ネパール旅行記1

喧騒のカトマンズ編

ネパール館] [旅行記2


ネパールの雰囲気を味わっていただくため、旅行中に書きためた日記を公開いたします。現地で感じたままを表現すべく、なるべく原文のまま時系列にならべます。ややくだけた表現になったり、冗長となったりするかもしれませんが、ご了承ください。テーマを絞った雑記は別途書くつもりです。


2000年12月10日(日) 東京→カトマンズ

 カトマンズ・トリブヴァン空港に着陸。3時間15分という半端な分だけ時計を遅らせる。現地時間は19時でとうに真っ暗。途中、ヒマラヤが見えるかも、と右側の座席を取っても無意味だった。日本時間では22時15分。朝4時起きの身にはこたえる。
 タラップでいきなり地面に降りてまずは第一歩。バスなどあるはずもなく、ひたすら歩く。VIPルームや銀行は改築中で、まるで廃墟のような国際空港。中はお香を焚いた匂いがする。そういえば飛行機に一歩踏み入れた時は香辛料の匂いがしたなぁ。
 すぐに突破できそうな木製のカウンターがイミグレーションだ。2列に並ばされているけれど3人の係員がゴチャゴチャに作業を始めるのであまり意味がない。顔写真が無かったりすればすぐ後回しで順番もゴチャゴチャ。大丈夫かいな?列の後ろのほうで疲れている人はイライラするだろうな?
 幸い私はかなり前のほうで、ビザの発給もすんなり。荷物も半分しか入っていないザック一つなので一番先に出ることになった。いるわいるわ、タクシーの客引きが。ここにはバスもなくタクシーを使うしかない。正規のものらしいカウンターでチケットを買っても、ムリヤリ荷物を持とうとしたり、怪しげな人が乗り込んできたりする。第一印象としては悪いよ、これじゃ。
 カトマンズ中心部に向かう道もすごいデコボコがあったりで、この先どうなるのか不安を感じる。結局、目星を付けていた宿とは異なるが、タメル地区の12米ドルと適当な宿に決める。疲れたので早く眠りたい。が、シャワーを浴びた後はけっこう寒いぞ。


2000年12月11日(月) カトマンズ

 鐘の音に目覚める。まだ5時。時差ボケか?それにしても、定期的な鐘が何ともやかましい。外を見ると、暗闇に動く人影−−無気味に思ったが、これは宿のそばの小さな寺院に祈りをささげる敬虔なヒンドゥー教のおじさん、おばさん方だった。祠(ほこら)を右回りに回る際、カランカランと鳴らす。日ごろ不信心な仏教徒としては「やかましい」などと思ってしまうが、これなら文句の言える問題ではない。それどころか、この寒い中で頭の下がる行いです。
 土地勘をつかもうとタメル周辺を歩く。が、カトマンズの道はややこしい。私は決して方向オンチではないのだが、グルグルとものすごい距離を歩いてしまった。まっすぐなはずの道が微妙に曲がっていたり、うねっていたりする。ネパール語の看板には心理的に圧迫されるし、たまにあるアルファベットの標識は向きもよくわからない。細い砂利道を疾走するタクシーやテンプー(小さいオート3輪)にも気を遣う。何しろタクシーはヒンドゥー教の神様である牛さんには決してぶつからないが、人間に対しては轢きかねない勢いですれすれを通過する(いや、サイドミラーくらいは平気でぶつける)。おまけに四六時中クラクションを鳴らし、ホコリを巻き上げている。これならモロッコのクネクネした旧市街のほうがよほどわかりやすい。宿への道もおぼつかない。結局、両替をしてミネラルウォーターを買っただけで午前中は終わってしまった。
 まともな朝飯を食べていないのでタメルをうろつく。様子がどうも変だ。ホテルの門の前にはガードマンとも警官とも見える人がたくさん立っているし、レストランも閉まっている。必死に探してようやくネパール料理にありつく。一息ついて聞いてみると、ストライキだという。これからどうなるんだ−−と不安にかられていた時に腕時計のバンドが切れた。普段身に付けないものをつけるとロクなことにならない。不吉な予感(だが、私の予感は当たらない)。なかなか料理が出ない、とイライラし始めたところにテーブルからこぼれんばかりの皿が並んだ。ご飯、ダル(豆)スープ、野菜カレーのスープ、鶏肉カレーのスープ、ちょっと酸っぱい野菜の漬物、ヨーグルト。コリャ食いきれんぞ、と最初は思ったが、バクバク食べる。うまい、うまい。これが、ネパール定食ともいえる“ダル・バート”(豆とご飯の意味)との最初の出会いだった。この時は勝手がわからず、一皿ごとスプーンですくって「上品に」食べていたが、スープはご飯にぶっかけグチャグチャまぜまぜするのがうまいのだ。いつしか不吉な予感などすっかり忘れていた。
 腹が充ちた後はダルバール広場周辺を散歩。クマリの館や旧王宮のあたりはいかにも観光地といった感じだが、南のほうへ行くと今にも崩れそうな寺院がいっぱいある。これらは決してお飾りではなく、生活と密着していることがわかる。きちんとお参りしているおじさんもいるし、そばではおばさんが平然と洗濯している。子供たちは裸足でバトミントンをして遊んでいる。それにしても、やたらと人が多い。何を売っているのか見当もつかない店も多い。この雑然としたところがカトマンズの魅力なのだろうな。
 インドラ・チョークからアサンへの騒然とした雑貨街で買い物。サンダル、靴下を買う。いきおい、床屋に入る。何を隠そう、私は異国の床屋に行くのが趣味なのである。もろに地元という所に入ったので、もちろん言葉は通じない。それでも失敗はないものだ。ネパールの床屋の不思議な点はマッサージ屋を兼ねているところ。髪を切ったり、モミアゲを剃ったりするので20分。頭や顔のマッサージで20分。効果のほどはよくわからないが充実している。これで50ルピー(75円)は安い。
 夜は、宿の兄さんと飯。ネワール(カトマンズで一番多い民族)のレストラン。ダル・スープ、乾いた雑穀、カレー・スープ、味付けした肉、ソーセージ、卵がかかっているお好み焼き感覚のピザ。ビールはデンマークのTuborg(ライセンス生産)。なかなかいける。ストは大丈夫のようなので今後の予定を考える。


