せ一度、彼の故郷を訪ねた時もたった一言「南」と言っただけだった。他にも次に行く戦場は何処と聞けば、同じように方角だけ答えそれだけ。それ以上聞くには、少しコツが要るのだが、彼と気長に付き合っている人物と言えば自分と目の前のマスターのジェイスだけ。

「・・・さぁ、な」

「良いなー。私もそんな剣が欲しいよ。でも、レイナードの剣撃で折れないって事は、もしかしてそれがラグナロクだったりしてね」

 剣の事に詳しい訳でもないが、彼が追い求めそうな剣の名前を出し、同じ様に手を出して貸してくれとせがんで見る。もしかしたら、その時自分は笑っていたのかもしれないとマディンは思ったが、心境と言えば胸がこれ以上ない程高鳴り、焦りを隠すための苦笑でしかない。そして貸してくれと手でせがんだ時、何故かカウンターの上に置かれ不機嫌になったのかも知れないとまた不安がぶり返す。

「なによこれ。よくこんなのナマクラで斬れたわねぇ。でも意外とこれが本物だったりしてね」

 だが、気の所為だったらしく、レイナードは不機嫌と言う訳でもなく、逆に機嫌が良いと言った訳でもないと言う顔のまま。もし機嫌が悪くなれば直ぐに出ていく故にそれは間違いないだろう。そして考え事をしているのだと思ったのは、何となく。

「振ってみても良い?」

「好きにしろ」

 その上答える声色でそれが当たっている事に気付き、不安は何処へやら。また笑みが漏れてしまった。だがレイナードの剣を持とうと手をかけた所で、眉を顰める。

「・・・なにこの重さ」

 軽々と持っていたレイナード故に、重さと言う点を考えていなかったが、持ち上げる事すら出来ぬ程その剣は重かった。

「どうかしたか?」

「うわっ・・・それって皮肉?」

 思わず子供じみた感情が沸き上がり、再挑戦を試みるが動く気配すら全くない。

「ふぅむ・・・」

 話の種にでもなると考えたのだろう。マスターは面白そうな顔をして漸く、彼女にいつもの量が少な目のランチと酒を出す。これがお気に入りで、他の店で食べる事などほとんどなくなった程美味しいのだ。無論、レイナードが居ると言う理由もあるが。

「カウンターが軋まない所を見ると、魔力剣だなこれは。静流は持った時に重さを感じるか?」

「気にした事がない・・・」

「レイナードは鍛えすぎなのよっ。なまっちょろい身体してる割に馬鹿力なんだからさー・・・・ああっ! もう鬱陶しい!!」

 持ってみなさいよ、と視線で促した所、レイナードは造作もなくそれをやって退ける。それが悔しくて、気が付けば口の中にはランチの殆どが入っていた。

「静流。ちょっと持ったまま見せてくれないか?」

 そんなマディンを苦笑しながら見ていただけだったが、マスター自身も興味津々な事など間違いではない。何せ彼が買い付けに来る店と言えば此処以外何処にも無いのだ。それだけ信頼して貰っていると、マディンは思うのだが、マスターは違うと言う。そして静流は別段面倒そうなそぶりも見せずにマスターの言う通りにする。

 だがその時、剣を横向けにする時マディンの髪にそれが当たったのだが、何の気なしに、まるで癖の様に払いのけてやるとすんなりとそれは動く。それが分からなくて、頭の中でどうなっているのかさっぱりになってしまった。

「別に魔力文字が刻まれている訳でも無さそうだな・・・。仕掛けは・・・お前が気にする訳もないか」

 苦笑し、それきり気にしないようにしているのだろう。調べればまだ色々と分かりそうな事があるならそうも言わないが、マスターとて武器を扱う事から自分の力量範囲で扱えるモノを知っているのだ。要するに、自分ではどうにもならないと言う事。それでも負けん気が本来強い為か。それは何処か説明口調である。それが面白くて、この見せに通う様になったと言うのが理由なのだ。

「多分、魔力文字で強度を保ってるんじゃなくその剣その物が魔力石で、見た目から察するに純度は100%に限りなく近いと言っても良いだろうな。鑑定書付けて闇オークションででも売り払えば一生遊んで暮らせる額は固いだろうさ」

 それを聞いた途端、彼女は頭の中で漸くチャンス到来か、と想い言葉に出す。

「え? そうなの? ねね、レイナード。それ売っちゃわない?」

「はははっ。マディン、コイツが売る訳無いだろ? 第一売らなくても、ここに居る三人の人生遊んで暮らせる金を、彼はもう持ってるさ」

「げ・・・そんな貯まってたの? じゃあさぁ、もう傭兵なんて止めて中央にでも住めば良いじゃないのよ。あっちは平和だし、のどかよ?」

 それは彼女なりの誘い方。不器用だが、それで精一杯なのだ。だから闘技場や戦場よりも胸が高鳴ってしまう。しかしそう言う部分を期待した自分が馬鹿だったらしい。

「・・・・・興味がない」

 決意の言葉をたった一言で返され、落胆した様に言う。もとい、落胆しながら言ってやる。

「あんたならそう言うと思ったけどね・・・。聞いた私が馬鹿でした」

「はははははっ」

 マスターには自分が静流の事をどう思っているか伝えているだけあって、予想通りの答えだと言わぬばかりの笑い方だ。それが面白くなくて自分が不機嫌になる瞬間、どうしてか分からないが敏感に感じ取ってしまう。

「ジェイス」

「なんだ?」

「この辺りで、次に戦争があるのは何処だ」

 その言葉を聞く時、自分がどういう顔をしているか等、知る由も無いのだろう。

 戦場へと身を投じ、生き生きとしている彼を始めてきた時は正直恐ろしくなったのが本音だ。だがたった一言、感謝を述べた後に返された一言に、言ってしまえば惚れてしまったのだ。友人の女傭兵達に聞いても、彼だけは止めて置け、と言った様な感想しか聞けなかったが、彼女はそれで良いと思う。

 何処か感覚の外れている自分にも薄々感ずいているのだ。彼の魅力が、死をも跳ね返してしまう程の禍々しさに満ちている事を、何時だったか分かってしまったから。

 それは彼の後を追い続け、何度目かの戦場での出来事。

 人をまるで風でも斬る様にして殺しながら彼はうすら寒い笑顔で居たのだが、その顔を見たとき彼女は何故か彼が違う表情で居る気がしたのだ。

 一致しない表情と感情の二つ。

「・・・・多分、西南方向で、東方か中央の何処かとやり合うだろうな。戦況は」

 そして何も知らない、本人でさえ分からぬ事を想い抱きながら彼女は聞く。

「いや、良い」

「?」

「世話になった」

 そして静流はごく自然に、いつもの様に店を出、その後ろ姿を見ながら彼女は漏らした。

「はぁー・・・。これは、私フラれちゃったのかな?」

 正直な所、半分以上自棄な気持ちだ。何せどれだけ心配しようと気付きもしない。

 鈍い、等と言うレベルの話しではなく、そう言う神経が無いのではないかとさえ思えてしまう。

「まさか。アイツは気付いちゃ居ないよ。例えいつもよりも君が綺麗にしててもね」

 そして不機嫌な彼女の視線と、完全に面白がっているのだろう。マスターの視線が重なり、どちらとも無く笑いが零れる。

 だが、その双方の意味は違う。そしてジェイスから、年長者としてのアドバイス。

「アイツをモノにしたいんだったら自分の望みを直接言う事だ」

「でもさぁ・・・これでも恥ずかしかったのよ? 戦場よりもまだ胸がドキドキしてるわよ。全く鈍いんだから・・・」

「まぁ、仕方ないさ。だが、チャンスは後一度かもしれんな」

「何で?」

 多分それは男にしか分からないと言いたげな口調。だが男だから分からない事もあるのだ。

「アイツ、もうこの街には帰らんつもりだ。大方、光と闇の刀匠でも探しに行くんだろうさ」

「誰よそれ?」

「剣闘師<ハイ・ラウンドマスタ>が一人、三つ色の剣舞の黒刀身の刀を創ったとされる二人の刀匠さ。昨日アイツが漏らしてたんで調べてみたんだよ」

 しかしそこで自分の恩師の二つ名が出てくる等と想像出来ただろうか。口止めされているとは言え、毎回の事ながらどうしても言葉にしてしまうのだ。

「へー、師匠の剣を・・・・」

「・・・師匠?」

「な、何でもないよ」

「そうかい?」

 極秘な事、でもないのだが、それによって何度か見る目を変えられた事がある。それ故に、彼女に取って恩師とはある種の目の上のたんこぶ的存在なのだ。何せ仮にでも魔導神などと言う危なげな本当の二つ名があるのだから。

