自分を含め合計六人の人族と魔族が円陣を組んでいる。

 その中の顔ぶれと言えば、確かに紅が言った通り、知り合いと言えばそうだろう。

 カリッサとルド以外の二人の内一人は、この城のメイドらしいが、顔は知っていた。何せ元賞金首だった女魔族で、名は確かイザベルだろう。

 10年も前の事らしいが、彼女は東側ではかなり有名な「羅刹」として知られ畏れられていたらしく、実を言えばそれは東側の人間でも知っている人間はあまりにも少ない。

 今思えば、その羅刹が出ていた時期に限って、両親のどちらかが長く家を空けていた様な気もするが、噂を聞かなくなってから引っ越した、と言う事は。そこまで考え、まさかと考えを打ち切ったモノの、此方の心境は察してくれなかったらしい。

「貴方が、武士さんですか。ご両親にはお世話になりました」

「は、はぁ・・・そうっすか」

「私は元気でやっていると、お伝えお願い出来ますか?」

「分かりました。えっとー、また新しい妹が出来たんすよ、暇があったら見に行ってやって下さい」

「そうなんですか。それはおめでとうございます」

 自分に取ってはとても御目出度くない未来になるのかもしれないのだが、そう言う事にして置こうと興味を無理矢理そらせる。

 そして二人目は、有名人も何も、確かにこの国に住んでいれば誰もが知っているだろう、第一皇女。ただ、初めて城下町の祭りで見た時の何処か病弱な印象とは違う。

「で、私眠いんだけどさ。いい加減さっさと終わらせてくんない?」

「そう言わないでよフェルト様。面白い提案があるから、こうして来て貰ったんじゃないですか」

「・・・・あれ、あんただったの? なんか凄い冗談キツかったんだけど」

「ごめんね〜」

 有り体に言えば、猫を被っていた。

 その皮を脱いでみれば、少し跳ねっ返りの普通の少女だろう。眠たいと言う意見通り、顔は先ほどまで寝ていた証であるむくみがあるモノの、年頃の少女とは違い、いや、それにもまさる眠気と言う事か。何処か化粧や色恋沙汰に耳年増になる位の年頃としては、デリカシーに欠ける様な気がした。

 そしてそんな六人の面子の関係を言えば、カリッサはイザベルと知り合いらしい。

 ルドはカリッサとも知り合い、と言うより上司の様なモノらしい。イザベルはルドの事を何処か崇拝している様な印象すら受ける。

 フェルト皇女は皇女でこの場所が気に入らないワケではないらしいがやはり睡眠を優先さたいらしく、どうでも良いと投げやりな態度でイザベルの腕の中で今にも寝息を立ててしまいそうな雰囲気だ。

 自分のこの中の立場は、確かに一番下だろう。強さだけはフェルトに勝るのだろうが、勝った所で何の自慢にもならない。

 そして、紅の立場だが、イザベルも魔族と言うだけあって、多分カリッサから事情を聞いているらしく、分かっていても何処か怯えた様子を隠しきれないらしい。フェルトにだけはそれを見せまいとする優しさは、母親か、姉代わりの様にも見えた。

 そんな紅の第一声だったが、フェルトと少し喋ったキリ、話そうとしないのには理由があるらしい。

 が、フェルトが今にも睡魔に負けそうになった時に口を開いたとすると、そこから予測は出来た。

 多分、このフェルト皇女の願いを叶えろと言う事なのだろうと。

 もっとも、たかが皇女の願いなど自分が叶えるまでもなく、剣闘師達や魔環師達に頼めば対外の事は適うのだろうが、なるほどと頷けるだけの内容でもある。

 何せ、

「じゃ、密談と行きましょうか。皇都一新の為の、皇女の案を実現化させる為のね」

 このガイア大陸の中でも一、二を争うほど平和な国で、革命でも起こそうと言うのだから。

 ただ、それだけで眠気を吹き飛ばし目の色を変えたフェルトの顔つきは、少年と何処か通ずるモノがあるのかもしれない。

 年端もいかぬ少女の顔ではないそれは、王族としての威厳と言うよりも、何処か野心家めいた輝きがあったから。

 ただし、そんな顔になった途端、また眠気に負けそうになったのか。

「で、どんな案だって?」

「それはフェルト様が一番良く知ってるでしょ」

「私、何にも考えて無いわよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」

「冗談よ。本気にしないで」

 皇女の宣った言葉に驚く少年の顔をみれただけでも十二分な気がするのは気の所為ではなかった。






































アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:GAN'S VERMILION





































「じょ、冗談ね。あはは、かなり吃驚したよ。なんかここまで来た苦労は? って感じで」

「これでおあいこよ。もうしないわ、あんなの二度と見たくないから」

「分かっりました」

「・・・なーんか信用出来ないのよねこの子。何者?」

 それに対する答えを持っている人物が少年を除いてしまえば果してこの中に居るのかどうか。

 妙な雰囲気が流れ、一瞬皆が硬直してしまったが、動かすべきは自分ではない。話し出した少年か、話をフられたフェルト皇女のどちらか。

「何? 私?」

「他に誰が居るんですかぁ?」

「あんたでも良いじゃないのさ。それに、いまいち話が見えないんだけど」

「嘘ばっかり。ま恥ずかしいのなら恥ずかしいって言えば良いじゃないですか」

「・・・・」

 そして、反感を買った少年は後頭部にかなり鈍い音をさせた一撃を貰い、かと思いきや平然と「は」している。

 が、痛覚を遮断している様なバケモノかと思っていたが、そうでなく痛みを感じて耐えられる口らしい。要するに痛かったらしく、何処か調子の悪い人形の様な口振りで話の本筋を口にし出した。

「とにかく、ここに集まって貰ったのは他でもない。大まかに言っちゃえば、フェルト皇女の夢を叶えてあげたいってー、所なんだけどね。その内容を話したくない、と彼女は仰る。全部言っちゃって良いかな?」

「・・・・・好きにすれば」

「じゃ、そうさせてモラウヨ。簡単に言えば、理想国家の建国。それで難しい部分が、王族や王政は疎か、街としてしか機能しない国が作りたいらしいんだよね。モデルで言えば13魔剣の居ない魔族って所かなぁ」

「ほぉ・・・」

「カリッサおねーたんは分かり易いんだろうけど、もう少し付け足す部分はそれでも外的から身を守る軍に変わる自警団のようなモノの設立も条件に入っては居るみたいだね。街の一番エライ人は一応居るんだけど、アイディアや決まり事を少し決めるだけで後は住民任せって所、かな。住めるのは人間だけじゃなくて如何なる多種族だろうと了承って所も変わってると言えば変わってるのな」

「私は権力者を無くしたいのよ」

 そして、長々と話す少年の言葉を遮ってフェルトが言って捨てた。

 要するにそれだけがしたい事だと言わんばかりの様子も、そして表情もそれだけ言えば分かるでしょうと豪そうではあるが、少年のへらへらとした顔がよほど気にくわなかったのか。

「今もウチはごたついてるし、西方なんかは日常茶飯事で王族が権力争いに身を投じているのは嫌でも知ってるわ。それに、次の公皇が私になるって話があるけど現実的な時間が私には無いの。長らえれば十年や二十年は生きられるって言っても私はそんなのまっぴらごめん。たった五年しか残ってない、もしかしたらそれ以下しか時間がないのかもしれない。なら、私は悪鬼羅刹と貶まれても方法にあれこれ注文着けたり選んだりなんかしない」

