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コミュニケーション能力の育成は「対話」から

1 「以心伝心」から「以唇伝心」へ
 情報化、国際化といわれる現代社会。「言わなくとも分かるだろう」というような日本の伝統的な考え方は通用しなくなってきている。コミュニケーションの在り方が変わろうとしている。「言わなければ分からない」社会になってきているのである。
 村松賢一氏(元NHKアナウンサー、現在お茶の水大学助教授)は言う。

このような認識が明らかにする社会的、あるいは教育的な課題は、言うまでもなく言語中心のコミュニケーション能力の育成である。自分とは異質な他者と話し合いによって相互理解を深め、ディスカッションにより問題を解決する能力である。単純な発信能力ではない。単なる論理的表現力ではない。これからの共生の時代に必要なのは、双方向型の話し合い能力である。一方通行の主張ではない。論破ではない。お互いに知恵を出し合う対話能力である。日本人の伝統である相手への思いやりを保ちながら、自分の意見をはっきり表明し、その上で、一致点を粘り強く追求していくコミュニケーション能力の習得こそ、二十一世紀を生きる日本人全体の課題である。
『いま求められるコミュニケーション能力』(P.25)明治図書

 
 「以心伝心」から「以唇伝心」へ。コミュニケーション能力の育成は国語か教育が担うべき重要課題である。

2 まずは「対話」から
 学習指導要領の領域構成が変わり「話すこと・聞くこと」という音声言語が独立した領域として設定される。
 「スピーチ(独話)」「インタビュー」「話し合い」「ディベート」「討論」・・・。音声言語の指導形態は様々である。そんな中で最も基本となるのは「対話」、それも1対1での対話であろう。
「話し合い」「ディベート」「討論」は多人数でのコミュニケーションであり、「スピーチ」もまた多数の聞き手を想定したものである。最初から多人数でのコミュニケーションは難しい。コミュニケーションの基本単位はやはり1対1での対話である。
 数あるコミュニケーション形態の中でも「対話」は子供たちにとって最も身近な形態である。わざわざ学習活動として設定しなくとも、日常生活の中で、子供たちはさまざまな対話を経験している。
 しかし、その中身は単語の羅列だけであったり、単なるおしゃべりであったりする。しかもあっという間の短時間に終わってしまうことが多い。子供たちは、よりよい対話とは何かなどと考えたこともないに違いないし、どうすればよりよい対話ができるようになるのかについても分からないはずである。
 一つの話題で一定時間楽しく対話する力
 こんな力を子供たちに身に付けさせたい。

3 実践・対話能力を育てる4つのステップ
 対象学年は小学校3年生である。
 二単元の実践を通して、次の4つのステップを踏んで実践した。

^ ゲームを通して、対話する楽しさを味わわせる。
_ 一つの話題を設定し、話題からそれずに対話ができるようにする。
` 相手の話を肯定的に受け止めながら対話ができるようにする。
a 分からない点を質問しながら対話ができるようにする。

^ ゲームを通して、対話する楽しさを味わわせる。
 3年生には珍しく非常におとなしい学級で、「話すこと」をはじめ、自己表現することを苦手とする子供が多かった。このような子供たちに、まずは「対話の楽しさ」を味わわせたい。そこで「長く楽しく対話する」ことをねらいに、ゲームを導入した。設定した単元は『「町の会話」対話ゲームを楽しもう』である。
学級通信『CHANCE NO.57,58』参照
_ 一つの話題を設定し、話題からそれずに対話ができるようにする。
 単元『「町の会話」対話ゲームを楽しもう』で行った対話はあくまでもゲームである。子供たちは、絵の中の人物になりきって実に楽しそうに対話ゲームに取り組んでいたが、特定の話題で対話していたわけではない。話題は次々と移り変わっていた。
そこで、次単元『こんな出店はどうかな』では、児童会行事「栄祭りの出店」という話題を設定し、その話題からそれずに対話できることをねらった。単元の指導計画は次の通りである。

学 習 活 動

コミュニケーション能力

(2)
・友達と1対1の対話形態で『栄祭りの出店』に関するアイディアを出し合う。
・対話から得られたアイディアをもとに,個々が出店の構想を立てる。
・遠慮せず,自分の思いや考えを積極的に表現する。
・相手の話を否定せず,肯定的に受け止める。

(1)
・1対1の対話形態で,お互いのアイディアを紹介し合う。(本時) ・肯いたり,相槌を打ったりしながら聞く。
・不明な点を質問しながら聞く。
・質問に正対して答える。

(3)
・班内で話し合い,お互いのアイディアのよさを生かしながら企画案を練る。
・各班の代表者が自班の企画案を発表し,全体で出店の内容を検討する。
・役割分担などを話し合い,細案を練る。

※3次は学級活動として扱う。

B 相手の話を肯定的に受け止めながら対話ができるようにする。
 単元『こんな出店はどうかな』の第1時で1対1のブレーンストーミングを行った。ここで子供たちに指導したのは次の2点である。
・どんなつまらないと思うことでも言ってみる。
・友達が言ったことに対し、否定的なことは絶対に言わない。
この点については第3時でも再度指導した。
実際に対話を始めると、私は何の指示もしていないにもかかわらず、子供たちは自主的にメモ用紙を取り出し、そこに自分のアイディアを図示して説明したり、相手のアイディアをメモしたりしていた。
C 分からない点を質問しながら対話ができるようにする。
コミュニケーション過程にあっては、一見話し手が主導権を握っていて、聞き手は受け身の存在だとみられがちだが、そうではなく、聞き手こそがコミュニケーションの起点だということだ。
(上掲書P.39)

 話し手の話は聞き手によって変わってくる。そういった意味で、対話の起点は聞き手である。対話の善し悪しは聞き手によって決まると言っても過言ではない。優れた聞き手は話し手の話をうまく引き出すことができるからである。
 話を引き出すための最も基本的な方法は質問である。肯定的な応答をしたり、相手の話に相槌を打ったりしながら聞くだけでなく、質問をすることによって対話はより発展していくこととなる。
 第3時では聞き手に焦点を当てた2つの対話モデルを比較検討させ、対話における質問の大切さに気付かせてから実際の対話を行った。
(学習指導案及び学級通信『CHANCE NO.60,61』参照

4 成果と課題
^ 対話学習の導入にゲームをとり入れたことにより、子供たちに「対話の学習は楽しい」と感じさせることができた。また、一度にレベルアップを望むのではなく、少しずつステップを踏んだことで「楽しい」「対話したい」という子供たちの意欲を次単元まで継続させることができた。
_ 「栄祭りの出店」という子供たちにとって身近な話題を設定することにより、子供たちは必要感をもって対話に臨むことができた。
` 実際の対話前に、聞き手に焦点を当てた2つの対話モデルを比較検討させることにより、「肯定的な応答をする」「疑問な点や不明な点は質問する」というポイントを意識づけることができた。
a 本実践では「話し手」の指導をほとんど行わなかった。そのため、子供たちの対話のほとんどは「聞き手主導」で進められていた。当然のことながら、対話では「話し手」もまた重要な位置を占める。「話し手の指導の在り方」については今後の課題としたい。