「で!? どういう事なのこれわっ!!」
悲鳴の様な怒号が轟き、それでも走る事を止めないマディンは隣で涼しい顔をしているベルベットにそう聞いた。だが帰ってきた答えは顔と同じく疲れを知らぬ物。
「さぁ。でもブラックドラゴンがこんなに居るとは思わなかったけどねぇ」
「呑気に言うなっ!!」
ベルベットの言う通り、後方にはブラックドラゴンが様々な魔導系を組み上げながら飛んでくるのが見えるだろう。そちらを振り向く気がないので今どの程度の数が自分たちを追っているのかは分からない。だが確かに言える事は、たった一週間、漆黒の山脈に着く前。ガ・ルーン皇国の領地内でこんな強いモンスターとやり合う羽目になるとは思わなかった。
少なくとも、そんな話は聞いていなかった筈だ。今は丁度左側を見下ろせる場所があれば分かる大陸一の歓楽街レクトで仕入れた情報によれば、たまに魔族がうろつく程度でそれ程危険な山ではないと話しにあった。そのたまに魔族が居る程度の森ならアルフェイザ領地内でもごく当たり前にあったので別段気にも止めなかったが、まるで集落があるかの様にブラックドラゴンの群はそこに居たのだ。
そして理由も分からず、今は襲われていると言う事。ブラックドラゴンの子供を襲ったや、テリトリーに侵入し危害を加えようとしたのなら理由も分かるが、向こうから勝手に群で押し寄せて来たのである。理不尽な事この上ないだろう。
特に、竜族をよく知るマディンから言わせれば。
「ねぇ。あれ、やっちゃって良いのかしらね」
だがベルベットは何時までも逃げている事に飽きたのか。そもそも全力を出して走っている様には思えないそぶりだ。それを考えればハツ国まで走った時もさして本気ではなかった事が伺え、実力は恩師の統一郎が言った通り、自分より上なのだろう。だがストレスが堪る一方な理由はどうやら道無き道が理由の様で、獣道でさえないそこをドラゴンキラーで切り開きながら走るのが言葉通り面倒になっただけ。
「絶対ダメだかんねっ! そもそも理由もなく黒竜達が人を襲う事は無いんだからっ!!」
「理由を探す為に逃げ回るのも良いんだけどね。このまま行ったら・・・」
だが次の刹那、ベルベットの言葉の最後が聞こえなくなったのは、視界が一瞬にして森から空へと変わり、まるで落ちている様な感覚。否、事実、真っ逆様に落ちてしまったが為。
「い、やぁぁぁぁぁ!!!」
そして今度こそ正真正銘の悲鳴を上げながらマディンは崖の下へと落ちていった。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK