「で、なんで最初に行くのが皇都な訳? 情報集めるんなら他の街の方が良いと思うんだけどさ」
「マディンさん、何言ってるんですか。師匠のあの漆黒の剣、黒神(こくしん)を誰が作ったと思ってるんです?」
「・・・」
「って言うか、一度は聞いてる筈ですけどね。もしかして、静流さんの口から初めて光と闇の刀匠の名が出たと思ってたんでしょ」
「う、五月蠅いわね」
図星を突かれ、動揺を隠せない。思い返す事を意識的に止めていた為、思い出せなかったと言うのは理由にならないだろう。そう言う部分で少女の格好をした少年、紅の若さが憎い。
「でも、三つ色の剣舞が皇都に居るって何で知ってるの?」
ベルベットの言った疑問は最も事。元々家に居ない時は風来坊ぶりを発揮し、何処に居るか一切掴めない人なのだ。だが、自信満々に紅は言う。
「言ったでしょ。僕がマディンさんに会いに来た理由は、師匠が仕事で皇都に行ったからって」
「あら、じゃあ私はついで?」
「い、いえいえ滅相もない。そんな訳ないじゃないですか」
そして相変わらずの二人はべたべたと、一方的にだがしている中、マディンはその仕事の内容を考えていた。
何せ剣闘師として呼び出されたのであればそれは召喚状なのだ。重要な事があるからこそ呼ばれ、くだらない理由で仕事に行く様な人ではない筈だ。少なくとも、マディン自身が恩師と一緒に暮らしていた時は一度も仕事になど行った事は無い。あったとしても、精々近所で起こったもめ事を収めに行くだけで、その結果、一悶着起こした様な異形の民達を家に連れて来るだけ。その度に飯を作らされていた事は、今のマディンの料理の腕を上げるのに貢献はしていただろう。
「なんにせよ、師匠が仕事に出たって事は厄介事以外有り得ないでしょうね。気を付けるにこした事はないわ」
「まぁ、皇都と喧嘩する様な所と言えば西側以外にあり得ませんからねぇ。そう言えば、リウリィさんてなんで皇都と戦争しなかったんですか?」
「さぁね。ベル、あんたは知ってんじゃないの?」
「理由なんて簡単。戦争の記録見れば分かるでしょ? リウリィが国王になってから、一度も何処かに攻め込んだ事はなかったじゃない」
「ああ、面倒だったんですね。確かにアルフェイザから他の国に出向くのは骨でしょうし。顔と一緒で不精なんだ」
身も蓋もない言い方をされればあのアルフェイザ国王も形無しだが、事実なのでなんの意見をしようとも考えない。
そして目指すは皇都ハイルーンだがその為、街道を行きまずはアルフェイザ領地内にあるファウスが当面の目的地。アルフェイザの領地内と言う事で他の街に比べれば治安も悪いが、アルフェイザよりはマシなので面倒な事もあまり起こらないだろう。
しかしそんなマディンの予想が外れるのは、決して彼女の楽観主義が原因ではなかった。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK