街外れにでも行くのかと思いきや、少年の辿る道は正直、頭でもおかしいのかと言いたくなるのも無理はない。

 まるで人気の無くなった皇城へと続く道を静かに進み、自分と、カリッサの足音以外、小さな歓楽街から聞こえる夜の声以外何も聞こえぬ夜だ。

 そして、まさかそのまま城に入る気じゃないだろうなと言う心配は無用のモノだったらしく、正門を右にまがり進んで行ったらしいのだがはたと立ち止まり此方を見て、城壁にもたれ掛かる様にして此方を見据える。

「どうやら、ここが地獄の一丁目らしいな」

 今日ばかりはタチの悪い冗談だと、カリッサを窘めたくもなるがそんな余裕など何処にもない。

 少年を囲むようにして前に立ち、少年の言葉を待ったのだが、少年は自分を見て、ダークエルフを見て、途端、

「しけた面してんなぁ。少しは緊張ほぐせ。俺が話しにくい」

 怒った様な、笑った様な、読みとれない表情でそう言った。

 それに対し多分、カリッサは自分とは違いまだ何かを言うつもりだったのだろう。身を乗り出し、勝てないと分かっているのに。

 殺される「かもしれない」ではなく、殺され「る」と間違いなく言える様な相手の首根っこを掴んで吊し上げにでもしようとしたらしいが、少年に真っ直ぐ見据えられた途端その身体がまるで操り手を失った人形の様に止まり、口を開けて呆けるしかなかっただろう。

「あ〜あ、これも結構銘刀じゃねぇのかお前らの世界じゃ。小気味イイ音鳴って割れたろ」

「き・・・さま、何時・・・?」

「どう考えても今だろうが。別にこれであんた殺そうって訳じゃないから安心しろ。」

 彼女の腰から引き抜かれた大仰の剣を、揚禅との戦いで折れた筈のそれ。

 そんなモノは捨ててしまえと、彼女の大事なモノであると言う検討がついているのにも関わらず、帰路の途中冗談で仄めかしもしたそれを少年は、自分とカリッサが見えている筈なのに見えぬ様、奪い取ったらしい。

 その上、右へ左へと揺らし、指でその刀身をなぞらえた途端、そこには何事も無かったかのように「元の形の」剣があったのだ。

「ほら、な? お近づきの印しだ。デモンサーティーンズにもこれから何かと面倒かけるしよ、あんたも関係者だろ?」

「・・・・・」

 そして返して貰いにくくなったそれを、更に受け取りづらい様な言い方をしてまるで押しつける様にしてカリッサに渡す。

 心の中にあった言葉は趣味が悪いの一言に尽きる。

 幾ら恐怖が心を駆けめぐっていたとしても、イイカゲン、現実味の無い現実だと分かっていても。

 夢か幻かも分からないのなら、割り切ってしまえば良いのだ、どうでも良いのだと。

 そう考えれば、虚勢だろうが、強がりだろうが、何と言われようとも、一度は死んだ身だと割り切って今更と言う感じに何でも言える。

 わざわざ連れてきたとあれば、自分とカリッサに用がある事に違いなど無い。だから「また殺す」と言う事は無い。

 そして頭の中で「多分」と浮かんでしまう自分の性格が恨めしかったが、それをかき消す様に自分の本調子を取り戻した一言を言ってやった。

「で、いい加減教えろ。お前、何者だ」

「何者って、言ったじゃん。紅い詐欺師だって」

「それはお前が騙った名だろうが、冗談なぞ聞きたくも無い」

「冗談じゃないんだけどな。ま、信じられないんなら、信じられる名前で名乗ろうかね」

 だが、まるで暖簾に腕押し。

 リスキィを相手にしている様で苛ついたが、悪友と違う部分は真意を予測する方法が此方には一切無いと言う事。

 そして答える様にして少年は口を開いたのだが、幽鬼の声の様、それを遮ったのはカリッサの言葉。

「・・・・夕闇の殺戮者(デュスク・ジェノサイダー)」

「あ?」

 最も、聞いた事もなく、ただ物騒な名前だとしか分からないそれは彼女に取って余程意味のある名前らしい。

 青ざめた顔が元の褐色、と言うより、土色か。

 変色すら感じ取れるそれを確信出来たのは彼女の目が漸く怯えを見せたから。

 その原因は無論、少年なのだろうが、視線を戻し少年の顔を見た時そこにあった顔は。

「・・・デュスクじゃねぇよ、勝手につけんじゃねぇガキが」

「・・・・・・いや、どう見てもお前の方がガキだろをい」

 子供が、大人の怖い顔を真似て失敗した、顰めっ面なのだが奇妙なオブジェの様で、吹き出しそうになってしまった。






































アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:GAN'S VERMILION





































 そしてその自分の行動。

 ただ、少年、と言うよりまさにガキだろう。そいつの顔が面白かったから素直に吹き出しそうになり、我慢したのだが失敗して少し呼吸を整えるのに苦労した辺りが、彼女に取っては落ち着ける要因となったらしい。

「・・・お前もお前だ。俺は気付け薬か、ああん?」

「そう言うな、感謝はしてるさ。まだ身体の震えは取れんがな」

「震え? 武者震いでもして・・・」

 だが言葉通り、彼女の身体は小刻みに震え、やはり少年が恐ろしく感じているのだ。何処にそんな恐怖があるのか分からない、と、自分でも思えるのだが、理由を忘れさせるだけの馬鹿さ加減が呆れるに十分。それが恐怖を消し、自ずとこんな事も言える様になる。

「とにかく、気に喰わねぇなお前はよ。一体何が目的かいい加減言って見たらどうだ?」

「やっぱ肝っ玉だきゃ座ってんな兄ちゃんよぅ。けど、そんだけだぜあんた」

「言ってやがれクソガキが」

 そして煽られたのだ。素直に銃をガキの眉間に突きつけ、殺気で威嚇してやる。

 無論、妙な行動を取った瞬間、引き金を引いてやるだけの覚悟も決意もあったのだが、それを遮ったのはカリッサ。

「武士、いい加減理解しろ。コイツはそんなので殺せる相手じゃない」

「やって見なきゃ分かんねぇだろそんなの」

「魔導兵約三千人相手の攻撃を一人で「喰らって」生きていた男だぞ」

「・・・・はぁ?」

 そして宣ったのはそんな冗談みたいな言葉だ。

 だが、目を見れば誰でも分かる真剣なそれは嘘を言っているのではなく、まるで見てきた者が物語る様な眼差し。

「アルフェイザ伝説の生き証人て訳かコイツが」

「兄ちゃん、話は聞こうぜちゃんと」

「てめぇは少し黙れガキ」

 最も、冷静になれる筈の自分をココまで苛つかせる目の前の存在がどうしても鬱陶しく思え、そんな状態で考えを纏めろと言う方が無理な話だ。だからなのかもしれないが、カリッサはしれっと、まるで明日飲みに行こうと言う様に述べるだけ。

「私とて、攻撃を喰らったままでキズも無く倒せる訳じゃない。コイツは、三千人の魔導弾を喰らっても生きてる化け物だ」

「酷い云われよう、なんだがな。どうだ? 一発眉間にぶちこみゃ話は早いぜ?」

「確かにそうさな。じゃ、死ね」

 そして、馬鹿な事だと分かっていても、それよりも憎悪や悪意、殺意を越えた苛つきが引き金を絞らせ渇いた音が木霊する。が、結果は惨憺たるモノではなく、身体が硬直するに十分な結末。

「で、もう一発とか言うのか? 別に良いが、一撃だけしか俺は許さんぜ。どうする?」

 銃口を突きつけたままの眉間に、僅かにずれたそこから硝煙の匂いが立ちこめ、ただ、それだけだ。

 ゆっくりと銃をカリッサに降ろさせられた場所にあったモノは、キズ一つ付かぬ額と、拉げた弾の残骸。

 術を使った訳でもなく、初めから魔導で防御壁を張っていた訳でもない。そもそも、そんな事をしていれば少なからず眉間に銃を突きつけた時に嫌でも分かる。

 自分ならばそれが出来ると自負している事が、こうも裏目に出来る事など無かったのだ。

 打ち砕かれた気分、ではあったモノの、態度を変える理由にまでは至らない。

 そしてまるで効いていないよと、挑発する眼差しで見られた瞬間、頭の奥がカッと熱くなるのが分かり銃を再び構え直そうとしたとき遮ったのは少年ではなくカリッサ。

「いい加減、挑発するのは止して貰えませんか」

「でもそうしないとあんたが落ち着かないしさ、血の匂いでも嗅げば楽になるのかい?」

「私はもう大丈夫です。殺される気もありません。まして貴方を殺せる等・・・」

「思って無い、か。ま、信じてあげましょ、俺自身も殺す気無いしさ。挨拶だよ俺流の」

 その上、カリッサはまるで自分らしさを押し殺した様に下手に出るだけだ。それが一番気にくわない理由は、彼女を少なからず知っているから。

 ここまでこの少年にへつらう理由が何処にあるのか分かる筈もなく、分かりたいとも思わない。殺されようが、殺された事が事実であったとしても今、自分は生きているのだ。曲げる気など絶対に無い。

「俺を殺して、実力見せて脅して連れてこさせて、それがお前の流儀だってんなら従う気は無いさ」

 だから踵を返し、これで終わりだと意思表示したのだが、途端身体が硬直したのは自分の意志ではない。

「だからさ、手伝ってって言ったのはお願いじゃなくて命令なんだよね〜。従うも従わないもないの」

「そんな脅しにゃ死んでも乗る気はねぇな。もう少し交渉術ってもんを覚えてから出直せクズが」

「あれ、そんな事言って良いのかな?」

 そして少年の顔は見えぬモノの、声色が確かに分かったと思った瞬間、カリッサの動く気配が分かり、自分の首に突き立てられた剣の意味など分かりもしない。

「おいおいどういう事だこれは」

「貴様とは味方でもなんでもないと言う事など承知している筈だ」

「ならやれば?」

 自棄になっているから、一度死んでいるから何でも言える。

 どうなろうと知った事ではない。

 意思は変わらないと、強固に思えば思う程苛つきが増し、そして途端、冷水を被った様に無理矢理冷やされる。

「私たちが戦争しない理由が何か分かるか?」

「今する話しかよ」

「しなきゃ貴様には理解出来ん話しだ。奴が、ある世代より上を一人残らず殺したからだ」

「・・・・・は?」

 冗談も対外にしろ、とか、そう言う言葉は一切出てこない。

 何せ、肩口に顔があるから分かったのだが、彼女は涙ぐんでいたのだ。

 キライなモノの一つであるそれは一気に自分を冷静にさせ、少年の苛つきの言葉がまた聞こえたとしても、そのままで居られる理由になる。

「付け加えるとしたら、今でも一撃で十分だぜ」

「い、いか、げん・・・理解して、くれ。コイツは人質を握っているのと同じなんだ。お前の見える世界全てが破壊される光景など見たくもなかろうが」

「じょ、うだん・・・」

「冗談なんかで済むのなら・・・・・、魔族は戦争をしないと言う判断を下せなかっただろうよ」

「咲夜と、雪恵と、もう一人妹が居たっけなぁ」

「!!」

 その上、だ。

 調べたのか、それとも見ていたのか。

 目の前にまるでそこに居るかの様現れた、間違いなく幻だ。

 そう言える筈の、血の繋がった兄妹の姿が目の前に現れ、微笑んだと思った瞬間、四肢を、首を、胴を、バラバラにされその返り血が自分に降り注ぐイメージが心の中に侵入してくる。

「げ、外道が・・・・」

「交渉術学んで来いってったのはあんただぜ? こういう交渉もあるって分かってただろ。な、カリッサおねーたん」

「・・・・・」

 無論幻故に、現実に彼女たちが死んだ訳でもない。捕まえようとしても彼女たちなら逃げ切れると言う確信があった。

 だがそれに揺らぎを加えるのに十分な理由がこの場には揃いすぎて、視界に飛び込んだ違うまた、幻。

 ただ、それは自分の知らない顔だ、と思った刹那、自分の首に当てていた剣が離れ、彼女の気配その物がまるで凍てつくようになるのが分かるが、それが彼女の一番大切な人物だと分かった瞬間、自分の見た幻と同じ光景がそこに広がり、押さえきれなくなったのだろう。

 彼女の切っ先は自分から少年へと、そして貫いた筈だと思ったそれが避けられたのだと分かった瞬間、城壁に突き刺さったそれは闇色を纏い少年の目の中に嘲笑を浮かべさせている。

「頼みますから・・・・二度と、こんな事はしないで貰いたい」

「キズ抉ったのは悪かったがな、あんたもタングラム性を名乗るんだったらそれぐらい覚悟しろよ。自分がどんな役目を担ってるか分かってんだろ?」

「・・・死者を愚弄するつもりなら、例え貴方であれ私は許すつもりはありません」

 そして言葉の節々から彼女がぶち切れるに十分な理由なのだと分かった。

 誰であれ、自分の大切に思っていた人物の殺された光景を思い出させる何かは心に酷く痛み、ではなく、何よりもツライ苦しみを与えるのだ。

 笑って出来る少年の奥底にあるモノは間違いなく、嘲笑だけ。

 そして理解するしかなかったのだろう。自分に逆らう意思があったとしても、そこで留めて置かなければ幻が現実になると。

「漸く分かって貰えたかなタっちゃん?」

「てめぇにそんな名前で呼ばれたかねぇよクソ野郎」

「そうそう、それで良いの。別に仲良しこよししてくれなんて一言も言ってないしさ、あはははは」

 笑う少年と、青ざめすぎた自分の顔。

 そして何より、心の痛みに耐えかね崩れおちるかと思いきや、それでも留まった彼女の後ろ姿は何処までも霞んで見える。

 状況が真っ赤っかだの、最悪だの、そんな事を言える余裕が無くなった自分に、これ以上どうしろと言うのか。そんなモノが理解出来るのなら早々にカリッサを連れてここから逃げ出したい気分。

 それが本音なのだが、元来勝ち気と言うより、自分が頑固なのだと分かった時にふと、だからなのか、と言う疑問が生まれる。

 最も、それを問いただす勇気も、蛮勇さえもかき消すだけの瞳があっては無意味な疑問なのかもしれないが。

「さてと、じゃ、本題にはいろっか」

「ゲス野郎が漸く口開くのかよ、ご大層な前振りだな」

「なんとでも好きな様に言ってくれ。ま、後々感謝する事になる、とまでは言わないけどね。ほら、カリッサおねーたんもいい加減起きてくださいよ?」

 少年に肩を掴まれた途端、びくりと身を竦ませるのが見ていた自分にまで伝わってくる様だったが、少年の呟いた聞こえぬ言葉に驚きの表情を見せ、少年はまるで自分に聞こえる様、次の言葉は比較的大きな言葉で述べるだけ。

「無論、今言った事はホントさ。これ以上失いたくないんだろ? なら鬼にでもなれ、と言いたい所だけど、あんたらにゃそのままで頑張って貰うしかないの」

「・・・・死者を蘇らせられると、本気で」

「思ってる、じゃ、不満かい? けど、そこのにーちゃんは生き返ったでしょ?」

「・・・・・・」

「おいおい、じゃ、俺は実験材料に使われたって事か?」

「その為に、ね。ちょいと細工をさせて貰ったさ」

「細工、だと?」

 次々と新しい手ばかりを出してくる少年のやり口は今までやったどのタイプでもない。

 同時に、どのタイプにも当てはまるのだから恐ろしいと言えるのだ。

 何より、思考が纏まる前に、まるでそれを見計らった様にして違う手をあれよあれとと出して来るのだから仕方がないのだろうが、ここまで材料があり、同時に実力があって何故自分たちに仕事を頼むのかも分からない。

 そう、それが一番分からない事だ。

 漸く、本心から落ち着け、口で幾ら罵った所で自分の中は澄みきった湖の様に静寂が支配している。

 その思考でならば、検討も着くのだが、実力は確かにある。魔導兵三千人の攻撃を一人で受けそれでも生き残り、同時に、カリッサの話が嘘か本当か未だに判断しきれないのだが、一世代、多分、一万や二万と言う桁すら越えているだろう。その数を一撃で葬り去れる腕があるとするなら何故、自分でやろうとしないのかが分からない。

 そして導き出される理由は一つ。

 同時に「何か理由がある」と言う、答えであって答えでないそれで満足出来る程、自分は情報を握っていない。

 そして多分、その握りたい情報の一つであろう事を、少年はいつも簡単に言うのだ。

「ああ。兄ちゃんが死んだ時にね、もう一つ命をくれてやったのさ。一度なら死んでも甦れるよ。保険、だね、これ以上ない」

「異常過ぎるの間違いじゃねぇのか? 人を勝手に化け物にしやがって」

「別に人間「じゃない何か」にした訳じゃないさ。あんたも、関係者になる一人だと思うからその為に、だよ。幾ら何でも弱すぎるんだ、たっちゃん?」

「だからそんな変な呼び方をするなと何度言えば・・・」

「家族、殺されたきゃないっしょ?」

「・・・・」

 今度は嘲笑ではなく、普通の、いや、妖艶な、と言うべきか。

 確かに男だと言うのならそうなのだろうが、いい加減、この笑顔を見た瞬間思い出してしまうのだ。少女の姿をしていたこのガキの事を。

 なまじ可愛いだけに、怖気、双方の意味でしてしまう自分が恨めしい。

 最も、カリッサは至って真面目になったまま戻っても来ない。

「私にはもう家族など居ない。そんなメリットのある話しに思えると?」

「だから、さっきの人。誰だかしんないけど、今回の報酬で生き返らせる位ならOKだって言ったの。無論、口外無用だし、人里離れた所で暮らして貰わなきゃ困るんですけどね」

「・・・・過去に、縋る気はない。今を失いたくないだけだ」

「ま、それはそれ、これはこれで割り切ってちょーだい。別にそれだけが報酬じゃないし、争いが無い大地、とは言わないけど、戦争が皆無の第二の大陸へとご案内〜って事くらいは出来るよ?」

「・・・・幻のファル大陸、か」

「なんか俺が滅ぼした事になってるらしいけど「見えない」様にしただけっすよ。あの時期、まー、一人行った奴が居る見たいだけどさ。戦争とか完璧にやらないって文化があったんでね」

「それを信じろと」

「魔族も一度やっちゃった種族だからさ、俺も未だに信用出来ない部分があんのよ。ま、13魔剣なんて存在作る程切羽詰まった決断しなきゃならない程でもなかったんだろうけど、俺が拍車かけちゃったのは事実だからね。罪滅ぼしみたいなもんす」

「死者まで蘇らせて、まるで神族気取りだな貴様は」

「そう言う風に言われるのはキライだけど、否定出来ないしね。けど、カリッサおねーたんの「それ」は僕の責任じゃないっしょ。しがらみまで作って操れる程、僕は「まだ」強くないっすよ〜」

「・・・・・・」

 そして何より、またおいてけぼりだ。

 話がでかくなった途端、訳が分からない単語がどんどん出てくる。

 その上、少年の言っている事は曖昧すぎてどれがどれだか今一分からず、カリッサの言っている事は対照的にズバリとモノを言っている、筈なのだが、やはり知らない事を予測だけで考えようとしても無理な話。

「もう少し分かり易く説明してくれると此方も「大いに」助かるんだがな」

 だがそう言った瞬間、にへらと、笑った少年の顔は分かり易い。と、言うより、分かり易い表情をしてそれでも聞きたい?と暗に言っているのだ。

 策士、なんてレベルにまで「押さえている」のも気にくわないのだが頷いて聞く事にする。そうしなければいけない気などしないが、釈然としないままで居るよりは良いと思ったから。

 だが、それすらも見抜かれていたらしい。

「一応言っても良いんだけどさ、人族代表になっちゃうよ?」

「あ?」

「帆村武士、君が君たちの歴史の最初を、過去を知る初めての人間になるって事さ」

「どういう事だ」

「だからさ、要約して言うけど、僕が誰かに伝えるなんて事はこれが初めてだって事。魔導神も、ジハードも、13魔剣も、人間だけには知らせていない事実ってのが色々ある訳よ。それに伝説として伝えるにしろ、女剣士の物語みたく上手く御伽話考える才能も使うの面倒だしね。あんたが、伝えろって事」

「そんな身勝手なはな・・・」

「身勝手は君だよたっちゃん? たかが100年も生きてないガキが知る様な話しじゃないし、知ってどうなる? 知った所で変えられる起爆剤にもなりゃしない。なら唯一出来る伝えるって事をするのが、知った者としての義務なんだ」

「・・・・・」

「おごり高ぶり持ってるからとか言わないけど、もう少し首突っ込むんなら、家族だけじゃなく血縁抹消される、なんて方向の可能性だけじゃなくて、自分がやらなきゃならなくなる事実って可能性も考えるべきなんだよ、君たち人って奴はね」

 当惑から、疑惑、分からないと言う意思を表し、それをくじかれる。

 理解出来る心と知識、情報があるからこそ少年の言った言葉の意味も分かったが、確かにこれではまるで宗教の崇められる神だろう。

 やおら性格の悪い部分は宗教上のヒミツとでもされるに違いない。何より、少年の続く言葉が本音と言った所か。

「どっちにしろ僕はやるのが面倒だって以前に、この世界の住人になるつもりは無いのさ。だから、あくまで裏方。やるのは君たち。自分の家くらい自分たちで守らなきゃ。この皇都だっていずれちっちゃなお姫様がそうしようとしてんだよ? ま、皇都の話は例えだとしても、僕の本音は面倒だって事。大義名分が他人の家だから口出ししないって所かな」

 そしてそれに返す言葉など一つしか見あたらない。

「・・・それこそ身勝手じゃねぇのか?」

「なかなか勘が良いね」

「馬鹿にすんじゃねぇよ。結局、お前も義務とやらを果たして・・・・」

「だから、最強になったのさ」

「何?」

「あのさ、話しちょっとずれるかもしんないけど、最強って言葉の意味が分かるかい?」

 いきなり、禅問答の様な事を言われ当惑するも、少年はそれを知っている風には見えない。

 カリッサも今の話を面白いと思って聞いていたらしいが、見えなくなったのも当然だろう。

 だが、それに対する答えも自分は持っている。だから言えた、のだが

「弱者を守る、それが最も強いって意味じゃねぇか。何言ってんだお前」

「あはは。言うと思った。けど、それじゃ半分正解にも満たないよ」

「じゃ、言ってみろよお前が。喋りたそうな顔だけしてもどかしい思いさせて楽しいか?」

「楽しいよ。ま、それを見抜いたから教えてあげる。最強って意味の答えはさ、子供の我が侭」

「はぁ?」

「考えてもみなよ。子供の頃、何を願った? それをそのまま実行できた奴が何人居る? 空を、翼も無しに飛びたいなんて夢は人間の子供なら考えた事くらいあるんじゃないのかな?」

「俺は生憎とそんなロマンチックな夢とは無縁でな」

「ま、それはそれだ。君が言った、弱者を守りたいって言うのも、色んな現実を見たからだろ? 大人の事情って奴を使えばそれからも逃げられるけど、立ち向かう事を選んだ君はまだ子供の部分しか持っていないって事さ」

「それが・・・我が侭だって言うのかよ」

「悪い、って言ってるんじゃないさ。けど、実行するのは楽かい? たっちゃんが無縁なロマンチックな言葉で言えば、夢を実現させる力って言うのが、最強なのさ」

「はん、何かと思えば、その程度かよ。くだんねぇ・・・」

「その上、善か悪か何て、夢には関係ない。人を一万人殺すにしろ、女を強姦しまくるにしろ、夢は夢さ。少なくとも自分が最強でなければやり続ける事なんて出来ないよ? だから言ったじゃん。無邪気に虫とか花をむしって喜んでるのも子供だけど、それが命だって気付いたら簡単にゃぁ出来ないよ? それら全てを知った上でやる、やらないを決められて尚、例え如何なる事であろうと現実にする事が出来るのが最強って事さ」

「・・・・・」

 恐ろしい事を簡単に言う奴だ、と、今更ではあるが再認識させられる。

 誰もが、それは経験を経て出せる答えなのだろうが、認めたく無い答えでもあるが故に、心の中に出さないように気付かぬ内に封じ込めてしまうモノの一つ。

「そんな考え方してる奴の頼みを聞けってか? 確かに脅さなきゃ出来んだろうさ、腰抜けだお前は」

 だが、納得するのと理解するのとは違う。

 やはり信用出来る人物ではない、と、何度も思った筈なのだが、それでも認めてしまいたくなる何かを持っている事も事実。

 こんなにも迷ったのは、一体何時ぶりだろうか。同時に、漸く確信出来た事が一つある。

「そりゃ、脅したのは事実だよ。けど、脅さなきゃ君らは死ぬって言うのも事実さ。帆村、君は何で僕の喧嘩を買ったのかな?」

「気にくわない。それ以外に理由が必要か?」

「じゃ、その気にくわないで命失う奴がどう表現されるかも知ってるだろ? 分からなかった、と言う事実がある限り、今、間違いを抱えてんのか君らの方さ」

「・・・・てめぇは正しいって言いたいのか?」

 少年の中には間違いなく正義など無い、と言う事だ。

 気付いていた筈なのに、認められなかったのは、少年は巧みに自分たちの心境を向けさせ、その上で信用させる為のパフォーマンスをやって退けたのだ。

 理解の範疇を越え、ある種共通点と、共感できる部分、何より、可能性でそうありたい、そうありたくないと言う部分を上手く使えば人の信用を勝ち得る事は簡単に出来る。

 最も、それを悪意、もしくは下心があってやると言う事は損得勘定のみで動く輩の証。

「まぁ、君ら「よりは」だよ。それに、本質的に正しい事なんて、殺す事は悪だ、なんて言ってるんじゃ、君も同じじゃないのかい?」

「どういう意味だ。第一、俺が何時言ったよ」

「ああ、間違ったのは謝る。揚禅を殺したあんたに言える言葉か? って聞いたんだ」

「・・・・」

 やはり雲行きは最悪だ、と言うより、初めから快晴で始まった話しでもないだろうに。いい加減、堂々巡りを終わらせたくもあるが、多分、この少年は引いた途端後ろから首でも飛ばす、なんて芸当をこのままの、笑った表情で出来るだろう。

 誰であろうと死にたくはない。恐怖を抱えたまま話せないのなら、下手に出て諭して見る。

 まさに、自分が言った実験材料にされている様でまた苛つき、同時に、無理矢理押さえ込もうとする心が殺意すら抱く様になってしまう。

 そしてそうなった時、

「本当に正しい一つだけを教えて欲しいんなら教えてあげるよ。弱肉強食、それだけが、真実さ」

 少年は自分をいとも簡単に殺すのだ。

 しかし、途端、少年の表情が和らいだ意味が分からず眉を顰めた途端、少年はまた簡単に言った。

「けどまぁ〜、たっちゃん見たいに弱者を守るのが当たり前って考えはキライじゃないよ。ただ、君の言う弱者って言うのは「弱いけど強くなれる奴等」って事でしょ? 可能性まで潰すなって言う方が、足りない言葉を言うより相手に伝わるって事。もすこし学ばなきゃ。ね?」

「・・・・・・・・・」

「あ、怒った? 自分で言いたかったんだろうけど、それなら常に頭くらい動かしとかなきゃ。苛つくのも良いけど、誰かに苛つかせられるのが嫌なら強固な心じゃなくて柔軟な何でも一度は認める心を持った方が確実だよ? 楽じゃないって分かってるんだろうし、やっぱみみっちいねちみは〜」

「殺すっ!!」

 その瞬間、頭の血管がまるでぶち切れた様に、身体全部が殺意に充ち満ちて少年を殺そうとしたのは事実。

 後ろから羽交い締めにしているカリッサが、先ほどとは違い、何処か笑った様な表情をしているのも気にくわない。

 要するに、見抜かれてしまったのだ。カリッサには。少年は初めから分かっている故に、こんなやり方を取ったのだと言ったがやはり気にくわないと言う印象まで拭える程のモノではなく、しばらく激昂した後、漸く落ち着いて自分の口から出た言葉はこんなモノ。

「上等じゃねぇかよコラ、そこまで分かってんなら余程大義名分がある仕事なんだろうな、えぇ?」

 もう体裁などどうでも良い。何と言われようが、この頭でっかちに思える餓鬼に思い知らせてやる、と言う意気込みが彼の中にはある。

 それが予測の範疇だとしても、少年の策略に乗ったと言う事実が分かっていたとしても、どちらにしろ、手の中で躍らせられたのならば、その外にまで行って顔面をぶん殴る位の意気込みが彼にはあった。

 だから幾らでも言える。

「で、ガキ、お前の答えはまだ聞いてねぇぜ」

「え〜? 弱肉強食だって言ったじゃん」

「そんなので納得できるかっ!!」

「じゃあ、言うよ? 一回で理解してねお馬鹿さん」

「!!」

 また、怒り出しそうだったのだが、その瞬間にカリッサに羽交い締めにされるだろう事が分かったからそれを止める。

 そして、少年の目に宿った色。

 今まで、まさかとは思うが、変えていたと言う事実があるのならこの食わせ物は、誰にも食えない奴だとしか言いようがない。

 一人の女剣士が出てくる物語と言うのは余程、カリッサ達魔族や、この少年に取って意味がある事らしく、それを準えてその色にしたのか。それとも。

「僕が考える弱者は、兄ちゃんが嫌いな連中と一緒だよ。ただ、一人も残さず殺さなきゃ。後戻りなんて何時でも出来た筈だよ? 小悪党まで面倒見切れないけど、確信犯だけなら殺す事なんて簡単さ」

「・・・・やっぱ殺人者だてめぇは」

「違う違う。最初にカリッサおねーたんが言ったじゃん、夕闇の殺戮者だって。本当は紅の殺戮者(クリムゾン・ジェノサイダー)って言うんだけどね」

「それはその目の色の事を言ってるのか? 安直過ぎると思わないのかね」

「? ああ。これね。二つ名は瞳の紅じゃなくて、夕闇って所に真意があるんだなぁ実は。そんな風に表現されたの初めてだけどさ」

「ああ? もう聞きたくねぇよお前の言葉。さっさとしろ、何処ぞこのどでかい城に侵入するんじゃなかったのか?」

「ゆーやみって世界全部、夜の闇を血で彩ったから、でしょ? カリッサおねーたん」

「武士、よくお前は・・・・・いや、鈍いのか。そう言えばそうだったな」

「をいをいそこ? 妙な納得の仕方してんじゃねぇよ」

「納得されたくないんなら、こんな化け物目の前にして喧嘩する様な態度は誤解を招くと言う事を分かって居るのだろうな?」

「そーゆーカリッサも喧嘩売ってんじゃん。おいガキ、俺はダメでコイツなら良いのか? えこひいきじゃねぇかよ、納得行かねぇぞコラあ?」

「だって、男キライだもーん僕。やっぱこういうおねーたまに優しく抱き留めて貰って、こう熱い口付けを」

「あーあー、一人でやってろ色情狂。あの二人の連れもまさかそんな感じの間柄じゃねぇだろな」

「マディンは違うんだけどねー、ベルはなんと言いましょうか・・・・・まさか冗談だと思ったんだけど、本気で迫られてそのままヤラレちゃったし。妻に見付かったらどーしましょってなもんでっす」

「妻ぁっ!!?」

「あれ? 言って無かったっけ? 一応既婚者よ俺サマー。14人だったか、15人・・・かな? 娘も居るし」

「まさか、シーグル様もその一人と言う訳なのか?」

「かっちゃん。すこーし正解。でも、二人で作った娘って訳じゃないだけで、まぁ、娘にゃ違いないんだけどねぇ。鋭いっすね、流石は女性」

「何訳わかんねぇ事言ってやがる・・・」

「あ、無視されて寂しかったノーたっちゃん。男の子だもんねぇ〜」

「・・・・しゃがんで何処拝んでやがるガキ。冗談にしねぇとどたまフッ飛ばすぞコラ」

 どちらにしろこの変わり様が、明日の天気を決める夕闇の色を現す真意なのではないかとすら思える一方、移り身が早いと言うか、恐ろしく頭の切り替えが早いからこそ、この少年が恐れられる理由なのかもしれないと、安直な予測は立てられた。

 何せ、底が見えないのだ。

 夜の闇の様に何処までも澄み切っている悪意を放つと思えば、何処までも無邪気な笑みを浮かべて騙してくれる。

 騙す、と言ったが、確かに少年は一度しか危害は加えていないにしろ、それに嵌められた自分たちの実力を見抜いたからこそ出来る芸当。

 と、そこまでなら多分、カリッサでも分かるのだろうが、自分にしか多分見抜けてない事実もある。

 少年は、何も隠して居ないのだ。

 表に出す全てが彼の本性と言っても過言ではない。

 だから、殺意も、悪意も、その正反対に位置する全ても。

 少年はそのままで出し、入れ替え、幾らでも使える。

『とんでもねぇ仕事頼まれる気しかしねぇなをい』

 苦笑しながらそんな事を胸中で呟き、そして途端頭の奥から全てが醒める。

「・・・・・・・・何処を、触ってやがる」

「え〜、たっちゃんおっきぃ。きゃっ!」

「き、気色悪い声だすな寒気がする・・・・」

 男色の気はこれっぽっちもないが、この少年の顔を見ていると反応しなくて良い部分すら動いてしまう気がするのだ。

 あまり寄って欲しくないと言う願いは切実なのだろうが、突き飛ばした時、何かあったらしい。

「どうした?」

 幾ら性格が悪くとも、顔も体系も美少年。騙されていると分かっているのだが、この無駄な人の良さは抜けないらしい。

「目が取れちゃったよぅ」

「冗談言ってんじゃねぇぞ馬鹿が」

「だって〜、ほら」

「くおっ!?」

「皮膚も取れちゃったし〜、もう張り替えるの面倒なんだからあんまし顔触るなよな〜?」

「か、顔、が・・・・」

「昔のキズっすよ。胸に向こう側が見える拳大の穴があるー、なんてのよりマシでしょ〜?」

「しょ、少年・・・・?」

「紅(くれない)で良いよ。それが名前だし。どったのカリッサおねーたん?」

「そ、の顔は・・・何時のキズだ? 少々、酷い様な気がするが」

「別に対した事ないっしょ顔面の左半分がそげてる位。この左目も義眼だしさ。大丈夫、たっちゃんの所為じゃ無いっすよ」

「いや、からかっているのは分かったのだが・・・」

「からかわれてたのかよをれはっ!!」

 そして、少年の性格だけは間違いなく極悪だと決めつけて良い。

「だって、突き飛ばされた位で取れるんなら銃で撃たれた時に剥がれてるでしょフツー。ぷぷっ」

「こ、んのがきゃー・・・」

「武士、お前が怒る義理は無いと思うがな。紅様・・・貴方も人が悪いですよ幾らなんでも」

「だって人じゃないっしょ僕。魔族でも神族でもないし。あと、サマ付けやめてくんない? 別にお偉いさんでもないし、どっちかってーと・・・・仇?」

「自分で言う言葉ではないでしょうに・・・。夢幻サマの言って居られた言葉の意味が漸く分かりましたよ。確かに貴方は色んな人物の悪い所だろうが良い所だろうが持っておられる。その上に・・・」

