NO.58[2001/8/27]

松沢先生からの返信

前号で、私の質問を公開した。以下、松沢先生からの返信である。
前号でも書いたように、あくまでも私信としてお読みいただきたい。


渋谷 徹 先生

 関東甲信越英語教育学会及び市センター研修会では大変お疲れ様でした。

 中学校ではネイティブ及びお隣りの韓国の人々のようなノン・ネイティブに通じる英会話能力を育てようと努力しています。筆記中心の高校入試など様々な制約があり,実際のところはうまく進んでいません。渋谷先生が懐疑的になられるのは理解できます。
 新しい学習指導要領により,来年度から中学校は必修週3時間プラス選択週1〜2時間ほどを3年間やることになります。この学習指導要領は中学校ではリスニングとスピーキングを特にやるようにと強調しています。このような力入れは戦後初めてのことです。
 現在の大学の教員養成課程では(質問に有りましたが)オールイングリッシュで授業ができ,ネイティブやノン・ネイティブに通じる英会話能力を育てることができる英語教師の養成に取り組んでいます。内外の期待がそう変化してきたからです。
 しかしながらひとたび「現場」へ出ると,既に申しました入試などの制約のためなかなかネイティブに通じる英会話能力を中学生につけられないでいるのが現状です。
 私自身は評価が変われば,「必修週3時間プラス選択週1〜2時間ほどを3年間やる」頻度と量でも,訓練を受けた日本人英語教員が担当すれば,かなりの「ネイティブに通じる英会話能力」をつけさせる英語教育が実現できると確信しています。これは香港で実際に生じたことですが,高校入試に英語の面接試験を導入したことにより,香港の中学校の授業の仕方が激変し,「ネイティブに通じる英会話能力」育成重視に変わり,実際に生徒に聞く・話すの力がつくようになったそうです。
 私は日本の学校英語教育もこのような方向に変化することを望んでいます。小学校英語教育については5年生と6年生が教科として週3時間ほど学習し,「英語科教育法」の訓練を受けた小学校の先生方から指導していただくと良いのではないかと考えています。
 このためには渋谷先生のような先生方から,リカレント教育として一定期間「英語科教育法」や英語の発話能力訓練等のコースを受講していただき,自信をもって小学校英語教育にあたっていただくシステムが必要と考えています。実際,お隣りの韓国はそのように動いています。
 現状では(専門的な訓練を受けていない)小学校の先生からは英語を教えていただかないほうが良いのではないか,という私の考えに渋谷先生が先生が反対されるのはごもっともなことです。渋谷先生ご指摘の教科の指導のことだけでなく,小学校のサッカーやミニバスなどのサークル活動の指導者についても同様ですね。この問題は大変難しく,私自身もっとよく考える必要があると思います。
 以下に附属小の山田先生からの質問に答えたものを再掲します。こうした知識や技能をもった日本人教師から教えていただくのが小学生にとって望ましいのではないかと考えて,上の発言をしたことを理解していただきたいからです。


(山田先生の質問 渋谷注)
もう一つ,先生の講義を聞いていて発音指導の大切さを痛感しました。そこで,ALTの力を借りて少しでも発音指導を行おうと考えています。どの音から初めて(例えばLとRとか,SとTとTHとか),最低どの程度の音を指導するべきなのかということが分かりません。何かよい資料がありましたら紹介していただけると幸いです。もちろん時間も限られており,昨日の話の通り,私自身発音の素人なので何もしない方がましなのかもしれません。フォニックスは2学期から試験的に私の学級で始めようと考えていて,いま教材を求めているところです。

(松沢先生の山田先生への返信 渋谷注)
 私の研究室に仲田律子,他(2000)『Let's Go: Second Edition』(Oxford University Press) の教科書,ワークブック,指導書,CDが1から6まで揃っています(6の指導書は未刊)。このうちの1の指導書には「自分の言っていることを人に理解してもらうには,単語や文をはっきりと発音する必要があります。」としながらも,「Let's Go では発音練習にはそれほど重点を置いていません。特に幼い子供の場合は,入門期に1つ1つの単語やフレーズの正確な発音を過度に強調しない方が望ましいからです。発音の正確さを気にしすぎると,生徒はフラストレーションを感じ,自信をなくし,しいては英語そのものに対する興味まで失ってしまうという結果にもなりかねません。」とあります。小学生に対しては中学校1年生に発音指導するよりも難しいようです。
 この指導書にはたまに,「発音に関するアドバイス」というコラムがあります。例えば「英語の r の音は発音するのが難しいかもしれません。先生が Rrr. Red. Red. と発音する時に,先生の唇の形に注目させます。キスをするように唇を前に突き出して,それから口を少し開き,ライオンのように rrrr という音を出すのだと生徒に教えるとよいでしょう。生徒は Rrrr. Red. Red. と声を合わせてリピートします。生徒が知っている r で始まる言葉を使って同じことを繰り返します。」といった具合です。
 大変良いアドバイスだと思います。このコラムをひろい集めると山田先生の求めていることが見えてくるかもしれません。この指導書やCD等は私が校費で購入したもので,お貸しできます。
 他に,附属新潟中の英語教員にアドバイスを求めるといろいろと教えてくれるはずです。


 学会の残務処理に追われて,渋谷先生に返事を差し上げるのが遅くなりましたことをお詫びいたします。
 ご質問にきちんと返答ができずに申し訳ございません。末筆ながら,先生のますますのご活躍をお祈りしております。

松沢 伸二


松沢先生は次のように書いた。

 小学校英語教育については5年生と6年生が教科として週3時間ほど学習し,「英語科教育法」の訓練を受けた小学校の先生方から指導していただくと良いのではないかと考えています。
 このためには渋谷先生のような先生方から,リカレント教育として一定期間「英語科教育法」や英語の発話能力訓練等のコースを受講していただき,自信をもって小学校英語教育にあたっていただくシステムが必要と考えています。実際,お隣りの韓国はそのように動いています。

私はこの意見に賛成である。
ただし、私が「自信をもって小学校英語教育にあたって」いくことができる程度の発話能力を身に付けるのは並大抵のことではないだろう。「一定期間」とはどの程度あればいいのか、そして訓練内容は具体的にどのようなものになるのかをご提案いただけたらと思う。

以上、松沢先生の了承を得て、私信を公開させていただいた。
ご多忙の中、一実践者である私の質問に丁寧に答えていただき、また公開を快諾してくださった松沢先生に心から感謝申し上げたい。
私は研究者と実践者との交流がもっともっと活発になされるようになることを望んでいる。自己満足の「実践埋没型教師」になりたくないからである。

これを読まれているみなさんはどのようなご意見、ご感想をもたれただろうか。メールでお聞かせいただければ幸いである。