2000年12月12日(火) カトマンズ

 また5時に目覚めるが、もう一度寝て7時半起床。昨日の歩きすぎがたたって右足が痛い。
 本来ならポカラへ行くつもりだったが、ストライキの影響もあって明日に延期(足も痛いし)。時間を節約するため飛行機で行くことにする。67米ドルと高いがバスより楽だろう。宿の人間に強く勧められ、ポカラでの3日間のトレッキングまで入れてしまった。「せっかくネパールまで来たんだから」とは日本でよく聞くセリフ。日本人向けの常套句なのだろう。何もせずダラダラしたい、という私の希望はなかなか理解してもらえない。トレッキング後の3日間はのんびりすることにして妥協。
 朝食後、郊外のボダナートとパシュパティナートに行くことにする。ネパール最大のストゥーパ(仏塔)があるボダナートへはテンプーで100ルピー。途中、ギアをローに入れてもまっすぐ登れない坂道を思い切り蛇行して行く。砂利道で腰を打つのと排気音とでひどく長く感じた。ボダナートではチベットの僧侶の姿が増え、喧騒のカトマンズとは違って落ち着いた感じ。昼間は巡礼の人も少なく、聖地といった雰囲気はない。バターランプの匂いが漂うのは朝夕のようだ。ボダナートでのお楽しみはまんまるのストゥーパの上でのお昼寝。不謹慎なようだが、ポカポカ陽気で何とも気持ちがいい。小一時間も寝ていたろうか、子供に起こされた。物売りかと思ったら単なる遊び相手。白人観光客はグループだし、彼らは案外忙しく移動するので絡みにくいのだろう。私はどうせヒマだ。まったく言葉が通じなくいうちに、額にティカ(幸運を呼ぶという赤い印)をつけられ、髪には花をかけられた。まがいなりにも仏教徒なんだけどな、私は。でも不思議と拭い取る気はおきない。子供たちがじゃれるのに飽きたところで昼食。3階にある「ストゥーパ・ビュー・レストラン」からの眺めはなかなか。巨大なキューリの輪切りなど、生野菜が出るが別に問題ない。量として軽めで、けっこう上品に収まった感じ。
 パシュパティナートへ移動。ここはシヴァ神をまつる寺院だが、たいていの人の興味は火葬場にある。死んだ人は衆人環視のもと灰になるまで焼かれ、煙とともに天に上り、聖なるバグマティ川に流される。そのインパクトは強烈だ−−と想像していたのだが、現地で見たショックは実のところさほどでもない。プロの火葬人によって物事は淡々と進んでいる。周りの家族も静かに見守っている。時間は悠々と流れている。タンパク質が燃える強烈な異臭もない。遺体はきれいにくるまれているし、火葬が進むと黒色になり、グロテスクではない。ただ、脂がジュウジュウ音を立てて焼けるのには深く印象づけられた。状況は違うが日本だって火葬じゃないか。方法は様々だが、人の一生が終わる時に分かり合える人たちに見送られるという儀式は高貴で穏やかなものに思えた。隣接する極貧の人々がいる病院や死を待つ人のホスピスを見ると、生きていることの悲しさ、はかなさすら感じた。見守る人がいなかった子供の遺体はきちんと天に届いたろうか。川をはさんで長時間眺めていると感傷的になる。が、流された灰の中から金歯を探す人を目にすると急速に現実に引き戻されるのである。
 夜は、カトマンズ・ゲストハウスにある「ラスクス」で高級ネパール料理。ビールはKing Fisher。ちょっと軽い感じ。ネパール国産とあるけれど本当かな。生野菜、煮込んだ豆、チャパティ(小さめのねっとりしたパン)が前菜。ロキシー(穀物から作った蒸留酒)も出る。ここのは米から作ったものだという。アルコール度数は高く、いわゆる乙種の焼酎。メインは、羊・鶏・ダルのスープと豆・ホウレンソウのような野菜2種の6皿にご飯、と食べきれない量。さらにヨーグルト、ミルクティー、カリントウ様のお菓子と充実。これで610ルピーならご満悦。


喧騒のカトマンズ編 おわり

つづく