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歌舞伎座つまらない悩み

継続的に歌舞伎を見るようになって十年近くが経ちました。最初のうちは見るものすべてが新しく感じたものです。衣装、舞台装置、セリフ回し、立廻り、義太夫、下座音楽…、何を見ても聞いても感激しました。
ところが、それが生活の一部になってくると自然と目が濁ってくるようです。単に歌舞伎が好きな段階なら自分勝手な「日誌」をつけるのもよかったのでしょうが、知らず知らずのうちに評論家的になっているようです。「○○さんの演技は裏にこういう意図があるんだ」「△△という芝居はこのように解釈しなければいけない」というようなことを意識してしまいます。「長く見ていてそんなことも知らないの?」という圧力です。次第になかなか思い切ったことを書きにくくなります。
一方で自問したりもします。はたして新聞の劇評のごとく批評するのが、私のWebで必要なのか?専門用語を連発すれば一見物知り風だが、逆に「歌舞伎=難しいもの」というイメージを増長しないか?
そこで、はじめに宣言しておきます。私は毎月歌舞伎を見ることに楽しみを感じている人間です。が、マニアでも、専門家でもありません。歌舞伎についてあまりマジメに勉強していません。言っていうことに間違いがあるかもしれません。ただ歌舞伎がより注目され、よりおもしろくなることの一助としてWebを更新したいと思います。(はぁー、ちょっとは自分で気楽になったかな?)
やはり、毎回気持ちをリセットし、真っ白なキャンバスに一から色をつけるような心で行くのが一番です。


歌舞伎日誌

2004年9月から「mixi」での日記を優先しています。基本的にそのまま転載します。


2006年9月18日 歌舞伎座 夜の部

9/18(祝)、連日の歌舞伎座。夜の部へ。
「籠釣瓶花街酔醒」。吉右衛門さん(佐野次郎左衛門)がまたも人間の内面をえぐる。満座の中で振られる幕の後では「そりゃ斬るわな」と完全に感情移入していた。周りに見られたら、きっとコワイ顔になっていただろうと思う。そして幕切れ。ズバッと一太刀。女中一人を斬るだけに押さえた余韻がいい。狂ってしまったその後を想像させる。
福助さん(八ツ橋)も美しい。序幕の出、鮮やかな桜の中でさらにひときわ明るく輝いていた。花道での笑いも、嫌味を感じさせない、自然なうちに含んだ感じが何ともいい。愛想づかしも単に冷たいだけでなく、自らの苦しい背後を微かに感じさせる。そのため、最期が一方的な悪女にならずにいい。東蔵さん(おきつ)の存在が全体を締める。鐵之助さんの遣手はお手のもの。ホッとする。歌昇さん(治六)の気持ちのぶつけ方も心地よい。
「鬼揃紅葉狩」は鬼がいっぱいの豪華版。染五郎さん(更科の前)の女形が美しい。目線の遣い方に色気がある。可愛らしいだけに変貌がおもしろい。信二郎さん(平維茂)は美男の優男。間狂言の玉太郎さんが人目を惹く。天性のセンスか?常磐津・竹本の掛け合いもたっぷり。
「菊畑」。幸四郎さん(智恵内)に雰囲気がある。染五郎さん(虎蔵)も牛若丸の気品がある。左團次さん(鬼一法眼)の芯の太さ、安定感。芝雀さんの赤が映える。歌六さん(湛海)の軽薄な悪さもいい。顔ぶれがそろっているから芝居が大きかった。


2006年9月17日 歌舞伎座 昼の部

9/17(日)は歌舞伎座昼の部へ。期待大の秀山祭。
幸四郎・吉右衛門兄弟の「寺子屋」が眼目だったが、泣いたのは「引窓」。これまでこの芝居は泣くものだとは思っていなかっただけに全く無防備だった。ドカンと来た。
吉右衛門さん(南与兵衛)の輪郭がきっちり。「引窓」は気持ちの優しい南与兵衛の内面で観せる芝居だと初めて気付いた。過去の放埓、女房との経緯、姑への情、吉右衛門さんは揺れる主人公の心を見事にえぐっている。この男は、姑の実子を捕らえられるはずがない−−思わず感情移入してしまった。脱帽。
富十郎さん(濡髪)の不思議な大きさ、吉之丞さん(母お幸)のしっかりしたセリフ、芝雀さん(女房お早)の若く可愛らしい姿、どれもしっかり揃っている。
「寺子屋」も期待どおり。幸四郎さん(松王丸)の2度目の出にはグラッと来た。泣き笑いの前、芝翫さん(千代)とのやりとりも濃密でいい。吉右衛門さん(源蔵)と魁春さん(戸浪)は計略が成功したと思った際の仕種がいい。「辺りキョロキョロ」が大げさではなく、秘密を必死に隠している。魁春さんは器用に細かい仕事もこなしていた。松江さん(涎くり)も奮闘。この種の役ができるのは貴重だ。
「業平小町」では、小さい感があったが、雀右衛門さん(小野小町)の元気な姿に安心。
「車引」。亀治郎さん(桜丸)の柔らかい仕種が見事なアクセント。上手さを感じる。松緑さん(梅王丸)の姿もいい。大車輪の活躍の染五郎さん(松王丸)はあまり大きさを感じなかった。段四郎さん(時平)も圧倒的な悪までには至らない。
本来的な意味では完璧までに至らないかもしれないが、2度泣けたら十分フルマーク。


2006年8月26日 歌舞伎座 第3部

8/26(土)、千穐楽の歌舞伎座へ。
「慶安太平記」は、橋之助さんの丸橋忠弥。酔態での出は力みがなくていい。花道七三でのセリフも響く。見せ場は立廻り。若くて身体が利くから派手な部分が映える。しかし、一つひとつの型が丁寧だ。相手が勝手に飛ぶのではなく、自然に崩れる仕組みがつかめているので、タイミングがいい。橋之助さんは型の意味を一番理解している役者ではないかと思う。感心した。染五郎さん(松平伊豆守)は上手からの出は平凡だが、幕切れの余韻は素晴らしい。
「近江のお兼」。福助さんとはどこかフィットしないと思ったら初演だった。力持ちの田舎娘が強く足踏みする点、立女形にはやや違和感が残る。姿勢も全般的に首が前に落ち気味なのが気がかり。しかし、立廻りはバッチリ。信之さん・橋吾さんの受けがピタリと決まる。
新作舞踊の「たのきゅう」がおもしろい。軽めのギャグ満載という点もあるが、ほのぼのとした民話をしっかり歌舞伎にしている。踊りもしっかり。ファンタジーだが現実味もあり、飽きない。音楽も楽しい。詞章が分かりやすく、変な緊張感がない。巳之助さんのドラムスのような団扇太鼓のような効果もいい。カーテンコールがあったら幻滅したろうが、しない判断は正しい。


2006年8月20日 歌舞伎座 第3部

8/20(日)、歌舞伎座第3部へ。
「南総里見八犬伝」。よくまとまった舞台で、難解な筋がわかりやすく収まっていた。時間を切り詰める苦労がよく分かる。
舞台を締めていたのは弥十郎さん(犬田小文吾)だ。本物の力士でないかと思わせる大きさ、声量が重厚感を与えている(いつしか濡髪長五郎をやったらどうだろう)。だんまりでも存在感が一番。信二郎さん(犬飼現八)にも印象。立廻りにキレがあった。久々にニンの役で小気味いい。三津五郎さん(網干左母二郎・犬山道節)の変わり身のおもしろさと六方の力強さ。亀蔵さんの代官は今ひとつフィットしていなかったが、馬加大記のいやらしさは健在。扇雀さんの立役(山下定包)は珍しいが、ナリはなかなか。しかし、立廻りになると不自然な身のこなし方が出る。おもしろいものだ。源左衛門さん(大塚蟇六)に元気がないような気がした。
大道具や立廻りもそうだが、下座音楽にも工夫が見られた。いろいろな挑戦があって、夏らしく爽やかに楽しめた。
 


2006年8月19日 歌舞伎座 第2部

8/19(土)は歌舞伎座第2部へ。納涼歌舞伎は恒例の3部制。
「吉原雀」は、45年ぶりというからほぼ新作。福助さん(おきち)が大車輪の活躍で、大いに笑える。出の印象は薄いが、全体で楽しませてくれる。ただ、妙に現代的なギャグには私は素直に笑えない。「えっ、えー」の連発に劇場は沸くが、段々入り込めなくなってくる。「早口=早飲み込み」というのも一概に言えないのでは?と感じた。三津五郎さん(三五郎)の武士に対する長セリフがあって、舞台が引き締まる。
珍しい橋之助さんの女形(おえん)は口調にやや違和感があったが、姿がパリッと映えていた。弥十郎さん(遠州屋半蔵)の存在感、染五郎さん(貝塚求女)の雰囲気のあるセリフが印象的。冒頭の吉原の風情がいい。小山三さん(おてう)、千弥さん(新造)はいつ見ても若い。
踊りは義太夫・清元・常磐津からひとつずつ。
「団子売」。舞台は大坂の天神祭で、関西由縁の役者だったが、雰囲気が江戸。
「玉屋」。染五郎さん奮闘。粋だが、江戸のしゃぼん玉売りの雰囲気まではもうひとつ。
「駕屋」。三津五郎さんの踊りは華がある。諸肌脱いだ刺青が印象。初舞台の小吉さん(犬)の片手片足立ちでの幕切れがかわいらしかった。


2006年7月29日 歌舞伎座 夜の部

7/29(土)は歌舞伎座夜の部へ。泉鏡花シリーズの後半。
「天守物語」。美しい玉三郎ワールド。玉三郎さん(富姫)は出の「似合うから」「ウソばっかり」だけで観客をつかんでしまう。不思議な引力。海老蔵さん(図書之助)との組み合わせが生み出す力もすごい。泉鏡花のある種イッちゃっている世界に説得力を持たせる役者はこの2人しかいない。「たった一度の恋だのに」の美しい響きとラストの余韻。
春猿さん(亀姫)も充実度が目を引く。生き生きとして顔も違って見える。門之助さん(舌長姥)のキワモノも堂に入るようになってきた。上村吉弥さん(薄)の状況説明の語りが明瞭。猿弥さん(近江之丞桃六)の声にエコーは不要。獅子の立廻りが歌舞伎らしくていい。
「山吹」は正直なところ参った。退屈で、暗い、長い。特に、腐った鯉を食べるシーンは気持ちが悪い。異形の世界を描くことはおもしろいと思うが、まだ練れていない感。歌六さん(辺栗藤次)、笑三郎さん(縫子)とも奮闘だが、少なくともこれは「歌舞伎」ではない。段治郎さん(島津正)の幕切れのセリフも妙に現実感が漂って興ざめ。しかし、各シーンの残像はしっかりある。泉鏡花に対する苦手意識は残るが、ある意味で作者の策略にハマっているのかもしれない。


2006年7月23日  松竹座昼の部

7/23(日)、大阪遠征。松竹座昼の部へ。坂田藤十郎襲名披露興行。
メインの「夏祭浪花鑑」は豪華な布陣。我當さん(釣船三婦)が丸本物らしいリズムを作る。前半はテンポがいい。仁左衛門さん(一寸徳兵衛)の出の形がいい。引き込まれるオーラがある。菊五郎さん(お梶)の女形は久しぶりの感。「こちの人が好きなのは(胸を指して)ここでござんす」の引っ込みがいい。坂田藤十郎さん(団七九郎兵衛)が月代を剃って颯爽と現れる姿は同一の人がやるだけに鮮やか。文楽にはない歌舞伎の味。幕切れの立廻りも上方らしくたっぷりだが、団七が庶民的な印象になる。段四郎さん(義平次)もどこか優しさがある。心底性悪のほうが団七が引き立つ。友右衛門さん(磯之丞)も悪くない。
「連獅子」はよくまとまっている。が、反面、強烈な印象もない。翫雀さんは後ジテ(親獅子)になって動きが生き生きとsていい。。壱太郎さん(仔獅子)も元気一杯で好感。間狂言はいつもの「宗論」でなく、愛之助さん(修験者)が滑稽な役に挑戦。懸命だが、まだカドが取れていない。これからだろう。
「信州川中島」は、竹三郎さん(越路)の老け役がいい。嫌味のあるセリフも品格を失っていない。秀太郎さん(お勝)も情感ある訴え方。しかし、進之助さん(直江山城守)は歩き方からしてどこか変。全体的にテンポがゆっくり。
「口上」では、雀右衛門さんの元気な姿が見られた。


2006年7月16日 歌舞伎座 昼の部

7/16(日)は歌舞伎座昼の部へ。今月は玉三郎座長で、すべて泉鏡花作品。
「夜叉ヶ池」は、猿之助一座が奮闘。春猿さん(百合・白雪)の堂々とした立ち方が映える。姿形からしても玉三郎さんの影響大だが、難しい鏡花の台本をよく読んで消化していることがうかがえる。百合・白雪の二役は不自然ではないが、明確に違いを出してもよかったか。上村吉弥さん(万年姥)のセリフに重みを感じる。ともすれば新派と変わりなくなってしまう舞台を引き締めている。右近さん(山沢学円)もやや単調だが力を見せている。段治郎さん(萩原晃)は以前ほど大きさを感じなくなった。薪車さん(穴隈鉱蔵)は憎らしさが出ていて良い。
「海神別荘」は、玉三郎さん(美女)の美しさが前面に出る。最後に悟ったように美が際立ってくるところがすごい。対する公子の気高さを出せるのは海老蔵さんのほかにいない。二人が並び立つ幕切れは比類なき図だ。序盤、猿弥さん(沖の僧都)が海底の国の状況をうまく説明している。ハープの生演奏も効おもしろい。
総じていい舞台なのは疑いないが、個人的には喝采できる種類ではない。新作を毛嫌いするつもりはないが、入り込めない。今回も泉鏡花への苦手意識は払拭するまでには至っていない。


2006年6月11日 歌舞伎座 夜の部

6/11(日)は歌舞伎座夜の部へ。
「身替座禅」。期待どおり楽しい。菊五郎さん(山蔭右京)はセリフと表情で笑わせる。仁左衛門さん(玉の井)の物言う目線がおもしろい。怖そうでいて「腹が立つ〜」では可愛らしくもある。出から美しい女の形になっている点もすごい。翫雀さん(太郎冠者)の滑稽味もまずまず。侍女二人を比べると梅枝さんより松也さんのほうに一日の長あり。
「暗闇の丑松」。序幕のテンポがどうも悪く、暗い。鐵之助さん(お熊)はいつものような味がない。丑松を説得する福助さん(お米)の説得力も今ひとつ。板橋宿での最期も思い入れが届かず、印象が薄い。幸四郎さん(丑松)は大詰の心情は理解できるが、そこに至る変遷が平坦。歌江さん(遣手おくの)の雰囲気、秀太郎さん(お今)の刺された最期の形などが光る。
「二人夕霧」。「吉田屋」のパロディだが、おかし味が足りない。梅玉さん(伊左衛門)はハマってもいいはずだが、どこか違う。和事に徹するならもっとベタベタしてもいい。東蔵さん(おきさ)の柔らかい踊りが印象的。魁春さん(先の夕霧)と時蔵さん(後の夕霧)の痴話喧嘩もおもしろい。葵太夫さんは普段よりフシを意識していた。
夜の部全体としては平凡な感じ。「身替座禅」があって、ようやく


2006年6月4日 歌舞伎座 昼の部

6/4(日)は歌舞伎座昼の部へ。先月に次いで自分のツボを押さえられる演目が掛かる。少々甘いと思うが、泣いた以上はフルマーク。
それは「荒川の佐吉」。仁左衛門さん(佐吉)には完全に心酔する。前半の冴えないながらも厚い人情が後にバッチリ効いてくる。立派な親分になってからの、育てた子への愛情を訴えるセリフには一言一言が胸に響く。そして、潔くスッと立っての引っ込み。涙をごまかすためにしばらくメガネを外せなかった。段四郎さん(成川郷右衛門)も実に立派。血の滴る刀をぬぐい、鞘に納める姿がいい。菊五郎さん(相模屋政五郎)も風格がある。染五郎さん(辰五郎)も世話物らしい軽い調子がうまい。時蔵さん(お新)も本心からの言葉ということがよく分かる。孝太郎さん(八重)の平凡、芦燕さん(仁兵衛)の格不足といった点は残るが、全体は補って余りある。
「藤戸」は、吉右衛門さんの新作。「宮島歌舞伎」の再演で松羽目物になっている。名高き武将の名声のために斬られた漁師が眼目。吉右衛門さんは前シテでその母、後シテでその霊を演じ分ける。「船弁慶」と似た点があるが、貧しい庶民の怨みも武将と同等の激しさがあるのが分かる。幕外は大薩摩ではなく、笛太鼓の引っ込みになるのがおもしろい(残念、3階からは引っ込む姿は見えないが)。梅玉さん(佐々木盛綱)はすっきり。
「角力場」。染五郎さんが素人相撲出の放駒長吉と“つっころばし”の山崎屋与五郎の二役。成長を感じる。和事のほうはもう少し突っ込んだ仕方もあるだろうが、味わい十分。幸四郎さん(濡髪長五郎)も大きさたっぷり。
「君が代松竹梅」は上方風味を期待したが、あっという間に幕。


2006年6月3日 国立劇場大劇場 歌舞伎鑑賞教室

6/3(金)、国立大劇場へ。ここ数年は主に高校生向けの「鑑賞教室」公演も観ることにしている。小ぶりだが良いメンバーが出演し、意外な一面を覗かせることがあって楽しい。
「国性爺合戦」。右之助さん(母・渚)が大奮闘。所々セリフに硬さは感じるが、将軍・甘輝に詰め寄るところは迫力がある。義理の娘に対する情、国と国との狭間での立場が伝わってきた。芝雀さん(錦祥女)には中国風の派手な衣裳がよく似合う。信二郎さん(甘輝)は全体的にやや小さい。が、幕切れの形はきれいだった。松緑さん(和藤内)も勢いがあっていい。が、近松物でしかも場面も中国で、強調するような江戸弁は似つかわしくない。
全体は分かりやすく出来ているが、立ち上がりの「獅子ヶ城楼門の場」はテンポがゆっくりすぎて入っていきにくい。「鑑賞教室」を意識すると却ってつまらなくなる。思い切ったチャレンジも交ぜてほしいところ。

※鑑賞教室は短い公演なので評価は略


2006年5月21日 新橋演舞場 夜の部

5/21(日)、新橋演舞場夜の部へ。
「石川五右衛門」。吉右衛門さんの演じ分けが光る。最初は呉羽中納言に化けた五右衛門。セリフはないのに細く切れ上がった眉が語っている。「石川五右衛門たァ、オレがことだ」と正体を明かすセリフがうまい。盗賊なのに爽やかさすらある。大詰の南禅寺山門。青の隈が入って悪党の表情。それでも力みはなくスケールが大きい。仮につづら抜けのケレンがなかったとしても魅力十分。染五郎さん(此下藤吉)も吉右衛門さんと四つに組んで負けていない。「猿じゃ猿じゃ」と明かすセリフは軽くても品格がある。成長を感じた。段四郎さん(父・次左衛門)のうまい導入に印象。桂三さん(呉羽中納言)もこの手の軽い役にこれからも挑戦してほしい。
「松竹梅湯島掛額」(お土砂)。1997年、吉右衛門さんの初演を観て以来、長い間心待ちにしていた。当時は吉右衛門という役者はこんなくだけたことも演じるのかという意外性も手伝って大笑いした。今回は少し冷静になった。吉右衛門さんは単に何でもできることをアピールしたいわけではない。単に笑わせるならもっとうまい人もいるだろう。あくまで「お土砂」を伝統的な歌舞伎として受け継いでいる。その証拠に筋がブレていない。「火の見櫓」での亀治郎さん(八百屋お七)の人形振りが生きている。役者一人ひとりにスポットが当たっている。単なる喜劇ではない深みを感じた。
「京鹿子娘道成寺」は異様に長く感じた。所化に子供を使っている影響もあるのだろうが、テンポがゆっくりすぎる。福助さん(白拍子花子)の見せ場のはずが、盛り上がらない。幕切れも唐突に蛇になってしまった感。長唄は良く、詞章も分かりやすいのだが、噛み合わなかった。


2006年5月20日  国立劇場大劇場 前進座公演

5/20(土)、国立大劇場へ。今月は前進座の創立75周年公演。
「謎帯一寸徳兵衛」は鶴屋南北作。「夏祭浪花鑑」の書替え狂言だがずいぶん趣向は違う。前進座らしさが出ていていい。
嵐圭史さん(大島団七)は悪さを際立たせる目が印象的。性根を見せるセリフも品格がある。本水を使った殺しの場面に引き込まれる。藤川矢之輔さん(三河屋義平次)も業の深さをよく表している。中村梅雀さん(吾妻屋徳兵衛)も捌き役を大きく演じていた。河原崎國太郎さんは娘お梶より分別ある女房お辰が似合う。嵐広也さん(釣船の三吉)はやや青い。津田恵一さん(こっぱの権助)がうまい、村田吉次郎(医者道庵)もいい味。幕切れもきれいで立派だった。
「魚屋宗五郎」は、座頭・中村梅之助さんが元気。人情厚い宗五郎が酔っていく心境がよく分かっておもしろかった。瀬川菊之丞さん(女房おはま)、山崎竜之介(父親太兵衛)も江戸の家族の雰囲気をよく表している。山崎杏香さん(おなぎ)が匂うような若さ、中村靖之介さん(三吉)の細かい仕事がいい。宗五郎が屋敷に向かう引っ込みにも余韻。
 


2006年5月14日 歌舞伎座夜の部

5/14(日)、歌舞伎座夜の部へ。非の打ち所がないというわけではないが、初めて観た人でも楽しめるつくりで(少々甘いが)フルマーク。
「傾城反魂香」。私情を交えすぎかもしれないが、この浄瑠璃を聞くと、いつも落涙しそうになる。自然に評価が甘くなる。今回の又平は三津五郎さん。やはり「かか、抜けた」に目頭が熱くなる。前半の吃りはオーバーにならず、訴訟のセリフも分かりやすく、リズムが出た。時蔵さん(おとく)は、さほどおしゃべりでないが、「おゝおはもじ」が可愛らしい。目立たないところの仕事もうまく、師匠の筆を借りる際、丁寧に礼を尽くす姿に性根が出ていた。彦三郎さん(土佐将監)の時代物らしい格、松緑さん(雅楽之助)の表情に印象。
「保名」は菊之助さんの雰囲気。顔は現代的だが、全体に古風さが漂う。出雲の阿国のような女と男が混じる原点を感じた。あまり気が狂っていない、上品な安倍保名。
「藤娘」。一目見て化粧声が出そうになった。「でっけぇ」。それでも海老蔵さんの目線、姿勢の魅力が削がれるわけではない。肩のまわりは少し硬い感じで、後半緩いリズムになると厳しそうだったが、女形の踊りの本質を垣間見たようで、非常におもしろかった。いつか玉三郎さんとの大きな「二人道成寺」を観たい。
「黒手組曲輪達引」は世話の「助六」。序幕の菊五郎さん(権九郎)に笑う。この手のものは当人が大好きでやっていることがわかる。しかし、二幕目からはガラリと助六に。その変わり身と爽やかなセリフはさすが。左團次さん(鳥居新左衛門)の出に雰囲気、朗々としたセリフもいい。亀蔵さん(朝顔仙平)も得意分野でイキイキ。橘太郎さん(白酒屋)が渋い。梅玉さん(紀伊国屋文左衛門)はどこか商人らしさに欠ける。雀右衛門さん(揚巻)に不思議なオーラを感じたが、やや小さいのが気になった。


2006年5月6日 新橋演舞場昼の部

5/6(土)は新橋演舞場昼の部へ。今月は吉右衛門さんの歌舞伎。
「寿式三番叟」という外題だが、染五郎さん・亀治郎さんの二人三番叟で充実。身体のキレがいい。表情がなく確かに人形なのだが、内に秘める力が伝わる。後半は単調になるところだが、踊りで魅せる。強い三番叟を久しぶりに観た。鳴物も充実。
「夏祭浪花鑑」。眼目の吉右衛門さん(団七)は「石切梶原」の罪人を思わせるムサ苦しい出。それでもタダモノではないセリフ術がすごい。伸びた月代・アゴヒゲを剃って颯爽の再出。幕切れも心情を巧みに表していてワクワクする。ビックリしたのは歌六さん(義平次)。編笠を深くかぶっているうちから性悪さを漂わせる。笠を脱いでからの嫌味な関西弁がますます憎たらしい。最近、老け役が実に合う。素晴らしい好演。段四郎さん(釣船三婦)はプロンプター付きだが、口跡がいいので特に気にならない。味を出している。吉之丞さん(おつぎ)は存在だけで時代と場を作ってしまう。脱帽。信二郎さん(一寸徳兵衛)も性根をつかんでいる。吉之助さん(磯之丞)の弱々しさもまずまず。福助さん(お辰)に期待したが、平凡。全体としては、勘三郎出演の「夏祭」に比べ粋という点では減じるが、筋がすっきりで分かりやすい。上方の雰囲気もあって良い。
「ひと夜」は変化球。でも、おもしろい。歌昇さん(田口義道)は奮闘だが、もう少しメリハリがあったほうが幕切れの余韻が効く。芝雀さん(おとよ)も軽い感じを出す工夫が分かる。全体として、ウケを狙いすぎると大正末の雰囲気が消えてしまう。下座の鈴虫もいつまでも鳴いていると耳障り。淡々と暗めにやったほうがおもしろかったのではないか?

 


2006年5月4日 歌舞伎座昼の部

5/4(祝)は歌舞伎座昼の部へ。
何といっても、團十郎さん復帰の「外郎売」。揚幕内から「小田原名物ー♪」と聞こえた瞬間、自分の頬が緩むのが分かった。文字どおり“待ってました!”。実のところは少々心配だったが、早口の長ゼリフは見事にこなす。外見はやや小さくなった感もあるが、力強い見得は健在。足の親指が上を向く形もそのまま。ホッと安堵の幕切れだった。
「権三と助十」は、江戸っ子気質を見せる芝居。長屋の夫婦・きょうだい喧嘩の裏にある人間の情にハッとする場面がある。菊五郎さん(権三)のたたずまい、三津五郎さん(助十)の気風、左團次さん(家主)の風情。中でも権十郎さん(助八)のセリフがいい。江戸の市井を感じさせる。時蔵さん(女房おかん)も世話の中に元遊女の匂いを漂わせる。團蔵さん(勘太郎)の性悪さもピタリ。松也さん(彦三郎)の大阪弁は難だが初々しさはいい。楽しめた。
「江戸の夕映」は幕切れの美しさ。海老蔵さん(本田小六)の横顔が実にきれいだ。幕ごとに変化する性格の描写も細かい。菊之助さん(おりき)もセリフで聞かせ、表情も訴えるものがある。松緑さん(堂前大吉)はどこか明治より新しい匂いがするが、全体を通してのセリフは悪くない。男女蔵さん(米つき男)が奮闘。訛りが強い端役への意気込みを感じた。團蔵さん(松平掃部)は得意とするところからズレるが、堅い役どころもフィットするようだと今後が楽しみ。前半の下座に品がないのが気懸かり。
「雷船頭」は松緑さんと尾上右近さんのサッパリとした夏らしい踊り。

 


2006年4月8日 歌舞伎座夜の部

4/8(土)は歌舞伎座夜の部へ。
「井伊大老」は、大胆なカットにもかかわらず感銘を受ける。吉右衛門さん(井伊直弼)のセリフ−−意味深い含み笑いから真情を吐露する変化に引き込まれた。ジワーッと温かいものがこみ上げてくる。大仰な表現だが、生きる勇気が湧いてきた。何ともいい余韻。魁春さん(お静の方)は、時折セリフに癖が出るが、なかなかの風格。富十郎さん(仙英禅師)の去り方に格好良さ。
ズラリと豪華な「口上」。襖の淡い色の桜と道成寺の鐘に六世歌右衛門の面影。
「時雨西行」は、短い踊り。坂田藤十郎さん(江口の君)の柔らかな仕種がきれい。だが、菩薩の姿には見えなかった。
「伊勢音頭恋寝刃」は、仁左衛門さん(福岡貢)の持ち味。残忍な結末なのに不思議とスッキリする。福助さん(万野)が特筆もの。下品な口調にならずにストレートな意地の悪さが自然に出る。地ではなくきちんと芝居になっている。東蔵さん(お鹿)の作りすぎない顔がリアルでいい。時蔵さん(お紺)の歩き方、立ち方に美しさ。歌女之丞さんにも見せ場がある。勘太郎さん(お岸)の女形に成長を感じた。新・松江さん(万次郎)は華やかさがもうひとつ。梅玉さん(喜助)もセリフがあまり粋ではない。見どころ満載。
 


2006年4月1日 歌舞伎座昼の部

4/1(土)は歌舞伎座昼の部へ。六世歌右衛門五年祭の初日。歌右衛門さんが亡くなってもう5年か。あの日は桜が咲く中で雪が降っていたな、と感慨。
「狐と笛吹き」は北條秀司作の新歌舞伎。幕開きから録音がスピーカーから流れる。このスタイルは何回観ても乗れない。平安時代が舞台なのに現代語のセリフというのも違和感がある。福助さん(ともね)の甘えるような口調にも距離を感じてしまう。
「高尾」は雀右衛門さんの舞踊。荻江の曲調が暗く、短いので盛り上がる前に幕になった感。が、余韻はいい。
「沓手鳥孤城落月」も新歌舞伎。芝翫さん(淀の方)奮闘。勘太郎さん(豊臣秀頼)のセリフもいい。国生さん(裸武者)の階段落ちも見事。吉之丞さん(正栄尼)の品格も立派。
「関八州繋馬」は近松の時代物。何だか異様にホッとした。新歌舞伎が続くと不思議と疲れる。葵太夫さんの竹本に心地よく響いた。
菊五郎さん(源頼信)の出が爽やか。前髪で古風なのに華やかだ。時蔵さん(伊予の内侍)も華がある。明るい桃色の衣裳にしっとりとした色気。玉太郎改め松江さん(源頼平)のスッキリした姿も美しい。魁春さんは可愛らしさが残る前半の如月姫は迫力不足だが、土蜘蛛の精になってからは意外に低い声と珍しい隈取の顔が新鮮。千筋の糸が大きく飛ばなかったのは初日のせいだろう。仁左衛門さん(将軍太郎良門)の悪の大きさ。吉右衛門さんにはもっと出てほしいところだが、さらりと劇中口上をさばく。