「操って自分の物にしてるから「気にくわねぇ」でしょ? そう言えば、あのじーさんと武士ってそっくりだよな」

「それは初めて出逢った時に私も思いましたよ。こんな五月蠅いのはあの老人以来だとね」

「オイコラそこぉ、何か好き放題言ってねぇか?」

「そーゆー言葉遣いもそっくり」

「ええ、ホントに」

 何処が極悪か。

 簡単な事だ。

 ここまで人の調子を狂わせられるのならば悪と言われても仕方ない事。

 無論、一方で訳の分からない連中。だが、こんな悪人ならと許せる自分もそこに居るのだが。

「突っ込むタイミングとかもそっくりだし。目取れたーってのも夢幻にやった時同じ反応返したよ。これをどう思いますカリッサおねーたん」

「いい加減、その、おねーたんと言うのは止めて貰えませんか?」

「なんで?」

「いえ、その・・・・・紅さ・・・紅の方が年上だと思うので」

「幾つだお前」

「えっと・・・・・・・・幾つだっけ。桁の名前がわかんないよ」

「言って見ろ、六十六桁までなら言ってやる」

「百桁越えた所から数えてないもん」

「ジジイはてめぇだっ!!」

 どちらにしろ、少しは自制して欲しいモノだと思う若者が一人。

 年の功とは良く言った物で、長寿が恨めしく、いや、羨ましく思えるのもこれが初めてだ。

 だが、こんな年寄りになりたいとは思わなかった。

 威厳など何処吹く風で、まるで真面目さが感じられないのだ。子供の姿をしたままと言うのも気にくわないと言えば気にくわない

 何より

「でも今、他人が見たら年上はたっちゃんの方だよ? 違う?」

「年相応の姿をしやがれって言ってんだクソジジイ」

「だってそれじゃあ干物どころか塵も残ってないよ。ダメじゃん」

「それがダメならその性格を何とかしろ」

「だから言ったじゃーん」

「?」

「最強って、子供の我が侭だって。こういう意味も含まれてんのよぅ?」

 おちょくられている自分が虚しくなってしまうのだ。

 揚げ足を取ろうにも、この少年の隙を付けばそこから蛇が出てくる様、ことごとく失敗に終わっている。

「・・・・釈然としねぇ」

「ま、最近負け無しだからねー。一万年くらい負けてないよ?」

「あー、分かった。俺の負けだ。好きに言ってくれ、何も文句は言わない」

「ホントー?」

「そのウルウルさせた目で見るのはやめろ。気色悪いと言っただろうが」

「じゃ、ホントに怒らない?」

「なんだ」

 悪い予感。

 忘れていた事なのだが、この少年と出逢った瞬間にそれを感じては居ない。今更それを感じて、これ以上の何が起きようと言うのか。

 それが疑問だった筈なのだが、何となく心構えは出来たので驚かないで居るつもりだったが、方向性が違ったらしい。

「えっとね、暇つぶし終わったし、そろそろ行こっか」

「暇つぶしだったのかよくぉれわっ!! 死に損か? 俺は暇つぶしで殺されたのか? 言って見ろ、ちゃーんと怒っててめぇのどたまぶっ放してやろうじゃねぇかよ!!!」

 人をここまで怒らせる才能と言う奴は、天才的な技能だとは思う。

 ただ、もう少し違う場所で扱って欲しいと、誰もが思うのだろう。

 だがこのことに関してだけ言えば、そして少年を見たから分かった事なのだが。

 くだらない事ほど、力を入れて頑張れるのだ。

 この少年はその良い例だろう。

「だってー、上手くタイミング計る間ずっと睨まれてんのやだしー」

「それで俺を殺したのか? そんな理由で俺は殺されたのか? それが子供の我が侭で最強だって証かコラ?」

「た、武士、落ち着け。紅もそう安直な考えばかりで行動しているのなら生きてる訳がなかろうが。ジハードが手を出さなかった事実がそのまま実力の折り紙付きと言う事なんだぞ?」

「分からないねぇ、コイツの事だ。案外そうじゃないとか簡単に言い・・・」

「カリッサの言うとーりー。あんまし考えてなかったし、僕が眠たかったのよん。ゆるしてぇ〜?」

「猫なで声で懇願か。コイツがマジで夕闇だか紅だか知らんが、殺戮者なんて物騒な名前持ってるんだとしたら、名誉な事なのかもしれねぇなぁ。懇願させたってよぉ?」

「武士・・・目がマジだ。止めて置け、死ぬぞ」

「一度死んだ俺だぁな。もういっぺん、コイツの話がホントなら殺されても大丈夫だって事だそーじゃないか。なら一度くらい良いんじゃねぇか? 無駄遣いしてもよぉ」

「幼児虐待変質者〜、やーい、社会のはみだしもの〜」

「殺すっ・・・絶対この手で殺してやる」

 最も、自分が、怒りやすく格好の実験材料だとは絶対に思いたくないだけだったが。

 冷静な心を失ったそう言う輩が取る行動など決まっている。特に、武士は懐の中に銃を忍ばせてあるのだ。それも揚禅を殺した時の魔篭弾の詰まった特別製。

 最後の弾丸が何であろうとこの際知った事ではない。

 そしてぶっ放した瞬間、笑う少年の顔と、やれやれと肩を竦め諦めたダークエルフの顔が豹変したのも幻ではなかったろう。

 閃光が弾け、爆音すら聞こえぬ光の束が城壁を壊すのに掛かった時間は一秒も無い。

「・・・・・最終兵器だったのか、最後のタマ」

 それが冷静にさせ、その後に待っている小言の連続の事に気を回している程、今の武士に余裕は無かった。何せ頭の中にあったのは、弁償費用が幾ら、と、何故か現実的な事故に。何事も、大きく理解出来ない事よりも、目の前の小さい事の方が現実味があると言う事。

 その身をもって思い知りたくない物の一つであるが。

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