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1 単元名 『カブトガニを守る』(光村図書4年上)

2 本時のねらい
 筆者が「カブトガニは〜めずらしい動物です」と述べている根拠を話し合うことを通し、第一文の論理構造を検討することができる。

3 本時の意図
情報社会である。情報はあふれている。あふれる情報の中から自分にとって必要な情報を的確に獲得する力を身に付けさせること、これは国語科が担っている課題である。もっとも身近で有効な情報獲得手段は文章を読むことだからである。
説明文を読む主な目的は、そこに書かれている情報を獲得するためである。しかし、すべての情報を鵜呑みにすることは危険である。すべての情報が正しく有益であるとは限らないからである。情報を的確に獲得するためには、次の二つが必要となる。
・ 書かれている情報を正確に読むこと
・ 書かれている情報の真偽を判断すること

文章に書かれている情報を正確に読み、その真偽を判断するには、文の論理構造を検討しなければならない。文章の根幹は文であり、思考の基本的単位もまた文だからである。文を検討することは筆者の論理を検討することなのである。
『カブトガニを守る』冒頭の一文は、その論理構造が曖昧である。筆者がカブトガニをめずらしいと言っている根拠が不明なのである。しかし、そのことに気付く学習者はそれほど多くないであろう。
そこで、本時では、筆者が「カブトガニは〜めずらしい動物です」と述べている根拠を問うことにより、第一文の論理構造を検討させたい。
一文を正確に読む学習が、論理的思考力を鍛え、情報を的確に獲得できる読み手を育てることにもなるのである。

4 展開

教師の働きかけと学習者の思考

留意点

教師の働きかけと学習者の思考
・ 教材文を配布
・ 起立して、各自音読
・ 指名なし音読

筆者が、カブトガニを「めずらしい動物です」と言ってるのはなぜですか。一文でノートに書いてください。

A 北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいないから。
B 二億年もの昔から、ほとんど形を変えることもなく生き続けてきた動物だから。
C 数が少ないから。

これは違うというものを一つだけ選んでノートに書いてください。

Cは違う。数が少ないからめずらしくなったのではなく、めずらしい動物であるカブトガニが少なくなってきたから問題になっているのだ。

Aでしょうか、Bでしょうか。討論してください。

Aを支持する学習者は、第一文の論理構造を根拠とするであろう。一方、Bを支持する学習者は、A派の言う論理構造を否定し、他の動物の例などを持ち出しながら、論を展開していくであろう。

・ 「カブトガニの海」(土屋圭示著 誠文堂新光社)から抜粋した文章提示し、「めずらしい」という語、及び「めずらしい」と同義で使われている語を指摘させる。

自分の考えをノートにまとめてください。

数名の学習者にまとめの文章を発表してもらう。
おそらく多くの学習者が、Bを支持する文章を書くであろう。

・ 題の横に○を十個かくこと、形式段落に番号を振ることを補足する。
・ 指名なし音読ができなかった学習者にも音読の機会を与える。
・ 「〜から」等、理由を述べる文末になっているかどうかを確認する。
・ 明らかに違うものから検討させ、意見を二つに絞り込む。
・ 人数分布を挙手により確認し、板書する。

・ 討論は、指名なしで行う。
・ 第一文の論理構造が問題となった場合は、第一文を分解提示し、前段が後段の理由になっているかを検討させる。
・ 教材文だけでは筆者の意図が明らかでないことを知らせ、同じ筆者が書いた他の文章を提示し、検討させる。

【資料】
1 宇佐美論文との出会い
1993年、初めて4年生を担任した。7年前のことである。
6月初旬、『カブトガニを守る』を授業した。当時、光村図書は、この文章を「段落の要点をとらえる」教材文として位置付けていた。前年、「向山式要約指導法」を知った私は、この手法を追試して要約指導を行った。
七つの形式段落の要約を終えたところで、この単元の学習は終了する予定であった。しかし、私にはこの教材文でどうしても気になる点が三つあった。次である。

