だが予測のつかなかった事態は簡単に起こってしまうらしくそれはミニ版の恩師と言った紅でさえ、それは分からなかった事らしい。しかし行動にぬかりない部分はまさにちっちゃなと言う称号が相応しく思える。

「やっぱり、ホントです・・・。情報漏れじゃなかったんですね。少し安心しましたよ」

「情報漏れだったらどうする気だったの」

「どうもしないですよ。今後、アルフェイザには一切関わらないだけですって」

「けど一体誰が揚禅暗殺をやって退けた訳?」

 そしてマディンが今、一番の疑問を口にした時、紅が口に指をあて静かにとジェスチャーする。そしてしばし沈黙の後、推測だか結論だかを述べ始める。

「ベルさん、揚禅って、どんな人物だったんですかぁ?」

「幼女趣味の最悪腐男。裏で人身売買も平気でやってるらしいから、普通の国じゃ評判も最悪でしょうね」

「も、もしかして・・・・僕のこの格好は」

「そうよ。マディンは外で待機して貰って、貴方と私で潜入するつもりだったんだけど」

「帆村とか言う人に感謝ですね。腕の良いガンマスターで良かったです」

「その技銃師が暗殺した本人って事?」

「そうです。えっと・・・ちょっと待ってください」

 だが何か面白い事でも聞きつけたのだろう。一体どうやって何も聞こえない、ここ、東方ハツを見渡せる山の茂みの中でそんな芸当が出来るのか分かったモノでもなかったが、どうせまた師匠の受け売りなのだと簡単に片付けた所で紅は口を開いた。

「どうやら皇都の魔環師が手引きした様ですね」

「皇都の魔環師、ね。東西南北、中核のどれ?」

「そこまではわかんないですよ。でも、北側との戦争のどさくさに紛れて共同戦線張って、まぁ、僕じゃないですけど内輪もめに皇都が荷担したらしいです」

「あんまり良い気はしないわね。皇都の連中は・・・・特に中核魔環師(コア・ハイ・マジックマスター)は嫌いだから」

「あと、静流さん。戦場から姿消したそうですよ」

「え? ダメじゃないのよっ! 何処に居るかあんたの便利な耳で調べなさいっ!!」

「べ、便利な耳じゃなくて魔導術ですってばぁぁぁああっ!!」

 東方ハツの誰も知らない場所で、マディンは紅をゆらしまくっていたが、何かを聞いたのだろう。一体どうやって抜け出したか分からないが紅はマディンの手の中から抜け出していた。

「あんた・・・今どうやったの」

「それどころじゃないです・・・。一足どころかかなり出遅れましたよ、僕たち」

「どういう事?」

 そして紅は珍しく切羽詰まった顔で告げた。

「西方の本体が北方侵略を取りやめて居ないそうです」

「どういう事か、ちゃんと説明しなさいよ」

 しかし訳の分からないマディンに取っては、紅の行動全てが不快に映る。何せ情報を仕入れられるのはこの少年だけであり、これでは自分が此処に居る理由が分からないのだ。その上静流の行方を見失ったとなれば、彼女自身が我を失ってもおかしくない。そう踏んでいたベルベットは直ぐさま怒り出しそうなマディンを羽交い締めにして紅に先を言わせる。

「僕とマディンさんが始末したあの暗殺部隊、元々あれはハツ国と組んで動いていたらしくて、本来ならもっとスムーズに作戦が進む筈だったらしいんですよ。けど、僕が出鼻をくじいた為にタイミングがずれて、けど西側はそれでもアルフェイザ攻略を取りやめにしない方針見たいです」

「分かった。マディン、聞いたでしょ。さっさと戻るわよ」

 だが、そこまで聞いたからと言ってもマディンには戻る理由がなかった。何せ自分の目的である静流は、北方には居ないのだから。

「私は戻るつもりは無いわよ。だって、理由がないし、報酬分はもう働いたわ」

「そんな事言わずに戻りましょうよぉ。ジェイスさんの店まで潰れたらどーするんですか」

「・・・・・」

 しかし、考えて見れば紅は自分の泣き所を幾ら知っていてもおかしくないのだ。むしろ冷静にすらしてくれるその言動だが、いい加減鬱陶しい事には変わりない。しかしそれが原動力になっている等と、本人は気付いていないだろう。一気に北方アルフェイザ目指して駆けだしたその脚は行きよりも遥かに早いのだ。そして一足先に行ったからこそ、残る二人の会話など聞ける筈も無い。

「ほら、また背負ってあげるから」

「いや、今度は俺が先に帰って殲滅してくるわ。でもなんでお前機嫌戻ってんだ?」

 甘い声を出したベルベットだったが、紅の声はいつもと、いや、マディンと喋っている時とは全く違う物。そしてベルベットはその事を知っている、今の所この世界で三人の内一人。

「だって、マディンも同じ様な意見だし、少し安心したわ。私が嫉妬深いって、自分で思ってる程じゃないって」

「?」

「好きな相手に、自分以外の好きな相手が居るなら、奪える程魅力的になって見せるってね。私と不倫しましょうよぉ」

「そ、その事についてはまた後でな。じゃ、先行くわ」

 そして紅の姿は一瞬にして掻き消え、多分、もう北方には着いているのだろう。しかしそれ故にベルベット自身はいつもの自信に満ちた妖艶な笑顔を取り戻し、言った。

「ふふふっ、待ってなさいよ。見知らぬ相手だろうと、絶対貴方になんか負けないからね、未来(みき)さん」




































アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK





































 走る先で、様々な状態の屍があったがそれを気にする余裕は無い。後ろからベルベットの気配を僅かに感じるが、今の自分ならそれを遥かに引き離せるだけの力がある様な気がして、更にスピードを上げる。

 頭に思い描いて居たのは自分の思い人である静流の背中。いつもそれは自分の前にあり、どれだけ走っても追いつける場所にあるかの如く前へ、前へと進みきって何れは見えなくなってしまう。それ故に、彼女の戦い方は静流と酷似していると彼女の戦いぶりを知る物は言うだろう。まして今の彼女の鬼気迫る表情は、その物なのかもしれない。

 否、それが唯一違う点。異色の仮面は、まさに仮面のごとく表情は一切ないのだ。

 そして気がついた時、アルフェイザの街の外れに居た自分に気付き、漸く自分のやってのけた事に驚いた。

「はやー・・・・。って、これのおかげでしょうね。腕良いわ、悔しいけど」

 脚に張り付けた紅自作の護符は、思いの外強力、いや、強力過ぎる様だ。行きに要した時間は約三時間だが、帰りの経過時間は感覚が狂っていなければ三十分。どうかなってしまったのではないかと、少し身体の調子を調べてから国王リウリィの元へと急ぎたい山々だったが、それでも遅かったらしい。西方独特の戦術である魔導攻撃の炎が街の西側から見えて来た。

「ちっ・・・少しは休ませてよね」

 そう言いつつも殆ど体力を消耗していない事を彼女は気付いていないだろう。幾人モノ傭兵と共に街の一角を戦場へとする敵をうち倒すべくそこへと赴いたが、そこに広がる光景を見た時、知り合いである筈の彼女すら驚いた。

「く、紅っ!?」

 そう、そこに居る上に西側とやり合っているのは見たこともない異形の剣を持っているが、間違いなくあの少女の格好をしたのは少年たった一人なのだ。そしてもう一つ驚くべき事は、一撃、西側の攻め方である魔導術の一度目の砲撃で殆どの傭兵が動けない様な状態になっているのだが、少年だけは無傷なのだ。それが導き出す答えは一つ。そしてそれをやって退けられる人物をマディンはもう一人知っていた。

「あ、あの小娘・・・異色の仮面と同じ事が出来るのかよ」

「冗談、だろ、あんなちっちゃいのがか? まぐれに決まってる。俺達も行くぞっ!!」

 隣りや、後ろ、四方全てから傭兵達の怒号が聞こえ、それに飲まれる様にして西側の魔導士達の軍勢へと攻め入る。だが、準備が整っていたのだろう。第二波目の魔導砲撃が放たれた瞬間、辺りが光に包まれ、身体中に激痛を感じる。

 だが爆炎と辺りの家屋がまき散らす煙の中でそれでも尚立ち上がった彼女は、このアルフェイザでのみ見られる二回目の伝説を目の辺りにした。

「やっぱり・・・・あの子、避けてる」

 煙の中から見えたその少年の姿はやはり無傷。無論、それは二度目の攻撃を放った西側の魔導士達も驚いた筈だ。何せたった一度、この国に進行しようとした時、姿は違えど同じ様な事をやって退けた傭兵を知っている筈なのだ。

