作戦は順調。何処にも抜かりはない、と言える程の完璧さは無いが、少人数故の迅速さが相手にしてみれば都合の悪い話だったのだろう。
事実、今迄辿ってきた自分たちの奇跡は何処にも落度は無い。
それもその筈、結局の所、彼らの上に立っているのは人間なのだ。神族も確かに居るらしいが、まだその姿を現していない所を考えれば、よほど表舞台に姿を現したくはないのか、面倒なだけなのか。
どちらにしろ、此方の戦力と相手方の戦力差は歴然。
幾等人数が多くとも、当たり前にそんな戦場を駆け抜けてきた彼ら、賞金首達の足下にも及ぶ筈など無い。
と、それが今の感想なのだが、正直な所、こいつらはおかしいと。
まさかこれが賞金首なのかと疑ってしまう程の実力があった。
賞金首と言うのは、ハンターに狩られるだけの存在。それが自分の意見だったから。国一つを壊滅させる迄に至った、等と言う、賞金額NO.1の死神のジェイルならいざ知らず、今身近に居る炎斬りとファーラは、其れ程高額の賞金首ではないのだ。
人間の中で最強と言う者達を挙げるならば、皇都の魔環師と言う五人の者達が直に思い浮かべる事が出来る反面、彼らとて、目の前にいる二人を相手にすれば、簡単には勝てない所か、負けてしまうと言うのが自分の率直な感想。
賞金首を専業としたハンターも多いが、魔族と言う種族が本気になれば、一昼夜にして人間社会が崩壊してしまってもおかしくはない。
西方地域の魔族に対する恐怖は、ある種、間違っていない物だと改めて認識する。
狩るべき存在と言うのが、魔族だと言う認識は人間の奢り以外の何者でもない。
人間の兵士や、魔導により、身体能力を異常に調整させた狂戦士達。相手としては、やりにくい。何せ意識を戻し話をすれば、間違いなく引いてくれる存在だと思われる者さえ、その中に居たのだから。
笑って、間違いなく楽しんでそれを殺せる彼ら。
炎を身体全体に纏い、腰に在りもしない剣をその炎で創り出し、たった一振りで幾人もの敵を焼き払う、炎斬り。
素手で人の身体を引きちぎる、等と言う怪力。単純にそれだけで恐怖を叩き付ける訳ではなく、名前通りの瞳が、死を予感させる畏怖を生み出す事の出来る碧眼の魔獣。
そのどちらもが、自分たち人間では決して出来ない事を軽々とやって退ける。
力は元より、心のあり方その物が違う。
人と言う存在が、ただの食料だから、笑っているのか。
殺す事を何よりも快楽と感じられるから、笑っていられるのか。
覚悟を決めたからこそ、笑っているだけなのか。
そのどれもが正しく、どれもが間違っているのか。
訪ねれば答えてくれるだろう。雰囲気で分かる。
激昂してか、淡々と告げるのかまでは分からないが。彼らは間違いなくそれを、一点の曇りのない眼のままで答える。
殺すことにかけて、彼らは秀ですぎている。手段や心境、状況や育った環境に至るまで。ただそれだけの為に存在している訳ではないだろうに、なのに殺すと言う事にかけてどんな暗殺者よりも簡単にやって退けてしまう。
おかしい。
笑えると言う意味と、疑念に囚れると言う意味。
どちらもを彼らに抱き、そして、違うと感じる。
シグマとユーリは自分と違う考えを、それこそ、かつて敵であった者達の考えと同じ事を胸中に描いているのだろうが。
「バイア? どしたん」
ふと、サリアの声が聞こえ現実に引き戻される。視界から映る世界は、血と青空の原色二つのみで敷き詰められた様な世界で、少々の吐き気は感じている。
「やっぱ気分悪いよねぇ。もちっと穏便にするように言っとく?」
実働出来はするが、自分は間違いなく足手まとい。その中で、サリアは自分の護衛をやってくれている。近くにあるいくつかの死体は、その証。
「流石にそんな余裕無いでしょ。時間的に見ても、もう少し早く事を済ませた方が良いくらいだし」
「んー、ちょっと辛い様だけど。もうちと無差別に殺しても良いんじゃないかって思うけどね」
「そうね・・・」
意見は正しい。
今回のやり方は、近隣の住民からしてみれば、信じられない、と言う一言で片づいてしまう。何せ、まだ何もしていない兵士達を殺して行くのだ。もしかしたら、近隣の村の出身の者も居たのかもしれない。いや、もしかしたらではなく、実際に居た。でもなければ、必死に何故殺すのだと訴えてくる村人も居なかったろう。
それを説き伏せていたのは一度だけで、後は有無を言わさずに兵士達を屠ってゆくだけ。
ただ自分だけが最後、村人に声をかけてゆく時間が、勿体無くもあるのだと。
大事の前の小事と言う言葉が浮かぶ。どうも、サリアが抱いている感情を言葉に表せばそれとは違う気もするが。
「気にしすぎだよバイアは。私らが殺したその辺の奴らだって、知っては居た筈だよ。知らなかったなんて言わせない」
「無知は罪って事?」
「あったりまえじゃない」
ためらいもなく言う、彼女。
魔族故の言葉ではないが、自分は賛同しきる事が出来ない意見。
焦燥っているからこそ、出る言葉だと。分かりもした。
神族と言うのは魔族が滅ぼした訳ではないと、碧眼の魔獣、ファーラが教えてくれた事だ。
学生時代、今も学生ではあるが。もう少し若い頃に何の機会だったか。読んだ絵本。お伽話の書かれた、英雄憚の様な物だったと記憶している。
主人公が女性で、緋色の瞬光と言う二つ名を持った、自分たちハンターに取っては大先輩に当たる様な存在だと自分は思っていたが、所詮、歴史を語る上で必要な。分からない部分、穴を埋める為の絵空事だとばかり思っていた。
だが、その緋色の瞬光と言う人物こそが、魔族に取っても重要な意味を持つたった一人の人物で、神族を滅ぼしたただ独りに違いないのだと言う。
形は違えど、その人物の事を伝える事。魔族も人間も共通の意思の元に作られた真実をかみ砕いて作られたお伽話。
炎斬りやサリアは、ハッキリと知らなかったらしいが、ファーラの種族は真実のみをかみ砕きもせず、淡々と伝承が語られていたから、細部までを彼女は憶えていた。
しかし結果、神族が滅ぼされた事が分かっているが、魔族が神族に勝てたと言う記録がない事もそれは物語っていたのだ。魔族に取ってはどうしようもない、神族はそれこそ人間に取っての魔族的存在なのだろう。
そして想像による恐怖よりも、実際にハッキリと分かる恐怖の方が、勝る。
滅んでから、生れた世代である自分と行動を共にする三人も、世代ごとにうすれている筈の恐怖は確かに残っている。
親から子、孫へ。
永遠に途切れる事無く列なった記憶。人間であれば比べる物が無く恐怖する事も出来ないが、魔族は違う。
比べるべき存在。彼らが忌むべき時代から生き続ける、13魔剣と言う存在と、その上に立っていると言う、人間、特に皇都に住む人間ならばなじみ深い三闘士と言う存在。
何かしらの形で、魔族はその二つの存在のどちらかと対峙した事があるのだ、と。
炎斬りは三闘士の一人、誰もその姿を記憶していない一閃の雷光と対峙し、ファーラは13魔剣の天魔剣シュリ・レイナードと言う女性と一戦交えた事があるらしい。そして驚いた事は、サリアが三闘士の三つ色の剣舞と喧嘩した事があるのだと言う。
よく生きてられたと、自分も、魔族二人も簡単に述べたが、彼女は笑ってただ「強かったよあの人」と言っただけだ。
経験したからこそ、まだ隠していられる落ち着く者と、想像するのも止めてただあるがままを受け入れようとする者。
一人、また一人と、死んで行く風景。終わったと思えばまた、死体の山を築くために移動して行く。
「さてとー、次行くか次」
「あまりイイ気分じゃねぇが、神族よかマシだろな」
魔族二人の感想と、無言で荒い息を整えようとしている人間二人は明確に違う。
日数と距離を追う事に増えてきている、特殊な敵の数。
見た目は何処にでも居るような街娘で、その実、よほど訓練された兵士とは別種類の強さを持っている。
自分たちハンターと似たような戦い方をすると、ファーラが漏らした感想は正しいだろう。統制された兵士を相手にするのは、こと戦争し慣れた四人に取っては楽なのだろうが、同じような戦い方をする者を、それも操られているとハッキリ分かる少女を相手にするのは苦以外の何者でもない。
実際は、炎斬りとファーラはそうでもない様子だが。どうやれば元に戻るのかが分かっているだけで、簡単にそれを作業としてやって居る。
その方法と言うのが、彼女たちを操っている魔術媒体。それをえぐり出すと言うのだから、男二人には少々辛い事なのだろう。それが眼球であると言う事と、どちらか選定する方法が己の勘のみと言うのだから、尚タチが悪い。
これまで失敗が無いのだからと、そう言う訳にも行かないのが心と言う奴か。
なまじ過去に守りたかった者達の姿そのままに、傷つける事が出来ないと言う負い目があるのだろう二人には、もし間違ってしまえばと言う恐怖心がどうしても拭えない。仮にも激痛に耐えられる様に出来ていない少女なのだ。幾等戦い方がなっていると言ったところで、自分たちの様に痛み慣れした身体では無い。
タダ単に、女の強さを彼ら二人が知らないのだとしても、だ。例え耐えられると分かっている相手であれ、自分たちと同じ道をかいま見せるという事が、どうしても出来ないのだろう。それが人間の、戦場を渡り歩いた熟練者と新米の違い。
魔族二人はその点、気楽に殺しと作業を繰り返していられる。まだ、と言う一言がついて回りはしているが、それは作業が苦痛になるのではなく問題点が全く別の事であるが故。
「でさ、次はどっち?」
「南西に進んだ所にあるちっちゃな村ね」
「説得とかさ、私らがやる?」
「どうせ恐喝でしょうが。任せらんない・・・」
「ちぇ〜」
そんな自分たちが彼らと行動を共にしている理由は、一つ。
神殺しと言うのは、魔族に出来ぬ事だが、人間はそうでないと言う事。
深くは知らない。知りたくもない理由がそこにあると、学徒としての勘が告げる。
ただ一番、神族に遭遇する確率の高い移動経路に自分たちが居る理由は、出立したその日から分かっていた事。黒と純白の二枚のクレストを使いこなせる自分と、それを行使するまでの足止めとしての二人。
魔族三人は、それ以外でしか役に立てない。
持ちつ持たれつなどと言う話ではないだろう。
利用しあっていると言うのが、ここに来て分かった事実。
確かにあの場所で、自分たち人間は認められた。
ただし実力云々の話ではなく、生き方を気に入られたと言う方が正しい。向こうが認めただけで、此方は。特にシグマとユーリの二人は隠しているのだろうが、認めきれないと言う思いを抱いているのが何となく分かった。
溝が深まる前に、何とかしなければいけない。
どうすれば良いのか等分からないが、何処を見ても気の滅入る事ばかりだと、溜息を吐いてしまう。これも仕事だと
「・・・納得出来たらねぇ」
「どうかした? 溜息なんて年寄り臭いわよ」
「ファーラ? あんたよりは若いんだけど」
「気の持ちようでしょぉ? 千年以上生きた私が言うんだ間違いは無いっ!」
「はいはい・・・そう言う事にしときますよ」

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:VIOLET CARD