取りあえず寝た。
三週間の疲れを取る様に。
最も、寝た日の夕刻になって起きてしまったのは回復力があるからだと、何時の間にか部屋に入っていたカリッサに言われたが聞く耳など持たない。
報酬を受け取りに行って貰った代わりに酒だけは奢る、と、まるで恩を着せる様に言ったのだが、彼女も彼女で忙しいらしい。
「これからまた行かなければならないのでな」
「何処に」
「聞きたいのか? お主の嫌いな殺しの仕事なのだがな」
「キライだと言い切れる理由を教えて欲しいもんだ・・・」
「リスキィとか言うのに聞いたからに決まっておろう? いや、なかなか面白かったぞ、お主の昔話は」
「・・・・・」
あの野郎、要らん事をくっちゃべりやがって、と考えるがそれを止める。
何にせよ、礼を断ったのはカリッサだ。貸し借りは無しだと言わないばかりにコートだけを羽織り、自分の取り分、前金が全部だと思っていたが、あれで半分だったらしい。一掴みだけ紙幣を持ってそれをポケットに突っ込む。
「ま、好きにしてろ。俺ももう出るんでさっさと何処へでも行っちまえ」
「つれない奴だな。誰が行かないと言った?」
「・・・ああ、そうですかい」
そして反応を返すだけ鬱陶しい。そんな表情をしながら早々に外へと出て、後ろも見ずに歩き出す。
途中、ハンターギルドによったのはいつもの癖だ。顔見知りの受付係がまたか、と言う顔をしながらも手配書を見せてくれるのもいつもの事。変わった事と言えば、また一人、魔環師候補が出たらしく、二つ名登録されているそれが「紅い詐欺師(レッドスウィンドラー)」等と言うフザケタものだと言う事くらい。
カリッサの手配書は出ていないかと探って見たモノの、似顔絵も手配書もあるにはあったが、まるで似ていない事に苦汁を飲まされた気分になる。
酒場に行くにしろ、カリッサのただ飯ぐらいがどの程度食べるのか等十二分に承知している。だから、小料理屋などと言う洒落た場所ではなく、正真正銘の酒場へと足を運んだのは二つの理由がある。
一つは、働いているウェイトレスと言うより、半ば身売りされる様にして来た女の子に多大な貸しがあるから。
と、言ってもロマンチックなモノでも何でもなく、ただ、ツケを払って大いに飲む為なのだが。
そしてもう一つは、ここの酒は上手いのだが、料理だけはどうしても上手いと感じた事はない。
精々、酒があれば食べられない事も無い様な代物ばかり。
自分でも姑息な、その上みみっちい考えだと思うのだが、せめてマズイ料理を口にした時のダークエルフの顔でも拝んで居ないと一緒にすら居られない様な気がするのだ。
「そう言えば武士」
「あんだよ・・・」
機嫌の悪い声を出す故に、彼女が初めて自分の名前を呼んだことにも気付かぬ彼は、
「ヤケに嬉しそうな顔をしているのだな。コレでも居るのか?」
「・・・・勝手に言いやがれ」
つくづく、自分の素直すぎる表情に心の中で悪態を吐くのだった。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:GAN'S VERMILION