どんちゃん騒ぎのその後で、自分の背中にあった咲夜の暖かみなど遠の昔に消えている。
風が冷たく、酔い覚ましには丁度良いのだろうが、隣りに居るカリッサはどことなく落ち着きが無いのが不思議だった。
それでも、事の真相を知らぬまま動くのは納得出来ない物の、それでも時間が無く切羽詰まっているのは嫌と言う程分かる。
だから、静かに悪態を吐いた。
「こんな事になるまで放って置きやがったのは何処の誰だ」
しかし、それに律儀に答えたのはカリッサ。
緊張を紛らわす為だろう。
「強いて言うならこの国の国政と、貴様の親と、連絡を受けられなかった魔環師共、だな」
「俺の親? ったく、子供の知らない所でどんな仕事をしてんだかね」
最も、自分は緊張と言うより、周りの雰囲気に感化されて興奮冷めやらぬ、と言った感じだ。
いつもは静かなのであろう、城壁の外に居ても中の騒々しさが伝わり、血気盛んな若者から、既に高齢の域に達している老人までもが血走った目をしているに違いない。
これは、戦争なのだと、嫌と言う程、雰囲気だけで伝わってくる。
「で、俺は揚禅暗殺すれば良いだけなら、アンタがそこまで怯える理由が分からんのだがな」
それでも自分を律し、心を冷静と言うよりもはや冷徹だろう。
波打つ心を全て凪ぎで止め、何もかもを現実のままに見定めるだけだ。
今は、動くべき時でないのなら、見付からない事が第一の仕事。
だがそれでも、ダークエルフの身体の震えは止まらないらしく、それが怪訝で仕方なかった物の、彼女の一言と共にその理由が分かってしまう事となる。
「私が、この仕事に関わった理由が分かるか?」
「ウチの両親と知り合いだった、じゃ、不十分見たいだな」
「ああそうさ。広い意味での魔族の中でも、混沌な様で幾つかのルールがある」
「そりゃ、同族同士で戦争しないすげぇ奴等だ。とんでもないルールでもあるんでしょうよ」
「ほう・・・・・意外だな。貴様の様なバカでも分かるとは」
「誉めてんのか貶してんのかどっちかにしとけ」
何気ない一言でも、彼女に取っては緊張を和らげるに十分な理由になる。
だから、他人、と言うより、殆どの人間は知らぬであろう事を口にしてやったのだが、そこまで落ち着くとは思わなかった。
しかしそれも一瞬の事。何処か、疲れた笑顔を見せた彼女の顔は一瞬の内に凍り付き、その名を口にする。
「なら、十三魔剣と言うのを貴様は知っているか」
「十三魔剣・・・・・・確か、魔族の中の魔王みたいな存在、だったっけか」
「掻い摘んで言えばそうだな」
聞いた事はある、と言う程度の知識だったが、それで十分と思ったから、それ以上の事を知ろうとは「思わなかった」事。
魔族と言う連中が、良くも悪くも誤解されたままの存在である事は知っているが、どうしても理解出来ない部分を抱えているのも事実。
幾つかある中で、十三魔剣と言う存在はその一つ。
曰く、魔族連中の中で最強と謡われる十三人の魔剣の名を持つ物の事を十三魔剣(デモンサーティンズ)と呼ぶらしいのだ。
一人、名前を知っていたのがそこまでの知識を得た理由であろう。シュリ・レイナードと言い、二つ名を天魔剣と呼ばれる賞金首、その人である。
だが、こんな所でわざわざ話すと言う事は、もしやと思うが、聞くまでは分からないとムダかもしれない希望を抱いてしまう。
最も、この勘の良さも、今だけは嫌になったが。
「私がここに来た理由は、その十三魔剣の一人がこの城に居るって言う情報を掴んだからだ」
「強さはいかほどで? まさか天魔剣より強いなんて言うんじゃねぇだろうな」
冗談にして置いてくれと、暗に言ったつもりだったのだが伝わらず、逆に関心している様子だったが、心当たりがあったのだろう。
「貴様なら、シュリさんの事を知って居ても可笑しくはない、か」
「シュリ、さんねぇ・・・。極悪人だろ、あんたと同じ」
「まぁ、そうだな。確かに人間の世界じゃ第一級犯罪者だな」
喉の奥の笑みを堪えている様子で、わざとそれで身体の震えを誤魔化していた様だった。
だがそれも、それすらも僅かな事。
彼女の中の記憶が、彼女の経験が、そうさせるのだろうが、口から漏れた言葉が、ただ、自分の中に冷たく響き渡った。
「この城に居るのは龍魔剣の名を持つ男だ。ただ、五千年も昔に死んだと言う話しだがな」

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:GAN'S VERMILION