NO.59[2001/9/5]

算数夏季セミナー

2学期に入って数日が経つ。しかし、夏休み中のことについてもう少し書いておきたい。8月20日に行われた、とある算数研究会の夏季セミナーについてである。
私はこのセミナーにパネラーとして参加させてもらった。算数については門外漢である。そんな私がなぜ、パネラーなどに呼ばれたのか。聞いてみると、算数以外の教科を研究教科としている教師から意見が欲しいのだということであった。

この研究会の研究テーマは次である。

子供の数学する力を育てる算数指導
〜基礎・基本を育成する魅力ある算数的活動の工夫〜

そして、夏季セミナーのテーマはこれである。

基礎・基本を伸ばす算数的活動の在り方

私はこの研究テーマ及びセミナーのテーマを読んだとき、ある種の違和感を覚えた(それが何なのかについてはあとで書く)。

当日は、このテーマの下で行われた二つの授業実践が発表された。両実践とも同じ単元の第1時である。単元は3年生「あまりのあるわり算」。同じ単元の同じ字間を授業した二つの実践を比較検討しながら、研究テーマに迫っていこうという趣向である。なかなかおもしろい。
仮に一方を実践A、もう一方を実践Bとしておく。
研究会のプレゼンテーションでは、この二つの実践の対比表も示されたのだが、ここでは私の目から見た二実践の違いを挙げてみることにしよう。

実践A 実践B
  • 「26÷6はできるか」が学習課題
  • 教科書は使わない
  • 子供たちは自分の考えを画用紙にかく
  • 考える問題は学習課題で示された1問のみで習熟問題はなし
  • 「10÷4はできるか」が学習課題
  • 教科書は使わない
  • 子供たちは自分の考えをノートにかく
  • 学習課題の他に4題の習熟問題あり

さて、パネルディスカッションでは、まず4人のパネラーが5分間ずつ問題提起を行う。そこで、私はおよそ次のようなことを述べた。


私は国語を研究教科にしております。そのような立場から見ますと、算数は指導内容やその系統性がはっきりして大変うらやましい。授業を行うことによって子供たちに身に付けさせるべき学力が明確です。その点、国語科は曖昧でして、授業によって子供たちにどのような学力が身に付いたのかがなかなか説明できない。そんな授業が多いのです。そうならない国語の授業を目指して修業を積んでいるところであります。
ここ1,2年、「総合的な学習の時間」がクローズアップされておりまして、「総合」を校内研究のテーマにしている学校が大変多いのではないかと思います。しかし、来年度からは振り子が大きく振れるのではないかと私は考えております。国語及び算数を中心とした「基礎学力形成」の方向にであります。ですから、みなさんが研究テーマの副題に「基礎・基本」を掲げていらっしゃることに強く賛同いたします。
しかしです。私はこの研究テーマに違和感を覚えるのです。どこに違和感を覚えるのかともうしますと「育成」という言葉にです。果たして「基礎・基本」は「育成」するべきものなのでしょうか。「伸ばす」ものなのでしょうか。
ここら辺に違和感を覚えまして、「教育課程審議会答申」「学習指導要領」「解説書」の三つを読み直してみました。この三つの中で「基礎・基本」の後に続く言葉として使われておりますのは「育成」や「伸ばす」ではありません。「身に付ける」「習得」「徹底」という言葉であります。
なぜ、みなさんが「育成」「伸ばす」という言葉を使っていらっしゃるのか。研究計画に書かれた「基礎・基本」のとらえを読みまして分かりました。ここでは、「基礎・基本」のとらえとして次の三つが挙げられております。

・知識・技能
・思考力
・表現力

言葉の定義の問題ですから、「基礎・基本」をどう定義するべきかについての議論は不毛です。どう定義しようと、いろいろな考え方があるからです。しかし、少なくとも先の三つの文科省文書では「知識・技能」が重視されております。そう考えますと、どうも今日発表されました二つの実践は「思考力」「表現力」に偏りすぎていて、「知識・技能」が軽視されているのではないかと思うのです。
授業に沿ってお話しします。

第一は学習課題の妥当性についてです。両実践共に「○÷□はできるか」という学習課題が示されておりました。私はこの課題の妥当性について疑問をもっております。なぜなら、授業内でこの課題に正対した答えが出されていないからです。「できるか」と問うているのですから、当然答えは「できる・できない」のどちらかになります。しかし、それが示されていないのです。「このようなわり算のことをあまりのあるわり算と言います」という形のまとめ方になっております。実践Bの中で、ある子供はノートにこう書いておりました。

「10÷4を絵に描くと、4つずつ2つのまとまりになる。だけど2つ余ってしまう。だからできない。」

この子は課題に正対して考え、しかも教師が求める正答を書いたにもかかわらず、結果として「だからできない」という結論を導き出しています。この子のノートには○がつくのでしょうか、×がつくのでしょうか。
第二は1時間に扱う問題数についてです。
実践Aでは1時間で扱った問題は「26÷6」というわずか1問です。45分に1問しかやらない算数の授業が果たして「基礎・基本を育成する」算数の授業になりうるのでしょうか。私はこの点について懐疑的であります。
実践Bでは課題の他に4問の習熟問題を扱っております。しかし、それでも私は少ないと思います。「10÷4」という学習課題に時間をかけすぎなのではないかと思うのです。
ちなみに、教科書では「20÷3」が例題として示されており、その他に練習問題として計算問題が4問、そして文章題が1問、計5問を扱うことになっております。
これならば、教科書に沿って学習した方がよほど「基礎・基本」が身に付くのではないかと思うのです。
以上が私の問題提起であります。

〜次号へつづく〜