自分が殺して来た者達が一体どんな表情をしていたかは考えない様にしている。
それこそ、一瞬で死んだ故に固まった表情のまま逝った者や、死ににくい場所を斬ってしまい苦しみもがき聞こえない断末魔と共に逝った者も居る。だから一瞬で、相手が死を見つめる前に殺すのが自分のやり方だった筈だ。
何よりも速く動き、まるで思考を途切れさせる様にして殺すのが自分のやり方。戦う相手に最低限の敬意を払うと言う意味は、彼女に取ってそう言う事なのだ。
だから拷問まがいの事も嫌いで、しようとも思わない。そこまでの激痛に耐えうる自信はあるが、目の前でただ苦しめられるだけの命を見た時、その憎しみと絶望に彩られただけの表情に耐えられないのだ。
だからその己が決めた、自分だけの約束の一つは守っていると思っていた。
守り通せると思っていた。
過去に追った心の傷を封印したままで居たかったから、なのだろう。
思い出したくもないそれは、今、溢れだし止め処なく彼女の心を傷つけ蝕むだけ。
だから涙も流れない瞳で現実を見据えた時、絶望の淵で彼女は漸く認識した。
まるで過去へと戻ったかの様に耳元に触れる柔らかい髪の感触と、息の様な呟きを吐く少年の声を。
「その程度ならまだまだだな。もう少しマシになって見ろよ、誰にも負けない位、操られない位、曲げられない位強い意志を持って」
しかし離れる、先ほどと全く変わらぬ少年の姿を何処か遠くで見ながら、マディンは何が起こったのか分からぬままもう一言付け加えられた決別の声を聞いた。
「それまで待っててやるよ。最強って場所でな」

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK