『転校してきた山川君』

二学期の始業式に、青森県から、山川君が転校してきました。山川君の言葉には、少しなまりがありました。自己紹介のときに言葉のなまりを笑われて自信をなくしたのか、山川君は、あまりしゃべらず、遊びにも加わりませんでした。僕たちが何を聞いても、か細い声で、ぼそぼそっと言うばかりでした。

 二週間後のある日、掃除を始めてすぐに、班長の田中君が、山川君にごみ箱のごみ捨てを頼みました。山川君は、もじもじしていましたが、そのうちにごみ箱を持って歩いていきました。
 ところが、いつまでたっても帰ってきません。やっと戻ってきたのは、そうじが終わる時でした。田中君が、
「どこまで行ってたんだよ!」
と言うと、他の子も、
「掃除、サボるつもりだったんだろう?」
「今日、サボったんだから、明日は今日の分までやらせるからな!」
と口々に文句を言いました。
 山川君が泣き出しそうな顔で、
「ごみ捨て場さ、わがらなぐって・・・。」
と言うので、
「わからないなら、どうして仕事を引き受けたんだよ!」
「口があるんだから、誰かに聞けばいいだろ!」
みんなが責めたてました。

 そんなことがあってから、日増しに山川君を嫌う人が多くなってきました。そして、同じような失敗であっても、山川君のときにはみんなで責めたり、笑ったりするようになっていきました。
 田中君などは、係から連絡することがあると、話すことを嫌がる山川君に押しつけ、うまくできないのを見て、にやにやしていました。

 はじめは、ぼくもみんなと同じように山川君を責めたてたり、笑ったりしていました。でも、そのうちにだんだん(自分たちがしていることは、まちがっているんじゃぁないかな)と思うようになってきました。
 しかし、学級には山川君を嫌っているそぶりを見せないといけないような雰囲気があります。山川君と一緒にいると、その人までみんなに嫌われてしまいそうなのです。ぼくには、山川君のようになりたくないという気持ちがあります。だから、他の人の目が気になり、以前にも増して、山川君に声をかけにくくなっていました。

 十月のある日、図書委員会のぼくの担当の仕事が遅くなってしまい、図書室で一人残って、仕事をしていました。
 やっと、仕事を終えて教室に戻ると、山川君が一人残っていました。展覧会に出す絵を描いていたようでした。山川君もちょうど絵を描き終えて、帰るところでした。
 二人きりだったので、ぼくは思いきって、
「一緒に帰ろう。」
と声をかけました。
 すると、山川君は、一瞬、信じられないというような顔をしましたが、にっこり笑って「うん」とうなずきました。一緒に歩き始めた山川君の口数はやはりあまり多くはありませんでしたが、初めて山川君の笑顔を見ることができました。

 ところが、校門から出ると、僕たちの前に、田中君たち三人が歩いているのが見えました。ぼくは、ドキッとして、一瞬立ち止まってしまいました。山川君と一緒にいるのを見られたら・・・。
 ぼくは、どうしたらよいのか迷ってしまいました。

上は、日曜参観で見ていただいた道徳の授業で最初に配った資料です。「あなたが『ぼく』ならどうするか」を考える学習でした。参観いただいた保護者の皆様も本音で答えてくださいました。
3分の2の子供たちは「田中君のことなど気にせず、山川君と一緒に帰る」という意見でしたが、その一方で、「自分も仲間はずれにされてしまうのは怖い」という意見もありました。この二つの意見をもっと戦わせたかったなぁと反省しています。

さて、以下に紹介するのは、「山川君の日記」を読んだ後に子供たちが書いた感想です。授業内では紹介できませんでしたので、ここに無記名で紹介します。

■山川君をいじめていた人は、自分がそんなめにあうのはいやだと思うのに、人のことを考えないで自分勝手だと思う。山川君が今までどんな気持ちでいたか、どんなに苦しかったか、「ぼく」はわかっていたから、山川君に「一緒に帰ろう」と言ったのに、田中君たちが前にいたから、走って逃げるのは山川君はとっても傷ついたと思う。

■どうしてみんなは、言葉のなまりぐらいで笑ったりするのだろう。そのせいで、山川君がしゃべる自信をなくしてしまったんだよ。
「ぼく」だって、山川君をかばってあげれば、山川君の友達ができて、山川君は一人じゃなくなるのに。
どうして、みんなはこんなに山川君ばかりに冷たくするのだろう。山川君がかわいそうだと思わないのかな。

■なんで山川君だけこういう目にあうんだ。
ぼくが友達だったら、他の友達とかを呼んで、遊んでやろうとするのに・・・。ぼくだったら、一緒に帰ったりする。

■私には山川君の気持ちは分からないけど、自分がもしそういうふうにされたら、やっぱり山川君と同じように学校に行かなかったり、おなかが痛いといって保健室で休んでみんなと会わないようにすると思う。

■ぼくは一度も転校したことがないから、どこまで君がつらく悲しい思いをしたかは分からないけど、仲間はずれみたいなことは絶対ぼくは許せないと思うよ。
でも、山川君にもちょっとダメなことがある。困ったことがあったら、先生にいいなよ。きっと力になってくれるから。

■山川君がみんなから無視されたり、せめられたりするのはしかたないのかもしれない。
もし、みんなといっしょに遊びたいのだったら、言葉のなまりなんか気にせずに、みんなに声をかけるべきだと思う。

最後の二人は、「山川君もこうするべきだったのではないか」という視点で書いています。このような視点で考えることも大切なことだと思います。