 最も、あのひょろっとした風貌から実力を想像してもさっぱり底が見えないのが現状ではある。

 そんな事を考えながら、溜息を吐いてしまいそうになるが、マスターの言った通り、それを繰り返していればチャンスは後一度しかないのだ。もしかしたら、一度すらないのかもしれない。だから溜息を飲み込み、代わりに言葉を吐き出す。

「じゃ、私も連れて行って貰いますか」

「無理矢理でも付いて行かないと置いてかれるぞ」

 そしてそれに当たり前の様に言ってやる。。

「ジェイス」

「?」

「世話になった」

「・・・・それは、静流のものまねかい?」

 分かってくれた事が嬉しくも、何処か虚しくも感じたがしばらくの間、逢えないのだが、しんみりするならコレくらいのおふざけで良いと思う。

「そうよ。似てたかしら?」

「ゼンゼン」

「あっそ」

 その自嘲気味の笑みを浮かべるマディンと対照的に、ジェイスは数年ぶりに心の中が複雑だったのだろう。彼女なりの気遣いが分かってしまったからかもしれない。

 だからそれに答えただけ。

「これは貸してやるから、用事が済んだら帰って来いよ。お前達二人の取り分をまだ渡してないんだからな」

 取り分とは、殆どが静流の稼ぎであるが、マスターはそれを貯め、何時の日にか自分たちに役立てようとしているのだ。それが無駄遣いに終わる事なく、静流やマディン自身の武器防具などの買い付けに役立っている事も分かっているが、それはあくまでマスターの人脈があるからなのだ。そして差し出されたそれも、なまじ半端な魔力剣よりも遥かに優れたモノだと一目見ただけで分かるが、それを見て、いや、見たからこそ躊躇ってしまうのは彼女の悪い癖なのだ。

 しかし、彼がそうしたいと望み、そうしてくれるのだからその気持ちは受け取らなければならない。

 同じ傭兵仲間として、これから起こる戦争がどういうモノなのかを頭ではなく肌で感じ取れるから。

「任務了解致しましたっ。では、マディン・ガロス、出撃します」

 そして新調された二本目の剣を受け取り敬礼ではなく、投げキスで礼を言ったのは彼女の感謝の気持ち。恋愛対象でなければこういう事も出来るのに、と自分でも思う上にマスターさえも分かっている事。だから振り向かず、前へと進む為に彼女は駆け出す。

 例えそこが、血なまぐさい、この世の地獄と言っても良い戦場だったとしても。

 そしてまさかと思った。

 例え型くずれしているとは言え、ここは悪名高いアルフェイザ。どんな進行をも防いできた歴史があり、それが変わらぬ物だとも今でも思う。性格の善し悪しは別とすれば、このガイア大陸で人口数の比率で言えば闘えるモノは限りなく人口と等しい街であり、犯罪国家と言うだけあり、よそ者を見れば襲う事が日常茶飯事な場所なのだ。

 そこで西側の暗殺者の姿など、それも生きている姿など久しく見ていなかった気がする。

「あんたら、一体そこで何してるんだい?」

 街の、ごくごく平凡な一角。薄汚れ、何処までも腐りきっている街だとしても、人が住み、生活している当たり前の場所。だがそこに居たのは西側独特の魔導服に身を包んだ密偵、もしくは工作員と言った所か。人数は五人しか姿が見えないが、もしかしたら別の場所にまだ居るのかもしれない。

 何よりも、その手に持っている袋から微かに漂う火薬の匂いは店を出て直ぐに分かる程街に充満していたのだ。

「ちっ・・・」

 舌打ちしたのは向こう側の一人。団体さんの司令塔か、もしくはリーダー格と見て間違いないだろう。腕はそこそこだが、おつむが対してない所は西側の暗殺を専門に行う魔導士達の特徴。それは西側の連中は自覚が無いのだろう。猪突猛進に思われ馬鹿にされるアルフェイザの攻め方も、相手の性格を知っているからこそ出来る芸当なのだ。それ故に死亡率が限りなく低い事など知りもしないだろう。

 そして短絡的な判断も分かっているが故に、次の行動を見越して両手は両腰にある剣を握りしめているのだ。

 だが、いつもと違う事を気付くのが遅かったらしい。

「目撃者は殺す」

「言ってくれるっ・・・・!?」

 常時からズボンを履いているのでスカートの調子が今一しっくり来ず、それどころか足下をすくわれる羽目になろうとは想いもしなかった。その上、一瞬過ぎる、女性らしく、今は邪魔な考え。

「いっ、ちょうらなんだから汚さないでよっ!!」

 無理な体勢からの抜刀。しかし相手が近づきすぎている為に一撃は掠りもせずに空を斬り、それが起こした風鳴りの音と共に鈍痛が腹に走る。

「くっ」

 そして前屈みになった瞬間、背筋に悪寒を感じ無理な体勢からの迎撃。横腹に更なる痛み、無理矢理動かした為に筋を違えたのだ。激痛に耐えながらの防戦を強いられ慣れているとは言え、味方も居ずに多対一でやる事など久しい事だったから。言い訳とは思っていても、宙空で錐もみ状態になりながら死を覚悟する。

 だが、それは死を覚悟するだけで、死ぬ気などさらさらない。だから久しく使っていなかった力も解放される。

「魔導力だとっ!?」

 北方の民族に取って、魔導力とは本来備わらぬ力。人種の違いからか、北方出身者は一切魔導力が使えないのだ。その代わりにある強靱な肉体は原始的なレベルで魔導力を使い高められ、遺伝等でさらなる力を生み出している。だが所詮、人間離れした強さ、と言うだけで未だに魔物などと一対一でやり合える輩など滅多におらず、瞬時に使える魔導の力はその存在を確かにしていた。

 だからこそ血の気の多いアルフェイザもあまり西側には手を出さないのだが、対抗しうる手段が無い訳ではない。

 闘技場がメッカであるこの街は出身など関係ないのだ。北方出身者の中にさえ稀に魔導を操れるモノも少なからず居る上、彼女達の様な流れ者が多く存在しているのだ。それが認識の違い、ひいては情報収集力の違いなのだろう。この街では西側の攻め方やパターンなどは子供でも知っている事。

 そして魔導の西側との違いは使い方その物。

 北方で攻撃魔導を使うモノは微々たる存在であり、その殆どが味方の北方民族の身体を強化させる為だけに存在するのだ。元来強靱な肉体に更に上乗せし強化する魔導系は実力がなくては使えず、そして彼女もその実力者の一人。だからこそ、中空で大気の壁を造り出し体制を整える等と言う体術らしからぬ事すら可能になる。

「ったく・・・・」

 そして鬱陶しげにスカートを気にしながら二刀の構えを取り、北側に居るからこそ身に付くスキルを自然と使う。

 圧倒的な強さを誇るアルフェイザも、一つだけ他の国にありこの国にないモノがある。

 それが人口と言うなの、戦力なのだ。対外の戦闘で二倍、三倍の敵を相手にする事など当然。それでも勝利を収められる理由が死線の中を潜り抜けたモノのみが使える、状況判断と言う技術。戦闘に置いてごく基本的な事だが、アルフェイザの場合は味方の数が少ない為に敵を一人でも多く倒す必要があるのだ。それ故に最短距離とそれを駆け抜けるだけの身体のバネの使い方、感覚を研ぎ澄まし一気に加速するスピードはおいそれと真似できるモノではない。そしてそれら総合的な力があるからこそ、アルフェイザは国としての強さだけはガイア大陸一と言っても良いほどにまでなったのだ。

 しかしそれが分かった上で目の前の連中をよこした西側と言うのは、とんでもなく馬鹿な集団かも知れないと思い始めた時、成る程、と納得出来るだけの答えを見つける。

「薄気味悪い気配漂わせてないで出てきたらどうなの。それとも役立たずな部下、さっさと殺しちゃって良い訳?」

「それは流石に困るな」

 マディンの言葉に伴い街角から姿を現したのは、先ほどまで気配すら感じなかった男。西側の魔導士特有の服を「着ていない」上、何処か不自然なカンジがする所を考えれば、上位に位置するのだろう。上位と分からない様にその街の服や、祖国の一般的な服を西側の魔導士は着用するのだが、はっきり言わせて貰えば似合わない事この上ないのだ。

 それ故、彼女から言わせて見ればただの馬鹿でしかなく、わざわざ姿を現す時点で今回の計画を表沙汰にすると言う愚考を行っているのだ。そうでなければ理由は一つしかない。

「少なくとも、腕に自信はあるんでしょ」

「どうだろうな。だが」

「?」

「北のノロマに負ける様な実力は持ち合わせていないがな」

「あっそ」

 そしてもう一つ、これは彼女の個人的な意見かも知れないが西側の人間が嫌いな理由がある。

 別に西側全ての人間が嫌いと言う訳ではなく、中には良い人が居ると言うのも分かっているが、どうもこう軍関連の人間になるとこういった実力と台詞が見合っていない輩が多いのだ。男の部下と戦って見て分かった事だが、この程度の訓練ならしなくとも北側のそこいらの出来損ないでも勝てる様な物。今回はたまたま服装が動きにくいと言う不利な点があったとは言え、一度でも不覚をとった自分が情けなくて仕方がない。

 それに、だ。

 あのバーのマスター、ジェイスと同じ出身だとはどうしても思えないのだ。

 だから別に自分の故郷でもない場所の事だが、面汚しの様なその存在自体が気にくわないのだ。

 だが不機嫌な顔に緊張が走った事を感じ取ったのか。男の顔は得意げになっているのだろうが、客観的に見れば歪み醜悪だとしか言えない様な物だった。

「これが分かるだけの実力は持っている様だな。だとすれば、貴様を殺すだけでアルフェイザの一角は潰れる訳、だ」

 そこまで過大評価される事はやぶさかではないが今はそんな事を思っている余裕はなかった。

 男の右手、だろうか。ハッキリと分からないのが自分の魔導系の実力の限界だと言うのが悔しいが、それが何であるかだけは分かっていた。

 主に禁術と呼ばれるそれは、本来操る事で自らの身体を犠牲にするだけではなく、周りに影響を及ぼし強大な威力を発揮するのだ。だがなまじ実力、総合的なモノはあっても魔導系に関してはそれ程長けている訳ではないマディンにはそれがどんな禁術かは分からず、ハッキリとは言えないが相手の性格に禁術と言う魔導が感応している、と言う知識通りならば、あまり想像したくはない。そう言う輩に限って、総合的な実力は無くともたった一つの術にだけ異常に長けているのだ。

 それが分かった上で、先に攻撃すれば良い、と素人なら判断するのだろうが、マディンは禁術に関して知識だけは常識とかけ離れている程持っている。禁術の最も厄介な特徴は術が完全に発動する前に止めてしまえば別の禁術になってしまうと言う所。それこそ、術者でも制御が全く聞かない暴走状態になってその結果、周りがどうなるか等分かったモノではないのだ。

 それ故、動きたくとも動けない自分が歯がゆい。

「どうした? 動きが止まったぞ?」

 歪む顔が醜く映り、あおり立てている事が分かる。だが、だからと言って動く訳にもいかない。だからと言って周りの雑魚から片付けようとも思ったのだが、一人では操れない禁術を完璧に制御する為に残りの五人も魔導構成に参加しているのだ。誰一人として攻撃出来ぬ状態。そして彼ら西側の軍人がこの街に入った理由が漸く分かった様な気がする。

 彼らと対峙したアルフェイザのモノ達がマディンと同じクラスの強さだったのだろう。知識を持ち、それを戦場で活かせるだけの猛者だったのだ。だからこそ禁術と言う術の事を曲がりなりにも知っている故に、何も出来ぬまま死んでいったと言う所。こんな事ならばさっさと殺して置けばよかったとも思うが、こういった場所で後悔などはなんの役にも立たない事もまた事実。そして後悔よりも活路を見いだす事に心血を注げるモノだけが生き抜いて行けるのだ。

『だからって考えてどうにかなる問題でもないでしょうに』

 自問自答を繰り返し、結果など分かっている筈なのに諦めないのは彼女の生きる意思が何よりも強靱だから。男女の差など関係なく、むしろ不利な立場である女性でありがながらも戦場で生きてゆくにはそれ以外方法が無いのだ。そしてそれは男であろうと関係ない。

