『覚えることとわすれること』その6

「さっき1つのニューロンに10個から3万個と言ったけれど、それはつながっていないシナプスも数えているのだからいいんじゃないですか。」
「95ページにも『ニューロンにあったシナプスが消えて、ニューロン同士のつながりが失われてしまうからです。』と書いてあります。」
「94ページに『新しいことを覚えるのは、シナプスが新しくできて、ニューロンどうしのつながりができるからです。』と書いてあります。ということは、覚える前にはつながりはないと思います。」
「賛成です。まだ薔薇という漢字を覚えていないのにつながりができているのはおかしいと思います。」
「ニューロンっていうのはいっぱいあるんだよ。黒板に貼ってある絵はそのうちの2つでしょう。だから、つながっていると思います。」
「でも、今は薔薇という漢字を覚えることに限って考えているんだから、つながっていないと考えるのがいいと思います。」

ここでもう一度確認しました。

「覚える前のニューロン」はつながっているのですか、いないのですか。

先ほどは半々でしたが、今度は「つながっていない」という子供が30名、「つながっている」という子供は2名になりました。
薔薇という漢字を覚える場合に限って考えているのだから、「覚える前」はつながっていないのが正しいということを確認して2コマ目へと進みました。

2コマ目の絵を見ます。おかしい絵はありますか。

「Cの絵に反対です。2コマ目は『覚えたばかり』なのだから、2つのニューロンはシナプスでつながっていると思います。」
「賛成です。覚えたばかりなのだから最低でも1つくらいはつながっていると思います。」

この2つの意見は全員に納得され、3コマ目へと進みます。しかし、ここでチャイム。3コマ目の検討は翌日に行うことにして学習を終えました。

そして次の時間です。問います。

3コマ目の絵でおかしいものはありますか。

「Dの絵はおかしい思います。Dの『よく覚えている場合』の3コマ目はシナプスが太くかいてあるけれど、93ページに『シナプスの数がたくさんあればあるほど、ニューロンどうしのつながりは強くなります。』と書いてあります。だから太さじゃなくて数だと思います。」
「Eの絵もおかしいと思います。Eの『なかなか思い出せない場合』の3コマ目とEの2コマ目を比べると、3コマ目は線が薄くかいてあるだけで、シナプスの数は変わっていないからです。」
「でも、太くかいてあるのはシナプスの『束』という意味でかいてあるのならいいと思います。」
かいた子供に確認してみると、『束』をかいたわけではなく、ただ太くかいたということでした。

ニューロンのつながりの強さはシナプスの太さや濃さではなくて、数で決まるのだということを確認しました。

「Cの『なかなか思い出せない場合』の3コマ目はシナプスが切れているけれど、なかなか思い出せないというのは、完全にわすれたわけじゃないから、少しはつながっていると思います。」
「95ページに『わたしたちが、一度覚えたことをなかなか思い出せなくなるのは、ニューロンどうしのつながりが弱くなっているせいです。』と書いてあるから、切れてはいないと思います。」

ここまでの検討で、A以外の絵はすべておかしいところがあることになりました。文章を正しく読んで絵に表すことができたのはAの絵だけなのです。子供たちはニューロンの絵を書くことによって、次の事柄を読み取ったことになります。

@覚える前はニューロンどうしのつながりはない。
A新しく覚えると新しくシナプスができ、ニューロンの間につながりができる。
B何度も繰り返し学習すると、シナプスの数が増え、ニューロンどうしのつながりが強くなる。
Cいちど覚えても学習を繰り返さないでいると、シナプスの数が減り、なかなか思い出せなくなる。
Dすっかりわすれてしまうと、シナプスは消え、ニューロンどうしのつながりは失われてしまう。

最後に私がコンピュータで作った簡単なアニメーション(紙芝居のコンピュータ版のようなもの)を見せて学習を終えました。
正しい絵はどれかを決めるために、子供たちは一生懸命に文章を読み、そして一生懸命に話し合いました。授業をしている私にとっても楽しい学習でした。

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