最後の狂言がなかったら大きなモヤモヤが残っていただろう。改めて私には生の三味線がないとダメなことを認識した。

 


2006年3月26日 歌舞伎座昼の部

3/26(日)は歌舞伎座昼の部へ。
「道明寺」の幕切れでしばらく立てなかった。仁左衛門さん(菅丞相=菅原道真)が太宰府に落ちていく姿に足がブルブル、膝がガタガタ。こんなことは初めてだ。
なんと高い精神性−−この芝居はもともと人形浄瑠璃のために書かれたものだが、人形ではここまでの貴さは出ないだろう。セリフもなく、ただ階段を下りて、花道を引っ込むだけの演技。それで菅丞相は確かに現人神だったろうと思わせる力はすごい。菅丞相は行ってしまった、帰ってこない、と思ったら深い溜め息が出た。丹田あたりに小さな火が灯ったような感覚。歌舞伎っていいな、と改めて感じた瞬間だった。

富十郎さん(判官代輝国)の引っ込みも余韻たっぷりでいい。約2時間、舞台転換も何もない芝居を持たせる芝翫さん(覚寿)の緊張感もすごい。段四郎さん(宿禰太郎)の底の浅い悪さ、歌六さん(宅内)のアクセント、市蔵さん(弥藤次)の軽さも舞台を引き立てている。
他の演目は問題がないわけではないが、「道明寺」が圧倒的だったのでフルマーク。
「吉野山」は詞章が明確でわかりやすい踊り。東蔵さん(逸見藤太)はこの手の笑わす役が常にうまい。
「吉例寿曽我」はがんどう返しの舞台転換が豪快。それだけに直後のだんまりに役者の力量が表れる。存在感を感じたのは我當さん(工藤祐経)、上村吉弥さん(喜瀬川亀鶴)。

 


2006年3月25日 シアター・コクーン南番

3/25(土)は渋谷・シアターコクーン夜の部へ。「南番」でオーソドックスなほうの「東海道四谷怪談」。
素直に楽しい。とかく難しくなりがちな四谷怪談を分かりやすくしたのが最大の功績だ。冒頭の浅草観音額堂の場がテンポよく描かれる。これまで観た中で人間関係が一番明確だった。この工夫は素晴らしい。
勘三郎さんは三役。中ではお岩が出色。変貌してお歯黒を付ける姿は不気味さ十分。「髪梳き」も、歌舞伎座との客層の違いからかわずかに笑い声はあれど本当に怖い。剥がれた生爪も我が身のことのように痛々しい。亀蔵さん(宅悦)が、怖いがゆえになお見たくなる人間の心境をよく表現していた。「提灯抜け」もビックリするが、これは深くは言わないでおこう。
弥十郎さん(直助)は深みが出てきてますます良い。当初は亀蔵さんと配役が逆かと思ったが、終わってみればこのほうが新しい。セリフに色気のある悪さがいい。「南番」では上演されない三角屋敷のお袖との関係を暗示させているところにも感心する。橋之助さん(民谷伊右衛門)はキレやすい悪さでなく、抑え気味なのがいい。小山三さん(宅悦女房)のセリフが通る。若さとうまさがある。笹野高志さんの女形との差異に力を改めて感じた。
本水をクライマックスの立廻りも楽しい。これでもか、と言わんばかりのケレンだ。その他にもいろいろ仕掛けがある。いかにもコクーン歌舞伎だ。
では、これだけ楽しんでなぜフルマークでないのか?
確かに楽しい。「四谷怪談」としては新しくないのだ。本水もいいが、最後まで残す必然性はない。スカッとして終わるが、余韻がない。ネタバレした後はもう一度観ようという気が起こらない。どちらがいいとは決めかねるが、その点で猿之助さんのケレンとは種類がちがう。自分なりにおもしろい感覚だった。

 


2006年3月21日 歌舞伎座夜の部

3/21(祝)は歌舞伎座夜の部へ。3狂言それぞれおもしろい。
「近頃河原の達引」。我當さん(与次郎)の描写が印象的だった。芸人の性で明るく猿廻しをしつつ、妹を死出の旅に出す苦悩。だんだん泣き声になっていくのが悲しい。なけなしの米やカネを持たせてやる姿も前半の米粒を拾う仕種が利いている。吉之丞さん(母ぎん)演じる老婆はいつもセリフに品格がある。終始うつむいたままの姿勢が悲しさを倍加させる。坂田藤十郎さん(伝兵衛)・秀太郎さん(お俊)が黒の着物に着替えると、ハッとさせる美しさがある。特に秀太郎さんの姿がいい。「堀川」の前に「四條河原」が付いて全体がわかりやすくなっている。が、「そりゃ聞こえませぬ伝兵衛様」をはじめ、キメのセリフが弱い。竹本に語らせるのは悪くないが、もう少し通る仕方はないものか。
「二人椀久」は、富十郎さんと菊之助さん。次第次第にウキウキしてくる。踊り地になると、観ているだけで身体が自然に踊る明るさがある。望月長左久さんの鼓が非常に響く。
「筆屋幸兵衛」。前半は単調で暗く、退屈になりかけた。が、幸四郎さん(幸兵衛)がショックで発狂してから俄然おもしろくなる。「出た出た、船幽霊が」と船弁慶を踊る段、「渡辺源氏綱、子を取る鬼を退いてくれる」と叫ぶところなどで微笑んでしまった。幸四郎さんが黙阿弥の散切物に合うとは意外な発見だった。

 


2006年3月13日 国立劇場大劇場第二部

3/13(月)、帰路、国立大劇場へ。平日の第二部は18:30PM開演なので何とか間に合う。が、客入りは悪く、6割程度か?少し寂しい。
「當世流小栗判官」の後半。第二部も口上から始まる。ここで発端の部分が再現されるので、第二部から行っても分かるように工夫されている。観客を意識する澤瀉屋らしいサービス。
笑三郎さん(お槙)が落ち着いたところを見せる。現在の猿之助一座が崩れないのは彼が老け女形をしっかりできるからだろう。その姿勢が好きだ。若い役も演りたいだろうが、こらえて磨きをかけてほしい。
春猿さん(お駒)はしなやかさを感じた。四角四面からずいぶん丸くなったと思ったらシャープさも出てきた。変化がおもしろい。笑野さん(茶屋娘)が地味なところをきれいにこなしている。笑也さん(照手姫)にややツヤがない気がした。もちろんきれいなのだが、光り方が弱い。大変な時期でお疲れかもしれないが、ここは一番踏ん張ってほしい。応援したい。
図らずも女形のコメントばかりになってしまったが、道行がきちんと締まるのは葵太夫さんの声。やはり存在感がある。
全体としてどこか物足りなさが残るが、決して不満はない。猿之助一座としてはスーパー歌舞伎より今月の国立で師匠の十八番に挑戦したのは良かったのではないか−−次につながる期待感がある。

 


2006年3月11日 国立劇場大劇場第一部

3/11(土)、国立大劇場へ。
毎年3月は若手中心の公演。今年はスーパー歌舞伎のない猿之助一座が「當世流小栗判官」。二部制でこの日は第一部だけを観る。
奮闘。純粋に猿之助一座だけでこなしている点はすごい。が、全体的に小さくまとまっていることも確か。
右近さんの小栗判官と八橋の橋蔵の二役はちょっと厳しい。過去にこういう配役はあったそうだが、右近さんはあまり笑わせる役の印象がない。ギャグ満載で会場を笑わせるが、本来は直球勝負が似合う。
猿弥さん(鬼瓦の胴八)はやはりうまい。単に笑わせるだけのセリフではない。延夫さん(四郎蔵)との調子もいい。が、横山大膳のほうは悪さにスケールの大きさが出ない。
段治郎さん(浪七)は出から雰囲気がある。セリフに色艶もにじみ出てひと回り大きくなった感。立廻りは少し長く思えたが、幕切れはダイナミックでいい。
笑也さん(照手姫)は美しいが印象が薄い。門之助さん(お藤)は淡白なところが出る。笑子さん(局藤浦)はやや若いが、つくりがいい。
第一部に出番のない笑三郎さんと春猿さんの口上が冒頭に付くが、本当に必要かどうかは疑問。あることによって冗長さが目立ってしまう。

 


2006年2月11日 歌舞伎座夜の部

2/11(土)は歌舞伎座夜の部へ。
「石切梶原」は単調。浅葱幕を切ってのスピード感に一瞬期待したが、すぐゆっくりに戻ってしまう。幸四郎さん(梶原景時)は格調の高さを意識しているのはわかるが、どうも口調が気になる。自然でない。愛之助さん(俣野)に赤ッ面は似合わない。梶原をやり込めようという厭らしさもない。歌六さん(六郎太夫)の老け役は悪くない。が、個人的にこの役は坂東吉弥さんの面影が脳裏から離れない。その領域までは達しない。
「二人道成寺」は玉三郎さんと菊之助さん。おもしろい演出がいくつもある。最初から長めに鐘を見つめたり、所化との立廻りがあったり、狐六方を思わせる振り、鈴太鼓を持ってのダイナミックな振りなど目新しかった。しかし、細かく2人を見れば、やはり玉三郎さんが上。「♪恋の手習い」で手拭いを持って出るところの風情は目を奪われる。指先まで行き届く神経の精度が段違い。一つひとつの形の決まり度合も差異がある。菊之助さんはきっと吸収することだろう。三味線だけでなく鼓方にも見せ場があったのも珍しい。
「小判一両」は初見。中盤までは凡庸な芝居だと思っていた。が、幕切れに逆転があった。遺書を読む吉右衛門さん(浅尾申三郎)のセリフがうまい。幕切れの菊五郎さん(安七)の「坊や、おめえの仇はオレ」にジーンとくる。立役はどうかと思っていた田之助さん(小森孫市)もしっかり。幕開き一瞬だが、吉之丞さん(町家女房)の風情がいい。

 


2006年2月5日 歌舞伎座昼の部

2/5(日)は歌舞伎座昼の部へ。
「春調娘七種」で開幕。しばらく観劇の間が空いたせいか三味線が妙に新鮮に聞こえる。特に何かある踊りでもないが、内容が濃く感じた。橋之助さん(曽我十郎)、芝雀さん(静御前)のセリ上がってくる時の形が美しい。
「一谷嫩軍記」は陣門・組打のみ。後の「熊谷陣屋」を知らない人には難しいだろう。それでも完結させようとすると味付けが濃くなる。幸四郎さん(熊谷直実)の表情からは敦盛でなく、我が子を討つことが明白。玉織姫の死に対しても号泣すると熊谷が小さくなってしまう。抑えたほうが悲しさは増すだろう。錦吾さん(平山武者所)は悪・いやらしさが弱い。
「浮塒ともどり」でゆったりと清元を聴く。四つ竹はあまり効果的でない。
眼目の「幡随長兵衛」は期待にたがわず良い。吉右衛門さん(幡随院長兵衛)のセリフにうっとり。あのセリフなら敵の屋敷に乗り込むのも誰も止められない。それほど説得力がある。長松を一瞬だけ抱き、サッと突き返し、思いを持った目線での引っ込みの格好良さ。それでキザにならない。さすが。
菊五郎さん(水野十郎左衛門)も品格を保ってある。段四郎さん(唐犬権兵衛)の情の厚さ、菊十郎さん(坂田金左衛門)の木っ端侍もいい。個人的には劇中劇の團蔵さん(坂田公平)がとても好きだ。荒事から素に返ってシオシオとなるところは何度観ても笑える。
 


2006年1月21日 歌舞伎座夜の部

1/21(土)は雪の降る中、歌舞伎座夜の部へ。結構な客入り。
「伽羅先代萩」は坂田藤十郎襲名公演とあって上方の型。いろいろと違うが、文楽で観ている分、違和感はない。竹本が葵太夫さんなので期待したが前半はやや単調。新・藤十郎さんの政岡は千松とともに長く歌う点が珍しい。千松が惨殺された瞬間の心情は直接的。栄御前が去った後の「でかしゃった」は感情モロでも悲しい。梅玉さん(八汐)はコワモテだが声が違う。内面から怖さが出ないとおもしろくない。秀太郎さん(栄御前)は雰囲気がある。吉右衛門さん(荒獅子男之助)は非常に力強い。これまで観た男之助で一番。幸四郎さん(仁木弾正)は変わった見得が入るが妖しさ十分。
「藤十郎の恋」は悪くない幕切れ。「大経師昔暦」など背景を知ったおかげで、以前に観た時よりずいぶん深く味わえた。扇雀さん(藤十郎)はやつれ悩んでいるのは分かるが、名優というまでの風格がない。時蔵さん(お梶)は内に秘めた意志がよく伝わる。
「島の千歳」「関三奴」は長唄の踊り。ともに里長さんの声が通る。湿気の影響か小鼓は響かない。伝左衛門さんが紐を締め直している姿は初めて見た。