 それが異色の仮面こと、静流・レイナードなのだ。

「くっ・・・そ!! 街の原型など構うな!! 撃て撃て撃てぇぇっー!!」

 前戦で指示している魔導士は昔の、西側がたった一度だけアルフェイザ攻略した時の生き残りなのだろう。悪夢を起きながら見ている様な表情で、まともな判断を取れる様な状態ではない筈だ。だが攻撃だけは手を休める事なく放ち続け、それが辺りの視界を一切ゼロにする。

 だが同じ事をやって退けられる人物が居るとは思わなかった故に、マディンはその煙を突っ切り色様々な魔導弾が飛び交う激化地区へと飛び込み、僅かに確保出来る視界の中でそれを見る。

 そして、それが違うと言う事も。

「今はここを潰させる訳にはいかないんですよ。すみませんが、死んで貰います」

 目に映る光景と、それをもし見れたなら間違いなく誰もがこう言うだろう。

 絶対に有り得ないと。

 そもそも、魔導壁の様な障壁を全く張らず、魔導弾を受けながら前に歩いている人物など見た事はないのだ。自分の恩師でさえ、あまり攻撃を食らわず合理的な戦い方をする様にして魔導弾を避ける筈。だが、少年は一切歩みを止めようとせず、ただ、ゆっくりと歩いて行くだけ。それを止められる者が居ないと分かっているかの如く。

「む、無茶苦茶よ」

 そして軍勢にして約3000の魔導士対たった一人の少年の戦い、いや、そんな言い方は相応しくない筈。一方的なリンチであった筈のそれは、立場が逆転し少年の声は一切聞こえぬまま血飛沫があがりまくる。

 その速さのみ今の自分や静流に通ずる部分があるのだろうが、流石の静流もあそこまで敵の最中に飛び込むような自殺行為はしない筈だ。傷を負い、それが剣を鈍らせ幾ら北方最強の傭兵とは言えど死んでしまうから。だが少年の行動は一切変わりを見せず、ただ、速さだけがあがり瞬く間に三千人も居た魔導士を肉塊と化させる。

「・・・・・」

 聞こえるのは北方の僅かに生きている傭兵達のうめき声だろう。しかし西側の魔導士の声は一切聞こえない中、漸く遅いながらに頭の中に聞こえていた筈の魔導士達の断末魔が響いている様だった。そして少年はマディンを見つけた故に、向かってくる。

「あ・・・マディン、さん」

 しかし、先ほどまで全く顔色変えず殺戮と言う殺戮を繰り返していた少年の顔は真っ青になり、心なしかまるで戦争孤児の様にも見える。そして漸く分かった。

「貴方、無茶したわね・・・」

「えへへ・・・。まぁ、これで西側は攻めにくく、なった・・・筈ですから・・・」

「大丈夫? 無理矢理、身体の強化し過ぎた後に来る副作用ってどの位なの」

「一晩・・・ゆっくり眠れば大丈夫、ですよ。じゃ、後残りの六千人の・・・頼みますねー」

 そして血溜まりの中に倒れそうになった少年を支え、苦笑してしまうと同時に溜息も出てしまった。

「あんたじゃないんだから、そこまでは無理だけどね」

 何せ先ほどまで異常とも言える戦い方をしていた少年は、既に寝息を立てていたのだ。苦手と言っていた転移魔導を使ってここに来た上に、あんな無茶をやって退けたのだからそれも当たり前の事。そして何より、少年の身体は返り血で真っ赤に染まっているのにかすり傷一つ負っていないのだから。

「ま、姉弟子としての面子もあるし、やってみるか」

 そして少年を救護に来て、いきなり重傷に見える血塗れの子供を押しつけられ驚く衛生兵に任せ、彼女は更に倍居る魔導士の居る場所へと駆け抜けて行った。









 無論その結果、戦況は夜まで長引いた事は言うまでもないが、それでも早かった方だろう。何せ一度、伝令が走ったらしく少年の行動を後ろの部隊は聞いていたのだ。その上で混乱した情報伝達が伝えた情報には「女の傭兵」として伝わり、結果マディンを紅と間違え魔導士の隊列はばらつき攻撃もさほど激しくはなかった。

 だからと言ってマディンは紅の様な真似が出来る訳ではなく、傷を負い漸く手当が終わった所。しかしやはり6000の魔導士を相手にしては、腕の骨折だけとは大した戦果だろう。

 そして場所はアルフェイザ闘技場の一室。自分の間借りしていた家屋が西側になったので、当分ここに厄介になる事になるのに決まった上に、本来ならば部屋数が限られている故に相部屋なのだが、戦果が誰もに認められ個室と言うのは正直嬉しかった。

「はー・・・・疲れた」

 ベットに倒れ込み、そのまま睡眠を貪ろうかと思ったのだが、妙な感触に気付きベットをまさぐる。その時、ドアが開いた。

「あの、ここ個室・・・」

「私よ、ベルベット」

「なんだ・・・・で、これの看病?」

 入ってきたのがベルベットとなると、このベットの中でシーツにくるまっているのは紅だけだろう。それ以外でここにベルベットが来る理由など無い筈なのだから。

 その予測も当たり、マディンの退いた後シーツを直した中には多分、何をしても起きない紅の姿があった。

「この子、お風呂入れたの?」

「あんな格好でほっとける訳ないでしょ? あんたも入ってくれば。奥にあるからさ」

「ホント? じゃ、貰ってくる」

「ちょっと汚しちゃったけど、気にしないでね」

 そして汚れた身体を洗おうと、いそいそと脱衣所で服と包帯を取って風呂場へと脚を踏み入れたのだが、そこは思いの外汚れていた。だがそれも当たり前だろう。感じで言えば、紅の汚れていた時の格好はまるで血の池にでも飛び込んだ様だったのだ。

「このくらいは勘弁してやるか・・・」

 シャワーだけはまともな状態故に、少しが我慢出来る。浴槽の状態など幾ら洗っても取れない様に血がべっとりと付いているのだ。どちらかと言えば、これは紅の責任ではなく、寝ている少年を洗ったベルベットの不器用さと言った所か。

 そんな事を思いながら痛む腕を我慢しながら頭に着いた誇りを洗い流し、綺麗な身体になりバスタオルでその身を包む。代えの服は、ベルベットのモノでも貸して貰えば良いだろうと言う考えだ。

「ベルベット、悪いんだけど服」

「そのタンス。好きなの使えば良いわ」

 そして言われたタンスを開くが、そこにあったのはまさにベルベットの趣味である過激なモノばかり。とてもではないが、一枚で肌全てを隠せる様な物は一つもない。

「もっと、こう・・・露出してない男物って無いの?」

「私が着ると思う? 重ね着したら。寝間着なら普通のが引き出しにあるわよ」

 どうせ寝るだけなら良いだろうと思い、引き出しを空ければそこにはベルベットには珍しいと言える程、質素な寝間着があった。だがその隣の男物から彼女の付ける香水の匂いがした為、疑問に思う。

「男物のコレもベルベットの?」

「いい加減、ベルで良いわよ。そう、疲れた時とかはそれが一番ラクなのよ」

 それを貸して貰う事にし、着込んで寝る準備を整える。いい加減、疲れが堪りすぎて眠たいのだ。

 だがハッと、この部屋にはベットが一つしかない事に気付くが、流石にあれだけの事をやってのけた紅からベットを奪うのは酷と言うモノだ。毛布を布団代わりに敷き、そこに横になる。

「紅の横で寝れば?」

「疲れてる子供の睡眠邪魔したくないわよ。寝相悪いからね、私は」

「恥ずかしがる様な歳じゃないでしょ?」

「一度、その・・・・行為に及んだあんたが言う事かしらね」

 そしてベルベットの笑い声が聞こえたが、ふとそれが止み、真面目な彼女の声が聞こえてきた。

「マディン」

「ん?」

「どうだった? この子の戦いぶり」

 だが思い出した故に、少しだけ目が冴える。徹夜明けした様な感覚が少々不快だった。

「どうって、一言で言えば、貴方に悪いけど異常ね。戦術とか、戦い方とかそう言う問題じゃなく、ね」

「どんな風だった?」

「どんなって、レイナードよりも凄かった。攻撃を避けるんならまだしも、避けようともせずそれどころか受けても無傷なんて、どういう身体してるのか知りたいわよ」

「ふぅん・・・貴方が言うなら嘘じゃないんでしょうね」

「私がなんであんたに嘘付く訳?」

「そうじゃないわ。こっちの話し、気にしないでね」

「?」

 そしてそこで漸く寝かせてくれるのかと思い目を閉じたが、まだ終わっていなかったらしい。

「マディン、寝てても良いからこれだけは聞いて置いて」

「・・・・」

「この子・・・・・」

 しかし目を閉じていた為に、寝てしまったからかもしれない。ベルベットが何か言っていた気がするのだが、そのまま闇に落ち、ゆっくりと目を開けた時、既に朝日が窓から射し込んでいた。

「・・・・ったく、寝た気しないわね」

 たまに疲れすぎていた時ある事だったので慣れては居る上、体力の回復だけはしているのであまり気にしては居ない事。だが精神的疲労だけは一瞬の内に睡眠が終わってしまってはとれない故に、不満もあったが二度寝出来る程、低血圧でもないのだ。起きあがり、気がつけば多分ベルベットだろう。毛布を掛けてくれていたらしい。その上骨折している方の腕に張ってあったのは闘技場で試合後、重傷を負った時に渡される治癒系の護符の様な物が張り付けてあった。

「・・・・治ってる。特別製?」

 剥がして観察して見たが、確かに闘技場で使っているモノにしてはできが良すぎる。これではまるで自分の恩師が作る様な護符だと思った所で、それが紅の作った物だと分かる。ベッドの上にその姿は既に無く、朝食にでも行ったのだろう。

「ホント・・・イヤになる程、出来良いわ」

 使い切りの護符故にそれをまるでくずかごへと放り込み、大きく伸びをしながら窓の外を覗く。そこにあったのは既に天高く昇った太陽、それから察するに時間は既に昼近くであり、街の復興をする為、傷の浅いモノならば既に狩り出されている様子。それ故そそくさと着替えを始めたのだが、狙い澄ました様にノックの音。

「誰?」

「あ、僕ですー。入って良いですか?」

「ダメ。五分待ってなさい」

「じゃ、着替え終わったら闘技場の登録所まで来て下さい。ちょっと話があるんで」

 そして直ぐにドアの向こうの気配は消えてしまう。だが着替えと分かった辺り、本当に狙い澄ましていたのかもしれないが、少年には普通の男の子の性欲やそう言った感情があるが、助平心は無いと見える。覗いていた訳でもなし、単純な推測で着替えと言ったのだろう。それ故着替えを終えたマディンはそのまま言われた場所に行くが、そこに待っていたのは呼び出し、今日も何故か女物の服を着た張本人とリウリィとクイナ、ベルベットの三人だった。だがあえて少年の服装には触れないで良いだろう。

「どうしたの?」

 紅はともかく三人が揃っている理由が分からずそう聞くが、多分、少年の提案だろう。昨日、自分にはそこまで余裕が無かったのだ。

「追加報酬だ。こんだけありゃ、旅の足しにゃなるだろ」

「あと」

「まだあんの?」

「ベルベットも同行する様ですので、私は見送りです」

「・・・・・・」

 そして朝の半分寝ぼけた頭を思いっきり叩かれ目を覚ました様な気分に漸くなり、文句を言いたい所だったが昨日のベルベットの様子を思い出し何も言えなくなってしまう。あの様子から察するに、遊びやそう言った類ではなく彼女は本気なのだ。この際、少年の意思は関係なく、同姓の意見を尊重するべきだろう。

「分かったわ。報酬、共通紙幣でしょうね」

「そこまでケチに見えるか?」

「事実上最強国でも、貧乏でしょ。伊達に前戦で追い剥ぎやってないわよ」

「愚問だったな」

「少しは虚しいと思えば、国王さまっ」

「えっと・・・・あのー」

 笑い逢う大人達の中で一人、不安げな瞳をあげる少年の言いたい事は、多分ベルベットの事はマディンが断ってくれると思っていたのだろう。そう言う部分は変に鈍いらしく、少年の弱点を握った様な気がした。

「やっぱり、ベルさん着いてくるんですか?」

「ダメじゃないでしょ。昨日、あんたの事看病してくれてたんだからそのくらい良いんじゃない?」

「そのくらいとかそーゆーのじゃないと思うですけど」

「それより、良いの?」

 しかし不安な点が残るのはマディンも同じ。幾ら自分がこの国にもう居る理由がないとは言え、やはり戦力の半分以上を失うのは国王としての立場から言わせてみれば辛い事の筈なのだ。だが無用な心配だったらしく、それを笑い飛ばして見せるリウリィ。

「一介の傭兵が心配すんな。第一、ピンチになったら非常手段バンバン取ってやるからな。知ってんだろ? アルフェイザのもう一つの顔」

「闘技祭開催して、お金儲けねぇ・・・。治安悪くなる一方な気がするんだけどさ」

「それ以外も、今回はあるからな。雷鳴、だったよな、紅」

「そうですよ。忘れちゃダメですからね。まぁ、クイナさんに言ったから心配ないですけど」

「それは俺が馬鹿だって言いたいのか?」

「ワイズマンって人、拷問して情報聞き出してれば昨日見たいな事は無かったと思うんですけどね」

「・・・・・」

 ぐうの根も出ないリウリィは、本当に痛いところをつかれた証拠。考えてみれば、少年の言う通りだったのだ。あれだけ苦労して魔導士六千と言う破格の数を相手にしたのも馬鹿馬鹿しく思えてくる。

「と、とにかく、無事に済む旅路を祈ってるぜ」

 そして苦笑いのリウリィと、その横で別の苦笑を浮かべたクイナを後ろに旅路へと着いた三人だったが、装備を揃えるなら行く場所は一つしかない故に、場所はジェイルの居るバー。

「おうマディン、珍しいな・・・・。子連れか?」

「違う違う。その二人がペアで、私は相変わらずフリーよ」

「???」

 店に傷一つなかったのは幸いと言えるだろうが、これから物いりになりそうな店内は様々な客でごった返していた。しかしバイトのウエイトレスを雇ったのか。見知らぬ顔が行き来していた。

「そうそうそれよか、この二人になんか武器見繕ってくれない? 後、私の服と防具も頼むね」

「分かった。で、そっちの美人さんはまぁ、剣か何かで良いとしても、そこのちっこいのは何が良いんだ?」

 しかしジェイスの言う事も最も。この店で一番そぐわない身なりの少年、いや、ジェイスには少女に見えているだろう。それが面白くて紅の反応を待っていたが、意外な反応が返ってきた。

「あ、別に良いですよ。僕も静流さん見たいに「光と闇の刀匠」に作って貰う気でいましたから」

「・・・・・マディン? この嬢ちゃんに話したのか?」

 しかし、マディンにその声は届いていない。何せ、今の今まで忘れていたのだ。

 静流の行く先が分からなくなったのではなく、忘れていただけなのだと。そして得意げになった紅はもう一言。

「後、こんな格好してますけど、僕、男です。これ、昨日の西側第一派の魔導士兵を退けたのは僕だって言う主張ですから」

「ほぉ・・・お前さんが」

 だが、その言葉を聞いて一体店の何人が信じた事だろうか。だが、何人かは知っている目撃者も要るらしく、所々でざわめきが聞こえる。むしろ、紅はそう言った事を見越して言ったのだろう。同時に、ジェイスが本人だと見抜けると分かっていたのかもしれない。

「なら、お前さんは服だけで良いのかい? その格好で男だと言われてもなぁ」

「どうせ脱いでも、また着せられるだけですって。諦めてるんです、僕」

 しくしくと啜り泣く紅の姿は面白く思えたのだろう。そこで漸くマディンの言ったペアだと言う意味が分かったらしく、ベルベット様に用意した大剣を持ってきてもずっと笑ったままだった。

「じゃ、貴方はこれで良いかい? 美人のお嬢さん」

「お嬢さんなんて歳じゃないんだけどね。けどもっと大きいの無い?」

「ドラゴンキラーサイズかい? 流石にそれは無いな。それこそ、どうせなら纏めて「光と闇の刀匠」に作って貰った方が良いさ」

「じゃ、これで良いわ」

「そう言えばベル、あんた今幾つな訳?」

「唐突ね・・・。21だけど、それが?」

「・・・・・・・」

「はははっ! マディン、こりゃ完璧に負けたな」

 ハッキリと言われると辛いモノがあったが、もう今更だろう。三十路近くのマディンには歳など気にしている余裕がないのだから。

「で、マディンは幾つなの?」

「ベルさんベルさん。実はマディンさんって」

「くーれーなーいー・・・・・」

 そして目的がハッキリした一行は、旅路に向けアルフェイザを出たが、あまりにも知らぬ事が多すぎた為だろう。自分たちの周りで一体何が渦巻いているのか知らぬまま、この旅路は終わるまで続く事となる。

 たった一人を除いて。
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