1.  筆者は第一文で、「カブトガニは、北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいない、めずらしい動物です。」と述べているが、カブトガニがめずらしいのはその生息地域が理由なのだろうか。(子供たちは、「北アメリカ東海岸と、アジアの一部」と言われても、それがどこに位置し、どのくらいの広さをもっているのかは分からないだろう。)
カブトガニは「生きている化石」と呼ばれているはずだ。めずらしいという理由はむしろ、「生きている化石」と呼ばれている点にあるのではないか。

2.  第二段落に、「カブトガニは、実は、二億年もの昔から、ほとんど形を変えることもなく生き続けてきた動物です。」とある。子供たちは、一匹のカブトガニが二億年も生き続けると誤読しないだろうか。

3.  最終段落に、「カブトガニを守ることは、自然を守り、わたしたちのくらしを守ることにつながるのです。」とある。カブトガニを守ることが、どうして自然やわたしたちのくらしを守ることにつながるのか。説明が不十分である。論理が飛躍しているのではないか。多くの子供たちには理解できないであろう。

そんなとき、一本の論文に出会う。宇佐美寛氏の論文である。
驚いた。私が気になっていた三点について、氏が論述されていたからである。やや長くなるが、引用してみよう。

教材の第一文は次のとおりである。「カブトガニは、北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいない、めずらしい動物です。」問う。なぜ「めずらしい」のか。「北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいない」からか。しかし、「北アメリカの東海岸」とは、ずいぶん広い地域である。「アジアの一部」も(何しろアジアは広いので)相当広い地域であり得る。この程度に広く拡がっているのでは、「めずらしい」とは言えない。(これと対照的に、ニホンザルは日本にしかいないが、「めずらしい動物」とは言われていない。アメリカ野牛も同様である。)第二文を見る。「日本では、瀬戸内海一帯や九州の一部などに見られます。」この第二文は、第一文の一部分、つまり「アジアの一部」について、より細かく述べたものである。「瀬戸内海一帯」・・・・・・「一帯」とは、ずいぶん広い。(「一帯・・・・・・ある地域全体。そのあたり全部。」『大辞林』)「瀬戸内海は狭い海だ。」という反論があるかも知れない。言葉とは無関係な単なる物理的広狭などすじ違いである。「一帯」ととらえている話者の認識が「めずらしい」とは矛盾するのである。「一帯」という語を使って認識しているかぎり、認識内容としての<瀬戸内海>は広い。「瀬戸内海一帯」という広い地域に見られるカブトガニが、なぜ「めずらしい」のか。第一文を、符号を付けて分節した形で書き直す。「カブトガニは、A北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいない、Bめずらしい動物です。」このA部分とB部分との関係を問う。AがBの理由なのか。そうではないのかもしれない。少年時代に親しんだ昆虫図鑑には、よく次のような文があった。「琉球、台湾ニ産スル美麗種ナリ。」琉球、台湾にいるから美麗性(ママ)なのだという論理構造ではない。生息地域と美しさとは、独立した別個の特性なのである。第一文も、そのように解釈すべきなのだろうか。つまり、「めずらしい」理由は、地域限定以外なのだろうか。第一文をよく眺めていると、そうとも思えてくる。では、第四文が「めずらしい」理由を示しているのだろうか。つまり、「このカブトガニは、実は、二億年もの昔から、ほとんど形を変えることもなく、生き続けてきた」がゆえに「めずらしい」のだという意味なのだろうか。(しかし、ゴキブリ類は、もっと昔から、やはり形を変えずに生きている種なのである。なぜ、ゴキブリを一般に「めずらしい動物」と言わないのか。)私には、この「めずらしい」をどう考えるべきかについての意見があるが、ここではもう書かない。しかし、私は、右の「めずらしい」問題を気にして考えるような読解でなければ信用しない。
(中略 渋谷)
文章の根幹は段落などではない。文である。文が無ければ文章は出来ないが、段落など無くても論理的な文章は出来る。(実例を示すためにこの文章を無段落で書いた。)一文の構造と、一文から次の文への移行のしかたとの指導こそが、まず必要なのである。段落は副次的・補助的な仕組にすぎない。それを先行させるから文という基本的単位の分析を欠いた怠惰な頭になる。詳しく読めないから段落と要約に逃避することになる。

宇美佐寛「段落ではなく文を指導せよ」
『言語技術教育1 日本言語技術教育学会編 1993年 明治図書』所収


刺激的な論文であった。無段落で書かれた氏の論理的な文章を読んで、論理的な文章の根幹は文であることを確信した。何とか授業化したいと思った。しかし、この年はあまりにも時間がなさ過ぎた。
それでも1時間を使って、この問題を取り上げてみた。当時の学級通信で、私は次のような授業記録を報告している。

2 【実践1 1993年 学級通信『ENERGY』より】
(前略)
このように「事実」と「意見」とを見極めて文を読むことは、実は非常に大切なことです。「意見」は必ずしも正しいとは限らないからです。
そのことを体験させるために1段落目の文を使ってこんなことをやってみました。
「カブトガニは、北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいない、めずらしい動物です。」
ききました。
「めずらしい動物」とは「事実」ですか「意見」ですか。

一人を除き、全員が「事実」であると答えました。
そこで、尋ねます。
なぜ、カブトガニはめずらしいのですか。

 予想通り、「北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいないから。」という答えが返ってきました。
地図帳を開きなさい。世界地図が出ている最後のページを見ます。北アメリカの東海岸とはここのことです。アジアとはこの地域のことです。アジアの中には日本も入ります。

 子どもたちは日本と比べ、その範囲の広さに驚きます。(メルカトル図法の地図ですので面積は正確ではありませんが日本より広いことは確かです。)

ここにカブトガニは住んでいるのですね。北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいないカブトガニがめずらしいと思う人?

手を挙げた子どもは少数でした。残りの子どもは「これだけ広い地域に住んでいるのだから、めずらしくない」というわけです。
ここでもう一度尋ねました。

「めずらしい動物」とは「事実」ですか「意見」ですか。

 こんどは全員が「意見である」と答えました。
様々な情報があふれる現代社会で情報にだまされないために、「事実と意見」を見極め、「筆者の意見」を「実際の事実」と照応させて読むことは非常に重要なことだと考えています。

7年前のことゆえ、授業の細かいところまでは覚えていない。しかし、記録を見ると、「なぜ、カブトガニはめずらしいのですか」という発問に対し、「北アメリカの東海岸とアジアの一部にしか住んでいないから」という答えしか引き出していない。おそらくは一人一人にノートに書かせることはしなかったのであろう。ノートに書かせた上で、発言させれば答えは分裂し、討論に持ち込めたはずである。
・ この年の夏休みに行われた「教育課程講習会」で本実践を報告した(8ページ参照)。

昨年度、二度目の4年生を担任し、「カブトガニはめずらしいか」問題を再び授業した。かつての反省をもとに、個々の考えをノートに書かせたところ、子供たちの考えは分裂した。授業記録を以下に示す。

3 【実践2 1999年 学級通信『CHANGE』より】

筆者が、「カブトガニは〜めずらしい動物です」と言っているのはなぜか。

子供たちの考えは次の四つでした。

A 北アメリカの東海岸とアジアの一部にしか住んでいないから。
B 少なくなってきたから。
C 二億年もの昔から形を変えることもなく生き続けてきたから。
D いかめしいかぶとのような頭をしているから。

このうち、BとDは話し合いの結果、支持する子供が誰もいなくなりました。残りはAとCです。これはなかなか決着が付きませんでした。話し合いは打ち切り、自分の考えをノートに書かせることにしました。
さて、子供たちはどのような文章を書いたのか。子供たちが書いた文章をお読みください。

璃奈
私はAはちがうと思う。
なぜなら、一部にしか住んでいなくてもたくさんいればめずらしくはないからだ。
たとえばパンダは中国のおくちやネパールの高地の一部にしか住んでいないけど、たくさんいるのでめずらしくはないのと同じだ。
わたしはCだと思う。
なぜなら、化石とは「大昔の動物や植物が地中にうずもれてその形などが岩や土の中にのこったもの」であって、それが二億年もの昔から生き続けたというのはそれだけでめずらしいことだと思うからだ。

智美
正しい理由はCである。
Aはまちがっている。
なぜか。
他にもそういう動物はいる。たとえば、トキなんか中国と日本にしか住んでいない。トキの方が住んでいるのが少ないからトキの方が珍しい。
Cは正しい。
なぜなら、他の動物は進化して進化してこういう形になったけれど、カブトガニは二億年も昔から形を変えないで生きている。これはすごいからCだ。


正しい理由はCである。
Aはまちがっている。
なぜか。
動物は、その場所にあったところにしか住めないから、北アメリカの東海岸とアジアの一部に残ったんだと思う。
筆者はCをもとにして、問いかけの文にしている。「カブトガニを守る」では、ほとんどが問いかけの文の答えになっている。
だから、Cが正しい。

討論に持ち込んだところ、子供たちは他の動物の例をもちだして検討し始めた。しかし、「筆者がめずらしいと言っている理由」と「自分がめずらしいと思う理由」を混同している部分が見られ、また、第一文の論理構造は検討されていない。

今年度、三回目の4年生担任。三度目の実践である。

4 【実践3 2000年 学級通信『CANVAS』より】

筆者が、カブトガニをめずらしいと言っているのはなぜか。


上の問いに対する子供たちの考えは、次の二つに絞られていました。

A アメリカの東海岸とアジアの一部にしか住んでいないから。
B 二億年もの昔から、形を変えることもなく生き続けてきたから。

 実は、この問題は本文からだけでは判断することが困難です。筆者の書き方が曖昧だからです。
『カブトガニを守る』は次の一文で始まっています。
「カブトガニは、北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいない、めずらしい動物です。」
 上の文を分けて考えてみます。

カブトガニは、
ア 北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいない、
イ めずらしい動物です。

 アがイの理由となっているのか、そうではないのか。これが不明なのです。
 例えば、次の二つの文を比べてみます。

ソラシド集会は、
ア ○○小学校にしかない、
イ 特色ある集会です。

ソラシド集会は、
ア ○○小学校にしかない、
イ 楽しい集会です。

 前者はアがイの理由となっていますが、後者はそうではありません。どちらの文も成り立ち得るわけです。では、『カブトガニを守る』の第一文はどちらなのか。実に曖昧です。
 そこで、図書館に行って他の動物についても調べさせ、子供たち自身に判断させることにしました。図書館での調査後、子供たちが書いたのが次の文章です。

杏里沙
 Aはまちがいだ。
 なぜか。他の動物について考えてみよう。
 例えば、タヌキだ。タヌキは東アジアにしか住んでいない動物だ。しかし、タヌキはめずらしい動物ではない。
 だから、Aはカブトガニがめずらしい理由にはならない。

真太郎
 Aはまちがっている。
 なぜか。他の動物について考えてみよう。
 例えば、ライオンだ。ライオンはアジアとアフリカにしか住んでいない。しかし、ライオンはめずらしい動物ではない。
 例えば、オランウータンだ。オランウータンはボルネオ島にしか住んでいない。しかし、オランウータンはめずらしい動物ではない。
 だから、Aはカブトガニがめずらしい理由にはならない。

沙紀
 Bはまちがいだ。
 なぜか。他の動物について考えてみよう。
 ゴキブリは四億一千万年も昔から形を変えることなく生き続けてきた動物だ。しかしゴキブリはめずらしい動物ではない。
 だから、Bはカブトガニがめずらしい理由にはならない。

 情報社会です。インターネット上には、星の数ほどの情報があふれています。しかし、それらの情報は玉石混淆。信用に値する情報か否かの判断は受け手に委ねられているのです。すべての情報を鵜呑みにしていては危険です。情報の真偽を判断する力。これからを生きていく子供たちにとって必須です。

