晴れ渡る青い空。底抜けに何処までも続いている事も間違いなく、そんな空を見あげながらふかす煙草はまた一興。

 ただし、今、この状況下で心置きなくそう言う楽しみ方を出来る程、彼の懐事情は豊かではなかった。

 場所は皇都ハイルーンの西側に位置するラ・ルーンの森。北西部へと一ヶ月ほど歩いて進めば、このガイア大陸に存在する四つの人外魔境の一つ、漆黒の山脈が連なる山間に出るのだが、ここは皇都に近く親子連れや恋人の憩いの場として使える様な安全な区域。どう言った仕掛けかは知らないが、モンスターが出たと言う記録は一切無く、出たとしても精々、希少種のエルフかドワーフくらいの物だと聞く。

 とにかく、そんな平和な場所、草が生い茂り木々からの木漏れ日が気持ちいい場所で、彼は一つの悩みと共に煙草を吹かしていた。

「貯金残高限りなくゼロに近い一桁一食分と・・・」

 懐を探り、出てきたのは共通貨幣一枚。精々、皇都ではパン一個と言う子供のお駄賃の様な価値であり、貯金残高にあるのも共通金貨一枚と言うレベルなので、一週間一食で過ごしたとしても尽きてしまうのだ。

「どーすんだよこれで。とうとうのたれ死にか?」

 苦笑して、また煙草を吹かして暗くなる。木漏れ日さえも届かないのは気のせいだろう。

 彼がこんな状況になったのは、何かトラブルに巻き込まれた訳でもなく、犯罪逃亡中の身と言う訳でもない。

 単に、仕事が無いからだ。

 至極明快な答えと、残酷な現実と言った所だろうか。

 晴れ渡る空に向かって叫びたい気分だったが、辺りに人影があるので今は止めて置く事にする。視線を向けちらりと見た限り、幼稚園の遠足と言った所だろう。保母さんも大変だ、と想い、彼は煙草の灰を落とした。

 今の世の中、と言っても東北部ではまだ戦火の勢いもあるらしく、裏情報によると西部唯一の国であるダルト連合国はこりもせずに皇都ハイルーンのあるガ・ルーン皇国に侵略をしようと模索中らしいが、何故かハーネル山脈が越えられないらしく毎回全滅しているらしい。それを除けばここは平和な場所で、ハンターと言う職業も、肉体派よりも頭脳派の連中が多く、力だけのいざこざもさほど起こる訳ではない。それ故、このガイア大陸ではまだ新しい職業である技銃師<ガンマスター>と言う職業も肉体派に入るからして、そんなに仕事が舞い込んでくる訳ではなかった。

 それ故、何度か出身地である東方か、育った西部に行こうかと思ったが結局ここ皇都に住み続けているのは争い事に飽きたからだろう。

 ハンターと言う職業柄、それも頭脳派ではないからして、力関係だけで片を付けられるいざこざは何度も体験してきた。それこそ、魔物退治から犯罪者の追跡及び捕縛まで様々だ。その中でも思い出深いのは魔獣群退治だっただろうか。たかが魔獣一匹程度ならば、何人か高レベルなハンターばかりでパーティーを組めば比較的簡単に倒せるのだが、何せ魔獣の癖に「群れ」で行動する様な奴らだったのだ。

 その時を切っ掛けに、技銃師になったのは彼のエピソードの一つ。他にも東部に生まれながらにして両親が多少、変わっていた所為もあり普通引っ越し先には選ばない西部に移った時の事も思い出深い事。

 そんな事を考えながら、ぼんやりと中空を見あげていた所為か。煙草はいつの間にかフィルターまで燃え口元が熱い、と言うよりも火傷を負ってしまいそうになる。

「ちっ・・・これで煙草も当分買えんな」

 残り火で火事にならない様に、一応は念入りに、かなり恨めしそうに踏みにじって火を消す。

 気が付けば、先ほどの幼稚園児達は自由時間なのだろう。シートを広げその上で弁当などを食べている姿が微笑ましい。

「くそっ。物乞いでもしそうな気分だなをい・・・・・?」

 否、本来なら微笑ましいのだが、幸せそうにして食べる姿は今の彼に取ってある意味拷問に近い。だが、小さい子供ばかりと一人の大人の姿の中、不自然な物が一つ映った様な気がして眉を顰め、もう一度その光景を一望しようと首を動かす。

 だが、その前に気配に気付いた。

 懐かしく、そしてこの場にはそぐわない気配に。

「まさか・・・ここで出るのか?」

 多少狼狽えた物の立った瞬間、直ぐに冷静になり懐の銃に手を伸ばすのは忘れない。だが、その気配に驚きを隠せないのも正直な所だった。

 こんな場所でお目にかかれるとは思わなかっただろう。

 感じた気配は間違いなくモンスターの、それも森と言う場所を考えれば最悪な敵。

「レッドドラゴン、か。何でこんな所に」

 気配だけで相手の正体が分かる程、彼は鍛錬を積み強くなっている。それ故、この場でやり合って勝てない訳ではなかった。技銃師、と言う職業の前は技闘士<バトラー>片手に剣術士<フェンサー>と魔術士<ソーサラー>まで囓っているのだ。技銃師が別名、複合職と呼ばれる由縁でもある。

 だが、運悪く何も知らない様子ではしゃぐ遠足に来た幼稚園のご一行。それを守りながら戦える程、余裕がある訳でもない。

 半ば、腹が減っていると言うのもその理由かも知れないが。

 そして試行錯誤の結果、先に敵を見つけ、この辺りから敵を離しながら撃破、と言う判断を下し、それに移る為に走ろうと前を向く。

 だが、何時の間に目の前に立っていたのだろうか。先ほどの視線を巡らせた時に感じた違和感の正体がそこに立っていた。

「えっとー・・・・。気付いた?」

 まず、言っている事が何を指しているのかが分からず疑問が一つ目。

 声の主の姿が、そこいらで戯れている幼稚園児と比べて少々成長した程の姿だった事に疑問が二つ目。

 そして先ほどの違和感の正体である、目の前に立っているポニーテイルをピンクのリボンで纏めた女の子が二本の、それも自分の身長よりも長いのではないかと思う程の剣を背負っている事で疑問が三つ。

 それ故、彼はなんと答えるか迷った上で、取りあえず一つ目を解決する。

「普通出ない筈、なんだがな。名前は?」

「ルシエド。そっちは」

「帆村武士(ほむらたけし)、だ」

「東方出身、へぇ」

 視線を彼、武士から真逆へと向ける際の表情は言葉通りの物。だが、武士は疑問がもう一つ増えた事に頭を悩ます結果となった。

 昔、技闘術の師匠だった人物に言われたからだが、人を見かけで判断してはならぬ、と言う事なので武士はこの少女に着いてもあまり違和感を感じていない。多少、姿形が小さいからと言って強い者は強いのだ。それが真実なら、別にそれで良いと思うだろう。

 だが、どう考えても幼稚園、もしくは小学校低学年の姿をした少女がその時、大人びた表情で笑う事が出来る物だろうか、と言う所に疑問を感じたのだ。

 天才的、と呼ばれた、自分の技闘術の兄弟子が自分より年下で、今も多分、技闘士としては上だろうと言う人物を知っているが、やはり年齢は下と言う事もあり戦っていない時は子供その物なのだ。どんなに戦いの技術が優れていても、精神年齢までは育ててくれないと言う事の現れである。

 だが、目の前の少女はそれを見事に覆している様だ。

 それから導き出される推測は幾つかあるが、それを考える前に少女は言った。

「被害を出さない為に、私に任せてくれない?」

「なんだと?」

 大人びた口調に、一瞬躊躇したが、直ぐに文句を出したのは苛つきが残っていたから。

 だが、次に文句を言える余裕も無くなったらしい。

 空の、高い場所でまるで怪鳥とオーガーの混じり合った様な咆哮を挙げたのは間違いなくレッドドラゴン。

 それ故、遠足ご一行も気付いてしまったらしい。

 そして木々の枝を音を立てて派手に降りながら舞い降りた場所は、自分たち側ではなく幼稚園児達の直ぐ近く。

「ちぃっ!!」

 銃を出し構え、向けた時に武士はある事を頭の中で気付いていた。

 レッドドラゴン。森に住まい、森林地帯では絶対的な強さを誇り竜族の中で最も凶暴とされるブラックドラゴンをも森と言う領域ならば凌ぐ力を持つ魔物。魔術や魔導、と言うよりも、自然その物に干渉する精霊術、とでも言うのだろうか。それ故地形に生命が多い程、それを全て武器に出来るモンスター。

 そして体長は大きくても10メートル、の筈。

 だが、そう考えて見ても目の前に現れたレッドドラゴンは倍の体長20メートルはある化け物と呼ぶに相応しい体躯。建物と近い体躯を目の前にするのは初めてなのだ。そして鉄の弾丸が通用する様な皮膚には見えない。

 それが分かった上で、既に銃弾を放ってしまった武士は急いで弾丸を詰め替える為に特別製の弾丸を取り出す為に懐に手を入れる。

 一撃目の、今となっては威嚇様になった弾丸はレッドドラゴンの後頭部に見事命中したのだろう。大気を震わせる様にして再び咆哮し、此方の方を人間で例えれば殺気を籠めた視線で睨む。

 やばい状況。頭の中で危険を告げるサイレンは鳴りっぱなし。下手をすればあの世行き。

 絶体絶命、等と言うフレーズさえ浮かぶ中、武士は思いの外弾丸の詰め替えが出来たのも日頃の鍛錬のおかげだろう。だが、目の前に起こりうる光景を見た途端、その身体は固まってしまった。

「なっ・・・!?」

 実力相応の戦士でも、この状況下で無防備に手を広げ待つ様な事はしないだろう。

 しかし、少女のやっている行動はまさにそれ。

 実力を見誤った自分を呪いながら銃口を相手の頭へと定めようとするが、その瞬間、少女は自分の方を向くレッドドラゴンに走り飛び上がる。

 そしてその後の行動は、人間なら絶対出来ない事だった。

「何トチ狂ってんのよっ、馬鹿赤竜っ!!」

 軽快な、すぱこーん、と言う音が響いた。

 どうやったのかは分からないが、少なくとも「蹴った」のは後ろに居た武士にも分かる。だが只の蹴りでそんな音が出るのかは全く持って不明。

 そしてただその蹴りだけで、先ほどまであった張りつめた緊張感が全て解け、あろう事かレッドドラゴンは声を発した。

「・・・・はっ!? る、ルシエド様ぁ!?」

 威厳のある声を想像していたのだが、出てきた声は人間で言えば二十歳前後の青年風の声だ。そして辺りを見回し、怯えている園児達と保母さん、ついで武士を見て、その灼熱色の顔を青ざめたのだろう。否、別段、人間の様に顔色が変わった、と言う訳ではなく、そう言う雰囲気を持った、と言った所。

「も、もしかして・・・。私、やってしまいましたか?」

「もしかしなくてもやったんじゃないの。覚えてない訳?」

「も、申し訳御座いませんでしたっ!!」

 そしてドラゴンの土下座など、多分一生かかっても拝めない物が目の前にあるのを見た時、武士は漸く安心した様に銃を懐に仕舞った。

 遠足ご一行の方は何がなんだか分からない様だったが、ルシエドと言う少女が言った「安心して良いよ」と言う言葉に理解を示し、その上レッドドラゴンが、事もあろうに申し訳なさそうな顔をしながら辺り一面を花畑にした事で機嫌は戻ったらしい。

 そして花畑でまた遊びだした園児達をよそに、レッドドラゴンとルシエドは武士の方へ来て言う。

「先ほどは、ホンッ、とーに申し訳ありませんでしたっ。で、物は相談なんですが・・・」

「あ、ああ・・・」

 いきなりの口調は、先ほどと変わらぬ青年風な物。少し付け足すとすれば、商売人、と言う雰囲気が混ざった物だろう。先ほどまで怒り狂った様に咆哮していたレッドドラゴンとどうしても同一人物ならず同一竜とは思えず、多少たじろぎはした物の、実直と言うか、真っ直ぐと言うか。まるで少年の様な瞳を見せるレッドドラゴンを信用するに足る何かがそこにあったのは確かだった。

「ルシエド様をハイルーン城までお連れして頂きたいのですが・・・なにぶん私はこの姿。まだ人の姿に扮する方法も身につけていない若輩者です。しかし貴方程のハンター、先ほどの銃の腕前なら」

「傷は・・・良いのか?」

「ああ、これですか? 別になんて事ありませんよ。頑丈なだけが取り柄ですから」

「だから封印なんかに狂わされるんだよー。日々の修行が足らんのジャっ!」

「ルシエド様・・・後生だから黙ってて下さいよ。これも貴方の為を思って言っているんですよ、分かってるんですか? そもそも街道に出た筈なのに、色んな食材があってそれを料理するのが楽しいからって道は迷うし、盗賊を見つけては暇つぶしがてらに潰しにかかるし、遺跡を見つけてはその周辺に居る守護獣<ガーディアン>達と友達になるのは良い事なんですが子供達と一緒に遊んで道に迷って泣いていた所を見つけられたなんて事聞いた時にはもう、肝を冷やしましたよ。貴方ともあろうお方が迷子になって泣いてるなんて聞いた事もありませんからねぇ・・・それにですよ?」

「いらない事言わなくても良いのっ!!」

「で、その辺の理由があって、俺にそれをやれと?」

 ころころと表情を変えるドラゴン等、見た事もなかったのと、それが人間じみて見えた所為か。ルシエドの事はあえて無視し会話を進めようとする。

 若輩者と言うのが半分は嘘だと言う事が分かる。でなければ人間の、それも長い年月を生きるドラゴンから見ればそれこそ若輩者の武士などに悪く言えばへつらって喋る事など意味は無いのだから。

 そしてルシエドとの遣り取りを見て、武士は二人の関係が自分の想像と少し違っているのではないかと思い始めていた。

 ルシエドの正体として、竜族の姫、と言う想像がまず頭にあったのだ。何せ素手、と言うよりも素脚、と言うべきだろうか。とにかく恐れもせずに怒り狂ったレッドドラゴンの後頭部に蹴りを入れた人物である。まともな神経を持っていればそんな対応が出来る筈もなく、異常者でも、背中の二本のエモノを使うだろう。

 だがあえて素足で気付けの蹴りを放ったのは知り合いだから。そして、会話の節々を聞いていると、竜族の国や村でもあるのなら、だが、ルシエドはそこの王か何かの知り合いか客人と言った所だろう。だから自分でも実力不足、と分かっている様なレッドドラゴンを従者として使わしたのだとしたら、合点が行くと言う物だ。

 だが、だからといって申し出を受ける理由には正直ならない。

 だがらわざと嫌そうな顔をして言って見せた。

 しかし、やはり半分嘘の若輩者、と言うのはあながちではなかったらしい。

「モチロン報酬はお支払い致しますよ。そうですね、共通貨幣500枚程ご都合しましょう。後払いになりますが、迷子一人送り届けて得るには十分な飯代だと思いますが?」

 多分、人間の顔をしていれば、屈託のない笑みを浮かべていただろう言葉。

 そしてその瞬間、腹がぐうと鳴ったのは人生で数える程の失敗だろう。まさかこんな時に、否、わざと「飯代」と言った事で頭に様々な料理が思い浮かんでしまったから腹もそれに釣られ鳴ったのだろう。

 そしてトドメを指す様な言葉。

「それに、城までルシエド様を届けていただければ、料理くらいはご馳走になれると思います。一応、ガ・ルーン皇国に取っても彼女は大切な客人ですから」

「分かって言ってやがんなてめぇ・・・」

「もちろん。わたくし共、赤竜族の特技は欺く事で御座いますから。それはハンターの貴方がよくご存じでは?」

 やはり歳の差か。

 もしくは、種族としての差か。

 表情を変えるレッドドラゴンは、さも楽しんでいる口調だ。

 正直、差ではないと思いたかったが、一度溜息を吐き、彼は言った。

「分かった。コイツは俺が責任持ってハイルーン城まで連れて行く」

「感謝感激の嵐で御座います。もー、ルシエド様の面倒見るのは正直まっぴら御免なんですよ。目を離せば直ぐにうろちょろするし、悪漢を見れば所構わず危ないエモノは使うし」

「えー、私そんなに乱暴じゃないよー。それに悪い奴はやっぱり死んで詫びさせなきゃいけないじゃない」

「はいはい、分かりましたから。今度は私見たいな身内じゃないんですから、迷惑掛けたりしないで下さいよ? あんまり歳の話はしたくありませんけど、分かってますよね?」

「ぶーぶー」

 頬を膨らませ、文句を言いながら先に歩き出すルシエドは子供その物だった。

 そして武士は去り際に毎回の事ながら聞いて置く。

「あんた、名前は?」

「わたくしですか? 色々とあるんですが、今は「深淵のジェイル」などと呼ばれていますよ。では、お気をつけて」

 そしてその大きな翼を羽ばたかせ、北西の方向へと飛び去って行く。その姿は、先ほどまで表情を変え笑うようにして喋っていたドラゴンだと誰が思うのだろうか。悠久の時を生きる、子供の夢を壊さない威風堂々とした影がそこにはあった。

 だが、武士は気付いた様に、握る拳に汗を掻きながら漏らす。

「あ、れが・・・死神のジェイルかよ。とんだ食わせ物だな」

 ハンターと言う職業柄、モンスターにかかる高額の賞金首は全て頭に叩き込んである。有名なモンスターで言えば、魔族で有名な赤銅のライグラ、同じく魔族なのだが最近噂が少なくなった物の悪名は未だに高い「天魔剣<てんまけん>」の二つ名を持つシュリ・レイナード。モンスターの分際と揶揄られているものの腕は確かな異種族混合盗賊団、竜の爪<ドラゴン・ファング>、そして第二位の高額賞金首はブラックドラゴンの双天雷<ツイン・パニッシャー>ことガルガロス。

 そして最も高額の賞金を掛けられているのが深淵のジェイルと言う二つ名を持つレッドドラゴンなのだ。

 普通、モンスターの賞金首は共通金貨六桁が精々なのだが、八桁の9900万と言う破格の値が付けられているのは彼だけ。どう言った理由でそこまで賞金額が跳ね上がったのかは分からないが、未だに姿が見付かり、そして倒せない相手でもある。

 本来森の奥深くに住み、それ故に深淵のジェイル、と言う名前だったのが死神等と呼ばれる様になったのもそれが理由。

 一時期、三年前だったか。ジェイル討伐の大部隊がガ・ルーン皇国内で募集され、かなりの実力派のハンター達が高額の賞金と、討伐隊に入る時に貰える報奨金目当てに集まったと聞く。だが、ジェイルと出逢ったと言う一報以来誰一人として帰ってきた者は居ないのだ。

 その時たまたま、他の仕事でそれには行けなかった武士は、その話を聞き正直安堵の溜息を漏らしたものだ。

 死体が発見された場は、その全ての屍から首が無くなっていたのだから。

「ちっ・・・・厄介な仕事請け負ったもんだぜ」

 そして呑気に尻尾を振る様にして、そのポニーテイルを靡かせ歩いて行くルシエドの後を追う武士だったが、彼はまだ知らなかった。

 これから舞い込んでくる仕事全てが、今回の厄介事を初めとする物だとは。

 もう一時間もすれば夕暮れともあり太陽の輝きはいっそう暖かく感じ、腹の虫は厄介事とその暖かさに文句を言う様にしてまた鳴った。

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