街外れにでも行くのかと思いきや、少年の辿る道は正直、頭でもおかしいのかと言いたくなるのも無理はない。
まるで人気の無くなった皇城へと続く道を静かに進み、自分と、カリッサの足音以外、小さな歓楽街から聞こえる夜の声以外何も聞こえぬ夜だ。
そして、まさかそのまま城に入る気じゃないだろうなと言う心配は無用のモノだったらしく、正門を右にまがり進んで行ったらしいのだがはたと立ち止まり此方を見て、城壁にもたれ掛かる様にして此方を見据える。
「どうやら、ここが地獄の一丁目らしいな」
今日ばかりはタチの悪い冗談だと、カリッサを窘めたくもなるがそんな余裕など何処にもない。
少年を囲むようにして前に立ち、少年の言葉を待ったのだが、少年は自分を見て、ダークエルフを見て、途端、
「しけた面してんなぁ。少しは緊張ほぐせ。俺が話しにくい」
怒った様な、笑った様な、読みとれない表情でそう言った。
それに対し多分、カリッサは自分とは違いまだ何かを言うつもりだったのだろう。身を乗り出し、勝てないと分かっているのに。
殺される「かもしれない」ではなく、殺され「る」と間違いなく言える様な相手の首根っこを掴んで吊し上げにでもしようとしたらしいが、少年に真っ直ぐ見据えられた途端その身体がまるで操り手を失った人形の様に止まり、口を開けて呆けるしかなかっただろう。
「あ〜あ、これも結構銘刀じゃねぇのかお前らの世界じゃ。小気味イイ音鳴って割れたろ」
「き・・・さま、何時・・・?」
「どう考えても今だろうが。別にこれであんた殺そうって訳じゃないから安心しろ。」
彼女の腰から引き抜かれた大仰の剣を、揚禅との戦いで折れた筈のそれ。
そんなモノは捨ててしまえと、彼女の大事なモノであると言う検討がついているのにも関わらず、帰路の途中冗談で仄めかしもしたそれを少年は、自分とカリッサが見えている筈なのに見えぬ様、奪い取ったらしい。
その上、右へ左へと揺らし、指でその刀身をなぞらえた途端、そこには何事も無かったかのように「元の形の」剣があったのだ。
「ほら、な? お近づきの印しだ。デモンサーティーンズにもこれから何かと面倒かけるしよ、あんたも関係者だろ?」
「・・・・・」
そして返して貰いにくくなったそれを、更に受け取りづらい様な言い方をしてまるで押しつける様にしてカリッサに渡す。
心の中にあった言葉は趣味が悪いの一言に尽きる。
幾ら恐怖が心を駆けめぐっていたとしても、イイカゲン、現実味の無い現実だと分かっていても。
夢か幻かも分からないのなら、割り切ってしまえば良いのだ、どうでも良いのだと。
そう考えれば、虚勢だろうが、強がりだろうが、何と言われようとも、一度は死んだ身だと割り切って今更と言う感じに何でも言える。
わざわざ連れてきたとあれば、自分とカリッサに用がある事に違いなど無い。だから「また殺す」と言う事は無い。
そして頭の中で「多分」と浮かんでしまう自分の性格が恨めしかったが、それをかき消す様に自分の本調子を取り戻した一言を言ってやった。
「で、いい加減教えろ。お前、何者だ」
「何者って、言ったじゃん。紅い詐欺師だって」
「それはお前が騙った名だろうが、冗談なぞ聞きたくも無い」
「冗談じゃないんだけどな。ま、信じられないんなら、信じられる名前で名乗ろうかね」
だが、まるで暖簾に腕押し。
リスキィを相手にしている様で苛ついたが、悪友と違う部分は真意を予測する方法が此方には一切無いと言う事。
そして答える様にして少年は口を開いたのだが、幽鬼の声の様、それを遮ったのはカリッサの言葉。
「・・・・夕闇の殺戮者(デュスク・ジェノサイダー)」
「あ?」
最も、聞いた事もなく、ただ物騒な名前だとしか分からないそれは彼女に取って余程意味のある名前らしい。
青ざめた顔が元の褐色、と言うより、土色か。
変色すら感じ取れるそれを確信出来たのは彼女の目が漸く怯えを見せたから。
その原因は無論、少年なのだろうが、視線を戻し少年の顔を見た時そこにあった顔は。
「・・・デュスクじゃねぇよ、勝手につけんじゃねぇガキが」
「・・・・・・いや、どう見てもお前の方がガキだろをい」
子供が、大人の怖い顔を真似て失敗した、顰めっ面なのだが奇妙なオブジェの様で、吹き出しそうになってしまった。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:GAN'S VERMILION