ハンターの中でも嫌われ者は居る。
それは二種類居て、悪い噂を流された被害者と、自業自得で悪行を重ねている者だ。
サリアが今、笑っているのは後者の方。イチガイにもそちらよりとは言えない噂もちらほら耳にしているが、顔ならず性格があくどいと言い切れる様な連中の人望を吉と取るか凶と取るかはヒト様々。
ちなみに自分が凶と取るのは、正直に怖いからである。
「このクソガキっ! もっぺん言ってみやがれっ!!」
「包帯巻いたは〜げ〜づ〜ら〜、あはははははっ!!」
「き、昨日のガキと言いお前と言いっ!!」
しかし、面と向かってそんな事を言えるのは、何があったか知らないが今日は一段とその言葉に反応する男ゼイアスの事をよく知らない、いたいけなこどもか、単なるバカのどちらかだ。
無論、笑っているサリアは後者なのだが、並みのハンターであれば彼女に適わない事くらいは自分が十二分に承知している。
だからタチが悪いと言えもするのが、彼女の間違いなく短所であろう。しかし止めない訳にもいかないのが自分の立場のツライ所。
ハンターギルドで、サリアが問題を起こす事は半ば常習かしているので呼ばれる自分も覚えられているのだ。
知り合いのギルド受付の女性に馬鹿にされるのならまだしも、同情されるのはやりきれない気持ちになってしょうがない。
笑われれば笑われたでやりきれないのも分かっているが。
そう言う理由もあり、そそくさとサリアの隣りに立って、相手が怯んだ隙に睨み付け、
「な、なんだお前は」
無言のまま視線を交差させ、
「サリア」
「な〜に?」
「一気に逃げっ!!」
踵を返そうとした瞬間、口元を押さえてしまうのはいつもの事だ。
どういうタイミングで身体を動かせば吐血するのかは覚えている。
便利な特技だ。
誰かに言われた事はあるが、問題事を解決する方法としてこんな事をするのは自分しか居ないのだろうと冷静に考えている今、一方で泣きたくなる自分が居るのも確か。
「お、俺は何もしてないからなっ! 何もしてねぇぞっ!!」
頭の毛が一本も無い怖い面の男と、方や大学の法衣を着た女性で、どちらが悪いかと一目見て印象づけられる事くらいは考えられた様子。
そのまま走って行く足音だけを聞きながら、溜息を吐こうとした瞬間に咽せてしまうのは当たり前。
ひとしきり咳をした後、自分の服に血が付いていない事を確認して、よしと立ち上がる自分は一体何なのだろうか。
「ばいあ〜」
「な〜・・・・・・」
しかし、サリアの身体中を血でべっとりの状態にはしてしまった様子。
「あんたが悪い」
「ごめ〜ん。でもあのおっさんの顔面白かったしさぁ」
責任転嫁ではない、と論ずるまでもなく、悪気はあった様で、素直に謝るサリアの事をこれ以上咎めてもしかたがないとは思う。
が、表情が一変し、にやりと笑うのは頂けないに決まっている。
「けど美味し〜」
「チガウっ! ご近所に誤解されたらどーすんのよっ!」
「でもさぁ〜」
舌なめずりする表情が似合っているのは魔族だからか。それとも単に食い意地が張っている格好が、赤い色のチョコレートでも食べている風に見えるからなのか。
どちらにしろ、
「あー、おばちゃんまた吐いてる〜」
「コラっ! ホントすいませんバイア先生。あ、サリアちゃん、ついでに今洗濯しよっか?」
等と、騒ぎ、と言う程の事も無かったのだが。朝だったからか。隣近所のお母さん連中に見られていたらしい。
ちなみにこの反応は、この辺りに引っ越してから二度ほど誤解されただけですんなり受け入れられた辺り、流石は皇都に住むハンターが一番多く住んでいる場所と言うべきか。
「前も確かこーゆー事あったよねぇ。あ、おばちゃん、またごめんね〜」
「気にしないで良いよ。血は直ぐ洗った方が取れるからね。ほら、こっち来な」
しかし、大量の血を見慣れていない筈の子供さえ怯えず「これも日常の一部分として受け入れられてしまう自分は一体何者?」などと考えた所で、断る事も出来ずに居るのは料理も掃除も自分でするが、どちらも得意ではなく、血などの着いた洗濯物を洗うのがかなり下手だと言う現れ。
「毎度の事ながらすみません」
「いーっていーって」
「そうそう、。バイア先生には子供達の面倒も見て貰ってるし」
「洗い終わるまでで良いからまた見てて貰えるかい?」
三人ほどの、顔なじみのお母さん方。
と、言っても、歳は自分とさほど変わらない。
そしてこういう時だけ、理由もなく結婚したいと思う自分が居るバイアだった。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:VIOLET CARD