「で、なんで私のまでダメなの? ベル、あんたの所為で・・・」

「そうじゃない」

「ちゃんと説明してくれるの?」

「ああ。簡単に言えば、俺の造れるモノには限界があるって事だ。正直な所、俺より強いヤツの武器は造れないんだよ」

「やってみなきゃ分からないじゃないのさ」

「そ、そう怖い顔をするな。た、確かに今の俺とお前で一戦やり合えりゃ、多分俺が勝つ。それは間違いじゃない・・・・なんか立場が違わねぇか?」

「ならなんで?」

「・・・・。ただしそれも条件があってな。何故かは知らねぇが、一年以内に俺を越えて行くヤツの武器を作る事は出来ないんだよ。もしくは、お前に見合う武器はこの世界にある場合もダメだ」

「じゃ、ベルのは何で造れたの? ねぇなんで?」

「お、同じ材質のモノでよけりゃ作るさ。ただ、長持ちしない使い捨てになるぜ? それでも良いのか?」

「要は習作でしょ。練習台になってあげるからお願い」

「ジュリアに比べりゃマシだがお前もヒドイな」

「そう? じゃ、お願いしますっ」

「はいはい、分かったよ」

 そして深々とお願いの一礼をして交渉は終わり、それから三日してゼルンが連絡に来て、取りに来た時それこそ全身全霊を使い作った業物なのだろう。正直、長持ちしないと言うのが嘘にしか聞こえない様な出来映えの剣がそこにはあった。そして明らかにやつれた顔の理由が多分、ベルベットの持っているモノが原因。

「・・・・大丈夫?」

「ああ、お前さんのだけだったらな」

 ベルベットが持っているのはそれこそドラゴンキラーサイズと言うに相応しい大きさの剣。それも二本だ。姉妹刀らしく、片方づつ振り具合や手に馴染む感触を確かめる彼女の様子を見ながらあたふたしている夢幻の顔は悪いが面白かったが。それが分かった故の無愛想な態度。だが、半分は自分の腕の無さに気付き精進する事を決め、今の無力さを悔しく思っている故の顔、だと思って置こう。

「じゃ、また来るよ」

「頼むから次来る時までにお前らだけの武器は持ってろ。勘弁して欲しいぜ全く」

「なら煌瞬で勘弁しといてあげるわよ」

「ジュリア、ケツの毛までむしり取るつもりかお前は・・・」

「下品ねぇ。でも、約束でしょ?」

「分かったよ、分かりました。極上のヤツ作って持ってってやるよ。連絡しろ」

「分かったわ。じゃ、またね」

「お世話さま〜」

 そして旅路を急ぐ自分とベルベットの目指す先は西南の地。

 後ろに聞こえる愚痴をゼルンに漏らす夢幻の声さえ聞こえなければ、快晴の朝の事。




































アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:SCARLET DUSK





































 だがその旅がお世辞にも順調と言えるモノかどうかは本人達次第だった。

 何せ、大陸内の戦争が激化し、皇都を抜ける時にはハンターギルド壊滅と言う大事件が起こったらしい。その上、様々な場所で戦争は終わる事なく勃発し、様々な状態の村を幾つも見てきた。

 若い頃、アルフェイザに行き着く前に色んな場所を旅してきたが、それよりも長い旅を短期間でする事になろうとは思わなかったのは正直な所。だが、夢幻に作って貰った無名の剣を携える迄の間、何も遊んでいた訳ではない。どちらかと言えば、ベルベットに言われ渋々ながら付き合ったと言うべきだが。

 自分が確かに強くなっている。それは実感でき、事実だった。あの雨の日の最後は、ベルベットがまた提案した、今度はビシャス、ゼルン、ファルザの三人の相手をして見せろと言ったのだ。それが正直な所、三人を相手にして勝てる等と微塵も感じていなかったのと、特にゼルンとファルザを相手にする事は躊躇いをなくせないのも弱さだけではないだろう。分かっていてもやはり、手を抜いてしまう自分が居た。

 それ故業を煮やしたベルベットが、自分自身とやれと言い出したのである。此方の方は手加減抜きでやらなければ間違いなく死ぬと、分かっていた故に全力を出したが、場所が場所であれば大騒ぎになっていたかもしれない。丁度漆黒の山脈の裏側。魔族のビシャスでさえ殆ど行かない様な魔境中の魔境で、山の一角がアルフェイザの怪と名高い山が消えて無くなると言う再来をやって見せたのだ。

 もし、避けるのが遅れていれば間違いなく身体ごとなくなっていただろう。だが同時にそれを避けられたと言う収穫もあった。

 力の差を歴然と感じさせられた事もまた事実なら、彼女の底知れない力の一角を見せられたのは悔しい事だったが、一つだけ勝てる部分があったのだ。

 それがベルベットが言うには、速さなのだと言う。

 アルフェイザで鍛えていた時もそうだったが、戦場で最も必要なモノの一つがそれ。同時に、一騎当千をやって退ける為の必須条件。だからごく自然に実戦で鍛える事が当たり前になっていたのだが、それが功を奏したらしく、自分の速さが世界一だと言うのだ。

