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名古屋の隣町、大府市のペットクリニック。斉藤動物病院です。

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犬パルボウイルス性腸炎治癒後にみられた多発性神経症

パルボウイルス性腸炎に罹患した子犬が、治癒後約2週間後に四肢の筋力が著しく低下し歩行困難に陥った。筋生検などの結果から多発性神経症と診断された。多発性神経症は様々な腫瘍や糖尿病など多くの疾患に随伴することが知られているが、人のギランバレー症候群のように腸炎の後に発生した報告は見あたらないのでこれを報告し検討する。

[症例報告]2ヶ月令の雑種(メス)が、3日前より嘔吐、下痢、食欲不振の主訴にて来院した。初診時白血球数は正常であったが、翌日は白血球数は1200μlに減少しパルボウイルスが検出された。入院させ、補液、抗生物質(セファメジン、ゲンタマイシンなど)、制酸剤を中心に治療し、脂肪製剤、G-CSFも投与した。第7病日より少量の食事を摂れるようになり、第11病日退院した。入院時2.9kgであった体重は、退院時2.8kgであった。
 第25病日、体重は3.4kgに増加していたが、背部、四肢の筋肉は萎縮しており、筋力が著しく低下し起立困難であった。首や尾は活発に動いていた。血液検査では軽度の貧血や低蛋白血症がみられ、ALP、CKは増加していた。大腿四頭筋長頭の生検を行ったところ、筋線維の変性や細胞浸潤は認められず、グループ的な筋線維の萎縮がみられ、神経性な萎縮が示唆された。
 プレドニゾロンが非常に効果であり、投薬5日後では20〜30歩は歩くことができ、10日後には1時間ほど続けて歩くことができ、体重は急激に増加した。20日後は投薬停止したが、順調に成長し再発は認められなかった。

「図1」大腿四頭筋長頭の生検の組織写真。弱拡大

「図2」大腿四頭筋長頭の生検の組織写真。強拡大


この検査は、神経性の委縮か筋肉性の委縮かを調べることが主目的です。グループ的な委縮がみられたことから、神経性の委縮が示唆されました。

[考察]人のギランバレー症候群は、急性の運動麻痺をきたす末梢神経障害であり、多くの場合呼吸器あるいは消化器感染の後に発症する。キャンピロバクターやマイコプラズマに対する抗体や各種サイトカインなどが発症メカニズムに関わっていると考えられている。
 犬のクーンハウンド麻痺(急性多発性根神経炎)も類似の疾患であるが、原因および発症機序は明確になっていない。犬においても人と同様な機序による末梢神経炎が起こりうることを考えられた。

解説
 このように、四肢の筋肉が委縮、弛緩し、頭部頸部尾は活発にうごくという病態は非常に珍しく、興味深い症例でした。
 筋肉の萎縮は、様々な疾患で筋肉を使わなくなったときにしばしば認められますが、今回のように急激に起きることは滅多にありません。パルボウイルス感染症は有名な病気で、重篤になりやすいですが、この病気に継続して他の病気が発症するという概念は、獣医師にはありませんでした。
 立てなくなる病気は、筋力が著しく低下したか、神経が麻痺したかを考えますが、診断は容易ではなく、筋電図がとることができれば有効な検査でしょうが、犬の筋電図を測定する機関は不明でした。病理組織の検査はある程度信頼できる検査でした。神経性の筋肉萎縮という疾患は多くなく、多発性神経炎という病名をつけたらいいのかな...と考えていました。この疾患の一番の特徴は、四肢の骨格筋だけが筋力低下し、首から上の頭部や、尾が活発に動いていたことです。大きく分ければ、中枢神経には異常が起きず、末梢神経の運動機能だけが異常が起きたといえます。この部位の違いを推察することは難しそうです。
 重篤な感染症の後に神経障害が発症したことは、感染症を抑えるべく作られた抗体が、病原菌を抑えるだけで無く、少々の時間をおいて後に自分自身の神経細胞を傷つけたと推察されます。詳しい機序については人のギランバレー症候群について研究が進んでいます。


動画。四肢は力が入らず立ち上がることはできませんが、首はしっかりしており表情も豊かです。尾もしっかり動いています。

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