 ついで激昂した言葉でも出るのかと思ったが、やはり皇女と言う事、か。

 いや、熟練の女ハンターか、まるで暗殺士の様な瞳は自分にも真似できる様な形相ではないだろう。

 初耳である、彼女自身の多分、病とそれがもたらす結果の話。そして遠目でしか見たことのない彼女を間近で見たからこそ、分かったのだろう。

 裕福な王族暮らしをしている様にはまるで見えない、それこそ何か鬼気迫るモノを感じ、同時にそれをまとうに相応しい何かを背負っているのだと。

 痩せ細った様に見えなかった理由は、彼女自身がそれをまるで見せない様、見えない様にしているから。隠し通す事の意味は表舞台に立つモノではなく、裏方として行動する為の演技。

 そして隠し通せるだけの演技力は大人顔負けどころか、その場に居たカリッサと三つ色の剣舞であるルドさえも騙し通せて居たらしい。

 適うはずも、無い。

 だからこの中で立場だけではなく、強さまでも最も下なのは自分だと思い知らされた。

 そして、理想的な、同時に儚すぎる強さだろう。彼女に時間さえあれば、そのままで居られなかったのかもしれないが、それ以外何も欠けた部分を見出せないのだ。何者にも負けない意志と意思が、その小さな身に宿っているのだから。

「・・・初耳でしたよ。フェルト」

「言った所で仕方無いと思ったから。ごめんね、センセ」

「それでも正直な所、言って欲しかったですね。石動の病(いするぎのやまい)だと今漸く、分かりましたよ」

「だから、言わなかったんだけどね」

 だから、と、彼女は言う。

 その言葉を別の場所で言えたのなら、彼女はそれを上手く使いこなし、貴台の女公皇になったろう。

 助けられるモノなら、と、そこまで考え、頭の中の雑念を払う。

 少年は言った。

 彼女の夢を叶えてやって欲しいと。

 癒す方法があるのなら、手伝えなどと言う事は無い様に思える。

 分かっているからこそ、そして自分の知らなくとも良い事情がそこにはあるのだろう。仕事として片づけろと暗に言っているのだと、今漸く悟れた。

 第一、他者が癒してやってくれないかと望んだとしても少年は間違いなくそれを叶える事は無いだろう。身勝手な話なのだろうが、少年は望みを言う誰かにしか、その視線も向けないらしい。

「ま、感動はその辺にして、現実に戻りましょーね。方法としてはまず、中核魔環師をどうにかしなきゃならないのが一つ」

「家の事情まで知ってるのねあんた。ホント、何者?」

「その辺は追々話してあげますよ。二つ目は、この国の民全てがそれに賛同するかどうか。多分、にーちゃん達みたいな人なら分かってくれるし、条件の意味はフェルト様より理解してると思うし、あってないようなもんだね。フェルト様以外」

 笑っているが、目は何処か殺意を宿す少年の顔。

 向けられたフェルトはその意味を分かっているのか、分からないのか、気にした風もなく顔を背けふくれっ面になる。

 言われて直に気づける程の経験がないと言うのはやはり、子供の姿見通りの年齢だとしか言えないのだろうが、言いたい事と、その叶えたい夢が何かはこれでハッキリ分かった。

 王族の居ない街と一言で言っても、具体的な例を挙げるには、自分は一つも知らない。だが少年の言った、13魔剣の居ない魔族と言うのなら話は別だ。

 彼らには統率するべき13魔剣と言う存在が居るのだが、それでも人族の様に王に何かを頼むような事をすんなりとはしない。

 良い風に言えば自分の事は自分でする、悪い風に言えば身勝手な連中しか居ない、と言った所か。それでも同族同士での戦争がないと言う歴史は人に真似は出来なかったのだ。そこだけを取り込めれば、と考えたのだろう。

 だがそれには住民達の理解のみではなく、一人一人がかなり出来た人物でなければならないと言う、平和的な一方でそれが夢見物語の様な話だと分かる現実がある。

 どうやって、それをひっくり返せば良いのか。

 それが分からないからこそ、誰もそれを実現できないのかもしれない。

 それが、現実だ。

「だけど、そこまでだけじゃあフェルト様の夢なんて、寝てる時だけのモノで終わっちゃうよね。だからさ、一つアイデア提供をしたげるよ」

 そして覆す為の一言と、自分たちと言う人材を少年はフェルトに提供しようと言うのだろう。

 姫君に対するお近づきのしるし。

 だが、頭の中に浮かんだその言葉を消したのは、さんざん少年の性格を思い知らされたから。

 少年が姫君に与し、いったい何の得があると言うのだろうか。そして例えあったとしても、それを易々と少年が受け入れるのだろうか、と。

 王族の居ない街が出来たとしても、無い役職では重役になれるワケもなく、金を要求する様なタチには見えない。後者にだけ付け加えるとすれば、安易に考えれば奪えば良いのだ。それだけの実力、いや、むしろ国そのものを滅ぼしかねない実力を持っているのだからそれも可能だろう。

 何もかもを手に入れられる少年が望んでいる事と言えば。

 疑問を浮かべ、口元だけで笑ってしまう。

「でも、それは今じゃあない。フェルト様が夢を叶えられたら、教えてあげる。何処かに記しといても良いね」

「・・・・なにそれ」

「ボクにも色々事情があるんだよ。あんまりこの世界に関って名前残したくないんだよね〜」

「夕闇の殺戮者、と言う名前は良いのですか?」

「それはいいんだよ。だって、ボクのこっちで初めて呼ばれた二つ名と違うしさ」

「は?」

 問いに対する答えなど、分かっているから笑ってしまうのだ。

 此方の笑みに気付いたカリッサが不思議な顔をしているが、それも彼女には分からない事。

 少年が欲しているのは、自分たちが必死になる様なのだろう。

 こちら側、敵がいったい誰なのかも良く分からない状況だが、その敵に着かなかった理由は実力が互角ではないから。圧倒的に不利なモノに手を貸せば、それだけ世界は面白くなる。自分が魔族の歴史を知った理由が、まさにそれなのだ。自分でなければ、分からなかったのかもしれない。

 事実、ここで声も無く笑っているのは自分だけで、他の少年を除く四人は釈然としない顔で少年を見ているだけだ。

 そして分かったから、少年が此方を見透かし視線を合わせる。

「それでまず、にーちゃんにやって貰いたい事はその理想の街の警備部隊の人員を集める事、だね。ただし、この大陸以外の、ってーのが限定だ」

「おいおい、この大陸以外に何処に世界があるってんだ? 西方か東方の島国にでも行けってか? 南方は勘弁してくれよ、四魔境通るのなんざ願い下げだかんな」

「あー、それだけど」

「なんだ?」

「・・・・やっぱいいや。どうせ分かる事だし」

「何を隠してやがる・・・まさか本当に四魔境に行けとでも言うつもりかよ」

 最も、理解したと言うよりも、ただそれだけで同調しようとは思わない。

 自分で言うのも悲しいが、格が違い過ぎるのだ。少年の感覚で話をしようとしても無理な事は嫌な程思い知らされた。少々気にくわないやり方になるかもしれないが、自分に都合の良い情報だけを聞き出すか、もしくはその逆を聞き有事に備えるしか自分には出来ないのだから。

「そいで、まずは西に向かって欲しいんだよね」

「目的地は」

「さぁ」

「おい・・・まじめに話スル気あるのか?」

「いや、アバウトに西に向かって貰えばそれで良いんだけど。目的地、と言えるかどうか分からないけど相棒、を見付けるのが一番最初の目的かなぁ」

「かなぁって・・・そんな無責任な」

「けど見付けなきゃ話にならないからねぇ。にーちゃんが他大陸に渡るにはどうしてもその相棒さんの力が必要だから」

「だからその他に大陸があるかどうかをまず説明して欲しいもんだ」

 そして何処かかみ合わないこの話もいい加減慣れてきた。話をしようと思うより、自分の言葉から出るキーワードにまつわる何かを少年から引き出せば良いのだ。それを役立てられるかどうかは自分次第。そう言う性格が一番気にくわないのだが、性格を変えろと言える程、そしてそれを実行しろと言える程、自分は少年よりも強くは無い。

 まるで魔族と話をしている様な感覚ではある。力こそ全て、と言うワケではないが、強い方が正しいと言う魔族の一見短絡的なルールはどうやら少年の中にもある様子。

「で、他にやる事は」

「これと言ってないよ。見付けられるかどうかが一つ、その後生き残れるかが二つ目、三つ目が・・・」

「その警備部隊の人員探索、だろ? 全く・・・・」

 ただ、少年と魔族の確かな違いと言えば、少年はたった一人、と言う事だろう。

 同じ種族は居るのだろうが、少年が幾人も居る様な所に行きたいとは思わない。話を総合すれば、少年は別世界の住人と言う事になるのかもしれないし、それは嘘か真かもわかりはしない。だが、確かに少年の様な特徴の魔族は聞いたこともなく、同時にここには魔族が三人、それぞれが名を馳せ、今も生きた伝説にすらなっている人物達なのだ。

 自分とは違い過ぎる。

 自分たちとは異質すぎる。

 いったい、誰だ?

 そんな疑問を過らせた表情を一度として変えない彼らとも違う事は、三人が知らない内に証明してくれているのだ。

 そして、それ以上知る事は無意味。

 本音を言えばただ自分の絶対的な敗北を認めたくないだけなのだが、たてまえも本音の一部と考えられるだろう。

 少年は少年であって、それ以外の何者でもないと。

 考えれば深みにはまるだけで、決して抜け出せない深い、いや、深すぎる闇が少年の中にはあるのだ。わざわざのぞき込んで飲み込まれる程自分はお人好しではない。

『そう言う意味で・・・判断してるのかもしれないな』

 魔族の三人と、人間である自分とフェルト皇女。

 考え方の違いは、その辺にあり、それが視点の違いなのだろう。ただ、フェルトはやはり若いだけあって「深さ」と言う表現が出来ない故に、反感を抱いているらしいが。

「んで、報酬だ。ただ働きなんてやだからな」

「えー、街の人の命じゃだめ?」

「殺す気なんぞねぇくせに。やり方は気に喰わねぇが信用してやるって言ってんだ」

「じゃ〜・・・何が良い? 先払い限定だったら限られるけどさ」

 取り残された周りを見もせずに、自分だけを見据える少年は笑ったまま。

 楽しげなこの表情をどうやって困らせれば良いのか。

 それは簡単な事なのだろう。

 同時に、自分に無理な事も分かっている。少年が子供の姿を自分たちに見せているのがその理由らしいが、それも手加減していると言った所か。だから少々の無理難題だとは思ったが言ってやったのだ。

「そいつの夢を叶えるって保証をくれ。てめぇならそれくらい出来るだろ?」

「なんかそんな風な報酬言われると思ったけど・・・少しずるくない?」

「何言ってやがる。てめぇのやり方と同じだろうが」

 協力出来ない、と言うワケではないのだろうが、表だって手は貸せない。

 そう言う制限を取り払ってやれば、自分たちだけでやるよりも遥かに上手く事は運ぶはずだ。剣闘師を捕まえて置いてこんな意見を出すのも本来ならば気がねしなければならないのだろうが、彼らもまた、少年と立場はあまり変わらない存在。

 つかず離れずを繰り返し、ただ見守るだけの存在では意味など無い。他国に対しての、文字通りの守護者でしかなく、中から見ればただの昼行灯。ならば少年にその穴埋をして貰えば丁度良い。

 だから、損をする性格だと良く言われるのだが、その辺まで見抜かれて感情を表すなと言う方が無理な話だ。

「じゃ、それと、経費位は出してあげるよ。価値のある鉱石とかって、やっぱ宝石とかが良いの?」

「あん?」

「にーちゃんには聞いてないって」

「そうかよ」

 損をする性格なのは分かっていても、人に指摘されれば嫌な物である。

 がめつい性格の方がよほど良いのだろうが、どうしても考えてしまうのは依頼者の事。

 貧乏だと分かっていて、駆け込み寺の様な処遇で何度も仕事を請け負った事などもう慣れてしまった。

 それではダメだと分かっていても、よほど余裕のある金持ちでもない限り金をせしめる様な事はしたくない。

 なぜ、そんな事を考えるようになったかは、思い出すだけで良い昔の事。

 そして蚊帳の外に追い出された様、少年とルドが何か話していた様子だったが、目を見張る光景を見た筈だ。少年の手の中に生れる光と、それが結集し四散したかと思えばそこにあったのはいくつかの宝石。大きさから考えても、五年は遊んで暮らせる金額のシロモノ。

「じゃ、これが経費代の変わりね。自分で換金して」

「お前・・・現金持って無いのか?」

「無いよ。こういう風に作るのもあんまし好ましい事じゃないんだけどさ。市場とか混乱させたいワケでもないし。ま、特別って事で」

 身につけるには似合いもしない、自分に取ってはただの石塊を手渡され、掌の上で弄んで覗き込む。だが、偽物ならば良かったと後悔したのは少年の言葉の真意を理解したから。あまりにも不純物のなさすぎるそれは、既に粗削りの状態だけで耀いているのだ。それこそ、こんな物が少年の手によっていくつも作られ出回れば、宝石市場など一気にひっくり返るだろう。

「頼むから、これっきりにしといてくれよ」

「分かってるって。宝石はそんだけしか作らないって」

 笑顔は、軽薄だった。信用して良い言葉なのだろうが「宝石は」と言ったのなら別の物を作るのだろう。

 自分がこれだけの金を手に入れるにはいったい何度仕事をして、何年仕事を続ければ良いのか等分からない程の価値ある品。

 あまり深く考えない事も、少年と長くつきあう秘訣なのかもしれない。

 もっとも、これっきりな気がしたのは自分の望みと、少年の望みが一致しているから。自分のやるべき事は決まり、ここに居る意味も無くなったのなら先を急ぐだけだ。

 急かされていると言う状況は変わる訳ではなく、少年が笑ったままなのがその理由。

「じゃ、俺は行くわ。カリッサ、またな」

「ああ」

 調子を崩しっぱなしの彼女も、その内少年との付き合い方を見付けられるだろう。

 ドアノブを巡し、外へ出て冷めた空気が自分の身を凍らせる様な感覚。

 それは少年が覚悟を決めろと言う意味で飛ばした殺気を感じ取ったから。

 崩れ落ち意識を失いそうになる位、凄まじいそれはまるで長く続く廊下のガラス全てをふるわせる様に、風が鳴らした幻だ。

 それでも自分を保っていられたのは少年が意識を失う事を禁じでもしたのだろう。無理矢理生かされていると言う感覚は好きになれそうもなかったが、今後、それが役に立つ事もあるのだろうと口だけゆがめ笑って見せる。

 何もかもが真新しくもない、古ぼけた世界。まるで昔に戻った様、過去の場所へと帰るだけの感覚は、自分の中に喜びなど宿してはくれない一方、迷いすらない晴れ渡った気持ちは覚悟を決めたと言う証。

 そして見据えた先にある闇は、まるで自分の旅路を祝福する様に蠢いて見えるのは自分の恐怖が生み出した正真正銘の幻でしかない。

 だからそれを引き裂きながら、前に行くだけだ。

 と言っても、ただ歩いている風にしか見えないのだろうが。

「笑っちまうぜ。食いっぱぐれに舞い込んだ幸運だか不幸だか知らないがな」

 後はやり残した壁の修繕費だけは踏み倒させて貰おうと、笑ったのが彼の旅の始まり。

 先が見えない事に対する恐れは無く、むしろ見えている恐怖の方が遥かに強かったのは様々な自分よりも強い猛者に出会ったから。

 最も、それ以外に出会えていたとしても彼は気にも止めなかったのだろうが。

[ACT SELECTION]