「バイアー? ホントにこの辺なのー!」
「その筈よー! ・・・・多分」
自信がある訳ではない。
むしろ、今回も無駄骨の様な気もするが、やらないよりやる方がマシに決まっている。
そう想い、目の前に陳列している本を整理しながら目的の品を探しているのだが、いいかんせん、本が無駄に多い気がするのは気の所為では、無い。
「皇都中央図書館ってンダから、そのくらいあっても良い筈なんだけど」
大学に一応通っている身としては、こんなことをしている暇があるのなら研究に没頭していたい気分ではある。
何せ、こんな所で、貴重な本「しか」無い様な場所で持病でも発症しようものなら、幾ら賠償金を払えば良いのか分かったものではないのだ。倒れたり、つまずいたりして自分のひざっこぞうが傷つく位が余程良いと言うものである。
「あ、これじゃな〜い?」
ほこりっぽい中を駆け寄ってくるのは一人の、少女、でもない。
一応顔や体型は幼児その物、自分の身長の半分しか無いのだが、これでも18だそうで。
可愛いと言うと、露骨に怒るから扱いが難しく、そのくせ本当に可愛いと言うしかない造りなのでどう表現しようか本気で迷ったこともある。特に初対面の時など、互いに第一印象は最悪だっただろう。
彼女は自分の学友仲間に「可愛い」と言われた途端、股間を蹴り上げ、その倒れる様にして此方にもたれ掛かる男子学生を受け止めたは良かったのだが、その途端持病が発症し、後は惨劇、と言うまでもないがそれに似た光景。
最も、彼女は最近交流する様になってきた魔族であり、その男は嫌味ったらしい口調で言ったのだから自業自得だったが。
「どれ・・・?」
「これと、これと、これ。めぼしいのを掻い摘んで持って来たけど」
「何のジャンルを・・・探してるか分かってる?」
「紋章学でしょ」
「チガぅ・・・。紋章学じゃなくて今日は紋章「方位」学の本だよ」
「えー、バイア、紋章士(クレストラー)なんだから基礎さえあればちょちょいと」
「分からないから調べに来てるんでしょ・・・。邪魔するんなら帰ってもいーよ」
「親切で来てやってるのにその態度は無いんじゃなーい?」
「花瓶と、時計と、私の生活を支えてる大切なお仕事ぶち壊しにし・・・」
「あははー。紋章法医学ね。分かった分かった」
「サリア、なんかチガウ発音に聞こえるのは気のせい?」
「まぁまぁ。でも、医学なんて学んでどうするの」
「その法医学じゃなくて東西南北の方位なんだけど・・・」
「ああ、囲むのね」
「・・・・・・・包囲網とかのホウイじゃないからね。次ぎぼけたら本気でブツから」
「はいはい」
それが今では、こんな関係である。
学友、と言うより、仕事仲間と言った方が近い間柄。
一応ハンターなんぞもやっているので、彼女との関係が出来たのだが、魔導系が得意な筈なのにそちら方向はてんで駄目。
変わりにやたらと技闘と言われる格闘術の一種に長け、技闘士(バトラー)片手間に盗技士(シーフ)すらやって退ける腕は確かなモノ。少々問題があるとすれば、その短気な性格と好き嫌いの激しさだろう。
その好き嫌いと言うのも人の善し悪しではなく、何処か子供じみた食事のこと。
ハンターの仕事と言うのは幾日も野宿することもあるので持って行く食材は携帯食が多くを占める。その大半が嫌いなのだから一緒にはハンターの仕事を請け負いたくは無い。
そう、そんな気はさらさらないのだ。
だが、ハンターギルドとしても、あまり数の多くない魔族。この場合は交流がある、と言う意味であるが。ハンターであり、初めて仕事を請け負った時一緒に任務遂行を果たしたバイアが居る。その上で、サリアが他のハンターと一緒になって問題ごとばかりを起こした挙げ句、誰とも一緒に仕事が出来ないとすれば、バイア以外に思い当たる人物が居ないのだろう。
あの日のことは、多分、人生の中で一番か二番の最悪な日としてバイアの中には記録されているが、サリアに取っては曰く、幸運な日らしい。
年齢も倍とまでは行かないが、それに近い程年齢が離れているのにこうして気楽に話せる相手はバイアだけと言うのもその所為だろう。その上、人の良さが祟ってか。強く言えない訳ではない。むしろ駄目なことは駄目とハッキリ言うこと自体が気に入られているらしい。
「はぁ・・・」
そんなことを思い出せば、溜息を吐いてしまうのも致し方のない。
年齢にだけ関して言えば、サリアは人間よりかは知識も経験も、そして人格も備わっている方なのだ。その点、自分は持病の巧妙、とは思いたくない。しかしどうやらそう言った理由があるそうで、年齢よりかは若く見られる時もしばしば。いや、多々ある。
「考えるのよそゥ・・・。なんか、ドツボにはまって行くよーな・・・・」
指で額を押さえながら思う。昔は、二十代後半の頃はあまり考えなかったと。
若さとは、そう言うものである。
落ち着きを払っている訳ではなく達観している訳でもないが、サリアに任せて目的のモノが見付かるとは思いにくく、手を進めるスピードを速めながらてきぱきと整理しながら本を探して行く。
だが、予感はしていた筈だ。
この図書館に着く前から。
サリアがその原因であるのは間違いなく、言い切れる理由は三つ。
一つは、彼女はとんでもないトラブルメーカーだと言うことだ。事細かに言えばそれこそ涙無しでは語れないのだが、原因は彼女の短気である性格がそれだ。短気は損気だとよく言ったモノだと納得すらしてしまう。
二つめはタイミングが良いと言うか、間が悪いと言うか。例えばここで誰にも見られたくない秘め事をしていようモノなら、無論したことも見たこともないが、途端見つけてしまうのが彼女なのだ。話しによると、よりにもよって図書館や大学構内でも男女の営みを見つけたと、人の悪い笑みを浮かべながら語ったこともあった。
そして三つめは、中でも最も厄介なモノ。
「あ、今度こそあったよ〜」
「タイトルは」
間違える様なことは多々ある。だからなれていると言わんばかりのうんざりした口調でそう聞き返したが、予想と反し返ってきた答えは自分の望んでいたモノ。
「えっと・・・紋章方位学に置ける基礎理念と」
「・・・と?」
ただし、続きはやはり望んでいないモノ。思わず基礎理念に続く言葉が何か連想してみるが全く思い浮かばないのだ。だからその言葉を聞いた途端
「危険物の為封印する、だって。あ、これなんだろ?」
「ちょっと待ったぁー!!!!」
顔を青ざめ、急ぎサリアの元へと駆けつけその本をひったくる。
「なに? どったの?」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」
本人に自覚が無いのだ。トラブルメーカーと言う言葉では言い表せない程、危険物を呼び込むその習性に。言い換えれば反省しないと言った所。何度失敗しようと全くめげないのは凄いと思うが、かといって学習しないで何度も同じ失敗を繰り返すのは頂けない。
事実、以前に封印書と呼ばれる、危険な魔法陣や紋章、ルーンを書き込まれ、この図書館の中に存在すると言われる三十数冊ある本。それもその内の二十冊が既にこの無限とも言える本の海の中に帰し所在不明になっていたのに、こともあろうにその二十冊の内、五冊の上で昼寝をしていたと言うのだ。
図書館側としても本が見付かったことは喜ぶべきことであり、その上で涎を垂らしながら眠りこけて居たと言う証拠、つまりブックカバーがぐちゃぐちゃになっていようと目を瞑って貰えたのは不幸中の幸い。だが封印が全て解かれた状態で、中にはタイトルを読み上げることによって力が発動してしまう様な本すらあったにも関わらず、何一つ被害が無かったのは奇跡としか言いようがない。
そのかわりと言っては何だが、その日以来この図書館には妙な、オカルトめいた噂が絶えなくなったのは偶然だと思いたい。
「あ、それもフウインショだかフウシンショだか言う奴なの?」
前回は、辛うじて覚えているらしい。キツク封印書の特徴を言って聞かせたからかもしれない。
「そうよ・・・? なによ、これ紋章方位学じゃなくて・・・・」
記憶する限り封印書の中に紋章学のモノはあっても、かなりマイナーな紋章方位学の本は無いと覚えている。事実、自分の手の中にあるそれのタイトルは全くの別物。ただし、何と書いてあるかすら分からぬ程、太古の文字で書かれているらしいが。
「紋章方位学って書いてあるじゃん。著者は・・ディー・ハウル、ねぇ・・・」
「あんた・・・読めるの」
「このくらい魔族に取っちゃ簡単だよぉ? だってそれ、業魔文字だし」
「・・・・」
専門外とは言え、馬鹿だと思っていた相手に得意げでニンマリと笑われればいい気分はしない。いつもなら何か言い返せる言葉がすんなり浮かぶのだが、今日はそうではないらしい。だが、そう言う部分は妙に鋭いのだ。察して話を別の方向へと切り替える彼女。
「でもさ、何でデモンサーティーンズの本が此処にあるのかな・・・」
「な、に?」
「十三魔剣、だからデモンサーティーンズって呼ばれてる、まぁ、分かり易く言えば魔王見たいな魔族かな」
「魔王って・・・そんなあやふやな」
自分たちの種族、つまり人族がこうやって本を書くのには幾つか理由があり、その中で創作と言う部類があり、魔王と言うのはその物語の中に出てくる悪役、と言うのがバイアの主観だ。だがそれを否定する様、サリアはまた笑って言った。
「物語とかに出てくるそーゆーのじゃなくて、私たち魔族の王様って言った方が分かり易いでしょ。この国だって王様居るじゃない、それと同じ様な立場の人よ」
「現実的ね、以外と」
「だって知られてないし、魔族で人間と私みたいに和気藹々としてる人なんてそーそーは居ないし」
「それに関しては私たちが一方的に・・・悪いから。ごめんね」
しかしその笑みを、どれだけの努力と血の上に成り立つ結果だと、見抜ける人物が一体どれだけ居るのだろうか。たまに聞く彼女の悪い噂もその殆どがデマであり、不本意ではあるが隣りに居るが故に、彼女は魔族と言う種族の違いがあるとしても、人間らしいと言う言葉がぴったり来ると思う。特に、明らかに軽蔑や罵倒、謂われのないそれを言われたとしても彼女はその場では平然とし、一人になったときに愚痴るのだ。
「別にバイアが気にすること無いじゃん。あーゆーのひがみって言うんでしょ? 人間の中では」
「そうね。醜い僻みね」
「でも」
しかし、ここからが種族の違いと言うか、彼女特有の意見なのかもしれない。
「あーゆーの殺しても罪に問われるんだから、人族のルールって今一理解出来ないなぁ。どーせろくな成長の仕方しないんだろうしさ」
「まぁ、誰の命でも平等って考え方があるからね」
「そーなんだけどさー」
納得出来ないと言う顔は、以前も見たことがある。仕事の時だったか、依頼料を出し渋った依頼人を殺そうとしたことがあったのだ。その時、自分が居なければ彼女はハンターと言う狩る側ではなく、狩られる側に回っていただろう。時々不思議に思う所もあるのだが、要するに彼女のやっている仕事は同族殺しもしなければならないにも関わらず、平然とやってしまうのだ。
最も、その理由を聞いた時は驚きはしたが、何処かで納得してしまう部分もある。
「さて、目的のモノも見付かったし帰る?」
「ちょっと待って・・・えっと・・・・・・・・・・私には読めないわよこれ」
「大丈夫だって。今日はお詫びに翻訳してあげるから」
「出来るの? 翻訳って考えてるより多分大変よ?」
「それでバイアの美味しいご飯に辿り着けるんなら願ったり適ったりでしょ」
「それが目的か・・・。ま、良いよ。けどこれ一冊全部翻訳して貰うからね」
「やっぱ・・・遠慮しようかなぁ〜」
隣りに居るのが自然で、納得できない部分もあるがそれは一部分。
歳も、種族も、身長も性格も違うのだが、相棒としてはこれ以上ない程の人物。
それが彼女。
「だーめ。絶対今日中にやって貰うから」
「え? 今日中!? 勘弁してよぉ」
そして今日も、平和な一日が過ぎようとしていた。
そう、毎日と、過去過ごしてきた日々と全く変わらぬ日常が。
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