「それにしてもヤヨイってつくづく凄いわね」
「何がだよ」
「私の二つ名知ってた事もそうだけど、あんた達の信頼得られる様にあんな機会用意してくれたし。普通考えつかないわよ?」
「俺はあんたなんぞ信用してねぇからな」
「貴方に信用して貰ってあるメリットは無いわ。それに比べて、他の連中は残り物だけど際立った実力揃いですもの」
「そこまで言うか?」
丁度良い小間使いとしてしか見ていない事を、まぁ、気に入る男は居ないだろうが。シグマも一般男性と同じ意見の様で先ほどから眉間に皺を寄せたまま不機嫌な様子だった。
最も、自分の言った通り、彼が役立つときと言えば戦闘時以外、今回の仕事では無いのだ。
交渉相手に脅して穏便に済ませる方法もあるにはあるが、あまり刺激しない方が今回の場合は吉。
下手に誤解されて戦争を起こされたらそこで自分の仕事の失敗は愚か、一体どれだけの被害が出るのか分かったモノではないのだ。
「で、俺ら何処に向かってるんだよ」
「決まってるじゃない。私の家」
「・・・あ?」
「この格好で旅なんか出来る訳ないでしょ?」
「・・・・・そ、そうか」
「その変に安心した表情はあんまり女受けしないわよ」
「う、五月蠅いっ!!」
どちらにしろ、現段階で懸念すべき事は幾つかあり、まず解決すべきは入輸出するべき街道の確保と、商人達を襲ったとされる盗賊団の事だ。
この賊の名乗った名前が分からなければ、多分、今回の事はヤヨイの耳には飛び込んでこなかっただろう。西側の人間に取って最も極悪非道の名で有名な盗賊団なれど、南方地方で、特に街道を襲う動機が全くない賊だったのだ。
しかしもしそれが本物だったら。
もしも、その盗賊団とダルト連合国が手を組むような事態であれば事は間違いなく最悪な方向へと加速する。
「ほら、さっさと走る。三十路過ぎた女に負けてどうするの」
「あんたの家を俺が知ってる訳ないだろうがっ!!」
「それにしちゃ、息が上がってるのはどうしてかな?」
「アンタが変な事ばっかり言うからだよ!!」
どちらにしろ、この状況を楽しめるのは今くらいであろう。ストレスで胃に穴が開きそうになる位、大変な事は目に見えている。
異種族混合盗賊団「竜の爪」。北西を拠点に悪事、と言うか、規模で言えば一国の軍隊にも匹敵する程の名の通り、種族がバラバラの盗賊団。
しかし盗賊団と言うよりは、もはや単にテロリストで締めくくった方が良い程の犯罪者の団体で、西に居た頃は防衛戦と幾度か交えたモノのギリギリの所で勝てたと言う戦果。それも中身を見て見れば、被害は此方ばかりに広がり、相手方は人員を兵士と言う使い方ではなく、一個として統率が取れすぎた傭兵と言うやり口なので防衛した街は殆ど壊滅状態だったのだ。
名ばかりの勝利であり、その街の総人口の四分の三を失って勝利も何も無いだろう。
何もかもは、知らされない事実ばかりで、凍顔の知将の名も噂ばかりが一人歩きした、空論の英雄と言っても過言では無いのかも知れない。
何せあの時バイアは、自分がそう呼ばれている事すら知らなかったのだ。
自分が人殺しを命令し、兵士に死んで行けと言っている事を認識していなかったのだ。
それを知る者は、これからどの位居るのだろうか。
ヤヨイが、自分の二つ名の事を知っていると言った時の表情。
もしかしたら、西側でも知っている人間が一桁の極秘事項を知っていたのかもしれない。
そう思った時、古傷にナイフを突き立てられた様な感覚を感じたモノの、笑っている自分が、そこに居るのだろう。
それだけ、西側の情報を管理する能力が下がっていると言う事なのだ。
味方であったならば懸念すべき事である一方、敵になった時は見抜きやすい弱点だから。
「にしてもよ、あんた本当にあの凍顔の知将なのか?」
「どうして?」
「いや俺が昔、聞いたイメージと大分違ったからな」
「じゃ、私以外にもう二人くらい居るんじゃない?」
「じょ、冗談よしてくれ。二人も三人も居てたまるか・・・」
しかし、この男も案外鋭いのかもしれない。
認識している実力を使い、眠っている実力は気付かぬ内に外に出ようとしているのだ。
これも昔は、分からなかった事だろう。
たった一人の人物の可能性を、間近で見る事が嬉しい等と。
そして家に着いたバイアは、早々に旅支度を済ませようと頭を切り換えた。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:VIOLET CARD