そして人知れず行われた大会の結果は、聞くまでもなかった。観戦者は特例として認められたマディンとベルベットと、漸く名前が分かったクイナの女三人と国王のリウリィだけ。それ以外は全て闘技場の真ん中で対峙し、今はたった一人しか立っていない。それが少年の姿だとは、終わるまで想像したモノは一人しか居なかっただろう。
リウリィは正直、この大会に紅を出したくなかったらしいが、約束は約束だという事で律儀な面を見せ、結果に感嘆していた。冷静なクイナも少年の早業を見て、打ち震えているのはアルフェイザの傭兵故。唯一、予想していたと言うか、信じていたと言うべきだろう。もし負けたとしても、自分が飛び込んで助けに行けば良いと考えていたのかもしれないベルベットだけは先ほどまで座っていたマディンの隣りにはおらず、闘技場から紅を連れ出し抱きついて居た。
「にして、も・・・やるなあの小僧。だが漸く五人目だ、俺の切り札もよ」
「その様、です・・・、いえ、あの子一人で私とベルベット二人分くらいの働きは出来るんじゃないでしょうか」
「自信無くしたか?」
「むしろその逆ですね。今はまだ勝てると思いますが、後三年・・・いえ、一年や半年でもすればあの子はもっと強くなるでしょうね。だからあの若さが羨ましいのと、悔しいのとの二つです」
「俺も同じ意見だぜ。全く、掘り出しモノどころか金鉱にブチ当たった気分だぜ」
隣で意見を交わしている二人は、この国の上に位置するモノだからこそ出来る物。もし、静流が居たとしても似た様な意見を言ったかもしれない。何せ少年がやって見せた戦い方は、アルフェイザ特有の速さを主体とした戦術だったのだ。
剣も斬る為と言うより流す為に使っているのはその為。脚が元々速いのか、魔導で強化しているのかは定かではないが、試合が始まった途端、少年は一気に周りの屈強な傭兵達を殺してしまったのだ。返り血すら浴びていないのはあまりにも剣とその動きが速かった為。遠くから見ているからこそ分かったが少年は一切、剣の構えだけは変えて居ない事も驚きを隠せない理由だろう。
だが、それら全てはマディンに取っては大体分かっていた事。あのやり方は自分もここで、この大会でやった方法なのだ。それ以外にスタミナが持ち、尚かつ勝てる方法など見あたらぬ程、数が多く相手が強かった為。それ故に試合開始と同時にほぼ一瞬で殲滅する必要があるのだ。長引けば不利な事は分かっている。少年の場合はそれが尚心配される事だろう。誰しも自分よりも小さい存在を見つければ、この大会に置いてはそれを先に殺すのは当たり前なのだから。
言ってしまえばそれすらも少年の考えの内だったのだ。子供の姿故に、大人は油断し、むしろ好都合になる。大人故に子供に大人の世界を教えてやろうとしたモノが全てであり、彼らは皆、大人の世界ならぬ戦場を教えられたらしい。無論、死んでしまってはなんの意味も無いのだが。
「あの躊躇いもなく殺せるやり口も気に入ったさ。今度の戦争で、お前達に貸してやる」
「私とベルベット、にですか? あの子に熱が上がってるベルベットは外した方がいいと思いますけどね」
「あの小僧、いや、紅ならそれすらも利用して見せると思うぜ。それが過信なら、お前が面倒見てやんな」
「分かりまし・・・たよ。でも、マディンも私の部隊に配置させて頂きますよ。でなきゃ」
「分かった分かった。じゃあ今回はお前らに任せるさ。東のうつけに目にもの見せてやれや」
「と、言う事です。マディン・・・・聞いてます?」
「・・・? あ、ああ」
しかし、やはり疑問が残るのは否めない事だろう。それも、マディンにだけ浮かぶ疑問だ。
あまりにも、昔の自分の戦い方を少年は再現し過ぎているのだ。覚えていたから分かった事だが、少年の動いた機動は自分と全く同じモノ。
少年ならば、それが無駄な動きと分かっていた筈なのに、あえてやったとしてらそれはマディンに対する何かのメッセージでしかなく気付いてしまったなら、考えるべき。だが今それを分かる程、少年の事を知らない自分を再確認しただけだった。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK