だが予測のつかなかった事態は簡単に起こってしまうらしくそれはミニ版の恩師と言った紅でさえ、それは分からなかった事らしい。しかし行動にぬかりない部分はまさにちっちゃなと言う称号が相応しく思える。
「やっぱり、ホントです・・・。情報漏れじゃなかったんですね。少し安心しましたよ」
「情報漏れだったらどうする気だったの」
「どうもしないですよ。今後、アルフェイザには一切関わらないだけですって」
「けど一体誰が揚禅暗殺をやって退けた訳?」
そしてマディンが今、一番の疑問を口にした時、紅が口に指をあて静かにとジェスチャーする。そしてしばし沈黙の後、推測だか結論だかを述べ始める。
「ベルさん、揚禅って、どんな人物だったんですかぁ?」
「幼女趣味の最悪腐男。裏で人身売買も平気でやってるらしいから、普通の国じゃ評判も最悪でしょうね」
「も、もしかして・・・・僕のこの格好は」
「そうよ。マディンは外で待機して貰って、貴方と私で潜入するつもりだったんだけど」
「帆村とか言う人に感謝ですね。腕の良いガンマスターで良かったです」
「その技銃師が暗殺した本人って事?」
「そうです。えっと・・・ちょっと待ってください」
だが何か面白い事でも聞きつけたのだろう。一体どうやって何も聞こえない、ここ、東方ハツを見渡せる山の茂みの中でそんな芸当が出来るのか分かったモノでもなかったが、どうせまた師匠の受け売りなのだと簡単に片付けた所で紅は口を開いた。
「どうやら皇都の魔環師が手引きした様ですね」
「皇都の魔環師、ね。東西南北、中核のどれ?」
「そこまではわかんないですよ。でも、北側との戦争のどさくさに紛れて共同戦線張って、まぁ、僕じゃないですけど内輪もめに皇都が荷担したらしいです」
「あんまり良い気はしないわね。皇都の連中は・・・・特に中核魔環師(コア・ハイ・マジックマスター)は嫌いだから」
「あと、静流さん。戦場から姿消したそうですよ」
「え? ダメじゃないのよっ! 何処に居るかあんたの便利な耳で調べなさいっ!!」
「べ、便利な耳じゃなくて魔導術ですってばぁぁぁああっ!!」
東方ハツの誰も知らない場所で、マディンは紅をゆらしまくっていたが、何かを聞いたのだろう。一体どうやって抜け出したか分からないが紅はマディンの手の中から抜け出していた。
「あんた・・・今どうやったの」
「それどころじゃないです・・・。一足どころかかなり出遅れましたよ、僕たち」
「どういう事?」
そして紅は珍しく切羽詰まった顔で告げた。
「西方の本体が北方侵略を取りやめて居ないそうです」
「どういう事か、ちゃんと説明しなさいよ」
しかし訳の分からないマディンに取っては、紅の行動全てが不快に映る。何せ情報を仕入れられるのはこの少年だけであり、これでは自分が此処に居る理由が分からないのだ。その上静流の行方を見失ったとなれば、彼女自身が我を失ってもおかしくない。そう踏んでいたベルベットは直ぐさま怒り出しそうなマディンを羽交い締めにして紅に先を言わせる。
「僕とマディンさんが始末したあの暗殺部隊、元々あれはハツ国と組んで動いていたらしくて、本来ならもっとスムーズに作戦が進む筈だったらしいんですよ。けど、僕が出鼻をくじいた為にタイミングがずれて、けど西側はそれでもアルフェイザ攻略を取りやめにしない方針見たいです」
「分かった。マディン、聞いたでしょ。さっさと戻るわよ」
だが、そこまで聞いたからと言ってもマディンには戻る理由がなかった。何せ自分の目的である静流は、北方には居ないのだから。
「私は戻るつもりは無いわよ。だって、理由がないし、報酬分はもう働いたわ」
「そんな事言わずに戻りましょうよぉ。ジェイスさんの店まで潰れたらどーするんですか」
「・・・・・」
しかし、考えて見れば紅は自分の泣き所を幾ら知っていてもおかしくないのだ。むしろ冷静にすらしてくれるその言動だが、いい加減鬱陶しい事には変わりない。しかしそれが原動力になっている等と、本人は気付いていないだろう。一気に北方アルフェイザ目指して駆けだしたその脚は行きよりも遥かに早いのだ。そして一足先に行ったからこそ、残る二人の会話など聞ける筈も無い。
「ほら、また背負ってあげるから」
「いや、今度は俺が先に帰って殲滅してくるわ。でもなんでお前機嫌戻ってんだ?」
甘い声を出したベルベットだったが、紅の声はいつもと、いや、マディンと喋っている時とは全く違う物。そしてベルベットはその事を知っている、今の所この世界で三人の内一人。
「だって、マディンも同じ様な意見だし、少し安心したわ。私が嫉妬深いって、自分で思ってる程じゃないって」
「?」
「好きな相手に、自分以外の好きな相手が居るなら、奪える程魅力的になって見せるってね。私と不倫しましょうよぉ」
「そ、その事についてはまた後でな。じゃ、先行くわ」
そして紅の姿は一瞬にして掻き消え、多分、もう北方には着いているのだろう。しかしそれ故にベルベット自身はいつもの自信に満ちた妖艶な笑顔を取り戻し、言った。
「ふふふっ、待ってなさいよ。見知らぬ相手だろうと、絶対貴方になんか負けないからね、未来(みき)さん」

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK