自分が殺して来た者達が一体どんな表情をしていたかは考えない様にしている。

 それこそ、一瞬で死んだ故に固まった表情のまま逝った者や、死ににくい場所を斬ってしまい苦しみもがき聞こえない断末魔と共に逝った者も居る。だから一瞬で、相手が死を見つめる前に殺すのが自分のやり方だった筈だ。

 何よりも速く動き、まるで思考を途切れさせる様にして殺すのが自分のやり方。戦う相手に最低限の敬意を払うと言う意味は、彼女に取ってそう言う事なのだ。

 だから拷問まがいの事も嫌いで、しようとも思わない。そこまでの激痛に耐えうる自信はあるが、目の前でただ苦しめられるだけの命を見た時、その憎しみと絶望に彩られただけの表情に耐えられないのだ。

 だからその己が決めた、自分だけの約束の一つは守っていると思っていた。

 守り通せると思っていた。

 過去に追った心の傷を封印したままで居たかったから、なのだろう。

 思い出したくもないそれは、今、溢れだし止め処なく彼女の心を傷つけ蝕むだけ。

 だから涙も流れない瞳で現実を見据えた時、絶望の淵で彼女は漸く認識した。

 まるで過去へと戻ったかの様に耳元に触れる柔らかい髪の感触と、息の様な呟きを吐く少年の声を。

「その程度ならまだまだだな。もう少しマシになって見ろよ、誰にも負けない位、操られない位、曲げられない位強い意志を持って」

 しかし離れる、先ほどと全く変わらぬ少年の姿を何処か遠くで見ながら、マディンは何が起こったのか分からぬままもう一言付け加えられた決別の声を聞いた。

「それまで待っててやるよ。最強って場所でな」




































アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK





































 その後の事はよく覚えていない。少なくとも、ベルベットがまるで悪戯をした子供を然りに来た様な顔をして「少し眠りなさい」と言われた事だけは覚えている。だが直ぐに寝た訳ではなく、しばしベットに入るまでの微かな記憶だけはあった。

 まるで己の半身を失った様な感覚と共に思い出せるそれは白昼夢を見ている様な、いや、見ていたのだろう。

 物狂いの様に叫び声をあげる自分と、ただ、優しく包み込んでくれる誰かの人肌のぬくもり。

 それが痛くて、どうしようもなく痛くて眠れなかったのだ。

 だが泣きつかれたからか。気がつけば月明かりがベットに横たわる自分の身体を照らしていた。

「・・・・・」

 しかし起きた所で、身体が思うように動かないけだるさと自分が何処に居るか分からない疑問とがぶつかり合い、身体に染みついた戦い方だけがその身を動かし、ベットの際にいつも置いてある剣のそこへと手を伸ばし、漸く耳が聞こえる様になった様だ。

「・・・ディン、マディン? 分かったら返事してくれない?」

「・・・・・ベル」

 そこにあったのは自分の愛刀ではなく椅子に座ったベルベットの姿。自分の手が彼女の胸元辺りを結果的にまさぐっていたので困った顔をしていたのだろう。仕方なさそうに微笑みながら手を元に戻してくれる。

 そして徐々に戻ってきた意識と共に聞いた。

「紅は・・・私が殺したの?」

 曖昧すぎるそれは、確かな物ではない。だが感触がまだ残っているかの様に、もう片方、剣を探さなかった手は思うように動かない。

「そうなったんなら、私があんたを生かしちゃいないわよ。手、大丈夫?」

「そ、う・・・・」

 だが結果、ベルベットの口から漏れた真実を聞いても、安堵感も何も生まれてこない。

 例え幻だったとしても、自分の腕は言うことを聞かず少年の首をへし折ったのだ。その理由は自ら何度も言い聞かせる様に呟いた事のある「まだ弱いから」と言う物。

 諦めを含んだ時もあれば、悔しさを籠め言った事もあるその言葉。久々に心の内にある事に気付くと、今まで自分がやってきた事全てが否定された様で悔しかった。

「まだ寝る? それとも事のあらましでも聞いてみる?」

 だがベルベットに言われ、自分がまたベットの中に沈んでいる事に気付き、起きようとも思ったのだが上手く身体が動かなくなってきている。

 それはまるで死ぬ間際の命の様で寒さを感じ、どうしようもなく絶望と恐怖が己を全て支配している様だったが、聞くとだけ言って目を閉じた。

 それを聞き、多分ベルベットは笑ったのだろう。苦々しい表情をしながら。

「あの後ね、紅はそのままフェルトと一緒に何処か行っちゃってさ。私はあんたの面倒見を頼まれたって訳。でも大変だったのよ。あなた、何があったか知らないけど叫びまくって人が来ちゃうし、幸い統一郎さんのおかげで事なきを得たけどさ」

「師匠・・・?」

「そうよ。何があったか、多分知ってるんじゃないかしらね。だから怒ってたわよ、マディンに何をしたんだ、って」

 しかしそう聞いても、例え事実だとしても怒る様子の恩師の姿など全く想像出来ない。言ってはなんだが、そもそもそう言った感情だけ抜け落ちているのではないかと思うほど、鈍いと言うか、優しいと言うか、そう言う人なのだ。

 昔、自分が幼かった頃、多分大事にしていたのだろう花瓶を悪戯で割ってしまった時も、叱るより「手は大丈夫かい?」と聞き、その後に「もうこんな事しちゃダメだよ」と優しく注意されただけだったのだ。それ故に怒った姿など、一度も見た事がない。

 だから想像出来ないのだが、少し嬉しい気がした。

「聞かないの・・・?」

「何を?」

「あの時・・・」

 だがそれ以上に分からないのはベルベットだろう。紅と一緒に、何処かへ行ってしまっても良いような物を、頼まれたからと言って自分と一緒に居るのだ。悪い気はするがそう言う女性には見えず、どちらかと言えば身勝手で我が侭な印象すら受けていたのだが、そうでないらしい。

「別に聞かなくても分かるわよ。色んな戦場経験して生き抜いてる貴方でさえ、あんなに・・・ね。だから聞かない。聞きたくない」

 その声は痛い程優しい物で、昔生きていた頃の自分の母親を思い出させる物。そう言えば、恩師と同じ様なしかり方しかしなかった気がするのだ。それらを思えば、自分はまだ守られているだけなのだろう。なんの役にも立たず、ただ、独り立ちした様な気になって。

「それともう一つあるんだけど、これは明日にした方が良いわね」

「・・・・何? 言って」

「良いの? 多分、辛いわよ。それにコレに、伝言に関してだけは私も納得してないから」

 だがそれが、守られていると言う事実が分かったのなら、守り返せる位強くなりたいと願っていた筈だ。

 願っているだけで終わらず、強くなって居た筈だ。

 だが覚えている紅の言葉。

 そんなもんか、お前の一生は。

 そしてその通りだろう。だがだからこそ生きているなら、強くなりたいと思い続け、行動し続けるのだ。

 目標など、定まっていないまま。

「いい。言って・・・聞きたい、から」

 だがその定まらない曖昧な目標が自分の意志すら、強制的に曲げられた理由なのだろう。

 どっちつかずではなく、どちらですらない物しか持っていない自分と、どちらかを持っている少年との差。

 だから聞きたいのだ。

 例えどんな、どんな辛い心の傷になろうとも。

 そして目を開けたマディンの目に映るベルベットの顔は、真剣ながら、彼女の心境通り納得出来ない表情をしていた。

「まず、もう薄々感づいてるかもしれないけど、あの子は貴方と同門の、つまり統一郎さんの弟子じゃないわ」

「・・・・」

「目的は貴方だって言ってたけどね。真意は私にも今一分からないし、同じで違うから、まだだって言ってた。さっぱりでしょ?」

 しかしそこまでは、区切る言葉だけは分からないのだがそれ以外は納得している事なのだろう。その時までの表情は、少なくとも何かを懐かしむ様な顔をしていたが、次の瞬間、それが陰り重苦しく口を開いた。

「去り際に、ね。「弱いままなら死ね」って・・・・けど、これだけは忘れて良いと私は思うわ。幾らあの子でも酷すぎるしね」

 そして陰りを隠す様に笑って見せるベルベットだったが、気付かぬ内に変わっていた自分の表情を見たから、その瞳に悲しげな色を灯すのだろう。同じくして心に刺さったナイフは、抉る様な痛みを差し向けてくる。

 だが

「そう、ね・・・」

 だが、それで言われ死んだのなら、少年の言葉通り弱いと言う事なのだ。

 今まで味わったどんな痛みよりも激しく、それで居て激痛と言うよりもまるで力を奪い去られてしまう様に虚脱感が身体を襲うのだ。

「ね、寝てなさいって。今の貴方は自分で思ってる程・・・」

 そしてそれに負けてしまえば、間違いなく死ねると言う確信があり、だからこそ、なのだ。

「弱いまんまなら死んで当然よね」

「ま、マディン・・・?」

 だから死んでも死にきれない。

 生きているなら生き抜きたい。

 何より生きて味わうのが勝利であろうと敗北であろうと、全力を出したのならどんな結果であれ納得出来る一方、死んでしまってはそのどちらも味わえないのだ。

 勝利の美酒に酔いしれるほど自惚れても居ないが、負けるより勝った方が楽しいのは決まっている事。自らの身体で経験し、知った事実。それが納得出来ない勝利であるならば、事実として受け止めなければならない辛さがあるのなら、それは勝利ではなく敗北なのだ。同じくして納得出来ない敗北でも、変わらぬ事実として負けたとあればそれは敗北。

 勝利すると言う事がどれだけ大変な事位分かっていたと自分も思うが、それは今のマディンに取って言い訳にしか聞こえない事。

 そして思い出した、覚えている少年の決別する言葉は本心。

 死に行く者に懸ける言葉にしてはあまりに不似合いなそれ。

 だから今だけ、あの瞬間だけは少年が何を考えていたかよく分かるのだ。

「最強は・・・場所じゃないでしょうが」

「は・・?」

 それ故、面白くて仕方なく、軋む身体で無理をしながら笑いを堪えるのだ。多分、少年からしてみればちゃんとした言葉なのだろう。しかしもし意味が伝わっていないのなら、たんなる支離滅裂な戯れ言にしか聞こえない物。だからもし、自分が理解出来なかったら一体どうするつもりなのだろうかとも思って、無性に笑えてくる。

「全くこの娘は・・・・」

 唐突に笑い出したマディンを見て、漸く安心したベルベットは用意してあったのだろう。自分が起きた時に出す様にと。

 トレイに乗った軽るめの食事をマディンの前に出した。

「今日はこれ食べて早く寝ちゃいなさい。一人で食べられるかしら?」

 そしてからかう為にそう言ったのだが、予想外の反応に面食らってしまう。

「身体、ちょっとしか・・・・動かない見たい。・・・食べさせ、て」

 それは笑いながらだったが、素直に自分の身体の状態を述べられるだけの、余裕があるのだ。昨日までのマディンであれば、間違いなく一人で出来ると言っていただろう。

 それだけでも変わったと言う事。

「ホント、あんたら分かんないわ。どういう頭の構造してんのかしらね。・・・ほら、口あけて」

「あーん・・・」

 多分、紅が自分言ったそれはベルベットには理解出来ない事だがそれも当たり前。

 マディンにだけかけられた、マディンだけの言葉だったのだ。他人に分からない様にした分、たった一人の為に言ったそれ。

 しかしそれ故にマディンには笑えてくる上に、完璧に理解した訳でもない。

「もう・・・笑ってないでちゃんと咬む。こぼしても洗濯する所なんて無いわよ」

「ふぁい・・・ふふふ」

 だがそれで、良いと思えた。

 だから笑えてしまうのだ。何故かは分からなかったが。

 そして食事を終え、自分の部屋に行ったベルベットを見送りながら眠ったマディンだったが、昨日までの悪夢は全て消し飛んだようによく眠れ、朝一番に厭な顔を見てもそれ程ショックではなかった。









「おはよ、師匠」

「お、おはよう。どうだい? 調子は」

「すこぶる良いって訳じゃないけど、昨日よりぜんぜんマシね」

 自分でも分かる変わり様は、時として人には分からない事がある。しかし今回だけは違う様で、師匠の統一郎から見ても変わったとしか言いようが無かったのだろう。驚かし元気付けようとして来たのだろうが、逆に驚かされ肩すかしを食らった様な顔をしていた。

「どうかした?」

「い、いや。何でもないよ。じゃ」

 そして部屋を出ようとする統一郎に一言。

「し〜しょぉっ」

「な、なんだい?」

「覗いたら、分かってますよね」

 それが元気になったのだと、もう半分では心配して損したと言う顔なのだろう。複雑な表情をしながらもあの笑みを絶やさない所は流石と言えるが、ドアを閉め足音が遠ざかった後、思い切り笑ってしまった自分の声を聞いてどんな顔をしたのかは想像出来なかった。

 そして着替え終え、両腰に二本の剣を携えた姿でドアを空けると、そこにはベルベットの顔。

「おはよ。よく眠れた?」

「それこっちの台詞・・・」

 だが眠たそうな、と言うよりも何処か不機嫌な理由はもしかしたら欲求不満だったのかもしれない。やはり慣れない事ではあったが、紅と行為に及んでいた翌日とそうでない朝とでは明らかに表情が違っていたのだ。

「ね、ねぇベル」

「何よ・・・」

「するのって・・・そんなに良いの?」

 そして変わったからこそ聞ける一言だったが、表情が変わった、まるで年上の姉が妹に教える様に妖艶な笑みをたたえられた途端、後悔してしまうのは致し方のない事。

「最初はよくほぐしとかないと痛いわよ〜」

「え? ・・・そ、そうなの?」

「・・・・あんたホントに私より年上なの? 知らなさすぎるのも問題よ」

「し、し、し、仕方ないじゃないのっ。そう言う機会・・・無かったんだから」

「はいはい・・・じゃ、静流・レイナードにちゃんと貰って貰うのね。彼なら経験豊富だから大丈夫でしょうよ」

「そ、そなの?」

 そんな事を話しながら、統一郎に城へと案内された為か。少々困った顔をしながら恩師が自分の前を歩いていた事は分かっていた。だが真綿が水を吸い込む様にして、自分の知らない夜の技術を学んで行った為か、目的地に着いた時マディンの顔は茹で蛸の様に真っ赤になっていた。

「と、統一郎。そちらさんは・・・・風邪気味なのかい?」

 そして紹介された若き西方魔環師<ウエスト・ハイ・マジックマスター>、フリーテス・ガ・リスキィがそう言った所で漸く我に返った様にして、慌てながら言葉を返す。

「あ、ははは。か、風邪じゃないよ。気にしないで良いから。マディン・ガロスです、はい」

「よ、ヨロシク」

 だが差し出された手を見て、ついで顔を見て、彼もそこそこ女性にモテそうな顔をしている為にどうしても想像してしまい、手が握れず苦笑しながら後ずさる。一応、非礼にならぬ様跪き一礼だけはしたが、統一郎と何か喋っている様子だけは気になった。

 だがその一方、ベルベットとの話が思いの外面白かったと言うか、恥ずかしかったと言うか。少なくとも熱中してしまったのは事実らしく、自分がどうして此処に来たのか漸く疑問に思い、隣にいたベルベットに小声でそのまま口に出す。

「で、私、なんで此処に居るんだっけ・・・」

「あんたって子は・・・」

 しかしベルベットから帰ってきた反応はそれだけで、あれよあれよと言う内に会話は始まってしまったが、聞く言葉の節々で分かった事だったが、これはどうやら秘密の相談らしく仕事を何時の間にか受ける事になっていたらしかった。しかしマディンには今一話が見えないどころか専門用語が飛び交う、全く理解不能な領域。

「と、言う訳で、漆黒の山脈に居る夢幻って人物を訪ねて協力を仰いで欲しい訳だよ」

「ごめん師匠・・・ぜんっぜん話が見えないんだけどさ」

「・・・・・・・・・・マディ〜ン? 幾ら僕でも怒る時は怒るよ? 君ももう子供じゃないんだしさぁ」

「だ、だけどさ。どうせ難しい言葉で会話してたんでしょ? 私に分かる訳ないじゃん」

「・・・・」

 その後、さんざん文句を言われ城を出たが説明はベルベットから聞けとの統一郎のお達しがあり、なんの説明もないまま宿で旅の用意をする事になる。しかし装備品の中に見慣れぬ物が多々ある事は興味を惹くのに十二分な理由だろう。だが頭の何処かで悪い予感がしていたのかもしれない。

「それ、何?」

「これ? 対ドラゴンブレス用と対魔導用の護符が四十枚、こっちは応急処置用の護符で同じく四十枚、これは夢幻さんへの手土産の魔鉱石で金額に直せば共通紙幣五千万って所らしいわね。それでこれは野宿とかでも使える封魔符が日数分、なんだけど余裕を持って二百枚。後は路銀の西側通貨三百枚と私用のドラゴンキラー三本、あと」

「も、もういいわ」

「そう? 聞いとかないと後で後悔するかもよ?」

「一個小隊が戦争に狩り出される時の支給品よりも良いモノって時点で後悔に値すると思うんだけど・・・」

「でも漆黒の山脈に昇るんだから、コレくらいはあっても良いんじゃない? 正直、出せるだけ出して貰ったけど足りない位よ」

「・・・・やっぱ行くの?」

「静流・レイナードに逢いたければ行かなきゃね。彼、今消息断っちゃって皇都側でも正確な居場所は掴めてないらしいけど漆黒の山脈に向かってる事は確かな情報なんだからさ。それに、光と闇の刀匠って言う片割れが夢幻って人で、この手紙も届けなきゃいけないの。仕事内容の一つはそんな所ね」

「一つって事は・・・」

 そして厭な予感は当たった。

「もちろんまだあるわよ。もう一つ、こっちの方が重要な仕事なんだけど、深淵のジェイルって言う、ブラックリストナンバー1の賞金首を探し出せって事ね。レッドドラゴンにして竜族最強を誇る人物の上に、かかった賞金額は異例の八桁9900万。まぁ、ハンターギルドが何度も有志を募って狩りに行ってるけど、ただの一度も成功した事がないって所を考えれば危ない仕事でしょーね」

 だが、ベルベットは余程自信があるか、それともタダの馬鹿なのか分からないがどことなくではなく、かなり楽しそうな様子。

「ベル・・・自覚ある?」

「なんの」

「深淵のジェイルが殺したハンターの数」

 そしてマディンは青ざめた顔をしながら聞くのだが、対応は変わらない。

「えっと、B級ハンターが約三千人、A級ハンターが142人、S級ハンターが12人にダブルSクラスが一人、でしょ?」

「それがどの程度の戦力に匹敵するのか分かって・・・」

「魔導兵に直せば約二万人、でしょ? 私から言わせれば十万人の魔導兵だと見るけどね」

 それがどんな神経で言っているのか分からないとなれば、普通不安になる物だろう。マディン自身もそうであり、誰でも当たり前の事だ。

 だが、昨日までなら、と言う一言が付くのが今のマディン。

 考えても始まらない、ではないが、少なくともいつかは決着を付けねばならない相手ではあるのだ。

「・・・楽しそうね〜。お気楽で良いよ」

「楽しくないの?」

「死んで来いと言われて楽しいと思える程、私は馬鹿でもないわ」

「あはは、そう言う意味では私も戦闘馬鹿だよね」

「も、って。他に居るのあなた見たいな人」

「貴方は違うの? 少なくとも私とあの子はそうよ」

 そして自信ありげな瞳で見つめられると、言い返せない自分がそこに居る。あの子と言うのは紅の事に相違ないが、その数の中に自分も入っているとは思わなかった。

「勘弁してよ・・・」

「ま、その内気付くんじゃない? こっち側の楽しさに」

 だが楽しげに話すベルを見ながらなら、簡単に頷ける自分もまた事実。

 だから言った。

「絶対やだ」
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