断る事は出来た。他人ならば、そう言う判断を下すだろう。だが自分の恩師にあって頼み事を断ろうモノなら、一体何を強要されるか分かったモノではないのだ。
なまじ半端な、いや、この大陸中で見ても稀と言える程の強さを持った相手だけに性格も歪んでいると言って良いだろう人物。それが三剣師、剣闘師などと呼ばれる三つ色の剣舞の正体なのだ。
「あ、あの・・・」
それ故、いったい何度無理難題をふっかけられただろうか。あの苦笑か微笑のどちらかに勝てる相手など存在するのだろうか。
そもそも、そんなヤツを野放しにしたのは一体誰なのだろうか。
そんな事を考えながら居たマディンだがいい加減、恩師の顔を思い浮かべるのに嫌気が刺してきた所で漸く紅の声に気付く。
「マディンさんっ!!」
「あ、えっと・・・何?」
「だから、追わなくて良いんですか?」
「・・・誰を?」
熱心に何かを言っていた様子だったが、全く耳に入っていなかった様子のマディンを見て溜息を吐く姿すら恩師に似ている所が憎らしい。そしてそれが地になっているのか。恩師にそっくりな、仕方なさそうな表情をしてもう一度言った。
「静流・レイナードさんですよ。連れて行って貰おうとしてたんじゃないんですか?」
「・・・・・なんで知ってるの」
「だって、初対面でいきなりって言うのは嫌うだろうからって、師匠が言ってたし・・・・。二、三日前からずっとマディンさんの後着けてたんですよ?」
「うそ・・・」
一度もそんな妙な気配を感じた事はなかった筈だ。そして紅の言う通りなら、子供ながらにして一流以上の暗殺者としての才能があるのだ。本人にその自覚があろうとなかろうと。だがそれよりもこんな子供に自分の胸の内を見透かされた様で照れくさい事この上無い。
「それ、誰かに言ってないでしょうね」
「ま、まさか。誰かに言うなんて事したらマディンさん、僕の面倒見てくれないじゃないですか。師匠の元を離れてからの一週間、まともな食事も出来ずに漸くマディンさん見つけて、それでも逢っちゃだめだって言われてたからこの二日間だけは水しか口にしてないんですよぉ?」
「じゃあ、お腹減ってるのね。口止め料としてご飯は食べさせてあげるから、誰にも言わないでよ」
「じゃあ、ご厄介になって良いんですか?」
笑顔で居るが、余程腹が減っているのだ。心なしか、多少痩けている頬は本来のモノではないのだと思う。そして少年、紅の実力を考えても戦争へと連れて行ってもさしたる問題はないだろう。何よりその瞳は子供特有の眼差しではなく、それに上乗せした経験を物語っている。だが確信を得る為にわざとらしく聞く。
「戦争、経験した事ある?」
それはどの程度の戦力になるかを計るため。一対一や多対一の戦いに慣れていたとしても、戦争だけは事情が違うのだ。だが期待した答えは返ってこない。
「まだです」
「じゃあ」
それ故にそれを理由にして断ろうと思ったのだが、少年は空恐ろしいことを簡単に言ってのけた。
「でも、ウィルガル闘技場で腕見て貰えば分かります。サバイバル方式って、確か今夜でしたよね? 登録済みですので、見に来てください」
闘技場の本当の名前は久々に聞いた気がしたが、サバイバル方式のそれはもっと久方振りに聞いた。
そして一度だけ経験した闘技場でのそれを思い出し、彼女は気が付かぬ内に苦笑していた。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK