『大造じいさんとガン』その5

前々号で『大造じいさんとガン』について子供たちの作った問題を紹介しました。今、子供たちはそれらの問題に取り組んでいます。また、同時にいくつかの重要な問題についてみんなで一緒に考えています。一緒に考えている学習についてお伝えします。考えている問題はすべて子供たちが作ったものです。

子供たちに問います。

この物語の主人公は誰ですか。

「大造じいさん」と答える子供が30名、「残雪」と答える子供が2名でした。「残雪が主人公」と考えた子供は「なんとなくそう思った」という程度しか言えませんでした。それに対し、「大造じいさんが主人公である」と考える子供は次のように理由を発表します。
「物語の中で、大造じいさんが一番たくさん出てくるし、一番活躍しているから。」
決定的だったのは次の理由です。
「大造じいさんの心の中は書いてあるけれど、残雪の心の中のことは書いていないから大造じいさんが主人公だと思います。」
「話者の視点が大造じいさんにあるから大造じいさんが主人公だと思います。」

主人公は大造じいさん、残雪はその対役です。ただ、この問題は一概には決められない難問なのです。実はこの物語は最初『残雪』というタイトルでした。そして、作者である椋鳩十氏も次のように述べています。

「残雪を権力に対抗するものとしてこの物語を書きました。」

しかし、子供たちが学習するスタンスとしては、先のように「大造じいさんが主人公」と考えていいのではないかと思っています。なぜなら、子供たちが言っているように物語の話者(語り手)は大造じいさんの側に立っているからです。

ただ、一カ所だけ話者の視点が残雪に移動してる場所があります。それはどこですか。

子供たちは本文を読み始めます。そして見つけてきます。3場面の次の部分です。

残雪の目には、人間もハヤブサもありませんでした。ただ、救わねばならぬ仲間のすがたがあるだけでした。

なぜ、ここだけ話者の視点が移動しているのか。難しい問題です。授業では深くつっこまず、次に進みました。(後で考えてもらうかもしれません。)

問います。

この話は本当にあったことですか。

「本当にあった」という子供が圧倒的です。数名の子供だけが「本当にあったことではない」と答えます。
理由を尋ねました。
「私は本当にあった話だと思います。前書きの部分に、『私は、その折の話を土台として、この物語を書いてみました。』と書いてあるからです。」
大方の子供がうなずいています。しかし、「本当にあったことではない」と考える数名の子供が反対します。
「反対です。『その折の話を土台として』書いているのだから、本当にあったことではないと思います。」
辞書で「土台」を調べている子供がいます。
「『土台』というのは『基になる』ということだから、全部が全部本当のことではないと思います。」
このような話し合いの中で、「本当にあった話だ」と言っていた圧倒的多数の子供たちも考えを改めました。

次の問いです。

この話の中の大造じいさんは何歳ですか。

大きく3つに分かれました。「72歳」という子供と「30代半ば」という子供、そして「わからない」という子供です。それぞれ理由を言わせます。
「72歳だと思います。前書きに『じいさんは72歳だというのに、こし一つ曲がっていない、元気な老狩人でした。』と書いてあるからです。」
「反対します。確かにじいさんは72歳だけれども、前書きには『今から35,6年も前』と書いてあるからひき算をすれば30代半ばになります。」
「ぼくは、『わからない』と思います。35,6歳かもしれないけれど、その話を『土台として』書いた物語なのだから、必ずしもそうではないと思います。」
明らかに違うのは72歳という考えです。残りの2つはどちらももっともです。ただ、大方の子供は「30代半ばと考えるのがふさわしい」という考えでした。そう考えるのが妥当なところでしょう。

これで1時間です。かなり盛りだくさんの内容でしたが、それほど深入りするほどの問題でもありません。本格的な学習前の確認事項としてはこの程度でいいと考えています。
1時間学習してみて、子供たちに読む力がついていることに驚きました。文章に書かれていることを根拠にして、短時間に3つの問題を次々に解決していってくれました。見事な学習ぶりでした。
次の時間からは、本格的に内容の方に入っていくことになります。

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