今年度もまた、子供たちは他の動物の例をもちだしてきた。そこで、今回は図書館で他の動物について調べる時間を1時間設定した。その上で次の枠組みを提示し、自分の考えを書かせてみたのである。
(  )はまちがいだ。
なぜか。他の動物について考えてみよう。
(                                )
だから、(  )はカブトガニがめずらしい理由にはならない。
 


5 筆者、土屋圭示氏に問う
筆者の土屋圭示氏が「カブトガニは〜めずらしい動物です」と述べている本当の理由は何なのか。教材文だけでは不明である。
氏の著書『カブトガニの海』(誠文堂新光社)に当たってみた。しかし、どうも釈然としない。そこで、筆者、土屋圭示氏に直接問い合わせてみた。

土屋 圭示 様

はじめまして、新潟で小学校教諭をしております渋谷徹と申します。突然、FAXを送信させていただく無礼をお許しください。
現在、4年生を担任しており、先日、土屋先生の書かれた『カブトガニを守る』(光村図書 国語4年上)の学習を終えたところです。その学習の中で、私は子供たちに次のような課題をなげかけました。
筆者がカブトガニをめずらしい動物だと言っているのはなぜですか。
子供たちの答えは、次の三つに分かれました。
@ 北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいないから。
A 二億年もの昔から、ほとんど形を変えることもなく生き続けてきたから。
B 数が少なくなったから。
上の三つの考えについて話し合ったところ、Bについては支持する子供がいなくなりましたが、@とAで論争となったのです。決着はつきませんでした。
子供たちは図書館でいろいろな動物についても調べ、次のような文章を書きました。

@はまちがっている。
なぜか。他の動物について考えてみよう。
例えば、ライオンだ。ライオンはアジアとアフリカにしか住んでいない。しかし、ライオンはめずらしい動物ではない。
例えば、オランウータンだ。オランウータンはボルネオ島にしか住んでいない。しかし、オランウータンはめずらしい動物ではない。
だから、@はカブトガニがめずらしい理由にはならない。
Aはまちがいだ。
なぜか。他の動物について考えてみよう。
ゴキブリは四億一千万年も昔から形を変えることなく生き続けてきた動物だ。しかしゴキブリはめずらしい動物ではない。
だから、Aはカブトガニがめずらしい理由にはならない。

土屋先生は、この文章の第一文で次のように書かれておられます。
『カブトガニは、北アメリカの東海岸と、アジアの一部にしか住んでいない、めずらしい動物です。』
この文は次のどちらの構造になっているのでしょうか。
朱鷺は、
ア 佐渡にしかいない、
イ 貴重な鳥です。

朱鷺は、
ア 佐渡にしかいない、
イ 美しい鳥です。

上の文は、アがイの理由になり得ますが、右の文ではアとイがそれぞれ独立しています。
土屋先生の意図をつかむため、ご著書『カブトガニの海』(誠文堂新光社)も読ませていただきました。私が読ませていただいた限り、この本の中に「めずらしい」という語を見付けることはできませんでした。しかし、次のような記述はありました。
カブトガニは、六億年も前に地球にあらわれたサンヨウチュウという生物が祖先です。このサンヨウチュウが進化してカブトガニになったのです。今から二億年も前のことで、もちろん人間はまだ生まれていません。それ以後二億年もの間、カブトガニは他の動物とはちがって、進化もわずかで現在にいたっているふしぎな動物です。それで、カブトガニは“生きた化石”とよばれているのです。(p.13)

カブトガニは二億年前の中生代から地球上に生き続けている最古の動物で、“生きた化石”とよばれ、学問的にも貴重な動物です。
現在世界では、二地域に四種類(北アメリカ東海岸=一種類、アジア大陸東南沿岸三種類)しか生存していません。瀬戸内海の中でも、笠岡湾にもっとも繁殖しているので、これを保護するために昭和三年に、“天然記念物かぶとがに繁殖地”に指定され、笠岡市は世界的に知られるようになりました。(p.36)

カブトガニの研究家であり、国立遺伝学研究所長の森脇大五郎先生は、つぎのようにいっておられます。
「なんといっても、現在のカブトガニとほとんど同じと思われるものが中生代の初期にすんでいたということ、すなわち、その動物が二億年にもわたって進化からとりのこされ、“前世紀の遺物”とか“生きた化石”とかいわれる状態にあって、『変わらなかった変わりもの』というところに、学術上貴重なものとして大切にされる理由がある」(雑誌「遺伝」昭和四十七年一月号)。(p.51)

カブトガニを保護しようという運動には、それなりの意味があります。カブトガニは、“生きた化石”として学術上貴重な動物であるということ、そして人類に貢献するカブトガニをみんなで大事にしたいという願いもこめられているのです。(p.101)

なぜカブトガニは大切な動物なのでしょうか。いまからおよそ四億年前の古生代に栄えたサンヨウチュウから進化して、カブトガニが二億年前に出現して今日にいたったことは、前に何回も述べました。
だからカブトガニは、地球上の生物を代表し、“生きた化石”とよばれているように、地球の年輪を知らせてくれる唯一の生物です。
また、サソリとも、クモ、エビ・カニ類ともよくにていますが、動物の分類学上、尾剣類として独立した貴重な存在なのです。このような点から、カブトガニの重要性がわかると思います。(p.200)

上の記述を読むと、土屋先生が、カブトガニをめずらしいと言っておられる理由はAであると考えられます。
しかし、先生の勤務しておられた「カブトガニ博物館」のホームページを拝見いたしますと、次のような記述があり、また分からなくなってしまいました。

世界4種のカブトガニの分布を地図で示してみると、アメリカカブトガニのみ北アメリカの東海岸一帯に生息し、残りの3種については、アジアの東南海域に分布しています。 このように1つの動物群が、遠く離れた地域に分かれて分布していることを不連続分布といいます。特にカブトガニ類のように、地球上の2つの地域に分かれてしまった例は、大変珍しいとされています。

先生が『カブトガニを守る』の中で、カブトガニをめずらしいと述べられている理由についてお聞かせいただければ幸いです。
突然、長文FAXを送らせていただく無礼を重ね重ねお詫び申し上げますと共に、先生の益々の御活躍をお祈り申し上げます。

翌日、早速土屋氏から返信が届いた。次である。
前略、お便りうれしく拝見いたしました。早速お返事いたします。
「カブトガニを守る」という短い文章の中で、「カブトガニがめずらしい動物だ」と言い尽すことは到底できないと思います。
「カブトガニがめずらしい動物だ」との疑問解決に拙著「カブトガニの海」(誠文堂新光社)や、森脇大五郎先生の論文の1節などからも追求くださり、恐縮いたしております。拙著「瀬戸内のカブトガニ」(学習研究社)もお読みくだされば幸いです。なお「カブトガニの不思議」関口晃一著(岩波新書)もご一読を。
長い年月カブトガニとかかわって参りましたしょうせいにとりまして、このカブトガニほど不思議な動物はいないのではないかと思っています。その2,3を挙げてみましょう。
(後略)

氏は言う。
「カブトガニを守る」という短い文章の中で、「カブトガニがめずらしい動物だ」と言い尽すことは到底できないと思います。

氏は、言い尽くせないほどの根拠を背景に「カブトガニは〜めずらしい動物です」と書いていたのである。しかし、教材文中から学習者が(指導者も)それを理解するのは困難である。
しかも、氏は著書『カブトガニの海』の中で「めずらしい」という語を使っていない。使っているのは「貴重」「不思議」「生きた化石」「大切」といった語である。
氏は『カブトガニを守る』の中でも「めずらしい」という語を使うべきではなかったのである。氏が「めずらしい」と認識する根拠を示し得ていないからである。

宇佐美氏は書いた。

私には、この「めずらしい」をどう考えるべきかについての意見があるが、ここではもう書かない。しかし、私は、右の「めずらしい」問題を気にして考えるような読解でなければ信用しない。


「めずらしい」問題を考えることは、一文の論理構造を検討することである。一文の論理構造を検討することなしに、論理的思考を鍛えることはできない。思考の基本的単位は文だからである。

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