「で、あれは結局、何者だったんだ? なんか凄い偉そうな面しやがって。それにサリアちゃんも居なくなったし」
「何気弱な事言ってんのよ。サリアは仕事が出来て別行動取ってるだけって言ったじゃないの」
「じゃあ、あれが誰だったか位説明して欲しいもんだがな」
「聞きたい? ホントに」
「ああ」
夜の内に行動を開始出来る訳でもなく、結局あの後眠ってしまって、今はもう一日経過した夜の事だ。戦力低下は分かっているが、策士としてではなく紋章士として出来うる限りの事をするなら、サリア一人分くらいの戦力は肩代わり出来る。夜明けになる寸前、空がぼんやりと澄んだ青くで染まる時間に、荒野を走っている最中。馬上は酷く寒さを感じるが、朝になり、昼になれば嫌でも熱くなるだろう。
「氷魔剣よ。魔剣の存在くらいは知ってるでしょう?」
「・・・・・・・・・・炎魔剣だけで十分だと思ってたがな。まだ他に居たのか、物騒な名前もった奴」
漆黒の山脈近くに住んでいると言われる炎魔剣ビシャスと呼ばれる男。グレースと同じく魔剣と言われるだけその強さは自分たちには計り知れない強さを持っている。特にシグマは昔見た光景を思い出し、寒さではなく違うモノで震える身体を感情で押さえているのだろう。何せ一個大隊どころか、その国の兵士の半数以上をたった一人に殺されたのだから。それがなければシグマの国もダルト連合国に吸収されず、今も残っているのだろうが、戦争とはそう言うモノ。捕虜でなく国を取り返す為に、彼はダルト連合国の中でも戦争を最前線でのし上がっていた過去がある。
「あんなバケモノと取引してたのかあんた」
「まぁ、私は紋章士だからね。氷魔剣とだけは少なからず縁があるのよ」
「縁だぁ? ・・・まぁ、いいさ。しかし盗賊とはね。あの格好から察するに、ろくな奴じゃないとは思ってたが」
「くだんない正義感なんて捨ててしまいなさい。これからやる事には役に立っちゃくれないわよ」
「へぇへぇ、若造で悪ぅござんしたよ」
拗ねては居るが、緊張はほぐれたらしい。化け物と相対した過去があるのなら、人間如き相手にするのは造作もない事だ。
戦争をする為に兵士を育成する際、人を殺す事に対する感情を痲痺させる、等と言う訓練もあるにはある。だが、当初蹂躪戦で住民を殺しまくる、と言う半ば意味もない殺戮でそれを完遂させるのではなく、彼の場合はたった一人の魔族に負けた過去があるからこそ、人を殺す時も躊躇いはしないだろう。
何だかんだいって、殺人鬼である事には違いないのだが。それ以外に方法がないと割り切れるのは、自分より寧ろ彼の方が上手いだろう。
「で、そのキャラバンが襲われるって情報は確かなんだろうな」
「ええ、今まで襲われたキャリバンの特徴から言って間違いないわ。盗賊が襲うには大きすぎるけど、素人が手っ取り早く襲うには格好の餌食でしょうよ」
「たまにあんたのそれ、怖くなるんだがな」
「頭が切れるってのは良いわよ? 何しても食べてけるから」
「自分で言ってりゃ世話ねぇぜ」
もうすぐ、キャリバンを襲う絶好の場所にたどり着く。待ち伏せしている連中の影が見え、隣にいるシグマの気配と目つきが変わるのが分かる。
ただ、最後まで言えなかったのは失敗だったのかもしれない。
自分が、今迄直接人を殺めたことはないと。

アナザー・ナイン・ファンタジー■ACT:VIOLET CARD