 そしてここがアルフェイザであって良かったと思う。

 共通の敵が現れた時。もとい、気にくわないと言う、単純な理由で共感した時それは何よりも強い味方になるのだから。

「おねーさんっ、手伝おうか」

 新たな気配を、気にする訳でもなく敵は禁術の構成を止める事は無い。だがマディンに出来る事と言えば、今は勝機があるならば何でもする気である。そしてその姿が例えどんなモノであろうと、彼ら敵を止められる、否、殺せるのであれば協力する。

「坊やに止められるの?」

「でなきゃ声かけませんよ。見てて下さいっ」

 声の主は丁度、家屋の屋根の上に立っていた。今が昼間なら分かり難いのだろうが、夜ともあり星明かりに照らされたその姿はあまりにも小さい。どこから見ても子供でしかないその姿。だがその内に宿る力は目に見える程充実して見える。

 だがその子供、名も分からない少年が呪文を唱えながら指で組む印を見た時、彼女は疑問を抱かずにはいられなかった。

 組んでいる印は東方独特のモノだったのだが、そのスピードがあまりにも早すぎるのだ。それと同時に徐々に出来上がる、少年の周りにある魔導構成も禁術を使っている西側の彼らよりも遥かに複雑かつ、力強い気配を纏っている。それが単なる魔導を強制解除させる初歩的なモノであったとしてもだ。どれだけ鍛錬すればそこまで協力になるのか全く想像も出来ない。そして敵もそれは同じ事。

 そもそも、禁術を全て知らぬマディンには分からなかった事だが、強制解除出来る物ではないのだ。

「な・・・んだとっ!?」

 そして禁術が強制解除された瞬間、彼女は視界をそのままに次々と西側の魔導士を、あるモノは胸を貫き、あるモノはクビを跳ね飛ばしながら屠って行く。その誰もの顔が驚愕に満ちていたがマディンはその意味を知らない。同時に少年は屋根の上から舞い降り、マディンに言った。

「おねーさんはなんか二つ名でもあるの?」

 し屈託のない笑顔の筈のそれ。しかし別物に見えるのは気のせいだろう。そう思いたい、と言うのが正直な所かもしれない。だから少しだけ、年甲斐もなくどこから見ても一回り以上年下の少年を見下ろし緊張しながら言った。

「二つ名は無いけどね。マディン・ガロスって言う名前があるんだからおねーさんって言うのは止めてくれないかしら」

「僕の名前は紅(くれない)。これからヨロシクね、兄弟子さん」

「・・・え?」

 しかし兄弟子と言う言葉を聞いた途端、その笑顔の妙に大人びた所や、魔導に関する天才的な才能を思い出し、成る程と納得する反面げんなりとする。

「でも、ガロスさんは女の人だから姉弟子かなぁ」

「・・・・・・どういう事か、教えてくれるかしら。手紙か何か貰ってない?」

「手紙、ですかぁ? 師匠がそんな事する人に見えるんですか? もちろん無いですよ」

 希望を信じかまをかけてみたのだが、それも自信満々な紅の言葉と共に空振りに終わる。マディンが認識している恩師「三つ色の剣舞」と言う人物は手紙など書かず、一言、こう言うのだ。

「あ、言付けなら貰ってますよ。互いの足りない部分を補いながら鍛錬を怠らない様に、と」

「・・・・・・」

「ガロスさん?」

 そして何より言われたからかもしれないが、もしかしたら、言われずとも師匠と同姓と言う事で、同じ様な性格になったのかもしれない。

 自分をマディンとは呼ばず、ガロスと呼ぶのは恩師以外の癖ではないのだ。

「その、ガロスって呼ぶのも止めてくれないかしら。なんか師匠思い出して厭なんだけど」

「あ、ごめんなさい。でも、じゃあ・・・なんて呼べば?」

 子供版の恩師がそこに居る様な錯覚に陥りながら、彼女は言い。

「マディンで良いわよ。呼び捨てで良いから、さん付けなんかしないで」

「じゃあ、マディン。これから短い間ですがヨロシクお願いします」

 取り立てて問題が山積みになった現状をどうやって打破するかを、漠然とした心境ながらに模索していた。

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