 正直な所、実感など全く無かったが、事実だと言わなければならないのは今のこの状況下で起こしている事を考えれば認めざるを得ないだろう。

「さて、と。ベル、こんな物で良いかな?」

「良いんじゃない」

 戦場。

 ここま紛れもない、略奪のみが横行する場所。そして略奪される物は命と言う、代えのない形無き存在。

 それを分かってやっているとは思えない兵士ばかりだったが、これが西側最後の軍勢としては確かに最強を誇るに相応しい数だろう。

 魔導兵七万と言う膨大な数、ついで六帝側に付いたレッドドラゴンが一万体と、ビシャスが説得仕切れなかった十三魔剣の内三人の剛、聖、雷魔剣の者達。

 誰も殺したくはなかったと、昔なら言っていただろう。同時に、もう少し早ければ南側の幾つモノ国々を救えたとも言っていた。

 戦場に出る度、誰もが疑問に思う筈だ。

 これは誰の為の戦争なのだろうかと。

 そして直ぐに答えるモノは言う。

 これは自分たちの為の戦争なのだと。

 だが今のマディンは違う答えを持っていた。

「自分の戦争なら、家族が幸せに暮らせる場所だけで十分でしょ。でも、あなた達はそれを分かってやってる。だから私も容赦しないわ」

 それが正直な気持ち。そして殺さなくて済むならば、そうしていたと言うのは弱音であり、優しさ。

 だがそれすらも吹き飛んでしまうのが戦争と言う場所。

 禁忌を、意図も簡単に破る事の出来る、あってはならない場所なのだ。

 そして自分も禁忌を犯したモノとして、それを一生、一人で背負う覚悟を決めている。

 多分、静流・レイナードもそうだと思える確信もそこにはあった。

 だが今は他者の事としてそれを片付け、彼女は更に強くなる事を望む故に今の状況がある。

 即ち、先ほど述べた戦力をたった一人で殲滅したと言う圧倒的な強さ。

 だから叫ぶ様にして、辛うじて生き残っただろう者達に向かって叫ぶ。

「生きているなら償え!! 自分だけが幸せになれる場所、自分の家族だけが幸せになれる場所じゃなく、誰もが幸せになる為の場所を作る為に生きろ!!」

 それを聞いた時、ベルベットは甘いと言ったが、自分は自分、彼女は彼女と思い、それで良いとも思う。

 正直な所、多分ベルベットは自分以上の戦場を幾多も経験したのだろうと分かった。そして年下と言う事実と、それでも年齢をも、即ち時すら凌駕して今の力を手に入れるのに一体どれだけの傷を負ったのだろうかと思う。

 それは、多分自分にも分からない事なのだろう。そして戦場で死んでいった者達は、分かろうともしなかった結果だ。

 他者を思いやる気持ち。

 他人を愛すると言う気持ち。

 優しさ。

 愛情。

 この場所でそれらは無意味になってしまう言葉。

 だがそれを選んだならば、覚悟を決められず死にたくないと言う想いも気持ちも否定されるだけの、ここはそう言う場所なのだ。

 何せ自分たちのその時抱いた感情は、間違いなく、死んでいった、戦争にすら出なかったただの村人や住人達が思った意思と感情、同じモノなのだから。

 だから罵られようと、終止符を打った戦争でその者達が生きて居たならば殺しはしない。

 畏怖の念で恐れられる存在になろうと、決意を固めたのなら、それが間違って居ないと思う限り曲げる事など必要無い。

 第一、誰もが知っていた筈なのだ。

 戦争が無意味な事だと。

 不信感があるならば、知れば良い事。

 その努力をするのは自分なのだと。

 それを面倒だと言って、安易な行動を取るならば、それだけのリスクが伴うのが当たり前。

 例えどんな群衆が居ようと、たった一人に勝てないのなら意味が無い。

 だから今のマディンには、どの軍に出合っても、例えそれが北方のアルフェイザの軍隊であろうともはや躊躇う事なく潰す決意がそこにはある。

 その為の力。

 その為の強さ。

 そしてたった一週間。

 徒歩ではなく、走ってだが。竜族の翼でも三日掛かる距離をたった一週間で横断した彼女の前に広がっていたのは、切り立った崖から広がる海だった。

「海・・・」

「初めてだったの?」

「・・・初めてじゃないけど、あんまり見る機会なんて無いじゃない。一度だけしか見た事ないし」

「私はイヤになる程見たわ。今のマディンだから言うけど、私はこの大陸出身者じゃないからね」

「じゃ、何処の出身?」

「あっちの方向にあるセヴァ大陸」

 そしてベルベットが指さした方向は遥か東方。水平線の向こう側など、一切見えぬ程遠い地は、マディンに取っては見知らぬ場所でも、ベルベットに取っては想い出の土地なのだろう。その顔は多分気付いていない、哀しさを含んでいる物。

「もう、今のこの大陸より酷い所だった。いや、今もそうなんじゃないかな。このガイア大陸から見れば地図上で丁度真南にある、アーガレストから一方的な侵略と略奪の日々だったからね」

「そこで強く、なろうって決めたの?」

「あはは、そうね。力に気付いたのもセヴァだったし、初めての二つ名貰ったのもセヴァね。イヤな二つ名よ。淫蕩の破壊神なんてさ」

「・・・・」

 潮風が頬と髪を撫で、梳いて行く空間。

 何も無い、水平線だけが見える空の向こう側は既に闇が落ちている場所。

 その時初めて見た気がした。

 ベルベットの、憎しみが籠もる感情の瞳を。

 何よりこの大陸には居ない、赤金(せきこん)とでも呼べば良いのだろうか。鮮血の様な赤と、黄昏を含む金色は同時に虚しさを感じている証に見える。

 だが、その色は戻り、ベルベット自身が見せたくなかったとのだと思った時、彼女は言った。

「でさ」

「?」

「ここで、お別れ」

 その時の感情の籠もった瞳と、我慢している風にしか見えない顔を見た時、多分、ベルベットが出来る精一杯の気持ちをぶつけられたのだと、マディンは思う。

 今までずっと年上だが立場が逆転していただけに、あの少年と別れて以来、自分以上に独りで居なければならなかった故に、そして何より、21歳と言う若さ故に、寂しかったのだ。

 だから忘れないと決めた心で、一瞬どうしようかと迷う。

 だが、簡単だった。

「全く・・・今だけ年上になってあげるから、ね?」

「・・・・・」

「今度逢う時でも、こうしててあげるから」

「・・・・・うん」

 笑ってやれる事。

 優しさ。

 辛辣な言葉を使えば傷の舐め合い。

 戦場で出逢い、こんな場所で別れる故の哀しさ。

 誰にも、分からない感情だろう。

 特に、彼女のそれは、あの少年にしか理解出来ないのかもしれない。

 生きた時ではなく、強さと言う領域に達し得た者だけが分かる感情故に。

 ただ言える事があるとすれば、どんなに強くなろうと、その感情を感じる心だけは同じなのだ。

 人の心を一番壊すモノと、人が死ぬ瞬間は何時かと言う答え。

 それが同じモノであり、孤独と言う名の存在ならば、同じくして言える事もまた一つ。

 強くする事が出来る故の、孤独なのだと。

 だから彼女はその孤独を常に抱える、強者なのだと言える。

 今は追いつけなくても、自分もそうなりたいと思うのが優しさ。

 年上として出来る事。今は笑顔で、抱いてやる事だけでも、ずっとそれしか出来なくても、それで良いと思う。

 そしてだから言わない。

 彼女がどんな顔をして居ようと。

「・・・・・マディン」

「何?」

「嬉しかったし、ありがとね」

 直ぐに戻れる故の強さと、そこにあるのは弱さ。

「けどさ、私は正直、マディンと再会したくない・・・ちゃんと最後まで聞いて」

 不安と、辛さの混じった感情。

「初めて出来たと思うし、知っても、こうしてくれるマディンが私は戦友として好きだよ。でも、私はマディンに私と同じ様な苦しみを味わって欲しくない」

 絶望を知った故の、そして若い身でそれを体験せざるを得なかった故の、アンバランスさ。

「だから静流・レイナードと逢ったら、幸せになって。私も・・・」

 そして戻ったそれは、いつものベルベットの姿。

 いや、それが、ジュリア・イネスと言う女性なのだろう。

「私も紅の正妻から奪って見せるしさ」

 笑って、うれし涙を見せるその女性こそが。

「でもさ」

「何? まだお姉さんに話し足り無い?」

「も、もう良いって」

「ちょっと残念だな〜」

「ホント、私って不幸だよね〜。初めて抱かれた男が義理の父親だし、売られて流れて売女になって、好きになった相手に裏切られてばっかで、本気に好きになった相手にもう決まった相手が居るんだしさ」

「・・・・・・」

 そして、冗談では、無いのだろう。

 辛い過去を、明るく語る事の出来るのが彼女なのだ。

 だからこの先、彼女を昔の名で呼ぶ世界に行ったとしても、こう呼ぶ事に決めている。

「べ、ベル・・・流石にそれは・・・」

「心配無いって。その事に関しちゃ、もう吹っ切れてるし、みんな死んじゃったしさ。その事に関しちゃ、アーガレスト皇国様々ね。他は絶対許さないけど」

「はぁ・・・・。ま、その不適な笑みを見たら少しは安心するわよ」

「でしょ? やっぱ私はこうでなくっちゃ」

 そして彼女が笑った時、闇を纏う空が幾つもの光に包まれた。

 時間は夕闇が通り過ぎようとしている時。

 何もかもの、幕開けとなる瞬間へと移りゆく。

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