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名古屋の隣町、大府市のペットクリニック。斉藤動物病院です。

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犬の慢性リンパ球性白血病

 白血病とは、血液細胞の腫瘍であり、全身性に腫瘍細胞が存在することから、"難病不治"のイメージが強くあります。人医学では、制ガン剤の開発や、骨髄移植など高度な技術が用いられることにより、治癒される方が増えてはいますが、獣医領域では治癒した例の報告はありません。慢性リンパ球性白血病は、血液中に非常に多数の異常細胞がありながら、長期間無症状期が続く特異的な疾患です。人では、B細胞由来の成熟していて異形成が少ない小型リンパ球が増殖するタイプがほとんどであると言われてます。犬における発生は稀ですが、今回、慢性リンパ球性白血病と診断した症例に遭遇したので、病態および治療方法を報告します。

症例:ゴールデンレトリバー オス 9才  33kgBW

主訴:後肢跛行の主訴にて来院。元気、食欲正常。

病歴:3年前に、白血球数の持続的増加が認められ、骨髄性白血病の診断を受けていたが、抗癌剤の治療は行われなかった。 (今回の診察以前のWBC:86900~31900/μl)

身体検査所見:右股関節周囲の腫張、疼痛。
血液検査所見
 PCV  18 %
 RBC  272x104 /μl
 Hb  8.5 mg/dl
 WBC  1374x102 /μl
  stab  4x102 /μl
  seg  188x102 /μl
  lympho  1095x102 /μl
 mono  87x102 /μl
血液塗抹所見

血液塗抹の弱拡大写真。多数の単核球がみられる。

大型のリンパ球様の単核球が多数有り、細胞質が豊富である。

リンパ球様細胞は多様である。

単核球の細胞質は、ペルオキシダーゼ陰性である。好中球の細胞質は染まっている。

細胞室内にアズール顆粒が認められる。核小体は不明瞭である。

大型のリンパ球様単核球は、細胞質が豊富で、核の変形もあります。

リンパ球表面マーカー検索
 マーカー  陽性比率
 CD3  100%
 CD4  0.28%
 CD8  96.85%
 CD21  0%
この結果は、腫瘍細胞はリンパ球のT-cell由来であることを示しています。
この検査は岐阜大学の深田教授に依頼しました。

当院診察以前の検査所見 
 DAY  0 19  27  38  908  917 
 WBC(μl)  86900 73000  65100  64300  54700  78600  54500 
 PCV(%)  33          27.1  23.7
 Hb(mg/ml)  11 13.2  12.9  12.5  12.4  9.1  7.7 


上図は、当院罹患後の血液検査の推移
(他院にて白血病と診断されてから約3年経過しています。)

診療経過:白血球数は正常な犬では1万ぐらいですから、桁違いに数が多いことに驚かされます。制ガン剤は最初は効果的で、白血球数は減少し、貧血は改善傾向にありましたが、4ヶ月ぐらいから薬の反応が悪くなってきました。

初診時の骨盤部のレントゲン写真です。
右寛骨臼の後方に骨膜の増生と、部分的陰影欠損増があるようにみられます。
炎症性病変か腫瘍性病変かの区別が難しい写真です。
獣医大学のレントゲンの専門家にみてもらいましたが、腫瘍であろうとのことでした。
左寛骨臼付近にも増殖病変があるところが気になるところです。
 右股関節の関節液を採取したところ、炎症性細胞が多数認められました。細菌培養検査では、細菌は認められませんでした。








骨盤部骨膜増殖部の生検、組織写真である。
獣医師専用病理検査センター(H社)の診断は、悪性腫瘍でしたが、人医学部病理学教室(名古屋大学)の医師の所見は腫瘍にあらず、でした。
増殖部分の形態が多様すぎるということが主要な理由でした。
結果的には腫瘍ではなかったでした。

主な治療 
 サイクロフォスファマイド50mg/m2,eodおよびプレドニゾロン30mg/m2/day(以後漸減)にてリンパ球数12000/μl程まで減少し、貧血も改善してきました。
 5ヶ月後より徐々に白血球数が増加し、サイクロフォスファマイドの増量、ビンブラスチンの注射投与もほとんど効果は認められず、フルダラビンの点滴静注(3日間連続)を投与するが効果は認めらませんでした。肝腫、貧血も進行し当院にて診察し始めてから232日目(白血球増多が認められてから1370日目)に死亡しました。

補足と感想
 白血病の診断は比較的容易です。血液中の細胞が異常に増加していれば診断がつきます。しかし、今回のように、慢性白血病は稀な疾患ですし、臨床経過や病態が急性白血病とはかなり違うので、診断、治療方針を決定することに苦慮しました。慢性白血病は進行がかなり遅く、治療も緩やかでいいのですが、急性白血病は、進行が極めて早く制ガン剤が有効でない場合がしばしばです。

 人の慢性リンパ球性白血病の病態特徴は以下のようです。
 異常な形態の細胞が、明らかに多量に認められていながら臨床症状を示さずに3年以上も過ごすことができるかなり特異的な腫瘍性疾患である。人においては90%がB細胞由来であり、比較的小型の成熟したリンパ球の形態が多い。

 近年報告された米国獣医大学における調査では、犬の慢性リンパ球性白血病においてはT細胞由来の方が多いとの報告もあり、病態の違いおよび予後因子に注意しなければなりません。

An immunophenotypic study of canine leukemias and preliminary assessment of clonality by polymerase chain reaction
Veterinary Immunology and Immunopathology
Volume 69, Issues 2–4, 2 August 1999, Pages 145–164
William Vernau, Peter F Moore
慢性リンパ球性白血病 73 例
73%がCD3+のT-cell由来
54%が大顆粒リンパ球由来 (LGL) (CD3+ 100%, CD8+ 90%)
3例のLGL CLLは、CD4-, CD8-
1例のLGL CLLは、CD4+, CD8+
19%のnon-LGL T-cell CLLは、
4例が CD4+、3例が CD8+、1例が CD4+,CD8+、6例が CD4-,CD8-
26%が、B-cell 由来
CD21あるいはCD79が陽性で、CD3が陰性。
今回の研究においては腫瘍細胞の形態と免疫学的表現型との関係は、比較的乏しかった。
T-cell (non-LGL) CLL と B-cell CLL、NK-cell CLLは形態的に区別できず、リンパ球系の様な形態の急性骨髄性白血病も多数の症例があった。逆に骨髄系のような形態のリンパ球系細胞もいくつか認められた。
多数の犬は診断後3年以上生存している。これは、表現型に依存しない。

最後に
 犬の慢性リンパ球性白血病の治療方法は、人の慢性リンパ球性白血病を参考にして行われますが、高価な制ガン剤もあり、必ずしも同じ方法で行われることはない。また、人で行われている骨髄移植などは、実験的には研究されていますが、臨床的に犬や猫で成功した報告は見あたりません。また、米国などでよく用いられているクロラムブシル(chlorambucil)は日本では市販されておりません。サイクロフォスファマイドも効果的ではありますが、出血性膀胱炎の副作用は出やすそうです。


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