城の中は初めてではないが、事情が事情なので今回は緊張せざるを得ない。
何せ忍び込むつもりが城壁を破砕し、派手なご登場と相成ったのだ。それに対する二人の反応は、紅と名乗る少年がため息で、カリッサは肩をすくめやれやれと言った表情だけだった。
もちろん、何を言おうと、無駄な努力なのは分かっている。自業自得とはこのためにある様な言葉だとも分かった。
しかし・・・
「あ〜あ。武士にーちゃんあれ、どうやって弁償すんでしょ」
「良いのではないか、どうせ身から出たサビだ。それこそ私たちには関係の無い話だ」
「そりゃそうだけど、少しは手持ちを渡せとか言いそうだよこの男の子」
「そこまで馬鹿でもあるまい? なぁ武士」
「・・・・・・・」
追いつめられている気がするのは気の所為では、ないだろう。
多分、ではある。少年もカリッサも、あの城壁を直す位の金は持っているだろう。揚禅暗殺の報酬ではないが、それ以下の賃金で何とか修復は出来る筈だ。
だが、あえて無駄な出費も出すワケにはいかない、と言うか。
有り体に言えば「面倒だ」と言う、共感するべき部分があって、カリッサはもう少年に恐怖も何も抱いていない様子だった。
そして、それは自分にも当てはまる事。
と、言うか、途中からもはや恐怖云々の話では無くなっただけなのだが。
「それに危ない人にあんな危険なモノ持たせちゃダメダメじゃん。全く最近の若い者は・・・」
「いえ・・・そう言う事でもないと思うんですが」
「ラグナロクじゃあるまいし、ディーも出番無くなって草葉の陰で泣いてるよ?」
「は?」
「あー・・・っと、そう言えばそうだったね。まだだ、まだ。うん、気にしないで良いよ」
「?」
二人だけに通ずる話らしく、自分はやはり置いてけぼり。その上、言ってしまえば何処に行くかも分からない筈の自分がなぜ前を行くのだろうかと、漸く疑問にぶち当たり後方を見る。正確には少年を、だ。
「で、何処に行くつもりだ。まさかこそ泥をしに来たなんてオチじゃねぇだろうな」
低い声で脅すように言うが、ムダだと言う事も分かっている。が、そうでもしていないとやってられないと言う気持ちも本心。
やらないで後悔するよりも、やって後悔した方がマシ。
信条通りの行動を、意識せずに出来る様になったのはいつ頃だったろうか。
年端もいかぬガキの事からずっとそうだった様な気もするが、あまり昔の事を思い出したくはない。
それが、ドラマチックな言葉であれば良いのだが、思い出されるのは女性関係でやたら苦労したと言う事であり、今の様に欲目が出てくる事など全くない。
もてあそばれた。
その一言の過去に尽きるからこそ、思い出すのをはばかりたくもなると言うモノだ。
そしてそれが見抜かれているか、気付かれているか。もしくは自覚したくない事ではあるが、そう言う風に見えてしまうのか。
「にーちゃんはこそ泥の方が良かったんじゃない?」
「あ?」
「だって修理費、結構掛かると思うよ」
「そのくらい一括で支払ってやらぁ」
「でもね〜」
「あんだよ。それに無駄口叩く暇があるんならさっさと案内しやがれ」
どちらにしろ、その女性関係の記憶の中に、子供と言う項目まで付け加えるかどうかは、この少年次第。
もっとも、
「税金支払ってるのに自業自得で出費重ねて楽しい?」
「・・・・・・・・」
「皇都の税率、にーちゃんだけよけいに支払った方が世の中の為になると思うよ。ね〜」
考えるまでもなく、こいつだけはと考えるのは誰しも当たり前なのかも知れない。
現実に引き戻されれば引き戻される程、自分の賃金や仕事に就いて不満を漏らしたくなるのは気の所為で、ありたい。
この仕事が終わったら絶対長期休暇を自分にくれてやると誓う武士だった。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:GAN'S VERMILION