『森へ』

朝の海は、深いきりに包まれ、静まりかえっていました。聞こえるのは、カヤックのオールが、水を切る音だけです。少し、風が出てきました。白い太陽が、ぼうっと現れては、消えてゆきます。ゆっくりと、きりが動いているのです。オールを止めると、カヤックは、鏡のような水面をしばらくすべり、ミルク色の世界の中で、やがて動かなくなりました。きりの切れ間から、辺りを取りまく山や森が、ぼんやり見えています。たくさんの島々の間を通り、いつの間にか深い入り江のおくまで来ていたのです。ここは、南アラスカからカナダにかけて広がる、原生林の世界です。

上は、『森へ』という教材文の冒頭部分です。自分もその場にいるような臨場感あふれる描写。取材中、熊に襲われて亡くなった星野道夫さんによる文章です。このような文章を子供たちにも書かせてみたいものです。
どうしたら、このような臨場感が生まれるのか。その秘密が分かれば、星野さんの文章に少しは近づけることでしょう。連休前の授業で、その秘密を探るための授業を行いました。
上の原文と下の文章を一緒にプリントしたものを子供たちに配布し、子供たちに音読させました。

朝の海は、深いきりに包まれ、静まりかえっていました。聞こえるのは、カヤックのオールが、水を切る音だけでした。少し、風が出てきました。白い太陽が、ぼうっと現れては、消えてゆきました。ゆっくりと、きりが動いていたのでした。オールを止めると、カヤックは、鏡のような水面をしばらくすべり、ミルク色の世界の中で、やがて動かなくなりました。きりの切れ間から、辺りを取りまく山や森が、ぼんやり見えていました。たくさんの島々の間を通り、いつの間にか深い入り江のおくまで来ていたのでした。ここは、南アラスカからカナダにかけて広がる、原生林の世界でした。

上をA、下をBとします。AとBを読み比べて、気付いたことや感じたことをノートに書きなさい。一つ書けたらノートを持ってきます。

子供たちがノートに書いてきたのは次のような事柄です。

・Bは読み慣れていないから変な感じがする
・Bは読みにくい。
・Aは「です」「ました」となっているけれど、Bは全部「でした」「ました」になっている。
・Aはその場にいるような感じがするけれど、Bは行ってきた後、伝えているような感じがする。

子供たちが気付いてきたとおり、Aの原文では現在形と過去形を織り交ぜた文末表現になっていますが、Bはすべて過去形に統一されているのです。
どちらの文章が好きかを問うたところ、ほぼ全員が一致してAを選びました。「Aの方がリアリティがある」というのです。文末表現を工夫するだけで文章のリアリティ、臨場感が違ってくるのですね。

この後さらに、Cの文章を読ませました。次の文章です。

たくさんの島々の間を通り、私は、いつの間にか深い入り江のおくまで来ていました。ここは、南アラスカからカナダにかけて広がる、原生林の世界です。朝の海は、深いきりに包まれ、静まりかえっていました。聞こえるのは、カヤックのオールが、水を切る音だけです。少し、風が出てきました。白い太陽が、ぼうっと現れては、消えてゆきます。ゆっくりと、きりが動いているのです。オールを止めると、カヤックは、鏡のような水面をしばらくすべり、ミルク色の世界の中で、やがて動かなくなりました。きりの切れ間から、辺りを取りまく山や森が、ぼんやり見えています。

音読し終えたところで、先と同じように言います。

AとCを読み比べて気付いたことや感じたことをノートに書きなさい。

以下、次号へ