筆入れ

前号の最後に書きました。

実は、子供たちの筆入れの中身が気になっています。

本当のところを言うと、「気になっている」どころか、「危機感をもっている」と言った方が事実に近いのです。
どのようなことなのか。次のような事態になっているのです。

多くの女子の筆入れは・・・。ランドセルに入らないほどに膨れあがり、とても使い切れないであろうと思われるほどの文房具が詰まっている。しかし、その中身はほとんどがカラフルなペン等で埋め尽くされ、学習に不可欠の鉛筆はほとんど入っていない。
多くの男子の筆入れは・・・。多くの女子とは対照的。入っているものはというと、豆粒といってもいいほどの消しゴムの残骸と、3本の鉛筆。3本の鉛筆のうち、2本は折れており、残りの1本は、手で持ったら見えなくなってしまうほどに短くなっている。

「そんな大げさな」とお思いでしょうか。しかし、現在、これが多くの子供の実態なのです。このような状態では勉強などできようはずがありません。新聞紙を丸めたバットで、硬式ボールを打とうとしているようなものです。無茶です。

幾人かの子供たちが、私に要求してくることがあります。
「先生、シャープペンシルを使ってもいいでしょう?」
きっぱりと答えます。
「駄目です。」
当然のことながら、理由があってそう答えています。後述します。
上のような要求は、高学年を担任すると必ずと言っていいほど、子供たちから出てきます。多くの場合、女子です。このこと自体は当然なことであり、自然なことです。おしゃれな文房具、かわいい文房具に強い魅力を感じる年頃だからです。
そして、これを言い始める時期になると、ノートに書かれる女子の文字が変わってきます。次のようにです。

・虫眼鏡で見たくなるほどの小さな文字を書くようになる
・思わず裏からあぶり出しをしたくなるほどの薄い文字を書くようになる

このような状態を放っておくと、どうなるのか。高い確率で学力が低下します。これまで多くの子供たちを見てきて、経験上言えることです。
なぜ、そうなってしまうのでしょうか。かつて、私は「どのペンを使おうかなどいうことにばかり頭がいってしまい、学習に集中できなくなることが主な原因だろう」と思っていました。
しかしです。脳科学の研究が進むにつれ、最近、次のようなことが明らかになってきたのです。

指先は第二の頭脳である。指の大部分のエリアは指先の働きと連動している。脳を発達させるためには、文字を書くときも計算するときも鉛筆でしっかりと(濃く、そして大きく)書くことが大切である。シャープペンシルを使った場合、学習の効果は著しく低下する。

休み時間にイラストを描いたりするようなときにはともかく、学習中には断じて鉛筆を使わせるべきなのです。しかも、Hのつくような硬い鉛筆ではなく、Bか2Bの濃い鉛筆をです。子供たちがなんと要求してこようとも、大人の責任においてそうするべきです。
子供たちの筆入れを今一度確認ください。そして、最低限、次のものが確実に入っているようにご準備をお願いいたします。

・Bか2Bの鉛筆5本以上
・赤鉛筆(ペンではありません。鉛筆です。)
・15cm〜20cm程度のミニ定規
・きちんと文字を消せる消しゴム

以下、余談です。
十数年ほど前、山根一眞というジャーナリストが一冊の本を出しました。『変体少女文字の研究』という本です。ある時期を境に、少女たちが、いわゆる「丸文字」と呼ばれる文字を書くようになりました。なぜ、そのような現象が起こり始めたのか。山根氏の研究の結果、明らかになったことがあります。少女たちの使う筆記具にその原因があったのです。丸文字を書く女の子たちが現れ始めた時期と、シャープペンシルが普及し始めた時期がばっちりと一致したのです。