「・・・・最悪」
そう漏らして、ため息を吐く。
連れてきた二人はいまいち状況がどうなっているか分かっていないらしく、眉を顰めるモノが一名、いつもと変わらず空腹を感じている者一名。情報提供者はこの場を去って間もなく、ここは南方のそこそこ大きい街の一つ。その一角にある廃屋の中で、敵ながら天晴というしかないのが現状だった。
「ね、分かり易い様に説明してよ。もしくは朝食も昼食も食べてないんだから豪華な夕食をヨウキューするっ」
「サリアちゃんの言う通りだぜ? 最悪なのは・・・・よく分かってないけどもよ。腹減ってちゃ纏まる考えも纏まらないだろ?」
話を聞く前までは、どうにか出来る。つまり情報を集め、何らかの手を打って戦争を回避出来る物だとばかり思っていた。要するに、自分の理解出来る範疇を擬えているだけの状況だと思っていたのだ。だが、提供された情報の中にはハッキリ、出遅れたと分かるものが幾つかある。
その中の一つに、西側の偽装工作は既に完了しているも同然だと言う事。南方が生きる為に必要な輸入と言うモノを逆手に取り、そこをつきながら自国に加担させると言う方法は見抜いていた筈なのだ。その輸入経路を絶つ為に使った偽装が盗賊団、と言うありふれた物であれ、何の生涯もなく事が運んでしまうとは思いもしなかった。
悪く言えば頭の悪い連中の筈だ。西側の、自分たちの様な間者を仕留める為に動いているギア・ワイズマンの部隊は暗殺や殺しの技術は一流でも、その他の政治や微妙な外交の事などてんで無知だった。だから何とか出来る、と踏んでいたのだが、相手の馬鹿さがここまでこちら側に不利な動きを取らせる羽目になるとは思わなかった。
竜の爪、と呼ばれる盗賊団。彼らが流通経路を絶つ為に使った偽物だと思っていたそれが、じつはホンモノだった、と言うだけの話だ。
異種族混合盗賊団、と、一風変わった、まるでサーカスの様な印象すら名前を知った時は受けた事を憶えている。所詮、盗賊なのだからと舐めてかかった事もあった。だが、彼らは下手な軍隊よりもよほどタチが悪い。
第一に、彼らは軍や国の制約に縛られていないと言う事。簡単に言えば悪人は所詮悪人と言った所か。歯止めの利かなくなった略奪が何処まで続くか分からないと言う事だ。軍部が偽装に盗賊をやっているのなら、その上層部を抑えれば機能しなくなるが、ホンモノとなれば別な話。本格的に討伐対でも出さなければ壊滅などほぼ不可能。
それが第二の問題点である規模。必ず纏まって行動している訳ではない、と言う特殊な盗賊団である彼らは、その全体数を見せた事は殆ど無い。何年に数回だけ、大規模な略奪。それはもはや盗賊と言うよりも犯罪組織と言って良いのかも知れない様な大仕事があるのだが、街一つを完璧に周囲から隔離し、一夜にして全てを奪い去ってしまう様な特徴から考えてその総数は一万を超えるだろう。過去襲われた街の中で最も人口が多かった街が十万人単位で住んでいる国その物だったのだ。
そして最後の問題は、彼らの頭領が誰であるか分からない、と言う事。ハンターギルドの情報網ですら、竜の爪の頭領が誰であるかは一度として分かっていないのだ。ただ自分の予想で人物像を挙げるのなら、北方の傭兵王国の王と似たような人物なのかもしれない、と言う事しか検討はつかない。人格云々と言うのはこの場合あまり関係なく、何で彼らを支配しているか、が重要なのだから。
そう言った連中が、輸出入を頻っているキャラバンを襲っている。そして自分が最悪だと述べた理由は、総合した竜の爪の問題点を悩んでいるだけではなく、本当に偽装され動いている連中も居ると言う事だ。
単なる盗賊団の切れっ端如きになら、自分とサリアとシグマが居れば、楽々ではなく、辛くであるが勝利は出来るだろう。捕まえるのではなく、この場合全員殺害でもしない限り生き残る道はなさそうだが。だが偽装して紛れている偽物達は、簡単に殺せる代わり、その情報伝達が恐ろしく疾い。
現に、ギア・ワイズマンの名を聞き出した男は半ば自殺とも他殺とも取れない死に方をしたが、術の組み方によってはそれを遠方で知る事はそう難しくないのだ。
そして最後。此方の存在を気付かれ、警戒されたまま情報を集める、と言うのならまだ出来る事だったろう。だが知られた限り、相手は意地でも自分たちを殺しに来る筈。同時に、時間をかけゆっくり進行させるべき事を早める可能性は大いにあり得る。もしくは既に段階を早め実行しているかもしれないのだ。
そこから導き出される答え。つまり自分たちのやるべき事。
無謀だ、間違いなく。それ以外に手は無いとも言える。これ以上状況を悪化させたら、それこそ手の打ちようが無くなる。故に出来る事ではなくやらなければならない事は、偽装されて居ようが居まいが、盗賊団その物を壊滅、もしくは応援が来る迄の間、足止めする事。
ただし、前者をやらずに、後者を実行すれば、戦争の引き金は簡単に落とす事も出来る。輸入に頼る国を一気に締め上げないのは、自分たちの国に加担させる為。だが、それが出来ないのであれば、滅ぼしてしまえば良い、と言うのが西側の考えなのだ。ここまでそれを出来る状況が揃って居れば、どんな馬鹿な参謀であれ理由をつけてそれをやらせるだろう。味方に出来ぬ中立は、敵になるやもしれないのだから。
故、必然的に自分たちのやるべき事は一つしかない。
「三人で・・・・何しろって言うのさ」
後方を見て、二人の様子を伺うが、とてもじゃないが頼りになる、と言う言葉は言えない。無論、二人からしてみれば自分もちっぽけな存在に過ぎないのだが。
「ねー、いつまでそんな暗い顔してんの? ご飯行こうよごはんー」
問題は山積みではなく、ハッキリと何をすれば良いか分かっている。
分かっているだけに、腰が引けているだけなのだ。情けないと思う反面、いっそ神頼みでもしたい気分にすらなる。そして何より、状況を理解していない二人にどう説明すれば良いのか。それが一番分からないのだ。
「サリアさん・・・・その、あましご飯ご飯と言わないでくださいよ。何か俺まで我慢出来なくなっちゃいましたよ・・・」
「私はずっと我慢でーきーなーいー!」
財布の中を見て、ふと妙案を思いつくが、それも直に却下する。手としてはありふれているが、傭兵を雇う、と言うのもありなのだろう。
ただ、確実に殺されると分かっている依頼に答えてくれる都合の良い傭兵が居るのなら、の話だったが。
「・・・・分かったわよ。どっか食堂無いか探しに行きましょうか」
「それは大丈夫! もうちゃんと目星はつけてるから。もう、さっきからいい匂いしてタマンナイヨ・・・」
「はいはい、分かりました。じゃ、そこでちゃちゃっと自体を説明してあげる」
「あまり聞かない方が良さそうに思えるのは俺だけか?」
「あはは・・・」
渇いた笑いを浮かべるので精一杯。分かった事は、自分たち三人でどうにか出来る状況じゃなくなった、と言う事だけだった。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:VIOLET CARD