 


2006年1月8日 浅草公会堂一部

浅草の第一部は「仮名手本忠臣蔵」五・六段目。第二部とは入れ替わりで、七之助さんが勘平−勘太郎さんがおかる。女形中心の七之助さんだが立ち上がりは悪くない。が、義母とのやりとりなどから甘さが露呈する。「色にふけったばっかりに」も随分軽い。勘太郎さんは大柄な女房だが、武家に使えた女中の仕種はしっかり。芝喜松さん(母おかや)、源左衛門さん(判人源六)がガッチリ固めているので舞台はブレず。特に芝喜松さんは第二部にもまして良い。亀治郎さんの立役(千崎弥五郎)に父・段四郎の影が見えた。
「鳴神」は獅童さんの見せ場だが、響かない。一見して鳴神上人に霊力がない。気を感じない。セリフは堅いものの、最初から俗っぽい。なので、堕落した後がおもしろくない。落差が小さいからだ。飛び六方の引っ込みにはキレがある。亀治郎さん(雲の絶間姫)の仕方話には惹き込む力がある。
印象的だったのは冒頭のあいさつ。この日は亀鶴さん。緊張からかタドタドしかったが、舞台から客席へ側宙(返り落ち)でひらりと舞い降りて一気に気持ちをつかんでしまった。きちんと研修を積んだ人はさすがだ。斧定九郎の「五十両♪」も悪さを含んでなかなかだった。
 


2006年1月8日 歌舞伎座昼の部

1/8(日)は歌舞伎座昼の部へ。鴈治郎改め坂田藤十郎襲名披露興行。
「曽根崎心中」は襲名ならではの上方色。ついつい文楽と比較してしまうが、義太夫を使わない導入部は興味深かった。新・藤十郎さん(お初)と翫雀さん(徳兵衛)の会話におもしろさがジワッとくる。何も悪くない徳兵衛が心中を決意する経緯と曽根崎の森は生の人間のリアルさみっちりだが、文楽のスピード感と余韻のほうが好きだ。我當さん(久右衛門)の情感も悪くない。橋之助さん(九平次)はニヒルだが底意地の悪さではない。しっくりこない。
「夕霧名残の正月」は、藤十郎さん(伊左衛門)が若い。本物の紙衣〔かみこ〕姿も美しい。雀右衛門さん(夕霧)と歩調を合わせて下りてくる様子が何とも言えずいい。秀太郎さん(おふさ)のセリフも印象的。新・山城屋の紋の肩衣に紫頭巾の常磐津一巴太夫さんの声が冴える。
実は心に残ったのは「奥州安達原」。福助さん(袖萩)の瞽女が哀しい。娘と2人雪の中で歌う姿は自分の足まで冷えてくる。情感たっぷり。吉之丞さん(浜夕)の優しい母もセリフが実にいい。吉右衛門さん(安倍貞任)の大きさ、抜刀の鮮やかさ。段四郎さん(平直方)の情の厚さ。多くのものが結実している。
「鶴寿千歳」は正月らしいほんわりとした筝曲。
「万才」は短いながらも竹本・鼓陣が充実。
 


2006年1月3日 国立劇場大劇場

1/3(火)は国立劇場へ。
おもしろい。初日とあって、ややたどたどしいところはあったが、フルマークに近い出来。個々より芝居全体が爽快。通し狂言らしさが出る。難解な筋かと思いきや、大工六三郎−おその・新藤徳次郎−おはん(ともに菊五郎さん−菊之助さん)の関係がシンクロしつつよく分かる。時代、世話の交じり方もいい。曽我物の眼目である「対面」がかすんでしまうほど。それでいて鶴屋南北らしいドロッとした殺しあり、菊五郎劇団の立廻りありと、いかにも正月歌舞伎満載。
芝雀さん(おきぬ)は鳥目の薄幸な女義太夫から華麗なさばき役まで見せる。亀蔵さん(堤幸左衛門)は端敵の実力発揮。彦三郎さん(福島屋清兵衛)も世話だがまずまず合っている。信二郎さん(山姥の権九郎)も存在感を示すが、悪になりきれない。團蔵さん(梶野長兵衛)は少し軽い。
正月初日の振舞い酒と終演後の飲みは割り引いても、いい芝居は間違いない。
 


2006年1月2日 浅草公会堂二部

1/2(月)は浅草公会堂へ。時間があったので浅草寺に初詣。雨天なのにかなりの人込み。サッと済ます。
公会堂も初日とあって大入り。浅草歌舞伎は若手中心だが、新たな発見がある。荒削りな中に原作の意図が見えたり、普段流して見ている点にハッとしたりするのでおもしろい。
「仮名手本忠臣蔵」は五段目と六段目。五段目はどこか軽い。勘太郎さん(早野勘平)は普通の狩人。獅童さん(斧定九郎)の「五十両」も工夫なく、凡庸。
しかし、六段目になると俄然変わってくる。クライマックスの腹切で勘太郎さんの「色にふけったばっかりに」が父・勘三郎の声そっくりに聞こえた。はかなさ悲しさがにじみ出る。七之助さん(おかる)も品と情が出る。ワキを固める人がいいのだろう。源左衛門さん(判人源六)がピタリ。女衒の雰囲気、啖呵の切れ。軽くならない。芝喜松さん(母おかや)も奮闘。時に若さが出るが、後向きで腰を抜かす様などいい。
「蜘蛛絲梓弦」は亀治郎さん中心の踊り。六変化にするなどオリジナリティもある。セリのない公会堂でも「四の切」的な出・引っ込みを駆使して飽きさせない。七之助さんの赤ッ面はニンでない。常磐津・長唄・大薩摩も楽しめる。後シテで女郎蜘蛛の正体を表してからも豪快で気持ちがいい。毛振りもあったりで、たっぷり歌舞伎の要素を味わえる。